Angel Beats!~others life~ 作:鬼沒君
●『岩沢シンパのなんちゃってヤンキー』
・年齢…享年17歳
・身長…176㎝
・体重…68㎏
・所属…作戦実行班
・使用拳銃…トーラス・レイジングブル
・人物…死んだ世界戦線に所属する少年。
生前に相当荒れていた為、口が悪く喧嘩っ早い、更に目つきも悪いという不良気質全開な性格。
頭に血が上りやすいが決して馬鹿ではなく、不良じみた言動はは自分の身が安全なことが前提なため、危機が迫っている時は冷静な判断も出せる。
とある出来事から、ガルデモのヴォーカル・岩沢に心酔しており、彼女の為なら努力と労力を惜しまない。
同時に、岩沢関連になると途端に冷静さを失い、SSSの名に恥じないアホと化す。
小動物系に弱い。
――朝の日差しが、カーテンの隙間から室内を照らす。
この世界で形式化されているささやかな小鳥のさえずりが学園内に朝の訪れを知らせる。
が、部屋の中に透き通る小鳥の鳴き声は、突如として響いた爆音によって一瞬のうちに掻き消された。
小鳥も逃げ出すドラムの16連打。そこから始まる洗練された音楽は、朝の爽やかさには些か釣り合わないバンド調の曲だった。
Girls Dead Monsterの『crow song』。
隣の部屋でいつも通りの爆音に耳を塞ぎながら男子生徒が果てしない嫌悪感と共に目を覚ますのと同時に、この部屋の住人は目を開ける。
二段ベッドの下の段で、ゆっくりと体を起こし、曲の前奏が終わりボーカル・岩沢まさみの声が加わり出すと、彼は床に足をつけて立ち上がった。
目覚まし時計から尚も大音量の曲が流れる中、それを止めようともせずに彼は背伸をした後身支度を始める。
上のベッドを使っている同居人は、いつもの通り既に居なくなっているので、一切気を使うことも無い。
頭を掻いて寝癖を適当に整える。鏡に映る彼の髪形は、生来の癖毛で後ろ髪が少々跳ねているが、それは既にどうにかすることを諦めている。
その後も淡々と制服に着替え、机の上の目覚まし時計が四週目の『crow song』に差し掛かった所で、最後にクローゼットからブレザーと取り出し、羽織った。
袖を通したブレザーの左肩部分。
そこには『SSS』の文字が目立つ、死んだ世界戦線のエンブレムが縫い付けられていた。
彼――
時期的に春先であろう日差しの下、凹凸のほとんど無い石畳の道をコツコツという音を立て、大食堂へと向かう。
全寮制のこの学園では、今の時間は大半の生徒が朝食を取る為に大食堂へと足を進めている。
真幸の周りにも、ある者は談笑し、ある者は眠気まなこを擦りながら、多くの生徒が彼と同じ目的地へと歩いていた。
――その生徒たちの中で、真幸は現在、かなり浮いた存在である。
というのも、一番分かり易い原因は、今彼の周囲にいる生徒は全員服装が統一されていることにある。
男子は黒の学ラン、女子は色の薄いブレザー。真幸と同じ格好をしている者は居なかった。
それは、この学園という名の世界において、真幸が『普通の』生徒ではないことの証明の一つである。
彼の周りにいる普通の会話をしている生徒達は、真幸から見たら人間では無い。
真幸達はNPCと呼んでいる、ただのこの世界の『住人』なのである。
意思があり、個性があろうとも、当たり前の範疇を決して超えることは無いごく一般的な生徒。
そんなただの生徒が織り成す日常は、真幸からしたら見ていたい光景とは言い難かった。
「あ、おはよう真幸君」
一人の男子生徒が、まるで真幸を知っているかの様に馴れ馴れしく駆け寄る。
その生徒を何も言わずに睨み付けると、彼の生まれつきの目つきの悪さを前に、委縮した男子生徒は静かに離れて行った。
「おはよう真幸君!今日はいい天気だね~」
しかし、その直後に彼の背中に声がかけられる。
望んでもいない挨拶に苛立ちさえ感じ始めるが、声の主にすぐに気が付いて、真幸は振り返った。
「なんだ、お前らか」
そこに居たのは真幸と同じ服装をした二人の男子生徒。
青い髪の生徒、日向は真幸に対して軽い笑みを浮かべている。
その隣にいる小柄な生徒、大山に呆れた目を向ける。
NPCかよ……と、真幸は心の中で呟いた。全く同じ挨拶を数秒前にされたばかりだ。
余りにも常識に当てはまった挨拶だが、この二人の生徒も真幸と同じ側の『異端な人間』である。
「んじゃ行くか。昨日の作戦でいいモン拾っちゃったんだよな~」
三人が再び歩き出すと、日向が得意気に懐から一枚の紙を見せびらかす様に取り出した。
日向から受け取り、手の平に収まるサイズの紙をまじまじと見つめた大山は直後、驚嘆の声を上げる。
「こっ……これはぁ!?
