友達に「八咫M?のホラー映画回見たい」と言われ、即効書き上げました。
やはり、プロットって大事なんですね。予め決めておいた方が捗りました。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
相変わらず文字数少なくて申し訳ございません。
「八重、頼まれてたの借りてきたよ」
土曜の昼過ぎ、八重と自室で寛いでいると買い物から帰ってきた紅葉がひょこりと顔を覗かせた。あまり気は進まなかったけど、と付け加えて紅葉は八重にレジ袋を渡す。その中身を確認した八重の表情はというと、満面の笑顔。
八重の笑顔はもちろんいつ見ても可愛いのだが、これは発情してる笑顔だ。
レジ袋に記された見覚えのあるロゴでなんとなく見当はついているが……。
「榊っ、ホラー映画見よ!」
我が家のソファは三人掛けだ。そのため八重、俺、紅葉が座ると烏沙義のスペースがなくなってしまう。どこに座ろうかとおろおろしている烏沙義に手招きをし、俺の膝に座るよう誘導する。烏沙義はちっこいから、映画鑑賞に差し支えはない。
「榊様、本当に見るのですか……?」
烏沙義がすでに半泣きで俺を見上げてきた。普通に考えて、ちびっ子にホラー映画って鬼畜だよな……。残酷なシーンの時には目をふさいでやるとしよう。
小さく震えている烏沙義を安心させるように撫で、俺は再生ボタンを押した。
『14日の土曜日』
八重が紅葉に頼んで借りてきてもらった映画のタイトルだ。有名なものだが、俺も見るのは初めてである。
内容としては、ただひたすら登場人物が殺人鬼に殺される話だ。
特殊メイクの凄さに感心していると、不意に笑い声が耳元で聞こえた。笑い声のした方を見ると、頬を赤らめ、艶やかな吐息を漏らしている八重の姿が。
「あぁ、あんなに深く傷が……気持ちよさそうだなぁ……」
そう呟きながらちらりと俺を横目で見るが、俺は気づかないふりをして烏沙義の目をふさいでいた。どうせ八重のことだからそんなことだろうと思ったが……はぁ。
少しは自重してほしいが、興奮してる八重も可愛すぎるので辛い。
それにしても、烏沙義の怯えようが酷い。少しの悲鳴だけでもツインテールをびくびくと揺らしている。
「大丈夫だって、所詮作りものなんだからさ」
落ち着かせるようにそう撫でてやると、隣から紅葉の賛同する声。
「そうだよ、烏沙義。これは作りものなんだ。こんな殺人鬼いないし、私達八咫烏が人間に負けるわけがない。そう、怯える必要はないんだ。怖くない、怖くない、怖くない……」
「あの、紅葉さんや。手がすっごい震えとりますが」
「っ!? こ、怖くなんてないさ!」
新発見、紅葉はびびり。八重に手渡すとき、気が進まない、と言ってたのは自分が怖いからだったのか……。ホラー映画なんて余裕だと思っていたが、声も若干震えている。烏沙義と八重の手前素直に怖がれないのだろうか、難儀な奴だ。
やれやれと息を吐き、俺は紅葉の右手にそっと左手を重ねる。驚いたように俺を凝視する紅葉に
「これでちったぁ怖くなくなるだろ」
と微笑みかけると顔を真っ赤にしてしまった。青くなったり赤くなったり、忙しい奴だ。
ほどなくして紅葉の震えは収まり、烏沙義は膝を抱えて目を瞑ってしまった。
それにしても、暫く八重の発情した笑い声が聞こえてこない。どうしたのだろうと八重の方を見ようとした時だった。
「あー、私も怖くなってきちゃったなー!」
八重は棒読みくさく大声で言うと、俺の右腕にしっかりと抱き着いてきた。
怖い、っていうのが嘘なのは分かっている。
では何故そんな嘘を吐いたのか。それは、八重の顔を見ればすぐにわかった。
「なんだ八重、拗ねたのか」
「……拗ねてない」
頬を膨らまして俺の腕に額を擦りつけてくる八重。俺が紅葉の手を握ってやってたのが気に食わなかったのか、嫉妬していたのだ。可愛いかよ。
……そういえば、こうやって八重が嫉妬するのって、久しぶりじゃないか?
しがみついてくる八重に昂る気持ちを抑え、映画の続きを堪能する。
クライマックスでは結局、紅葉も烏沙義も半泣きで、八重は拗ねたまま俺に引っ付いていた。
「……榊様ぁ、トイレついてきてくださいぃ」
「さささ榊、その、すまないのだがトイレに……」
「榊ぃ、お腹すいて目ぇ覚めちゃった……お菓子食べていい?」
珍しく拗ねた八重だけでも十分に俺を睡眠不足にさせるというのに、計三回、俺は深夜に起こされてしまった。
翌日、全員寝坊したのは言うまでもない。