異世界転生したからって選ばれし勇者になれる訳じゃない。   作:アルトルト

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宗教に関わってもいいことばかりなわけじゃない。

突然だが、俺らの住む大陸の地理について大雑把に話そう。

 

この大陸は大体東部・西部・北部・南部・中央部・諸島部の6つに分けられる。

 

東部は主に王都や俺たちの故郷がある、緑の多い平和な土地だ。

西部は東部に似た気候だが、今は魔王の軍勢の根城だ。

北部は冬に雪が降る寒い土地で、南部は逆に暖かく温暖な、前の世界風に言うなら南の島的な感じだ。

諸島部は南部の更に南にある地域だが、残念ながらこちらも今は魔王軍に抑えられてしまっている。

そして中央部だが、ここはかつて神々の戦いがあったらしく、その影響で今は砂漠と荒野が広がり、唯一中心にある「女神の谷」以外に緑はほとんど見られない。せいぜいオアシスと街にあるくらいか。

 

これが、俺たちの住む大陸だ。

 

***

 

ハロー、ケンゴだぜ。

俺たちは大陸の中心にある「女神の谷」を目指して、砂漠を越えて行く予定だ。だが何事にも準備は必要、砂漠越えのためのあれこれが要るので、砂漠の入り口の街に立ち寄ることになった。

しかし、何故だか厄介事は付いて回るもので…

 

「えっなにこの街は」

「うわぁ」

「ちょっと気持ち悪いです…」

 

その砂漠の街の人々は皆口々にぶつぶつと呟くのだ。「メロエロ様を讃えよ、メロエロ様を崇めよ」ってね。

 

「なんなんだよメロエロ様って、新手の新興宗教か何かか?」

「てか、それ以外考えられん。この街が狂信者どもの街だなんて聞いたことないからな…」

「じゃあ、街がこんな事になったのはつい最近、ってことですか?」

「まあ、そうなるな」

 

と3人で喋っていると、街の男の1人がこちらに気づき、駆け寄ってくる。その手には3枚の紙が握られている。

 

「おお旅の人よ!ようこそメロエロ神の聖地へ!巡礼ですか?お祈りですか?それとも…入信希望ですかぁ〜!?」

「うえっなんだこいつ…いえ、砂漠越えの準備に」

「チッ、なんだよ…まあいいでしょう。ならばあそこの店がよろしいでしょう。あそこはメロエロ様の加護を受けている上に、信者であれば値段は半額。さあ、いかがでしょう?入信なさいますか?」

「おすすめの店を教えてくれたのは嬉しいけど入信はしないからな!?」

「ケッ、ならさっさとどっか行きやがれ異教徒め、ペッ」

 

唾かけられた。勝手に異教徒扱いした上さらに礼儀もクソもありゃしねぇなオイ。

 

「キ レ そ う」

「落ち着け、今は落ち着くんだケンゴ。抑えるんだよ」

「そ、そうですよ、下手に暴れて騎士に捕まれば大変な事になりますよ!」

「クッ、ならばやむ無しか…クソめぇ…許さんぞ…」

 

怨嗟を撒き散らしながら店に入ることにした。

 

***

 

「いらっしゃいませー!お探しの品はなんでしょうか?」

 

先ほどの狂信者におすすめされた店に入ってみる。

 

「あ、普通だ…」

「普通の人を見て安心できるとかもう…」

「ほんとですね…あ、砂漠越えの用具をお願いします」

「はい、砂漠越えの用具ですね!…あ、お客様はメロエロ様の信者でしょうか?」

「アッ嫌な予感」

「信者でないならぜひ入信を!入信すれば全品半額、おまけにメロエロ様印のサンオイルをお付けしますよ!?」

「イエケッコウデス…」

「そんな事言わずに!ねぇ!?」

「大丈夫ですぅー!」

「よしお前らてったーい!」

 

やっぱり狂信者じゃないか…(呆れ)

逃げるように店を飛び出した。

 

***

 

あれからいろいろと店を回ったのだが、どの店も入信、入信、入信、と狂信者がうるさくてたまらん。

もう俺たちは皆フラフラだった。

それにもう辺りも暗くなってきて、そろそろ宿に行かないといけない時間になっていた。

その時、

 

「あの、そこの旅の人?大丈夫ですか?」

 

女の人に話しかけられた。

 

「ヒッ」

「な、なんですか!?入信はしねぇぞ!?」

 

俺たちは入信アレルギーになっていた。

 

「いえ、お疲れのようでしたから…うちの宿に泊まっていかれませんか?」

「…入信させようとかしませんよね?」

「しませんよ。うちはその辺は良心的だと自負していますから」

「おお…女神はここにいたか…」

「だなぁ…」

 

俺とジョンはその女性が女神に見えた。

 

「では、こちらに」

 

俺たちはその女性に連れられて宿へ向かった。

…その人がこっそりと口の端を釣り上げ、ニヤリと笑っていたことに気づかずに…

 

***

 

「こちら、お夕食になります」

 

あの後、俺たちは宿で夕食を食べるために食堂に来ていた。

夕食はスープにパンなど、まあスタンダードな洋食だ。

 

「おおー、美味そうだな」

「そうですねー!

…あれ、ケンゴ?顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」

「…いや、大丈夫。でも、一応トイレ行ってくるわ…」

 

そう言って俺は食堂から出ていく。

そして食堂を出た所で壁に寄りかかり、荒ぶる心臓を落ち着けるように深呼吸し、呟く。

 

「…やべぇ、なんでこんな所で俺の無駄直感発動すんの…!?」

 

実は、俺は稀にだがアラン並の直感が発動することがある。大体俺の身に何かしらのやばい危機が迫っている時に起こりやすい。そして俺に「ヤバいよ」というのを伝えてくれるのだ。

そして今、ここで直感が発動したのだ。つまり…

 

「あの料理…何かヤバい物でも入ってんのか…!?」

 

そう、毒物とか、睡眠薬とか、そういうのだろうか。

しかし、いくら外れ知らずと言えどあくまでも直感は直感。それだけであの親切な宿の女将を疑っていいのだろうか…?

