明日より授業を受ける事となる学校ことデュエルアカデミア――その校舎前にて。
ひとまず見学という目的でもって後者へ足を運んだ青谷は、まず率直に感想を述べていた。
(……あ、あれ。意外と人がいない……?)
先端の尖ったいくつかの柱に囲まれ、赤に黄に青に白と色取り取りのキノコが生えているように見えなくもない独特な形のその校舎は、入学初日であるにも関わらず人の気が少ない寂しげな様子を見せていた。
この日、入学式という一大イベントを終えた生徒には夜に開かれる歓迎会が始まるまでの間、自由時間が設けられている。
とはいえ、明日からは生徒である以上、この学園の中でデュエルに取り扱うカードやその他諸々に関する授業を受ける事は確定事項。
であれば、通うことになる学園の内装を確認しておくに越した事は無いはずなのだが……?
(……みんな疲れちゃったのかなぁ。入学式の校長先生の話で)
無理も無い話ではあった。
正直な所、どれほどの時間が校長先生の話に使われたかは正直考えたくも無い。
最早一種の修行なんじゃないかと思わん限りの長話と猛暑のコラボレーションが、実際は時計の針をそこまで動かしてはいなかったなど。
だが、事実として生徒が殆ど校舎にいない以上、恐らくは自分が住まう事になる寮の方で体を休めていると考えるのが妥当なのだろう。
いつの時代も、俳句染みた教訓話は脱力要素の最強候補なのかもしれない。
(まぁ、単純に見学する必要性を感じないってだけかもだけど)
ともあれ、元々見学目的で校舎に足を運んで来た以上、人気が少ない今の環境はむしろ好ましい。
青谷はのんびりとした足並みで校舎へ入り、まず最初に校舎内の施設の位置を記した案内板の前に立った。
授業を受けるだけであれば、基本的には教室への行き方さえ知っていれば問題は無いかもしれないのだが、怪我をしたり病気に
絶海の孤島で過ごす以上、恐らく車やバイクなどに轢かれたりする事はまず無いだろうと思いたいが、念には念を入れておくに越した事は無い。
また、ただでさえカードに関する知識の乏しい青谷からすると、デュエルの戦略に関わる情報が記された資料が多く収められているであろう資料室の存在も見逃せない。
当然、カードを手に入れるための購買部の場所も。
校舎内の地図をある程度を頭に入れて、まずは教室を目指す事にした。
やはりと言うべきか、廊下を歩いていても人の話し声や足音が聞こえる事は無く、わざわざ見学に来ている自分がやけに浮いた存在に思えてくる。
そんな心境もあってか、歩きながらその意識は別の物へと向けられていた。
(……それにしても)
ふと、腕に装着していた
見学という目的には殆ど必要が無い、あるいは単なる荷物でしか無いもの。
正直なところ、青谷は今の気乗りしない心境のまま自分から見知らぬ誰かに
場合によっては誰かに
その理由は、全く別のところにあった。
(……
デュエルアカデミアへ入学するための試験――その内、実技試験と称した試験官との
試験官の出した圧倒的な攻撃力を誇るモンスターを前に勝ち目が
(……確かに聞いたんだ。よく解らないけど、何か……頭の中に響くような、そんな声を)
単なる幻聴かと、観客席から聞こえる野次の一つかと、そう思っていた。
そう判断するのが普通であって、そう考える事を誰もおかしいとは思わないだろうと。
だが、試験が終わった後になって疑問を覚え、その疑問は今日この日に到るまで解かれていない。
幻聴か何かだと飲み込んでおけば悩まずに済むだろうに、安易な答えで終わりに出来ていない自分がいる。
そもそも、幻聴にしては感情が込められた声だったような気がする。
試験会場の観客席と決闘の場所の高低差などを考えれば、余程の大声でも出さない限り声は聞こえないはず。
であれば、あの精神的に緊迫した状況と心境で、それでも脳裏に響くような『声』を出したのは誰なのか。
試験官や他の受験生だとは考えにくいが、だとすれば何なのか。
ハッ!! と青谷は不自然に驚いたような素振りを見せると、一つの可能性を導き出した。
(まさかだけど、アレかな。窮地に陥って二つ目の人格というかもう一人の僕的なアレに目覚めたとかそういうのなのかないやまさかそんな漫画やアニメみたいな展開が現実にあるわけ無いでしょいやでもそれぐらいしか考えられるものが無いけどだとしたらこれから先の未来で闇の帝王とかそういうラスボス的な奴と闘うために奔走するとかそういう展開になるのやだよそんな危険な境遇なんかに立たされたくないよせめてそういうのはコメディ要素を一つ二つ転がしてからにしようよ何でまだ十六歳の身なのにいきなりクライマックスに突入しないといけないのさ頭湧いてんのかこの世界のカミサマはーっ!!)
