もしもガリィちゃんがちょっとだけ優しかったら(完結)   作:孤高の牛

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※最終話でもビッキー御一行の出番奪っちゃうのは仕方ないんや…申し訳ない…


もしもガリィちゃんがちょっとだけ優しかったら‐下 終‐

「やいやいお前ら」

 

 ズカズカと、爆風やらミサイルより物騒なモノが飛び交う中奇跡的な運の強さで無傷のまま痴女御一行……以下キャロル御一行やらS.O.N.G.の皆さんの元に辿り着いた青年。

 S.O.N.G.の皆さんもキャロル御一行もこの時ばかりは意気投合したかの如く口を開け唖然とするより他無かった。

 そりゃそうだろう、ちょっとでも流れ弾に当たれば即死どころか灰の一つも残らない戦地にたかが一般人がいるとは誰も思うまい。

 

 因みにS.O.N.G.本部の司令室の方々に関しては直前海岸での戦いの末レイアの妹(ハリボテ)が爆散した影響の電波妨害で現地の情報は一切入っていなかった。何度も言うが青年はこれに加えて一般人どころか重装備戦車でさえ一瞬で爆散する様な威力のインフレ攻撃の雨の中突っ込みこの場に辿り着いている事を強調しておく。

 

 え、何コイツ……となっているキャロルとは対照的に、栗色の髪の少女は「あーっ!!」と、戦場に置いては非常に……戦場でなくとも間抜けな叫び声を上げ青年を指さす。

 

「あ、あなたは確か今いないドールに攫われて捜索願いが出てた……」

 

 そしてそれがまた混乱を生むハメとなる。

 

 S.O.N.G.戦闘員こと奏者の皆さんは真っ先に非人道的な実験でもやっていたんだろうと、特にピンクが激しくドール側を非難すればドール側、特にキャロルが今までの憎悪の仮面を被った様な顔付きから毒が抜けた様に「は?」と首を傾ける始末。

 

 そして等の青年も首を傾け

 

「いや俺この子と遊園地で遊んでただけなんすけど。つーか数日前から一緒に暮らしてますし?」

 

 と、やっとの思いで死亡フラグの塊を掻い潜ってぜえぜえと冷や汗をかいてる……様な表情をするガリィを指さしてすっとぼけた感じで言い放つ。

 勿論だがすっとぼける程頭は良くない、全てこの青年の素で話している事実である。

 

「ええ!?  いやッ……ええ!?」

 

「うっせー! 耳元で大声出すな響!」

 

 表面上一番驚いているのは間違いなく栗色……以下響だが、完全に一番動揺しているのはキャロルに他ならなかった。

「え、なにやってんのコイツ」みたいな事をガリィに向けて何とか目線だけで伝えている。

 ファラとレイアは取り敢えず呆れていた。

 

「…………もしかしなくても今一番ヤバいのアタシよね」

 

 そして一番の被害者たるガリィは全てを察し虚空にそう呟いた。

 

 

 

 

 

「…………それで、ガリィは俺とかレイアやファラ達に劣等感抱いて家出していたと」

 

「そ、それはぁ……そのぉ……」

 

「まあそう俺に話してたけどね。つかキャロル?だっけ、君。悪い子には見えねーなあ、カンだけど」

 

 兎にも角にも話が進まないからとキャロルが手でTのマークを作り「ちょっと待て、な? 一旦休戦するから」と顔を引き攣らせながら言えば先程響に怒鳴り散らしていた少女こと雪音クリス、以下クリスやピンク、以下マリアが疑いの目を向けてきたが何とかかんとかしてキャロルが呟いていた様な『家族会議』を行っている最中である。

 

「ちょ、何話して」

 

「あのなあ……」

 

 最も、ぎこちないはずのソレは一人の青年によってぶち壊されているが、逆に円滑に進んでいるのはお互いに不器用なキャロルとガリィ故にであるのは確かだろう。

 

「マ、マスター?」

 

「俺がたかが性能差でお前を差別した事があったか?」

 

「え、えっとぉ」

 

「本気で邪険にした事があったか?」

 

「うぐっ」

 

「はぁ……だからお前は――」

 

「はーいはーいストップストップ!」

 

 空気が悪くなって来たところでまさかの青年が待ったをかける。

 キャロル他三名のドールはさておき四日と振り回され続けたガリィからしたら驚愕の一瞬であり……

 

「なんだ貴様……というかしれっと混ざる貴様は一体何なんだ!!」

 

「そりゃガリィ?ちゃんの彼氏ですが」

 

 そして余りに期待を裏切らない馬鹿じみた展開にやはりというべきかズッコケていたのは言うまでもないだろう。

 

