もしもガリィちゃんがちょっとだけ優しかったら(完結) 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
……まあ、良いや
因みに次回最終話(のはず)
「ほら、こんな服とかどうよ? 深みのある赤色をベースにしたゴシックロリータ衣装風の私服」
「……へえ、人間にしては悪くない選択してるじゃない」
服屋に着いてから約三十分、ガリィは顔には出していないがノリノリであった。
そもそもガリィはメイド服といったフリルのある衣装……もといコスプレ系の服を好む性格である……勿論だが、人間界にほとんど干渉してこなかったガリィ自身は全く気付いていなかったのだが。
このお馬鹿な青年は、それを仕事の方で何故それを使えないのかと言う程に
「しっかしまさかお前がこんな美少女連れて来るとは思わなかったぜ? 何せクビになったって聞いたばっかだったし」
「よせやい、照れるぜぃ」
「褒めてねえよ寧ろ心配しかねーよ」
この青年と今話している店員は、青年の昔からの幼馴染であり親友である。産まれた病室から同じで住んでる家は隣同士、おまけに幼稚園から高校まで同じところ同じクラスでその際絶対に前後左右の何処か隣接している席にいるくらいには凄まじいまでに一緒だった。
無論この青年がお馬鹿なのも知っているし、つい昨日会社をクビになったのも一早く……親よりも先に、青年が連絡した為一番に知っていた。
なのでその翌日に美少女と何食わぬ顔で来店されては拍子抜けと言うものなのだ。
「いや俺だって昨日ノイズに襲われたと思ったらこの子に助けられて、まあちょっと良く分からないのはこっちもなんだよなあ」
「おいまて、昨日ノイズに襲われたとかこの得体の知れない美少女に助けられたとか聞いたの初耳なんだけど」
「つーかその数日前初対面でキスされてるし」
「どういうことだオイ……」
「つーかあの子人間じゃないみたいだし」
「!?!?!?」
因みにだがこの店員こと青年の親友は、青年が本当の事を喋っているのか分かると言うちょっとした特殊能力を持っている。
例え青年が本当だと思い込んで話していても、それが事実無根であればすぐに分かるのだ。
それがこの様である、100%事実だと言う動かぬ証拠を捉えた瞬間である。
「だろ? 俺も最初はおったまげたぜー、まさかこの子に殺されかけたと思ったら今こんなだもんなあ」
「はいまた新事実ゥ!」
なまじ事実だと認識してしまっている為か、話していく内に店員の脳内がオーバーヒートしていく。
トンデモ事実をまるで川の流れの様にゆるやかに話されてはそうなるのも無理は無い。
「まあでも、色々あったけど今は仲良しだから詮索は無しな」
「詮索も何も全部喋ったよねアンタ!?」
「いやさっきから聞いてれば誤解しか無いんですけど! アタシコイツと仲良く無いんですけど!」
「その他は否定しないんだ!?」
最早この店員に詮索されるだけの秘密は無かった、全て駄々漏れだった。
そして先程の言動を見て、青年とガリィ・トゥーマーンとの間柄が仲良く無いと感じられる人間はそうそういないだろう、それ程までに今のガリィ・トゥーマーンは生き生きとしていたのだった。
「あ、取り敢えずこのゴスロリと水色チェックのワンピースはお買い上げって事でお会計よろー」
「はあ……本当にコイツはマイペースと言うか頭お花畑だな……っと。二点で33400円な」
「うぃーっす、んじゃ33400円丁度……おっと、これは2005年版坂神ジャカーズ兄貴こと金元と当時の監督どんでんこと尾加田のカードだったわ」
「いや紙幣を何と間違えてんだよ……つか財布に入れるなよ」
「すまん、四百円と間違えた」
「本当に何と間違えてんの君!?」
当然だがブロマイドカードは紙製品であり、億が一に間違えるとしても紙幣である。