三か月に一食限定、幻の朝食メニュー『モーニングスターライト』の食券じゃないかぁ!!」
「は……はぁ!?日向お前、何てモン獲得してんだよ!」
周りの生徒の視線を集める程の大声を上げる大山と真幸。日向が慌てて二人の口を塞ぐ。
「おいおい、声がデカいって。ばれたらどうするんだよ!」
その言葉に事の重大さを理解した真幸は、日向の手を振りほどき、声を潜めて再び話始める。
「まさか、お目にかかれるとは思ってなかったな。ただの都市伝説だと思ってたが……」
三人は向き合い、視線は日向の右手にある食券に集中している。
「ああ、俺も回収した食券の中にこいつが紛れてた時は目を疑ったっぜ」
「モーニングスターライト……口に入れた瞬間に広がる豊かでのどかな風味、舌を刺激する季節の恵みが濃縮されたかの様な旨味、撫でる様に通り抜ける喉越しのよさ、そして胃袋に入っても尚示し続ける圧倒的存在感……
正に『天に昇る美味さ』と形容するに相応しい究極のレシピ……と噂されているあの?」
「こいつを巡って、クラスが一つ潰れたって噂まであるお宝だぜこれは。まさか日向が拾うなんてな……」
「そう、俺達は今日、伝説を目の当たりにするんだ。……当然、周りに漏れたら戦争が起きかねない代物。発言には気をつけろよ。真幸、大山」
「おう、その代わり五分の一だ」
「僕にも少し頂戴ね!」
「結構持って行くなお前等……まあいい、絶対に守り抜く。
オペレーション、スタート!」
――学園内・大食堂。
大食堂の中は、既に一般生徒で賑わっていた。何百単位の人数が一斉に押しかけても満席にならないことが、この場所の広さを証明している。
「……ふう、守り抜いたな。ミッションコンプリートってか」
焼き魚定食を載せたトレーを持つ真幸と、カレーを持った大山は一階の空いてる席に座った。例のメニューが出されるのに時間が掛かるのか、日向の姿は未だ窓口の行列により見えていない。
「結果的に何も話さなければいいだけだったのに、あれほど緊迫した沈黙もそう無いよねえ」
「あんだけ神経擦り減らしたんだ、やっぱ三分の一は貰わねえとな。
あ、大山、納豆やるよ」
「本当に!?やった、納豆カレーだあ!」
「お前、これからとんでもない物を賞味出来るってのに……ッ!!」
目を輝かせる大山に再び呆れていると、突如、窓口の行列がざわめき始めた。
二人は同時に視線をそちらに向ける。そこには、さながら神の力によって海が割れるかのように一般生徒達の群れが半分に割れている光景があった。
奥にいる人物の姿が見えなくなるほど密集していた生徒達。その生徒達が開いた道の中央に立っているのは、禍々しさとも言うべき圧倒的存在感を放つ日向だった。
「ひ……日向君!?あの短時間の間に何があったっていうんだ!」
「違う大山、よく見ろ!
あの凄まじさは日向じゃない……あれだ!」
真幸の視線の先――トレーの上に載っている一つの丼を見て、大山は全てを理解した。
「そ……そんな、まさかあれが……!」
「ああ、信じられねえが間違いない。とんでもない名称詐欺だぜ……あれが……」
周囲の生徒を圧倒しながら、日向は青ざめた顔でゆっくりと真幸達の元へ歩み寄ってくる。
その存在感の元凶――モーニングスターライトをその手に持って――
「何だよこれ!!」
トレーを置くと、すぐさま日向は机に伏した。
普通の大きさの丼には、全長50センチはあろうかという程高く積み上げられた肉の山。濃い紫色の、ソースと言うべきかすら怪しい謎の液体がまんべんなくかけられており、名状し難い異臭が三人の鼻をつく。
食べ物と表現するには余りにも彼等の常識からかけ離れていた。
既に食欲など彼方に消え去った真幸は、この臭いと光景を前にして思わず口元を抑える。
「……なんなんだよ、この臭いは」
「季節の恵みを何でもかんでも濃縮した結果だとさ……」
「この肉って牛だよね?」
「さあ……待ってる間奥から聞いたことのない鳴き声が聞こえてきたけどな……」
数分前には死守することに躍起になっていた物を、畏怖を込めた目で見ている日向の肩に真幸は優しく手を置く。
「……大丈夫だ日向、見た目なんて関係ねえ、伝説の名に恥じない、最高の料理な筈だ」
「真幸……そういえばお前、五分の一貰うって――」
「腹一杯なんだ」
日向の顔は絶望に染まりきった。
「う……うわあああ!何だよこの決して美味くはないのに壊滅的に不味いとも言い切れない気持ち悪い味はああ!不味い筈なのに、吐くことも気絶することもできないじゃねえかあああ!!」
「うるさい、黙って食え」
あまり食べ物が喉に通らない状態で、白米を口に押し込む真幸。その向かいには頭を抱える日向。
「くそぅ……この二人はまるであてにならないし、せめて誰か手伝ってくれれば……」
「あ、日向君、あれって……」
納豆カレーをいつも通りに食べている大山は、息遣いを荒くしながら震える手でモーニングスターライトを口に押し込む日向の後ろを指差す。
それに反応して日向が弱々しく振り向くと、再び窓口付近で群れを成している生徒に紛れている一人の生徒が目に入った。
自分たちと同じブレザーを着たその生徒を確認した真幸は顔をしかめる。
「あいつは……」
「おお、昨日の新入りじゃん!