勝手にファンタジー色全開の妄想を展開爆発させた挙句、勝手に世の中の筋書きを書いているかもしれない何処かのカミサマに対して憤る馬鹿野朗こと空井青谷。
そもそも多重人格だったから何なのかというか、現実的に考えるとただの精神的な病気の持ち主という不名誉なパラメーターが追加されただけではないだろうか。
カミサマなんて世の中にはたくさん語り継がれている上、そもそも世界を幸せに導くなんて都合の良い願いを聞き届けてくれるようなものだけとは限らないのではないか。
(……まぁ、そんな二重人格で世界の危機に立ち向かう運命背負ってるような人なんて、まずいないと思うけどさ)
自分で考えていて恥ずかしくなって、冷静にクールダウンする青谷。
もしもこんな馬鹿げた独り事が誰かに聞かれでもしたら、もうそれは立派な黒歴史になってしまうだろう。
そうこう考えている内に、誰かに会う事も無いまま教室の扉の前に到着した。
が、この日は授業に使われないためなのか、扉には鍵が掛けられており中に入る事は出来なかった。
(……泥棒に入られたら困るようなものでもあるのかな?)
事情がある以上は仕方無いため、踵を返して次は保健室を目指す事にした。
この分なら特に何事も無いまま見学を終え、そのままレッド寮に戻って適当に休む事が出来る。
少なくとも、今この時はそう思えていた。
◆ ◆ ◆ ◆
それは、保健室に資料室――それ等の行き方と内装を少しだけ確認し、いざ購買部に向かった時の事だった。
この学園において、購買部とは絶海の孤島という限られた環境の中で、新しいカードを手に入れられる唯一の施設。
カード以外にも昼食や飲料水の購入が可能である事もあってか、この施設に関しては多少生徒の姿が確認出来た。
自分と同じ赤色の制服を着た『オシリス・レッド』の生徒や、黄色の制服を着た『ラー・イエロー』の生徒が殆どで、青色の彩色が成された制服を着た『オベリスク・ブルー』の生徒の姿は一人だけ。
そう、一人だけは居たのだ。
学園内で優等生と称された枠組みの証である制服を着た、女の子が。
「…………」
その姿を見た青谷の体は、思わず硬直していた。
別に、エリートサマの威光に恐れ慄いてるだとか、あまりに可愛いものだから一目惚れしそうになっているだとか、そういう理由があったわけではない。
単純な話、予想をしていなかっただけだ。
(……いや、まさかまさか。そんな偶然が頻繁に起きるはずが……?)
思わず
自分の予想が絶対的に正しいなどという確証は無いが、その女の子の――まるで炎のように逆立ったくせ毛の先端だけを赤く染めた黒髪に、あまりにも見覚えがあり過ぎた。
世の中に髪型広しと言えど、そんな特徴的な髪型と色染めをした女の子など、少なくとも青谷からすれば一人を除いて見覚えが無い。
そして、何やらこちら側を振り向いたその女の子も、ふと青谷の居る方へ振り向くと、一瞬驚いたような表情を見せていて。
そのまま自分から青谷の方へと近付いて来て、一言。
「お久しぶりです。青谷さん」
「……う、うん。久しぶり……になるのかな。
彼女の名前は
早い話が、彼女は青谷と友達の関係を持った少女である。
青谷はひとまず、率直に思った事を口にした。
「……まさか君が、同じデュエルアカデミアに入学してるとは思ってなかったよ」
「それを言うのなら、青谷さんだって同じことじゃないですか。プロのデュエリストを目指そうと思うぐらい、デュエルが好きな人とは思ってなかったですよ」
「ははは……まぁ、入学試験はギリギリだったけどね……」
「その『オシリス・レッド』の制服を見ればわかります。余程成績が悪くないとその枠組みには入らないと聞いてるんですが……真面目に勉強してたんですか?」
「……努力はしたよ」
「結果には繋がらなかった、と」
現実に赤い制服を着ている以上、そう言われては何の言い訳も出来ない。
青谷自身が経験した事だが、デュエルアカデミアの試験では筆記と実技の
例え筆記試験で難門を正解していようが、実技試験で試験官に勝利していようが、そもそも試験の成績に対する裁定は両方の成績を総合させる事を前提に設定されているため、片方が秀でていようともう片方の成績が目に見えて低い場合、高い位から入学する事は出来ない。