「んな訳ないでしょーが!! アルカノイズの結晶尻にぶち込むわよ!?」

 

「いやんっ」

 

「いやんっ、じゃねーわ!!」

 

 二人にしてみれば当たり前のこの漫才も、キャロルからしてみればそんな事した記憶が欠片も無く、無意識の内にこの青年へ嫉妬していた。

 キャロルは意識せず、青年へ苛立ちをぶつける。

 

「お前、名前も今知った様な仲で彼氏だと?」

 

 事実これは言い掛かりではない。

 この脳みそ年中花畑の様な青年は、確かにガリィの名前は今知った。

 ぶっちゃけ今まで知らなかったのはある意味ミラクルとも言える。

 

「おおっ、そういや名前今聞いたばっかだったわ」

 

「……き、貴様……俺を愚弄してッ……」

 

「わわっ、待って待ってマスター! そいつただのアホなだけですからぁ~!」

 

 名前を今聞いた事すら今言われて気付いた……等、普通は煽られていると断定して間違いない。普通であればだが。

 青年は如何せん普通には程遠い深刻な馬鹿であった。

 

「ガリィもガリィだッ!! 一体俺がどれだけ心配して……あ」

 

「……マスター?」

 

「あ、ほら言った通りじゃん! やっぱり君達家族じゃん?」

 

 馬鹿過ぎるが故に、周りに馬鹿が移る事もたまにだがあるのがこの青年の良さと知っているのは、幼馴染である服屋の店員と家族を含む馬鹿十人程度だ。

 勿論、キャロル御一行は知る由もない。

 

 知る由もないが、世界を滅ぼそうと思えばやれなくもない様なキャロルというトンデモ戦力が同類(馬鹿)になった瞬間である。

 

「……心配、してくれてたんですか?」

 

「ぐっ……」

 

「…………」

 

「…………そ、そうだ悪いかッ!?」

 

 ガリィが今世紀どころか今を逃せば千年はお目にかかれないだろう真剣な眼差しで見つめられれば、こと絆意識の高いこの世界線のキャロルは折れるより無かった。

 

「マ…………マスタア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

 

「うわっ、やめろ急にくっつくな!!」

 

 つい先程まで戦場だった遊園地は、いつの間にか微笑ましい光景で包まれていた。

 数分前まで刃や拳を交えていたS.O.N.G.戦闘員の皆さんやドールの皆さん、特に響に関しては敵対していたという雰囲気を一切漂わせず、大切なものを見守る様な優しい笑みを浮かべていた。

 

 尚等のキャロルは結構本気でドン引いていたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

「ふぅ、あの馬鹿は……ともあれ、何だかんだ助かった。良く分からん存在だったが感謝する」

 

「え、じゃあガリィちゃんを嫁に……」

 

「誰がやるかッ! 今言ったよな!? 良く分からん存在って言ったよな!? そんな奴に渡せる訳無いよな!?」

 

「うわー凄い剣幕」

 

「誰のせいじゃ!!」

 

「はて??」

 

「お前だよ!!」

 

 あの話し合いから幾分か経ち、青年とキャロルはすっかり打ち解けていた。

 キャロルとしてはそこはかとなく心外ではあると思うが。

 

 ぎゃいぎゃいとコントの如く騒いでいたが、キャロルが大きく溜息を吐いたかと思うと、空気が変わった。

 

「さて……お前はここから早く去れ。今なら連中の保護部隊も来てるだろうよ」

 

 流石の青年も本題を思い出したのか、頭を掻く。

 いつものヘラヘラとした表情とは異なり、難しい顔付きになっていた。

 

「なあ、マジでこういう事やめない?」

 

 青年の声色はいつものヘラヘラとした感じだが、表情は崩さなかった。

 

「俺はパパを生き返らせる。理不尽に殺されたパパを生き返らせて、そしてコイツらと……何ならお前も」

 

 キャロルは少ない時間で青年へ完全に心を許していた。

 自身に自覚は全く無いが、ガリィを受け入れ、そして仲を取り持ってくれた存在は、存外に認識以上に大きいモノになっていた。

 だから彼女はそこそこ事情を知り一文無し状態の彼に同情と好意から勧誘、そして取り引きを申し出たのだ。

 お前の生活を安泰させるから、今だけは口を出さないでくれ、と。

 

 

 

 

 勿論、普通というものを持たないお馬鹿な青年に使ったのは最大級の悪手だったのだが。

 

「え? ちょっと待って、今なんか言った?」

 

「…………」

 

