ゾイドバトルストーリー異伝 ―機獣達の挽歌―   作:あかいりゅうじ

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本編の解説コーナー、三回目です。


回想碌:機獣達の挽歌 ―『テクノロジー』編―

 

 ―第二章『テクノロジー』―

 

 第一章においてキャラクター紹介、という重要なファクターを終え、連載モノとしての基盤が整った状態で始まった第二章。西方大陸戦争語る上で欠かす事の出来ない、古代テクノロジー『オーガノイドシステム』と、帝国・共和国によるその争奪戦を、作者なりの解釈・視点を交えて描いてみました。

 と言っても、公式設定においてオーガノイドシステムが一体どのようなモノなのか、という点に関する言及は多くなく、それがゾイドを凶暴化させ、その戦闘力を飛躍的に高めるプログラムであるという事以外は分かりません。本エピソードではボスキャラたるヘルマン・シュミット技術大尉を強烈な悪役足らしめるため、帝国側は「システム解析のために非人道的な人体実験を行った」という独自設定が加わっています。本家バトストではまずありえないテイストの設定ですので(そもそもゾイド向けのプログラムを人間の躰に試して全うな検証結果が得られるのか、甚だ疑問ではありますが……)ここで原作との剥離を感じてしまう方も、少なくないかもしれません。

 主人公ジェイと特定キャラの関係に焦点が当たる、という隠れコンセプトもこの章までは健在で、『テクノロジー』では傭兵ツヴァインとの関係がフィーチャーされています。西方大陸出身である彼の、戦火で荒んでいく故郷への心境を描く事で、「帝国にも共和国にも正義はないんだよ」的な、意味ありげで(よくよく考えると当たり前でありきたりな)テーマをちらつかせ、重厚なストーリーを展開する意図がありました。クライマックスの戦いの舞台となるオリンポス山は傷ついたエウロペ大陸の象徴的な場所として設定されたのですが、原作でも重要なエピソードの舞台となった場所を改めて掘り返して描く、というのは出過ぎた真似だったかな、という後悔もあります。

 

 良くも悪くも『挽歌』の作風が凝縮された『テクノロジー』、それでも作者的には、プロローグ的要素の大きい一章、物語を動かすためにドラマパートに大きく尺を取られてる三章・四章と異なって、唯一純粋にゾイド戦を楽しんでいただくことのできるオリジナルのバトストだと言える、『挽歌』内では一番の傑作だと思うのですが、いかがでしょう? 

 

 

 ―登場キャラクター雑記・『テクノロジー』編―

 

 

 レイモンド・リボリー

 本章から登場することになった共和国側の技術者キャラで、『テクノロジー』における狂言回し役であります。ぶっちゃけて言えばプロット段階では存在しなかったキャラクターであり、執筆中で必要に迫られて、急きょ生まれたキャラクターでした。登場後丸々一話に渡って名前が明かされなかったのは、彼を名無しのモブにするか、準レギュラー的キャラクターにするか悩んでいた証拠だったりもします。

 立場は違えど、レイモンドの人間性的な意味での完成度は一章時点でのジェイに近く、戦争の凄惨さを知らずにゾイド研究にいそしんでいた彼がオリンポスでの戦いの果てに一皮むける、というのも、物語を盛り上げるのに一役買ってくれました。最終決戦の際ジェイ機に同乗していた彼ですが、ある種技術者でありパイロットでもあるラスボス・シュミット大尉との戦いに、ゾイド乗りジェイと技術者レイモンドの二人が挑むという構図だったのかもしれません(当時は全然意図してなかったので、今パッと思いついた方便ですが)。

 ジェイの仲間の大半が離散してしまった第四章においても、レイモンドは(ヒロインであるエリサを除いて)唯一再登場します。ジェイの事情を知り、絶望の渦中にあった彼を激励できる人物……でもゾイド乗りではないため、ジェイと共に戦い、真の意味で彼を支える事は出来ない人物として、レイモンドは最適なキャラクターでした。彼を名有りのキャラクターにしたのは、この点でも正解だったと確信しています(ちなみに初期案では前述の通り、ツヴァインが四章で再登場する予定でした)。

 

 

 ヘルマン・シュミット

 第二章『テクノロジー』のラスボス。一章では全く言及のなかった帝国側のキャラクターも、この二章で出してみました。帝国側のオーガノイドシステム研究者であり、生粋の二クス人以外の全て蔑視する選民思想の持ち主――という、戦争モノに出てくる外道キャラのテンプレみたいな男です。ある種のお決まりみたいなヤツですが、こういうキャラクターは必要以上にキャラの背景設定を言及しなくても、読み手の方に「ああ、こいつは外道キャラなんだな」と、ある程度推察していただける算段が付きますので、書き手としては助かるものであります。 説明するまでもないですが、彼が散々に言及し、復活を企てているという飛竜型ゾイドは《ギルベイダー》や《ガン・ギャラド》と言った旧暗黒軍の主力ゾイド達の事で、上記の人物描写も相まってすさまじい厨二病臭を放っていますね……(苦笑)