青谷は確かに実技試験でこそ試験官に勝利はしたのだが、その一方で筆記試験ではあまり成績を稼げなかったのかもしれない。
あるいは、試験官に勝利して得点を稼げたと思っていた実技試験自体が、実際は思っていたよりも良い評価を貰えなかったのか。
いかに考えようと、こうして『オシリス・レッド』の生徒として入学した以上、落ちこぼれの枠組みに入れられたという事実を受け入れて過ごすしか無いため、どうにもならないのだが。
「……正直、わたしも赤い服を着たかったんですけどね。女子は強制的に『オベリスク・ブルー』入りが決まっているみたいで」
「あれ? そういう決まりがあったの?」
「ええ。どういう意図があるのかは知らないですけど、正直慣れませんね。この制服」
言いながら、自らの着ている『オベリスク・ブルー』の制服の
どうにも、高級感のある衣類というものがお気に召していないらしい。
……そもそも、本来制服とはファッション目的に着る代物では無かった気もするが。
(……というか、男子と女子で制服の色合いも違うんだね。男子版は殆ど青一色って感じだったし)
「まぁ、制服と成績の話はさておいて……青谷さん。あなたは何をしに此処に来たんですか?」
「……ん? 僕はとりあえず明日に備えて学校内を見学してただけだよ。購買部も、多分これから何度か行く事になりそうだし」
「なるほど。それなら、此処でのパックの購入方法についてはご存知なんですか?」
「一応は」
当然な事ではあるのだが、孤島の上で生活する以上は都市に居た頃とは異なり、一つにつきカードが五枚封入されているカードパックを金銭で購入する事はまず出来ない。
単純な話として、学生の身分である以上は所持金も高が知れており、そもそも孤島の上には金銭を引き出すための銀行も無いからだ。
それでは、どうすればカードを手に入れる事が出来るのか。
答えは、デュエルアカデミアの生徒ならば誰もが所持している
「確か、
「デュエル終了時に残った
まるでRPGゲームのような仕組みだなぁ、と青谷は思った。
デュエルで好ましい成績を残せばカードが手に入り、そのカードを入れたデッキを試すだけでも新しいカードの入手に繋がる。
単純に、デュエルに対する意欲の向上をメインとしたシステム。
だからでこそ、
(……このシステムの導入を決めた『海馬コーポレーション』は、どれだけの財力を持っているんだ……?)
現実の通貨を利用しないシステムには、維持のためにそれ相応の費用が掛かる。
単なるカードゲームの発展のために、孤島の上の学園の建設までやり遂げる会社の力。
青谷には、その存在が果てしなく遠い場所にあるようにしか思えなかった。
自分自身、カードゲームに対してそこまでの熱を込められる自信が無かったからだ。
「……青谷さん?」
「あ、ごめん。とにかく仕組みは知っているわけだけど、それがどうかしたの?」
「いえ、知っているのならそれで構わないんですが……青谷さんってデッキのコンセプトとか決めてるんですか? 以前会った時はリクルーターだらけのシンプルなデッキだったような覚えがあります」
「生憎ながら、今でもリクルーターに攻撃力増加のカードを使いまくるデッキだよ」
「……その構築だと、手札切れを起こした挙句に強化したモンスターを罠カードで除去されるのがオチだと思うんですけど」
「大丈夫とりあえず試験官さんには勝てたから……!!」
尤も、思えば実技試験の試験官の人が使っていたデッキは、モンスター単体の攻撃力でもって盤面を制圧する事を基軸に添えた構築であり、使用していた魔法・罠カードに関しても『モンスターを破壊する』効果を有したものは使っていなかった気がする。
戦闘で破壊されても即座に新たなモンスターを呼び込める――そんな効果を有するモンスター達の弱点は、カードの効果によって発生する戦闘以外の原因による破壊。
もし、実技試験の際に一枚でも『モンスターを破壊する』効果を持ったカードを使われていれば、戦線を崩壊させられた直後にどうなっていたことか。
勝てたから良かったものの、灰子の言い分は間違っていない。