 

…ええい、考えていても仕方ない。とりあえず、食堂に戻るとしよう。

 

「おうすまんすまん、今戻った…ぜ?

…おい2人とも、大丈夫か?」

 

食堂に戻ると、2人は食事に手をつけずに虚空を見つめていた。明らかに異常だ。

手元を見ると少しだけ食事に手をつけてはいたようだが…?

 

「…のために」

「ん?何か言ったかジョン?」

「…様のために…」

「え、エリー?どうかしたのか?」

 

「「…メロエロ様のために!!」」

「ああ何か嫌な予感がすると思ったよちくしょー!!」

 

やっぱり毒物混入してんじゃねぇか!騙しやがってこんにゃろー!

追いかけてくる2人から全力で逃げる。幸い逃走なら俺が1番上手いんでね。

 

「おい女将!女将はどこだ!出てきやがれ詐欺女狐ぇ!」

 

ついでに女将を探して事情を聞かねば。

 

「あらあら、どうかなさいましたか…?」

 

…いた。しかも悪びれる様子が見受けられない。

 

「どうしたもこうもねぇよ!?俺らの料理に何入れやがった!?」

「…ああ、あれを『食べなかった』のですか。それは残念です。あれを食べれば一瞬でメロエロ様の虜になれたというのに…」

「んなモンなりたかないわ!」

「そうですか…。でも、あなたの仲間2人はメロエロ様の『祝福』を受けたようですし?それだけでも充分でしょう」

「クソが…!」

 

ダメだ、コイツは外にいた狂信者どもよりタチが悪い…!

さらに後ろから駆け足の音。チッ、ジョンたちに追いつかれたか。

 

「…さて。それでは、お2人さま?メロエロ様のために、その男を殺しなさい」

「「はい、メロエロ様のために」」

「くっそ、操り人形かよ!」

 

2人は女将の命令通りに武器を向けてくる。

俺は全力で駆け出し、宿を飛び出す。

 

「クソ、なんで仲間に命を狙われなきゃならんのだ…!」

 

おのれメロエロとやら、許さんぞ…!

 

***

 

「ハァ、ハァ、ハァッ、クソ…!」

「ここまでだなケンゴ。メロエロ様に楯突くものは許されない。メロエロ様は俺が守る!さあ、神にその命を捧げろ!」

「本当はあなたを殺したくなんて無いわ。でもメロエロ様のためだもの。だって、私はあなたよりメロエロ様の事を愛しているのだから…」

 

しばらく2人の魔法や攻撃を避けつつ逃げていたのだか、運が悪いのか誘導されたのか、俺は行き止まりの道に入ってしまった。

クソ…!このメロエロってのは人の心さえもねじ曲げるのかよ!ジョンの覚悟も、エリーの恋心も、全部ねじ曲げて利用するとか…許せねぇ!

…でも、その前にこの状況を脱しなければな…!(滝汗)

死中に活を見出さん、と必死に頭を回転させるが、いい逃走策が思い浮かばない。どう足掻いてもここでジ・エンドだ。

 

もうダメか、そう考えた時だった。

 

「『サンダーボルト』!」

 

「ガッ!?」

「きゃぁ!?」

 

どさり、と2人は気絶し倒れる。

サンダーボルト…最高位の雷魔法だ。これを使えるのはよっぽどの老いぼれ大魔道士かあのハーレム冒険者くらいだ。つまり…

 

「…大丈夫かい、ケンゴ?」

「アラン…!」

 

選ばれし勇者で俺の親友の男がそこにいた。

 

***

 

「アラン、お前も巻き込まれたのか?」

「ああ…気づいたら皆毒を盛られていて…今じゃ口を開けばまずメロエロ様、メロエロ様だ。クソっ、どうしてこんなことに…」

 

2人から逃げおおせた俺たちは、人目のない裏路地に逃げ込み、しゃがんで話していた。

どうやらアランも俺と同じように仲間をメロエロ様とやらに盗られたクチらしい。ホント、胸糞悪いことしやがるぜ…

 

「しかし…あれだな、ただの新興宗教が最近…たぶん数週間でここまで信者を…狂信者を増やせた理由は大体わかった。毒物の類…多分洗脳薬だろうな。でも、1つ疑問点がある。その薬はどこから来ているか、だ」

「うーん、そうだね…ケンゴ、僕としては魔物由来だと考えるんだけど」

「どうして?」

「だって、今の人類にあんなに強力な洗脳薬を作れるほどの技術力を持った科学者はいないはずさ。なら、あれは精神操作に長けた魔物が作った物だと思うんだよね」

「なるほどなぁ…てことは、あれか?メロエロ様の正体って…」

「うん、多分魔物だと思う。それも相当強力なやつ」

「だよなぁ…」

 

なんとなく予想はしていたが…まさかここでゲーム特有の『最初の壁(投げポイント)』か?面倒くせぇ…だけど。

 

「…でもよ、仲間を盗られたまんまじゃいられないよな?」

「…そうだね。うん、僕たちでエセ神を血祭りに上げてやろう!」

「おう!今のエグい発言は聞いてないことにしてやる!さあ、行くぞ!」

「うん、ぶっ転がしてやろう!」

 

待ってろエセ神サマ、地獄すら生ぬるいレベルでぶっ飛ばしてやる!




というわけで、次回に続きます。
キレたケンゴとアランのコンビはメロエロ神を倒せるのか…!?
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