至らぬ所多々ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
私が「オーバーロード」という漫画に夢中になったのは前世の事。そう、前世の事である。
現在の私は、二十歳で亡くなった前の人生を取り返す様にがむしゃらに生きてきた。
私の転生した西暦2138年は、環境破壊によって地表が完全に汚染されたディストピアである。空は黒色のスモッグで覆われ、有毒物質を含んだ濃霧が発生するため外出には防毒マスクが必要。
日照時間が極僅かなことで植物が枯れ鳥・昆虫も絶滅に瀕している。河川の汚染も酷く蛇口の水も浄化フィルターでろ過をしなければ飲めない。このため従来の農業は破壊され食品の価格は高騰、生野菜・果物は庶民には手が届かない高級品と化していた。
その上、努力をしても埋まらない上流階級との差と、栄養補給のみ目的の味気ない食事に飽き飽きしていた。
つまらない人生だ。せっかく前世の記憶があるというのに…。
そんな今世の25歳の春、私はあるゲームに惹かれログインした。
【ユグドラシル】
ユグドラシル…ユグドラシル?!
いやいや、まさかね?
生唾を飲み込む音が妙に響き、VRを無言で撫でる。そのような都合の良いことがあるわけが無いと思いつつ、裏腹に鼓動は速くなっていく。
ゲームの中、私が「たっち・みー」と出会い、夢にまで見たギルドに加入する事になるのは言うまでもないだろう。
ユグドラシルとは、真姫の転生した西暦2126年に日本のメーカーが発売したDMMORPG。
種族は数百種を揃え、職業は二千を超えつつも自由に取得可能、個人の技量を持って自由にカスタマイズできる外装、北欧神話を下敷きにした九つの広大なマップなど、同種のゲームと比較しても圧倒的な自由度の高さを持ち、国内最高峰といえる爆発的な人気を博した。
しかし全盛期を誇ったユグドラシルも、ついに衰退し最終日を迎えた。
真姫の加入したギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバー41人で作り上げたナザリック地下大墳墓も今日で全てが無くなる。
因みに最盛期にはユグドラシルの数あるギルドの中でも第9位に連ねたギルドであり、41名から成るメンバーは全員が社会人、かつ異形種であることを条件として加入していたのだが。
エロゲについてペロロンチーノと完徹した夜、ウルベルトと世間の愚痴をただ言い合った夜、たっち・みーと二人限定イベントで優勝した夜…
次々とメンバーがギルドを離れる中、それでもモモンガと笑い合った夜、全部覚えている。
「何で来ないんだよ…?」
至高の41人のみの許された円卓の間で、アインズ・ウール・ゴウン…サブマスターの【グレート=ウルトラ=マウンテン】は小さく呟いた。
異業種で構成されたメンバーの中でも人の容貌に近い魔人という種族のグレートは、腰まである銀髪を揺らし椅子から立ち上がる。
肌は褐色より尚濃く黒色で、瞳は白金に輝く。メンバーの中でも小柄な160㎝の身長は、肩を並べるのは難しかった。
現在彼女の頭にはある一点しか浮かばない。
…何で、モモンガが来ないんだ?
グレートはオーバーロードという作品を知っていた。まさか、生まれ変わった世界が、オーバーロードの主人公の世界とは知らずに生きてきたのだが。
それに気づいたのは、このユグドラシルを舞台としたゲームでたっち・みーと出会ってからだ。原作通り、見知った面々とナザリックを作り上げ、たっち・みーが居なくなった後は、サブマスターとしてモモンガを補佐した。
因みに、モモンガからはギルドマスターを頼まれたが、原作ファンとして譲れなかったのだ。
グレート自身、あくまでNPC作成はしなかったがギルドの為にイベントに参加し、アイテム集めに尽力してきた。
そして、今日の最終日…前日までログインしていたモモンガが来ない。
原作では、モモンガ一人でナザリック地下大墳墓と転移した筈なのに。
サービス終了10分前、メールの着信音に気付き直ぐに開く。
『グレートさん乙です。申し訳ありませんが、パソコンの調子がおかしくログイン出来ない状態です。復旧次第必ず行きます。
モモンガ』
おーい!?待ってあと10分なんだけど?間に合うの?
いや、間に合う筈だよね。
祈る様な気持ちで円卓の間を出ると、ゆっくりと玉座の間へと向かうのだった。
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