 確かに、キャロルの声は呟く様な弱い声だったかもしれない。

 だが無音の中普通聞き取れるそれは、ちょっとだけ眠くなってきてうつらうつらとしていた青年には一切届かず、ドールは勿論ちょっと離れたところで聞いていた戦闘体制を取りかけていたS.O.N.G.の皆さんもズッコケていた。

 

「いやまあでもさ」

 

 その調子の中マイペースに話を続ける青年。

 しかし顔付きは先程より真面目になっていた

 

「難しい話は分かんねーけど、誰かを殺して復活ー! ……っての、俺は嫌だけどな」

 

「――ッ!?」

 

 ふと真剣な表情で静かに語る青年に、キャロルは動揺する。

 先程までとはうって変わってとペースを崩され始める。

 だがガリィが一番動揺している事に気が付いたのは、本人以外いない。

 

(……アイツの真面目な表情なんて初めて見るわね。なんか変な気持ちでイライラする…………けど――)

 

「? ガリィ、なんか嬉しそうな表情してるゾ?」

 

「……何でもないわよ」

 

「へんなガリィだゾ」

 

 

 

 

 

「貴様ッ……分かった様な口を聞くな!! お前に俺とパパの何が分かるッ!?」

 

 ガリィの思考が戻ってきたのは、キャロルの怒鳴り声と共にだった。

 初対面で多少の意気投合はあれど当事者でない者に知った様な口振りで話されるのはキャロルとしてはどうしても許せなかった。

 だから「次下手な事を言ったら殺す」なんて目を向けていた。

 

 しかし青年はそんな威圧感漂うキャロルをものともしていなかった。

 というか気付いてすらいなかった。

 

「そうは言うけど誰かが死なないと生き返らせる事が出来ない、とかそんなの呪いじゃん? 俺だったらそんな物騒になるなら静かに成仏させてほしいんだけど」

 

「てゆーかさ」

 

 一拍二拍と置き、ふぅと一息付いた青年は続けざまに、キャロルに目線を合わせて、言葉を放った。

 

「そんな『奇跡』みたいな事、有り得ないっしょ」

 

「なっ……あ……っ!?」

 

『奇跡など有り得ない』、キャロルが幾年も気が遠くなるくらい生きてきて、ずっと持っていた信念だった。

 その信念を持っていたから、そんな奇跡に縋る人間……特に立花響に関しては憎悪の念を抱く程だった。

 

 だというのに。

 自分が求めていた道もまた奇跡と言われ。

 キャロルは震えた声しか出せなかった。

 

「ほら、そんなのあったらニュースにでもなってるっしょ?」

 

 実に頓珍漢な青年のそれは、最早キャロルには届いていなかった。

 思い出が、まだ焼却していなかった思い出がキャロルに流れてきた。

 

 

 

  

 

 

 

 

 ――――いつか、誰しもが分かり合う世界を目指す為に

 

 

 ――――過去に立ち止まらない様に

 

 

 ――――キャロル、世界(みらい)を知るんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

(――ああ、そうだ。そうだった)

 

(いつから『私』はパパの言葉を忘れてしまったんだろう)

 

(『資格なき奇跡の代行者』と言われ、パパを殺された事への憎しみばかりで)

 

(いつしか私自身が、そう、なっていたんだ……)

 

「ええ!? どこが頓珍漢だ!」

 

「全部よ!!」

 

「………………私のパパは、錬金術を使って人助けをしていたんだ」

 

 今だ頓珍漢な事を言う青年、そして突っ込むガリィに呆れる周りなど露知らず。

 キャロルのその一言に周りはしんとし出す。

 

「マスター……その一人称……」

 

「でも、パパはそのせいでいつしか化け物扱いを受けて、殺された」

 

 ガリィの言葉に、目線を沿わし困った様な笑みを浮かべ話を続けるキャロル。

 

「ちゃんとした技術だったのに。奇跡だって不気味がられて。『資格なき奇跡の代行者』って、そう言われてパパは弁解の一つも許されずに殺された」

 

「悔しかった。ただひたすらに優しくて、お人好し過ぎるくらい優しくて、誰かを助ける為に身を削ってたパパだったのに」

 

「だから私は、こうやって努力したはずだったのに」

 

「その私自身が本当の意味で『資格なき奇跡の代行者』に成り果てていたなんて、ね……馬鹿みたい」

 

 自嘲する様な顔を見せ、項垂れる。

 もうそこには今まであった覇気は微塵も無かった。

 

 

「……今なら間に合いますよ」

 

「ガリィ……?」

 

