何か変わると思っていたんだ、何かが
魔術師になれば俺の世界は変わると思っていた。
――――この体の奥底から来る退屈感が
――この何物にも震えなくなってしまう心を
振り子の様に新しいことを始めても、どんなに素晴らしいモノを見てもすぐに俺の心は震えなくなり止まってしまう。
それはそれは退屈な人生だった。どんなに楽しいことをしても飽きる。どんなに美味しい物を食べても美味しく感じなくなる。
結局それは俺が人間としておかしかったからなのだろう。
仕方がないことだったのかもしれない。
それでも、それでも俺は何かが変わることを信じて強さを求めた。
そして――――。
俺は神に闘いを挑んだ
「はぁはぁ、まだ倒れないのかよ」
俺は倒れそうな体に叱咤しなんとか立ち上がり、刃こぼれをして今にも折れそうな刀を構える。
対して神の方、ベルゼブブは未だに余裕を見せていた。
周りに眷属のハエ達を侍らし、堂々と空中に制止して俺の攻撃を待っている。
はっきりいって神というものを過小評価しすぎていた。
魔術師としてかなり上位に属していた俺は十分な装備と力があれば勝てると思っていたがそれはどうやら勘違いだったようだ。
現状持ってきた装備は使い尽くし、呪力も尽きかけている。
打つ手なし、後は座して死を待つだけという状態だ。
しかし、これほど燃えたことはあっただろうか
闘いが楽しくて楽しくて楽しくて堪らない。
これほど楽しかったことはあるだろうか
これほど嬉しかったことはあるだろうか
これはほど心が動かされたことはあるだろうか
俺はこの闘いが楽しく楽しくて堪らない
しかし、そろそろ俺の体力も限界に近付いている。
けりを付けなければならないだろう
この楽しい時間に幕を引かなければならないだろう。
だから――――
「殺意式 壱の型 水月!」
俺の幻影の刃がベルゼブブの配下を切り裂いていき、さらにベルゼブブに刃が襲いかかるがベルゼブブは避けることもしない。
今まで繰り返されてきたようにベルゼブブに刃が当たるが傷一つ付けることも適わない。
圧倒的に力が足りていない。
いや、そもそも人と神とでは次元が違いすぎて俺の術が効かないのだ。
だが俺は飽きることもなくベルゼブブに攻撃を繰り出す。
「殺意式 参の型 死月!」
幻影の刃を刀そのものに纏わせ切る!
俺が持つ術の中でも最強の火力を誇る攻撃だ
しかし、その攻撃もまた神の前では無力
その攻撃も簡単に弾かれてしまう。
「はぁはぁ、くそ! もう限界だ」
俺の呪力はついに尽きてしまい。
もう満身創痍、これ以上の戦闘の持続は不可能だろう。
俺が限界の淵に立ち、なんとか立っていると
「ふむ、もう限界か小僧よ、我が手加減してやったというのにまったく我を楽しませずに終わるとは期待はずれにも程があるぞ」
余裕綽々といった体(てい)でベルゼブブが話しかけてくる。
「いやぁ、それはアンタが強すぎるだけだ、第一アンタの僕(しもべ)に対してはけっこう戦えてたと思うんだけど」
「まあ、このハエ達にはその術は効いていたようだが我にはまったく効果もなく傷一つ付けることも適わないことでは意味などあるまい、雑魚専用の術と言ってもいいな」
「ははは、これはベルゼブブ様のお言葉はきついな、それじゃ最後の足掻きというやつもしますか、少し話していて回復したことだし」
俺は片手で刀を構え懐から切り札を取り出す。
「ふむ、その懐に持っていた何かだな、ほんとうに微かに神力を感じる。いいだろうそれを使ってみろ」
俺は厳重に張られた符を剥がしていき、それは露わになる。
深い緑色の勾玉
それは本来長い緒に繋いだ複数の勾玉の内一つ
日本神話にも登場する有名な神器の一つ
三種の神器、八咫鏡(やたのかがみ)、天叢雲(あまのむらくも)に次ぐ一つ
八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)
「そのうちの一つだけどな、戦況を覆す分にはこれ一つで十分だ」