「まぁ、デッキの構築に困ってたら手伝いますよ。
「……? え、恩って何の話? いやまぁ、手伝ってくれるのは助かるけど」
「解らないのなら解らないままでいいです。ふふふ」
何が何だかわからないが、困った時に手伝ってくれると言われて悪い気分にはならない。
そして青谷は、今更と言えば今更になる疑問を口にした。
「ところで、灰子さんは何をしてるの? カードパックの購入に?」
「いや、まだ購入はまだしませんけど、せめて下調べだけでもと思って……あとは誰かデュエルの相手になってくれる人を探してる最中でした」
「? 相手が見つかってないの?」
「相手をしてくれるような、手の空いている人が居ないんですよ。単に避けられてるだけかもしれないですけどね」
ふと購買部へ来ている他の生徒の方へ視線を向けると、大抵同じ色の制服を着た生徒同士がデュエルをしていたり、世間話に花を咲かせているのが見えた。
避けられている、という言葉の意味はわからないが、確かに手の空いている生徒はいないように見える。
「……なら、僕が相手しようか?」
「青谷さんが? それはまぁ、ありがたいんですけど……」
「大丈夫だよ、勝ちに行くつもりでやるからさ。それとも、僕じゃやっぱり迷惑かな」
「……わかりました。それなら、ありがたく胸を借りさせていただきます」
そう言って、灰子はデュエルや会話をしている他の生徒達から少し離れた位置に向かって歩き始めた。
青谷もそれに着いていく形で歩き始め、一分も経たない内に灰子と相対する位置に立つ。
灰子は腕に装着している青の彩りが加えられた
準備が完了した。
「では始めますか。先行は青谷さんからで構いませんよ」
「……それじゃあ、お言葉に甘えて」
先行と後攻の選択を終え、後はお約束とも言える開始の宣言を残すのみ。
その直前、対戦相手の少女はこんな事を口走った。
「青谷さん、わたしは青谷さんがどういう風に実技試験で試験官の人に勝ったかは知らないですけど……」
「……けど、何かな?」
「率直に言いますね。チマチマとした闘い方で来るのなら、わたしのデッキの
言われて、青谷は思わず顔を引き攣らせてしまう所だった。
互いにデッキの上からカードを手札として五枚引き、そのラインナップを確認する。
そうして、自然な流れで二人は同時に宣言の言葉を口にした。
「「デュエル!!」」
◆ ◆ ◆ ◆
《青谷》LP4000 《灰子》LP4000
「僕の先行……ドロー!!」
先行を譲り受けた青谷がカードを引く。
六枚になった手札を見ながら、青谷は内心で呟く。
(……まずはいつも通りの手で行くしか無いか)
「僕は手札からモンスターをセット。リバースカードを一枚伏せて、ターンを終了するよ」
青谷と灰子の間の空間に、横向きと縦向きのカードがそれぞれ一枚ずつ出現する。
先行最初のターンは相手の動きも解らないため、当然ながら単純な布陣しか張る事が出来ない。
ターンエンドの宣言を聞いた灰子は山札から一枚を引くて手札に加えてから、迷う事も無く一枚のカードを
「わたしは手札から魔法カード《手札抹殺》を発動。互いのプレイヤーは手札を全て墓地に捨て、その後に捨てた枚数と同じだけデッキからカードをドローします……チェーンは、ありますか?」
「無いよ」
問いに答え、青谷は残っていた四枚の手札を
同じくして、灰子の方も《手札抹殺》を発動した事で六枚から五枚に減った手札の全てを
お互いに捨てた枚数――青谷は四枚で灰子は五枚――だけ山札からカードを引き、その手札を確認する。
(……悪く無い手札になった、けど……)
この手の手札を入れ替える効果を有するカードは、主に手札の内容がその時その時の状況に合っていない時の仕切り直しとして使われる事が多い。
相手のカードの効果で初手の手札に比べて良い手札にしてもらえたのならば、得をしたと言っても間違ってはいないかもしれない。
だが、この場合は違う。
今は青谷ではなく灰子のターンであり、手札交換の効果は当然ながらお互いに適用されるもの。
そして何より、この手札交換は元あった手札を全て墓地に送るという前提が存在する。
「墓地に存在する炎属性モンスターの《