 沈黙を破ったのはガリィだった。

 誰よりも人間らしいドールでありながら、馬鹿が感染した結果人間らしさが加速しまくったガリィは内心「私も馬鹿ね」などと呆れながらも、言葉を続けた。

 

「だってそうじゃないですかぁ? 私達『まだ成し遂げてない』ですよぉ?」

 

 いつもの、意地の悪い笑みを浮かべながら話すガリィはだが無意識に優しい目をしていた。

 

「だ、だが……」

 

 

 

「今なら引き返せる」

 

 特に目立つ発言をしていなかったファラが

 

「性悪なガリィが言うのは何の風の吹き回しか知りませんけど、それは確かです」

 

「地味に、私も同意だ。我々は罪を背負ってはいるが、永久に許されぬものではない」

 

 静観していたレイアが

 

「マスターが笑顔になる事が、私の一番だゾ!」

 

 ガリィとヒソヒソ話していたミカが

 

「……お前ら」

 

 ガリィに追従する様に肯定する。

 

「良い……のか? 私は、許されても……」

 

 

 ――――当たり前じゃないか。キャロルの努力は、僕が一番見てきたんだよ

 

 

 

「パ……パ……?」

 

 

 

 ――――だからもう良いんだ、強がらなくても、誰かを傷付けなくても。もう、大丈夫なんだよ

 

 

 

「……私は――――」

 

 

 

 他の誰にも聞こえずとも。

 キャロルには届いた、父親の最後の『想い』。

 

 キャロルが『諦める』には充分過ぎる、暖かな『想い』だった――

 

 

 

 

 

「なんか知らない間に終わってた件」

 

 遠くで奏者とドールの話を眺める青年。

 キャロルはあの後降伏を宣言、同じく元々はS.O.N.G.敵対者だったマリアや避難誘導をしていた切歌、調の表情を見る限りでは、今後事情聴取、身体検査等はあるが一般人の被害が無かった事からこれからの待遇は悪いものになる可能性は低いだろう。

 

「おーいガリィちゃーん? 俺とのデートの続きは~?」

 

「はあ!? んなもん出来る訳無いでしょ!! いや待てそれよりデートじゃねーよ!!」

 

 知らぬ間にこの世界を救う形となってしまったこの青年だが、勿論こんな戦場に出てきた以上身体検査は必要であるがそれ以上にドールと深い関わりを持っていたとして事情聴取が予測される。

 そんな事は全く頭に入ってない青年は今だにガリィとのデートの続きを所望しているという何ともお気楽な脳みそ構造をしているが。

 

「全く……お前らは本当に仲良しだな?」

 

「ガリィ、照れてるんだゾ?」

 

「マスター!? 違いますからねっ!? あとミカは後ではっ倒す」

 

 すっかり毒の抜けたキャロルがガリィに送る視線は何となく姉の様で、ミカの向ける笑顔は妹の様で。

 

「…………キャロルちゃんのお父さんが目指してた世界って、きっとああいう世界……だったんじゃないかな」

 

「……かもな」

 

 それを見守る響とクリスは、静かに、そう呟いていた。

 

 

「えー? だってここ数日ずっとラブラブしてたじゃん?」

 

「嘘を付くな嘘を!!」

 

「しかも今日なんて膝枕も――」

 

「……ガリィ?」

 

「なっ……なぁっ!? それは今言ったらどうなるか絶対分かってやっただろ!!! あーもうキレたわ!!! 絶対殺してやるーーー!!!」

 

「イエーイ!! 捕まえられるなら捕まえてみるのだ!! ハーハッハッハ!!!」

 

 

 青年のこどもの様な笑みにガリィは、全力疾走で青年を追い掛け回していた。

 

 そしてあっさり捕まった青年にギャーギャーと騒ぎ立てながらも、ガリィはやはり笑顔で。

 

「……やっぱ良い笑顔するよね、ガリィちゃんは」

 

「はあ? おふざけは大概にしなさいよ……ま、今くらいは大目に見てあげるけど」

 

 こんな二人のおかしな関係性は、これからも続いていく――




はい、最終話だけ妙に長くなったけど完結という事で。
今まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!
キャロルが性格破綻してたりご都合主義の塊だったりしたりパパの名言改変したりとめちゃくちゃになった様な気もしましたが満足の行く完結に辿り着いて良かったです

この物語に関して、大幅な設定変更等があったりもしたので不安も大きかったですが一安心しております
お付き合いいただき本当に感謝です
そして大好きなガリィちゃんを拙い形ですが書けた事、俺にとって心に残る思い出にもなりました

これからに関してはまだ執筆中断中の作品が山程あるんで、そっちやります、はい

では、また!

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