遊戯王GX 交差する魂の物語   作:紅卵 由己

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第一話 デュエルアカデミア入学試験 筆記編

 制服を身に纏った受験生が大勢立ち並ぶ教室の中。

 鉛筆をなぞるカリカリ音がBGMとして流れており、試験用のプリントに視線を釘付けにして集中している事から、学生なら最も重要視する『受験』の重要さが分かるだろう。

 最も、それが『普通の受験』ならの話だが。

 

 受験用のプリントに描かれている問題は、本来の小学校や中学校などで習う科目とは明らかに違い、遊戯のルールや裁定など、そのような物ばかりで、普通の受験とは違う事が見て取れる。

 

 ある受験生は問題の難易度に四苦八苦しているのか、頭を掻き毟っている。数本ほど、髪の毛が抜け落ちる。

 

 ある受験生は問題が簡単なのか、顔に笑みを浮かべながら鉛筆を走らせる。その笑みを浮かべてから数分後、笑顔は凍りついたかのように固まる。

 

 ある受験生は、鉛筆を止めて記憶と言う思考の海へダイブしたり、ある受験生は先日の睡眠時間が足りていなかったのか、いまにも居眠りしてしまいそうになっている。

 

 見た印象は普通の受験会場だが、やっている問題が遊戯(カードゲーム)の内容である事など誰が予想出来るだろうか。

 そして、彼らはその状況を当然のように思いながら、試験に赴いている。

 理由は単純で、その遊戯がスポーツ界の役目も担っており、カードゲームの強さで人生が変動するとすら言われるほどの影響力を持つ物だからだ。

 

 教室にいる受験生達は気付かない。自分達のやっている遊戯(カードゲーム)が、世界の命運を分けるほどの影響力を持っている事を。

 

 あっと言う間に時間が過ぎていき、やがて試験の残り時間が無くなると、試験官が受験生達のプリントが回収し始める。

 

 筆記の試験が終わると一人の少年がため息をつき、一言。

 

「……や、やっと終わったぁ……」

 

 黒く短かい髪の毛と、視界保護のために眼鏡をかけている彼の名前は空井青谷(そらいあおや)

 

 疲れ切った顔のまま、彼は他の受験生を避けつつ試験会場の教室を後にした。

 

 

 

 デュエルモンスターズ。

 

 この世界で恐らく最も広まっているカードゲームで、モンスターなどの様々なイラストが描かれたカードを使って対戦するゲーム。

 

 一枚のカードに万以上の値段が付けられる事も珍しくは無く、それぞれのカードの裏の面のように多くの謎を残している。

 

 この世界においては、このカードゲームの強さだけで待遇が変わる事が多く、空井青谷もその一人。

 

「数日後は実技試験かぁ……デッキの構築、どうすればいいんだろうなぁ……」

 

 青谷は背中に背負ったリュックサックの中から、入学予定の学園の説明を再度確認する。

 

 彼が入学するために試験を受けている学園の名前はデュエルアカデミアと言い、文字通りデュエルモンスターズの優等生(エリート)を生み出すために作られた学園である。

 

 その入学には筆記試験と実技試験で高い成績を獲得する事が絶対条件となる。

 

 ここで重要なのが、デュエルアカデミアの試験は筆記試験よりも実技試験の方が評価に大きく影響を持つ事である。

 

 実技試験の時に受験者は、自分自身の持つカードだけで最低40枚以上のカードで形成された紙束――デッキを構築し、それによって試験官と対戦する事になる。

 

(……はぁ)

 

 青谷の口からは自然とため息が漏れるが、音とすら認識出来ないほどに小さなため息だった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 何も無く、白い景色のみが周りの世界を形成している空間の中、一つの『光』と美しく長い髪の毛に白い羽が背中から出現している、天使のような外見をもった女性が存在していた。

 

「再度確認しますが、貴方がその世界に行った場合……貴方は肉体を持たず、精霊として活動してもらう事になります」

 