《
案の定だった。
墓地にモンスターが存在するという状況は、大抵の状況で優位に繋がる事が多い。
そして、立体映像として出現した――頭部の両端に曲がった角を生やした筋骨粒々で赤い体色の怪物――は特殊召還という形で場に出ている。
まだ、灰子は1ターンに一度の通常召喚の権利を行使していない。
「手札から《UFOタートル》を攻撃表示で召喚」
《UFOタートル》星4 炎属性 機械族 攻1400 守1200
青谷の場のモンスターが一体であるのに対し、灰子の場のモンスターはこれで二体。
メインフェイズ1からバトルフェイズへと移行され、先制攻撃が始まる。
「《炎の精霊 イフリート》は、自分のバトルフェイズ中に限り攻撃力を300ポイントアップさせる効果を有しています。まずは攻撃力が2000になった《炎の精霊 イフリート》でセットモンスターに攻撃!!」
青谷の場に伏せられた横向きのカードに向かって、精霊と言うにはやけに筋肉質な赤い男が手の上に出現させた炎弾を放つ。
攻撃に反応し、伏せられていた青谷のモンスターカードが表側に表示を変え、同時に立体映像が現出する。
伏せられていたモンスターの正体は、赤い複眼に緑色の甲殻を有した巨大なトンボ(?)こと《ドラゴンフライ》だった。
《ドラゴンフライ》星4 風属性 昆虫族 攻1400 守900
《炎の精霊イフリート》攻1700→2000 VS 守900《ドラゴンフライ》
守備力900の《ドラゴンフライ》では攻撃力2000のモンスターの攻撃に耐えられるはずも無く、炎弾の直撃を受けたと同時に爆発四散――破壊される。
爆炎による音までもが立体映像でリアルに表現され、思わず自分の腕で身を守るような体勢を取ってしまいそうになるが、すぐ元に戻って破壊された《ドラゴンフライ》の効果を使用する。
「《ドラゴンフライ》の効果を発動。戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の風属性モンスターを表側攻撃表示で特殊召還する。僕が選ぶのは二体目の《ドラゴンフライ》!!」
爆発四散した地点に、また新たな《ドラゴンフライ》が出現する。
灰子の場でまだ攻撃が可能な《UFOタートル》と《ドラゴンフライ》の攻撃力は同じだが、灰子は特に躊躇うことも無く言葉を紡いだ。
「続けて《UFOタートル》で《ドラゴンフライ》を攻撃。攻撃力が互いに同じなので両方とも破壊されますが、お互いにリクルーター特有の効果を発動出来ます。わたしはデッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターである《超熱血球児》を表側攻撃表示で特殊召還しますが、青谷さんの方はどうします?」
「……三枚目の《ドラゴンフライ》を特殊召喚するよ」
《UFOタートル》攻1400 VS 攻1400《ドラゴンフライ》
UFOの形をした甲羅を背負った亀と、赤い複眼に緑色の甲殻を有した巨大な昆虫が衝突し、互いに玉砕する。
互いに似ていて、それでいて異なる効果が同時に発動し、互いの場にモンスターの姿が再び浮かび上がる。
青谷の場にはデッキの中に潜んでいた最後の《ドラゴンフライ》が、灰子の場にはヘルメットからユニフォームまでが全て赤色に統一された少年の野球選手と、白色のユニフォームに青色の防具を装備させた
炎の精霊やら巨大昆虫やらが蔓延る戦場に躍り出る野球選手――と、文章だけで見ると新手のジョークなのかと思わんばかりに無茶が有り過ぎる絵になるのだが、
「《超熱血球児》は、場にこのカード以外の他の炎属性モンスターが存在する場合、一体につき攻撃力を1000ポイント上昇させる効果を有しています。今は場に《炎の精霊 イフリート》が一体存在するため、攻撃力は素の500から1500に上昇」
《
やはり油断は出来ない。
一見弱そうに見える外見でも、そのモンスター効果は紛れもなく脅威。
何故なら、
(……《超熱血球児》の攻撃力アップの効果の対象は、灰子さんの場のモンスターに限定されていない。僕が別の炎属性モンスターを召喚したら、攻撃力は更に1000上がる事になる……!!)