それでも固さ、大きさ、厚み、艶の有無、触り心地とほぼ違うのだが、最早百円玉とカードを間違えるのは不審者レベルどころか一歩過激な人間に見付かれば精神病棟若しくは監獄逝きすら有り得る。
ここまで来るとこの青年が人間なのかさえ、産まれた時からずっと青年の奇行を見てきた親友の店員ですら疑心暗鬼に陥るレベルにあるのだ。
「テヘペロ☆」
「テヘペロじゃねーしさっさとお会計済ませろや」
「あー……何か悪いわね、コイツの奇行のせいで」
「あ、いやいや君は良いんだ、悪くないし……てか君の方がよっぽど人間らしいんだけどな」
「ふーん……」
結局ガリィは人間の生活に一夜で慣れてしまった。
それもこれもこの青年が馬鹿なせいで他の人間が大部分まともに見えてしまっているせいであるが、ガリィ自身そこそこ楽しんでしまっている節も否定は出来ない。
何はさておき、服二着を購入するだけで相当労力を要したガリィは精神的にドッと疲れが来ていた、それこそ装者との戦いよりも疲れたと感じている事が表情から見てとれる。
しかしそこにあった表情には、不満もあるだろうがそれ以上に何処か満足げなガリィがいたのだった。
「んじゃ今日は予定通り水族館な」
「アンタって人間として絶望的に抜けてる癖にそう言うとこは律儀よねぇ」
前の日はデートらしいシチュエーションも無いまま帰った青年とガリィ・トゥーマーン。
しかし青年は懲りずに予定通り水族館行きを決行する、そんなところだけは無駄に律儀な青年である。
「そんな俺に付き合ってる君も君だと思うけどね」
「うっさいわね……最近シンフォギアの装者も見掛けないし暇なのよ」
「いや居たら戦うんかい……」
「そりゃそうでしょうよ、マスターの計画には装者は邪魔だし、聖遺物も欲しいし?」
「欲望にまみれてますね間違いない」
本来の世界線でこの話は地球の危機がどうたらこうたらみたいな話なのだが、この世界線ではそう言った世界の危機と言う事は無い。ただ物騒な話には違いないのだが、青年はそれに気付かない。
そして幾ら危険規模が小さくなったとは言え、この世界線でもシンフォギアの装者とキャロル一派の戦いはある。
キャロルの考えている事は所謂『錬金術の禁忌』である『生命の創造』。死んだ父親を生き返らせ、今度こそ平和に暮らす為にその錬金術の材料たる聖遺物……つまりはシンフォギアを狙っているのだ。
閑話休題、青年とガリィは目的の近所の水族館に着いていた。
「ほら、早く行こうぜ!」
「いや興味ないんですけど」
「良いから良いから、絶対気に入るって」
「……はあ、我ながらこんな人間の言う事につい付き合っちゃうアタシってなんなの……」
最初から多種多様な表情が多かったからか、この二晩でガリィはすっかり人間らしくなってしまっていた。特に表情の切り替わりやツッコミは普通の人間以上にあると言っても過言ではないのだ。
そんなガリィだが、はぁと溜め息を吐き溢しながらも何処か期待の眼差しを青年に向けていたのを本人と青年は知らない。
「やっぱ水族館と言ったらペンギンだよなあ」
「ふーん……ま、不格好な歩き方してるけど、アンタよりはマシね」
青年は「ペンギンと比較されるなんて光栄だよなあ」なんて言ってはいるが、ガリィにとってはペンギンは興味の無いものであり、青年はそれ以下だと言っているのだ。興味の無いものの下に見られる不名誉な事態さえ気付けない青年は気分を良くして鼻歌を歌っているが、果たしてそれが幸せな事なのか悲しい事なのかは誰も知らない。
そして一番の被害者は、こんな青年と比較をされた動物園のマスコットたるペンギンではないだろうか。
「あー楽しかった」
「あっそ」
「君も楽しかっただろ?」
「ふん……さあね」
昼時、一旦休憩にする為に水族館に併設されている飲食店に青年とガリィはいた。
青年曰く午前中の水族館は大成功らしい、端から見ればガリィは不機嫌でとてもそうは見えないのだが。