 女性は『光』に対して、何かを確認するような物言いで語りかける。

 

「……本当に良いのですね?」

 

 『光』は女性に対して、言葉では無く意思のみで返答し、答えを伝える。

 

 「覚悟は出来ている」と。

 

「……そうですか。では貴方の魂を、あるカードに『憑依』させる事でその世界への『転移』を行います」

 

 女性が確認を取った次の瞬間、女性の目の前に一つの石版が現れる。

 

 石版には架空の生物であるドラゴンの生物の絵が彫られており、淡色の光を発している。

 

 そして、石版の中に『光』は自ら入り込み、自らの『魂』を石版の中に定着させていく。

 

 すると、石版は輝かしい光を辺りに撒き散らし、次の瞬間には石版の姿は無く、代わりに一枚の小さなカードが女性の手のひらの上に乗っていた。

 

「……貴方の『向こう側』での姿は、貴方が好きだった架空の竜にさせていただきました」

 

 女性はカードの中に存在する魂に対して、一人語りかける。

 

 その表情は暗く、そして悲しさを現していた。

 

 しかし、表情を真剣な物へと変えると女性は空間の一部分に手を翳し、そこから輝かしい光が漏れる『穴』を出現させた。

 

「……では、送ります」

 

――……色々と、ありがとうございました。

 

 女性はカードの中の魂の意思を読み取ると、カードを『穴』の中に飛ばし、魂と共にカードは空間から消失した。

 

 

 

「……貴方が■■の■■■から世界を守れる事を、神として……祈っています」

 

 自らを『神』と名乗る女性はそう呟くと共に、カードと同じく空間から消失した。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 そして、時は……実技試験の日へと移り、空井青谷は……走っていた。

 

 それはもう息を切らせながら、必死の形相で歩道を走り抜けており、近道があればそこを通り抜けてショートカットしている。

 

 彼が何故、このような状態に陥っているか。

 

(だああああっ!! 何でこんな大事な日に限って目覚まし時計が電池切れなんだよぉぉぉ!!)

 

 答えは、目覚まし時計の電池切れによる寝坊(ドジ)だった。まるで何者かが細工したとすら思えるほどに仕上がっている状況だが、青谷がそれに気付く事は無い。

 

 頭の中は真っ白のまま、兎に角時間に間に合わせるために足と腕を動かした。

 

(兎に角今は急ぐんだ!! 時間に間に合えば最低でも試験は受けられるはずッ……!!)

 

 公園の道を真っ直ぐ突き進み、棚引く風を感じながら、試験会場へ向かって走っている。

 

 

 

 

 

 

 

 だから気付かなかったのだろう。

 

 歩道の真ん中に背中を向けて立っていた男性の姿を見た時には、既に距離が数メートルしか無く、足は既に踏ん張りが効かない状態に陥っていた。

 

「わ、わぁ!?」

 

 次の瞬間、ドン! と言う衝突音を共に青谷は男性とぶつかり、青谷は背中に背負っていたリュックサックの中身をぶちまけてしまう。

 

 対戦に使う決闘盤(デュエルディスク)に、自分自身が試験で使うつもりのデッキなど。とにかく色んな物を落としてしまった。

 

「す、すいません! でも僕急いでて……」

 

 ぶつかった相手である男性に背中を向けながら、青谷はぶちまけたデッキのカードを一枚ずつ拾い上げていく。

 

 男性は青谷の姿を見ると、何も言わずにカードを拾うのを手伝い始めた。

 

「え? だ、大丈夫ですって!! 悪いのは僕ですから、別に手伝わなくても……」

 

 ふと自分が手に取ろうとしたカードを男性が拾い上げるのを見て、青谷は男性に対して手伝いが不要である事を伝える。

 

「そんな事言ってる場合じゃないだろう? 急いでいるのなら、他の人の手は借りるべきだ」

 

「……は、はい」

 

 青谷は男性にカードを拾う事を手伝ってもらいながら、男性の容姿を確認した。

 