おーい、音無ー!!」
希望を見出したかの様に声を上げる日向。ここの勝手が分からないのか、一般生徒に流されていたその生徒は、日向の声によって歩く向きを彼等の居る方へと変えた。
「ああ、お前等……確か日向と大山だっけ?」
「ああ、合ってるよ。ここには慣れたか?」
「慣れる訳無いだろ、こんな所」
「ハハ……それもそうか。
ところで、腹減ってるだろ?これどうだ!」
「……何だこれ、ここじゃこんなのが主食なのか?」
橙色の髪をした生徒――音無は、日向のモーニングスターライトをやはり恐怖交じりの目で見つめる。
「好きでこんなもん食えるかっ!!
……っと、そういや、真幸は初めてだったか?」
遂に涙目にまでなり始めた日向は思い出した様に真幸の方を見る。
その真幸は、頬杖をつきただただ音無を何も言わずに睨み続けていた。
定例会議に参加していない真幸は、“昨日新しくメンバーが増えた”という話を聞いただけだった。
その日の夜に行われた『オペレーション・トルネード』でも、配置場所の関係で姿を見ることはほとんど無く、真幸の中ではそれほど重大な出来事でもなかった。……作戦終了後までは。
作戦の結果は成功。成果は上々ではあったのだが、話によれば新入りの不甲斐無さにより『敵』にあわや最終防衛ラインまで進行されたと言う。新入りであろうが結果的に成功していようが、このことは真幸にとって余りにも重大なことであった。
「紹介するね、真幸君!彼は昨日戦線に入った――」
「おう、テメェが話に聞いた新入りか?」
大山の紹介を遮り、真幸は立ち上がる。
「……そうだけど、何だよあんた」
「あぁ!!んだその目は、やんのか!?
テメェには一回言っておかなきゃあなれねえと思ってたんだよ」
音無と同じ視線の高さに立ち、詰め寄る。その態度が勘に障ったのだろう、音無の目つきも僅かに悪くなっていた。
「記憶喪失だかなんだか知らねえが、ここでそんな言い訳が通用すると思うなよ。
お前《めえ》はあの作戦における警備の意味を分かってんのか?」
「作戦……昨日のか?そんなの、あの天使とか言う奴とを止める為の――」
「そんな訳無えだろうが!
いいか、あのオペレーション・トルネードはNPC共を大食堂に出来る限り引き付け、巨大送風機で奴等の食券を『巻き上げる』!
それと同時に、岩沢さんがその女神の様な歌声を披露する数少ない場なんだぞ!神だろうが天使だろうが、そこらの有象無象が阻止していい様な軽いモンじゃあねえんだよ!
それをお前は情けなくもあの天使から逃げ出し、果てに食堂の目の前まで突破される大失態を犯した。初めてだったからが通用すると思ってんじゃねえぞ新入り!」
激しい剣幕で怒鳴りつける真幸。音無はその気迫に思わず仰け反るが、小さく歯軋りをすると真幸を睨み返した。
「……で、何が言いたいんだよ、初対面の奴にそんな怒鳴られる覚えは無いぞ!」
「お前は相応しいのかって言ってるんだよ。
この『死んだ世界戦線』作戦実行犯、そんなにも甘くはねえんだよ!度胸が無いなら、大人しく陽動班で岩沢さんの邪魔にならない程度に裏方に徹してやがれ!」
そう怒鳴りながら、真幸は自分の左肩に着いている『死んだ世界戦線』のエンブレムを右手の親指で指した。
――死んだ世界戦線。真幸達が属している、言わば“神への反抗勢力”。
今この場にいる真幸達を含む、戦線のメンバーは皆、一度その人生を終えている。
不慮の事故、病気、通り魔の被害者――その死因は多種多様だが、この世界に居る全ての“人間”に共通することは、まともな人生を送ることが出来ずに死を迎えてしまったことである。
ある日、悲惨な死を迎え、この世界に来た一人の少女は言った。
「こんな理不尽な人生を課した神に、一発きついのを何発もブチ込んでやる」と――
そんな少女の元に一人、また一人と同じ境遇の少年少女が集まり、今では一勢力と言うに恥じない規模を誇っている。真幸も、この戦線で神と戦うことを決意した一人である。
彼らの目的はただ一つ――理不尽な死を与えた神への“復讐”である。