そうなれば、とてもモンスター単体で処理出来るレベルでは無くなってしまう。
そして、新たに出現した《超熱血球児》にはまだ攻撃の権利がある。
「《超熱血球児》で《ドラゴンフライ》を攻撃。炎のパワフルプロ野球!!」
何処からともなく飛来してきた硬式のボールを赤い野球戦士がバットで打ち返す。
その打球は《ドラゴンフライ》の体の中央を捉え、そのまま貫通すると遠い場所に向かって飛んでいってしまった。
無論、打球にブチ抜かれた《ドラゴンフライ》はバラバラに破砕され、攻撃力が超えた分だけ青谷の
《超熱血球児》攻1500 VS 攻1400《ドラゴンフライ》
《青谷》LP4000→3900
「撃破された《ドラゴンフライ》の効果で、僕はデッキから《
三匹目の《ドラゴンフライ》が砕けた所に出現したのは、それぞれ剣や槍を携え古風な鎧を身に纏った二体の竜人。
《
その姿を見た灰子が、呆れたように言葉を漏らした。
「……またリクルーターですか」
「生憎、まだデッキが発展途上なままだからね」
適当に返しながら、青谷はひとまずの安心を得ていた。
自分の場にモンスターが存在しない――そんな状況にならなかった事に対して。
(……いやほんと、ワンパターンなのは分かるけど安定するんだよね……)
「わたしはこれでバトルフェイズを終え、メインフェイズ2へ移行。カードを一枚伏せてターンを終了します」
灰子のターンが終了し、青谷のターンへと移る。
山札から一枚のカードを引くと、その引いたカードを見た青谷は僅かに笑みを浮かべる。
迷わず、引いたカードを
ブラウン色の頭髪を生やしたピンク色のドラゴンが、四つの足で大地を踏み締めるような形で出現する。
「僕は手札から《エレメント・ドラゴン》を召喚!! このモンスターには、場に火属性のモンスターが存在する場合、自身の攻撃力を500ポイントアップする効果がある!!」
《エレメント・ドラゴン》星4 光属性 ドラゴン族 攻1500→2000 守1200
攻撃力にして2000のラインに乗るそのドラゴンを見た灰子が、納得したような様子で感想を口にする。
「……なるほど、こういう戦法ですか」
「リクルーターだけなら当然火力不足に悩むわけだからね。流石にこの程度は考えてるよ」
言ってから、青谷は続けて手を打っていく。
「手札から魔法カード《スタンピング・クラッシュ》を発動!! 自分フィールド上にドラゴン族モンスターが居る時のみ発動出来て、フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊した後そのコントローラーに500ポイントのダメージを与える!!」
一枚の緑色のカードの立体映像が、灰子の場に縦向きで伏せられたカードの上方に出現した次の瞬間、屈強なドラゴンの前足が伏せられていたカードの虚像を粉々に踏み砕く。
《灰子》LP4000→3500
そして灰子は本当に残念そうな声を漏らした。
「……むぅ、せっかくの《バックファイア》が無駄になっちゃいましたか」
(サラっと恐ろしい物伏せてる!? アレは確か【自分フィールド上の炎属性モンスターが破壊されて墓地行きになった時、相手に500ポイントのダメージを与える】っていう効果の永続罠カードじゃないか!!)