 髪の毛は白く、腹部から胸部までに白い下地があるオレンジ色のTシャツに、ベージュ色のジーンズを穿いている。

 その容姿から察するに、自分と同じ受験生で無い事だけは理解できた。そもそも、受験生ならこのような場所に立ち止まってはいないだろうと青谷は結論付け、カードを拾う作業に戻る。

 

「……君は、デュエルをするのか?」

 

 拾い上げるカードの枚数が残り数枚程度に減ってきた時、男性は青谷に対して問いを飛ばしてきた。

 その突然の質問に一瞬だけ疑問を浮かべたが、落としたカードがデュエルモンスターズのカードである事を知った上で質問してきたのだろうを結論付け、カードを拾いながらも返答する。

 

「はい。一応……強く無いんですが、デュエルをしています」

 

「そうか」

 

 男性は問いの答えが返ってきた事を確認するのと、残り数枚のカードを拾い上げ終わるのは、ほぼ同時だった。

 カードを集めた後、それらを一つの束に纏めてからケースの中に収納する。

 そして、デュエルに使う機械である決闘盤(デュエルディスク)など、試験に必要な物をリュックサックの中へ入れ込んだ。

 

「手伝ってくれて、ありがとうございます」

 

「気にしないでくれ。道の真ん中で突っ立っていた俺も悪い」

 

「本当にすいませんでした。俺急いでいるので、また会う事があったらその時にお詫びします」

 

 荷物が全て元通りになった事を確認すると、青谷は男性に一度謝罪した後、直ぐに海馬ランドへ足を急かそうとする。

 

「待て」

 

 その時だった。男性は青谷の左腕を右手で掴み、再び走ろうとした青谷を静止させたのだ。

 

 青谷は「何をするんですか!?」と男性に問うものの、男性はただ「いいから待て」と言い強引に話に付き合わせる。

 

「お詫びは要らないから、代わりにコレを受け取ってくれ」

 

 男性は何処から取り出したのか、一枚のカードを青谷の右手の平の上に乗せた。

 

「これは?」

 

「君の運命のカードだ。このカードが、君に使われる事を望んでいる」

 

「……は、はぁ……?」

 

 男性の意味不明な言葉に青谷は疑問を覚えながらも、せっかくの善意であるため、男性に手渡されたカードを渋々受け取った。

 

 青谷がカードを受け取ったのを確認すると、男性は青谷から背中を向けて歩き始める。

 

「あ、あの!!」

 

「……何だ?」

 

「よく分からないけど……ありがとうございます!!」

 

「……例はいい。それより、急いでいるんじゃないのか?」

 

「!! あ、はい。それではまたいつか!!」

 

 男性に一礼し、手渡されたカードを詳しく見ないまま腰元のデッキ用ポーチに入れると、青谷は試験会場を目指して再び走り始めた。

 

「………………」

 

 そしてこの時、男性からカードを受け取った瞬間が彼……空井青谷の物語の小さな始まりを意味する事を、青谷自身予想する事も出来なかった。

 




どうも、作者の紅卵です。

此度は『遊戯王GX 精霊と成った者の物語(仮タイトル)』を見ていただき、ありがとうございます。

遊戯王の小説を書くのはこれが初めてで、至らない部分もあるでしょうが……読者の方々が読みやすいような小説を書けるよう努力しますので、これからよろしくお願いします。

質問などがあれば、出来る範囲でお答えします。

――――《ここから余談》――――

実を言うと、小説の舞台とする作品をGXではなく5Dsにする事も考えたのですが……迷った挙句、書いている人も多く書き方の参考にしやすいGXに。

5Dsでライディングデュエルを書きたかった(本音)。

ゼアル以降はアニメを見ていないのでそもそも作者には無理ですがね!!(血涙)。

……それにしても、今回の話の文字数は4002文字で……自分で言うのもなんですが、後半の地の文が少ない気がします。もっと増やした方が良いのでしょうか……
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