だが良く見れば、ガリィの口元はほんの少しだけ三日月の様に吊り上がっていた。
青年は気付いていない、ガリィも気付いていない、勿論周りも気付かない。
ガリィはその後の話を無視するかの様に、呆れ顔でコーラをわざとらしく音を立てて吸う。
青年はそれをニコニコしながら見つめる、まるで全てお見通しとでも言わんばかりに。
午後はセイウチのショーから始まった。
ショーとは言っても、ペンギンみたくコミカルでも無く、午前中最後のアシカみたいな軽快なものでもなく、年老いた大道芸人の様なゆったりとしつつも的確且つ楽しめる芸である。
どうやらガリィ・トゥーマーンはそれが何故か気に入った様だった。
「間抜け顔の癖してやるじゃない! 何処かの大間抜けとは大違いね!」
「可哀想に……そこまで言われる大間抜けはきっと人間として致命的に何かを失ってるんだろうな……」
「アンタの事よドアホ!!」
ガリィの言う通り、致命的に何かを失っているのは青年が思い浮かべている何処かの顔も知らぬ人間ではなく、青年が一番見てきた青年自身であった。
そして青年が致命的に足りなかったのは自分自身が大間抜けだと気付かない脳ミソだったのだ。
「まあまあ楽しかったわ」
「漸く素直になったな」
もう日も西の空に消えようかと言う夕暮れ時、青年とガリィは帰路に着いていた。
結局セイウチのショーが引き金になったのか、ガリィは水族館に興味を持ち始めシャチやサメと言った動物や魚を気に入った。
たったそれだけなら『楽しかった』なんて言わないはずだが、心中を思い返し何故だか自分が『楽しかった』と濃く思っていたが為に、ついガリィは本音が出ていた。
(ただの馬鹿だと思ってたんだけど……ヤレヤレ、アタシも『そっち』に染まりつつあるって事かね?)
たった三日。
然れど三日。
十二分にこの青年の馬鹿に付き合い、そして染まった女性と言うのは青年にとって初めての事だった。
同性ならそこそこいるのだが、女性は四半日と持たずに全員が青年との付き合いを止めてしまっていた。
男同士『馬鹿』やるのは波長が合えばとことんやれるが、女となると『馬鹿』やってくれる様な人間は少ない。
しかも青年は普通の男と違い本当に致命的に馬鹿だ、それこそゲームかアニメでたまに出てくる悪友ポジションのヒロインみたいな性格の女でない限り無理だと思われる。
――ガリィ・トゥーマーンがそうかと言われれば、首を傾けざるを得ないが。
そこは性格より、波長の良し悪しがピッタリ良かったのだろう。
だからこそガリィ・トゥーマーンはこの青年に興味を持ち続け、馬鹿に付き合っている。
「……ま、言い合いするだけなのも疲れたし」
「へへっ、やっぱり俺が見込んだ通り、君は俺が惚れる様な良い子だったな」
「アンタ軽いわね……」
「んー……いや、俺は君にしか『惚れた』とか言った事無いけどな」
「…………変わった奴ね、本当」
だがそれだけでないのも事実だ。
それをガリィは知らない。青年も知らない。
知らず知らずの内に接近する二人の距離を二人は知らない。
些か接近するには早すぎるとも思われるこの距離の縮め様であるが、実際のところ出逢ってからすぐに意気投合するケースは意外と多い。
高校等初対面が殆んどの人間の中で初日から談笑している人間等はその最たるものである。
そう言う事であるから、ガリィと青年がこの短期間で仲を無意識に縮めているのは珍しいケースと言えど全く有り得ないケースとは言えないのだ。
「じゃ、明日の遊園地も来てくれるよな?」
「……仕方ないわね」
ガリィは頷いた、仕方ないと言いつつも自分の意思で、初めて頷いた。
そして初めて明確な笑顔を見せたガリィに青年は「ニヒヒ」と笑い、夕陽に照らされたガリィを青年は『綺麗』だと改めて自分がこの少女に惚れている事を確信していた。