仮に自分のモンスターが破壊されるような事になったとしても、保険を掛けていたらしい。
このまま《エレメント・ドラゴン》で攻撃をしていたら、代償として
明確な罠が無くなった事を認識して、バトルフェイズへと移行する。
「バトル。《エレメント・ドラゴン》で《炎の精霊 イフリート》を攻撃!!」
《エレメント・ドラゴン》攻1500→2000 VS 攻1700《炎の精霊 イフリート》
青谷の《エレメント・ドラゴン》が口から爆炎を放ち、標的の《炎の精霊 イフリート》の体を焼き尽くす。
炎の精霊が竜の炎に焼かれる光景は、立体映像とゲームシステム上の処理だと解っていても異質なものだった。
「場に風属性のモンスターが居る時、《エレメント・ドラゴン》は戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう一度続けて攻撃を行うことが出来る。他の炎属性モンスターがいなくなった事で攻撃力が基礎値に戻った《超熱血球児》を攻撃!!」
《エレメント・ドラゴン》攻1500→2000 VS 攻500《超熱血球児》
《灰子》
青谷の《エレメント・ドラゴン》が、爆炎に続いて翼を大きく羽ばたかせる事で風の刃を放つ。
それさえもバットで打ち返そうとした《超熱血球児》だったが、拮抗する事も無く風の刃に体を両断され、他のモンスターと同様にガラスの砕けるような音を響かせながら破壊される。
この戦闘によって、灰子の
が、特に焦る様子も無く、灰子はむしろ関心するように声を漏らしていた。
「思ったよりも考えていたようで安心しました。なるほど、確かに場にモンスターを残し続ける事が出来るリクルーターとそのモンスターの相性は良い。頼り無い布陣もこうして巻き返せる、と」
(……解っていたけど、やっぱり灰子さんにはまだ余裕がある。攻めるためじゃなくて、明らかに僕の動きを見るためだけの布陣だったんだ……)
リクルーターを使ってデッキからモンスターを特殊召喚する事で手札の消耗を抑えている青谷と違い、灰子は初手に《手札抹殺》を消費し、続けて二枚のモンスターを召喚した上に伏せカードも一枚セットする――と、初手から合計四枚の手札を消費している。
次のターンが来れば手札が三枚にはなるが、この青谷のターンで灰子の場にはカードが存在しない状況になった。
手数や損得の点で、青谷は現状大きく優位を得る事が出来ている。
だが、
(……油断出来ない。まだ
「続けて《軍隊竜》でダイレクトアタック!!」
二体で一組の鎧を纏ったの竜人が灰子の元へ迫り、それぞれ剣と槍を突き立てる。
見た目だけならばそれなりにダメージがあるはずなのだが、数字の上では《ドラゴンフライ》にも敵わない辺り、モンスターのデザインに対する攻撃力の設定は不思議なものだった。
《
《灰子》
だが、残る灰子の
「メインフェイズ2に移行はせず、僕はこのままターンを終了するよ」
モンスター二体に伏せカード二枚。
火属性のモンスターが場から消失した事によって《エレメント・ドラゴン》の攻撃力は初期値に戻るが、灰子が再び炎属性のモンスターを召喚してしまえば流れは変わらない。
(……僕の場にある伏せカードは《援護射撃》……僕の場のどちらのモンスターを狙おうと、攻撃力が2000を超えていなければ返り討ちに出来るはずだけど……)
「わたしのターン。ドロー」
灰子のターンが始まり、山札から一枚カードが引かれる。
その引いたカードを見た灰子が、何かを言いたげに青谷の方へ視線を移す。
特に何も言ってはいないはずなのに、嫌な予感がした。
直後に、手札三枚の内の一枚が早速起動する。
「では、わたしのデッキの『切り札』を紹介します。わたしは手札から……《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を、
「……え?」
不可解な言葉の後に、変化があった。
突如として出現した二本の――溶岩の手が、青谷の場に居た《エレメント・ドラゴン》と《軍隊竜》を鷲掴みにし、その熱と力でもって握り潰したのだ。
そして、その手の根源が現れる。
それは、全身を膨大な溶岩でもって構築している巨躯。
顎の部分には何かの刑か拷問にでも使われたのであろう鎖に繋がれた檻がぶら下がっており、青谷の場に出現していながらも明らかに『味方』という印象を持てないモンスターだった。
《
「その子は相手のモンスター二体を生け贄に捧げる事で、相手のフィールドに召喚される変わり者なモンスターでして。攻撃力にして3000と、伝説の《
(……いや、相手に何の阻止手段も取らせずにモンスター二体を除去出来るって、これ普通にヤバいカードなんじゃ……!?)