俺は八尺瓊勾玉を握りしめそれを発動させる。
次の瞬間、光が溢れた。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色の光が八尺瓊勾玉から溢れる
そして膨大な呪力が八尺瓊勾玉から俺へと流れる。
「ほう、その神器、神力や呪力を貯めておくもの、言わば呪力のタンクか」
「そうだね、1回限りの手品みたいなもんだけどこれだけの呪力があればアンタでも傷付けることが可能だ」
俺は自分の中で荒れ狂う呪力の手綱をどうにか取る。
これはとんだじゃじゃ馬だよ
全力で制御しなければ大量の呪力に耐えられず体がバラバラになってもおかしくはない
「くくく、そうであろうな、まあ、お前が人間の身でその呪力を使いこなせることができればという条件が付けばであるがな、それにそれほどの呪力、体が長くは持たんぞ」
「ははは、さすがベルゼブブ様、お見通しか、それじゃ俺の一世一代の晴れ舞台見てもらいましょうね」
俺は呪力をむりやりに抑え込み術を発動する。
さあ、これで終わりだよ、ベルゼブブ
「殺意式 壱の型 水月!」
俺から呪力を伴って放たれた形ある殺意
それがベルゼブブの肩切り裂いた。
「なにっ?」
自らを害したことに驚くベルゼブブ
しかし思考する暇など与えない!
俺はすぐに術を再び発動する。
「殺意式 壱の型 水月!」
ベルゼブブの肩を右腕を左手を左足を右足を右手を腹を
俺から放たれた幻影の刃が切り裂いて行く
ベルゼブブは神力を高め対抗しようとしているがそんなものは無駄だ
この術はそもそも防御することができない
さあ、早く悟るんだ
この術の正体を
そして、お前の死を!
俺の幻影の刃がベルゼブブの右腕を切り飛ばした。
そして、ついに奴は気づいたこの術の正体を
さてフィナーレだ
「まさかこの術は我の……」
「殺意式 参の型 死月!」
俺の刀に幻影の刃を宿らせそれを投げる。
対するベルゼブブは今の俺の数倍の神力を持って防御に徹していた。
攻撃に対する数倍の神力で防御すれば防げるとでも思っているのか残念ながらそれは不可能だ、それは今あんたも悟った筈だ。
俺の全力の殺意と呪力を伴った刀はいともたやすくベルゼブブの心臓を貫きその命を奪った。
「ふはははは、見事、見事だぞ少年まさか我を殺すことができるとは実に見事だ」
「ははは、ありがとな、あんたが防御に回らないで攻撃していれば俺の命はなかっただろう」
実際ほんとうにぎりぎりだった。
ほんとベルゼブブに勝てたのは運が良かっただけであろう
「よいよい、お主の切り札というやつを受けてみたくてな、まさか本当にやられてしまうとは思わなかったよ、敗北というのもまた一興だ」
ぐ、体が……体が熱くて堪らないこれは
急に俺の体が熱を持ち、全身が言うことを聞かない。
俺はもう限界だったのだろう、地面に倒れ伏した。
「ふふふ、おめでとうぅぅぅぅ! あなたが新しい息子ね」
「パンドラ! 貴様が現れたか、まさかこれは……そういうことか我らを生贄とした権能の簒奪の秘儀!」
なぜかベルゼブブの他に女性の声がする、いや少女の声と言った方がいいか
甘くて可憐な声が
すでに体は俺の言うことを効かない
立ちあがることも出来ずにこの会話だけ聞く
「さあ皆さま、祝福と憎悪をこの子に与えて頂戴! 七人目の神殺し――最も若き魔王となる運命を得た子に、聖なる言霊を捧げて頂戴!」
「よかろう、我を倒した少年を名を名乗るがいい」
俺にベルゼブブが名を聞くが立ちあがることが出来ずに地面にうつ伏したままで答える。
「犂宮大斗(すきみやだいと)だ」
「犂宮大斗よ、お主を神殺しの王として祝福を与えよう! ふたたび我と戦う日まで、何物にも負けぬなよ!」
こうして俺は七人目の神殺しとして誕生した。
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