 研究者としての能力に拍をつけるため、本作において「オーガノイドシステムによる絶滅危惧種の強制培養技術」を生み出したのは彼であり、《ブラックライモス》はその恩恵を受けたゾイドであるとしています。また原作との関連性を醸す要素として、彼はバトストにおいて《デススティンガー》開発に携わったとされる技術者・ドクトルFの配下であると、設定も加えました。ジェイ達との激闘の果てに戦死するシュミットですが、こうした要素を伏線として、続く第三章においても、彼の残した『パイロット・デザイン』技術が重要な要素として登場します。

 

 

 ―登場ゾイド雑記『テクノロジー』編―

 

 

 《ブレードライガー・アーリータイプ》

 主人公ジェイ・ベックの二代目の愛機であり、実質本作の主役機。アニメ『ZOIDS』の主人公機として絶大な人気を誇った機体ですから、ファンも多い事でしょう。何を隠そう作者もその一人で、一番好きなゾイドがこの《ブレードライガー》でした。

 完全なワンオフ機であった初代アニメ版とは異なり、バトストにおける《ブレードライガー》はあくまで共和国軍の保有する一兵器でしかなく、同型機も存在します。ただ、本家バトストでアーサー・ボーグマンが乗りこなした試作機と、後の量産型では性能に大きな差があるとされており、実質別機体と言えるでしょう。コトブキヤより発売されたHMMでは前者を『アーリータイプ』、後者を『量産型』と区別しており、外観にも細かな差異があるとしています(多少語弊がありますが、トミー版キットを説明書で言う「バン仕様」として組んだモノが『アーリータイプ』、シールドライガーのパーツを流用した「共和国仕様」として組めば『量産型』となります)。本作ではこのHMM版設定を採用しており、ジェイの乗る《ブレードライガー》を一般機と区別しました。本家試作型ブレードライガーのパイロット、アーサー・ボーグマンですが、実は彼が主役を張るファンブック2において、本人が戦闘を披露するエピソードは結構少ないんですよね(最初のガリル遺跡捜索と、最後の《デススティンガー》戦だけ)。本機のファンとしては、強い《ブレードライガー》の活躍を、バトストでももう少し見たかった。そんな願望を込めて、ジェイの愛機は『アーリータイプ』の《ブレードライガー》となりました。

 ただ、満を持して登場した《ブレードライガー》ですが、戦闘シーンを描写する上では結構不便な機体でもありました。何せ《シールドライガー》より火器の数が半数近く減ってしまったせいで、どうしても攻撃の描写が限られてしまいます。止めの一撃もほぼ『レーザーブレード』で斬りかかる方式に固定されてしまい、その都度迫力があり、かつバラエティに富んだ斬撃描写を模索しておりました……。

 

 

 《ブラックオニキス》

 初見でまずこのページから開いてしまった方は、間違いなく「……そんなゾイドいねーよ」となる事でしょう。宿敵ヘルマン・シュミットの操る改造《ダークホーン》で、ゾイドリバースセンチュリーに搭乗した機体《クリムゾンホーン》が、西方大陸戦争において参戦するとしたら――という想定の元登場した機体です。リバセンは新バトストの完結後に設定された、所望「後付け」の作品ですので、当然西方大陸戦争に《クリムゾンホーン》は出てこないのですが、そうした公式の要素を拾い上げエピソードに取り込むことで、そこはかとない公式感を醸し出したい、という、作者の思い上がりから生まれました。機体カラーは黒。ネーミングは同じくシュミットが関係したと設定した《ブラックライモス》と対、もしくは上位の存在であると匂わせるような響きで決めています。

 本家《クリムゾンホーン》は惑星Zi大異変直後の磁気嵐吹きすさぶ環境での活動を想定した局地戦用機であり、本来であれば磁気嵐の治まった新バトストの世界において活躍の場はありません。本作ではその関連機である《ブラックオニキス》登場の展開に説得力を持たせるため、本機を「シュミットの開発したオーガノイドシステム搭載の実験機であり、原始惑星Ziの環境の再現となり果てた崩壊後のオリンポス山内――つまりはグランドカタストロフ時と同様磁気嵐の巻き起こった環境での活動に特化した機体である」としました。ついでにオーガノイドシステム搭載の《シールドライガー》である《ブレードライガー》に対し、同様の条件で強化された《レッドホーン》という構図を持ってきたこともあり、《ブラックオニキス》は『挽歌』作中におけるジェイ機の『対等なライバル機」として成り立っています(本来《ブレードライガー》のライバル機と言えば《ジェノザウラー》ですが、既に公式で使われた対戦カードを繰り返しても、その劣化版になりかねないと考え、あえて外しています)。両機が対決するエピソードは、作者としてはかなり満足のいくモノが描けたと思っておりますので、是非また読み返してみて下さいませ(第二部『テクノロジー』の⑬~⑮話ですね)。

 

 

 

 今回の回想碌はここまでです。次回は第三部『暗黒の軍勢』になります。ご興味いただければ、お付き合い下さい。


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