何ともわざとらしい説明の内容に、その溶岩魔神の存在感に、青谷は思わず恐怖を感じてしまっていた。
モンスターの除去手段には、戦闘による破壊か魔法・罠カードの効果による破壊が基本的に用いられるものだが、よりにもよって生け贄にして『消費』するという除去手段など、異質にも程がある。
そのカードの存在を知らなかった――というのも驚きの一因ではあるが、今この状況において重要なのは効果の異質さでは無い。
この時点で、青谷の場の伏せカードが意味を為さなくなり、モンスターの数も一体のみにされた事だ。
「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を特殊召喚したターン、わたしは通常召喚の権利を失うのですが……手札から《死者蘇生》を発動。言うまでも無いかもしれませんが、このカードは自分か相手の墓地からモンスターをノーコストで特殊召喚するという効果のカード。この効果でわたしは自分の墓地から《超熱血球児》を特殊召喚します」
二枚目に使われたは死者蘇生。
その効果の圧倒的な万能さからか、公式の制限としてデッキに一枚までしか入れる事が出来なくなった蘇生のカード。
床から光輝くエフェクトが立ち上ったと思えば、次の瞬間にはつい先ほど《エレメント・ドラゴン》の風の刃に体を裂かれた野球戦士こと《超熱血球児》が復活――特殊召喚されていた。
《
それだけなら、まだ良かった。
最後に、三枚目の手札が機能する。
「相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在している状況で、攻撃力が500の《超熱血球児》が一体のみ特殊召喚された事をトリガーに、手札から速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!! 特殊召喚したモンスターと同名のモンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚します」
一体の野球戦士の生還を皮切りに、二体の赤き野球戦士がフィールドに並び立つ。
このモンスターには『他の炎属性モンスター一体につき攻撃力を1000ポイント上昇させる』効果があり、その『他』の対象には同名のモンスターであろうと該当される。
即ち、先に場に召喚された溶岩魔神に加えて二体が効果の条件に該当され、三体の野球戦士の攻撃力は……。
《
《
《
「………うわぁ」
いっそ呆けるような声が出た。
次に起こる出来事を想起して、青谷は既に闘争心を折られていた。
灰子の言葉だけが続く。
「また、一方で相手は自分フィールド上の表側表示モンスター一体を選び、そのモンスターと同名のモンスターを手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚出来ます……が、青谷さんのデッキにはその様子だと居ませんよね? 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》が」
「……あぁ、うん。居ないよ」
事前確認というよりは、事後確認とでも言うべき言葉の後に。
初手の二倍以上の数と威力を伴った剛球が、唸った。
「それではバトルフェイズ。《超熱血球児》で《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》に攻撃っ!!」
《
《青谷》
唯一壁となっていた溶岩魔神が硬式ボールに貫かれ、破壊される様を見ながら。
青谷は、ふと遠い目でこんな事を呟いていた。
「……『
溶岩魔神が破壊されて炎属性モンスターの数が減ろうと、決着が着く事に変わりはなく。
最後に、灰子の攻撃宣言があった。
「二体の《超熱血球児》でダイレクトアタック!!」
《
《青谷》
《
《青谷》
まずはそれだけで済めることではないと思いながらも謝罪を。
四年間も更新を途絶えて思いっきりエターなってて申し訳ありませんでした!! 率直に言って、他の小説の更新を優先している内に遊戯王に関するモチベが下がっていったりして、書ける時間なら腐るほどあったのに書こうとすらしてなかったので、こんな小説でも待っていた方が居たならば本当に申し訳がないです……。
しばらく遊戯王から離れている内に、色々と変化があったようですが、ゼアル以降の作品をロクに見れていない自分としては何がなんだかというか、どうやらエクストラデッキ関連が色々あったらしいですが、リアルのデッキが水属性バニラ(ガガギゴ系)デッキでエクストラは殆ど使ってない自分としてはどのぐらいの変化なのか実感が無いという……これが時代に取り残されてる感覚ってやつですか……。
さて本編ですが、今回は見学イベント&主人公の勝手な予想&ヒロイン登場&デュエルという、更新を再起するにあたって盛りだくさんの話になりました。ルビとかにも気配りした結果として文字数がえらいことに……モンスターの動作の描写とか需要があるのだろうか……。
で、今回登場のメインヒロイン(予定)の灯守灰子ちゃん。使用デッキは見ての通りヴォルカニック系のカードを用いない【炎属性ビートバーン】で、ぶっちゃけLPが4000のアニメ世界だと結構えげつない構成なんじゃないかと思いながら今回の話は書いてました。まぁ、今回のは明らかに手札の揃いっぷりが良すぎた一例でもあるのですが……これでも加減したんですよ!! 『遊戯王GX』の時間軸の時点でリアルでも【炎属性】のバーンカードって定番なヤツがいますし!! 二体以上出した時点でロックが構築できる奴もいますし!!
そして四年ぶりの更新だってのにまたも敗北した主人公くん。今回はデッキの相性自体が悪すぎたので仕方無いかも。
他の知り合いの方の遊戯王小説とかを見ていたらモチベーションが再起してきたので、不定期更新の可能性が高いですがこれからも頑張っていこうと思います。
それでは、また次回。
PS ラヴァ・ゴーレムって今でも使われてるんでしょうか?