1話
蝉の鳴き声が聞こえる。
この鳴き声からしてニーニーゼミだろう
突発的な豪雨がよくある梅雨が終わりもう夏の始まり
そのせいか気温も日差しもここを出てきた時よりも強くなっている。
俺は汗を流しつつまだまだ続く石段を登って行く。
神殺しを終えた俺は現在実家に帰省している途中だ
俺が神と戦うために実家を出たのは確か三月中旬だったから三カ月半で神に出会えたことは幸運だっただろう。
神なんてものは普通の人間なら一生に一度会うかどうかっていう災害だからな
まあ、こっち側の人間、魔術師なら伝手さえあればどこに神が出たとかいう情報は回ってくるものなのかもしれないが、残念がら俺は在野の術者だ、この日本の元締めたる正史編纂委員会とは繋がりはこれぽっちもない、なので適当にまつろわぬ神が出そうな所を巡ることでどうにか神と出会おうとするしかなかった。
まあ、ともかく神に出会えてカンピオーネにもなれたから万々歳なのだが
資金が尽きた
神に出会えそうなところ片っ端から巡っていたので旅行費が嵩(かさ)み資金難になったのだ、なので一旦実家に帰って適当な依頼でも受けてお金を稼ぐ必要があった
それにばあちゃんにカンピオーネになれたって報告をしておかないといけないからな
こうして俺は実家に戻る途中なのだがようやく続いていた石段に終わりが見えてきた。
さてばあちゃんは元気してるかな。
俺は石段を登り終え、ようやく実家に帰りつく。
広大な庭にその庭にを囲むように張られた結界、そしてその中心にある大きな屋敷。
これが俺の実家だ
そこまで有名な魔術師の家系ではないのだがばあちゃんが有名な術者だったようで稼ぎまくってノリでこの広大な屋敷を建てこれの他にも術の訓練用に山一つを買い取っていたりとかしている。
ばあちゃん見た目は普通のおばあちゃんなんだけどな
やっとのことで屋敷の玄関までたどり着く、相変わらず無駄に長い石段だったわ
車があれば楽なんだけど、歩きだと道路を歩いて行くより石段を上がった方が早く着けるからな
「ただいま~ 帰ってきたよ、ばあちゃん」
玄関口で俺が大声で叫ぶと奥から足音が響いてくる。
そして奥から割烹着にエプロンをした女性が出てくる
「あらあらお帰りなさいませ、大斗様」
「ただいま、翠さん」
この人はこの屋敷で掃除やご飯などを担当しているお手伝いさんの那波翠(ななみみどり)さん、一人でこの広大な屋敷を管理している凄腕のお手伝いさんだ。
この屋敷には現在四人しか住んでいない
俺にばあちゃんに翠さんそして――
「やっと帰ってきたか、このどら息子!」
人が帰ってきて早々ドロップキックを噛ましてくる翠さんの娘の那波桜(ななみさくら)
これがこの屋敷に住む住人だ
無論ドロップキックは強化魔術を使い受け止め、脚を掴んだままにする。
「こ、こら脚を離せ! パ、パンツ見るんじゃない!」
俺は言われた通り掴んだ桜の脚を離すと、風の勢いですぐにスカートを降ろし俺の方を必死に睨んでくる。
桜も相変わらずの様だ
これがあると帰ってきたって実感があるからな
「あらあら、帰ってきて早々二人とも仲がいいわね」
「誰がこいつと! こんな急に出てくるって言って三カ月半も帰って来なかった恥知らずを!」
それを言われると返す言葉もないな
一応ばあちゃんには神と闘ってくると言っておいたが二人には何も言わずに出てきたからな、それに神殺しになれたからと言ってもこの二人にそのことを話すつもりは毛頭ないんだよな。
翠さんは大丈夫だろうけども桜とかは喋りそうで怖いからな
それと俺がカンピオーネであることを公表する気は全くない
公表すれば正史編纂委員会がお目付役を送ってきたりとか、神獣退治やら神との闘いを強要してくるに決まっている。神獣退治や神との闘いは百歩譲ってやってもいいが魔術師たちの勢力争いに使われる気はない。
「すまないな、桜、ちょいと野暮用で帰れなかったんだ、一応ばあちゃんには言ってたと思うけど」
「その野暮用って何よ、飛鳥(あすか)様に聞いてもちょっとした用事で出ている、いつ帰るかは分からないって言われてたのよ、何でちょっとした用事でいつ帰るか分からないのよ!」
どうやら桜は自分たちに何も言わず出て行ったことに憤慨しているらしい。
かと言ってどうして出ていたのかを話すわけにもいかないしな。
俺が逡巡(しゅんじゅん)していると翠さんが助け船を出してくれた。
「ほら桜、せっかく大斗様が帰って来たのだから飛鳥さまに会って出かけていたことの報告とかあるでしょうから、その話は後にしましょうね」
「う、でも!」
「でも、もないでしょ、飛鳥様も大斗様に会いたがっていると思うわ」
「う、う~ 後で覚えていなさいよ!」
桜は捨て台詞を言い残し、バタバタと足音を立てながら奥に引っ込んだ。
後でどんな風に誤魔化そうか……
とりあえず桜のことは置いてといて先にばあちゃんに会ってこよう。
「翠さん、ばあちゃんは今起きてるよね?」
「はい、起きていらっしゃいますよ、大斗様が帰って来られるのを心待ちにしてました。勿論私もそうですけど、桜も心配してましたので後でフォローをお願いしますね」
「ああ、心配かけてすまなかった、ちょっと軽々しく話して良いような内容ではないのでな、桜にも話してやれそうにないがフォローはちゃんとしておくよ」
俺はそう言うとこの屋敷の一番奥にあるばあちゃんの部屋に歩いて行く。
およそ五分ほどかかるのだがどれだけこの屋敷がでかいかが良く分かる。
というかこの無駄な広さは必要ないと思うのだがな。
使ってない部屋がほとんどだしな
そう考えている内に屋敷の奥のばあちゃんの部屋に辿り着いた。
そして、入る前に一声かけて部屋に入る。
「ばあちゃん、帰って来たよ」
部屋に入ると何か書き物をしていたのかばあちゃんは机に向かっていた。
すぐにこちらを向いて笑顔で出迎えてくれる。
「よう無事に帰ったのう、その様子ならちゃんと目的は果たせたみたいじゃのう」
「ああ、ちゃんと言った通り神殺しになったよ」
「そうかそうか、よく神殺しを果たせたのう」
「いや、ばあちゃんがこの八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を貸してくれなかったら死んでいたよ、それほど神という存在は甘くなかった、でも闘っている間はほんとうに楽しかったよ、あれほど満足できたのはエロゲの神作に出会ったこと以来だよ」
「それは良かったのう、それで神殺しの件は公表するのかい?」
「いや、公表はするつもりはない、だって公表したら魔術師連中が甘い汁を吸おうとうじゃうじゃ集まりそうだからな、それに厄介事を引き受けなくちゃいけなくなりそうだからな」
「ほほ、そうかならその方向で翠や桜にも黙っておくのかい?」
「ああ、面倒かけるといけないから二人にも黙っておいて欲しい」
「じゃがいつかは神殺しであることはばれるぞ、その時のことも考えておくといいじゃろう、一応この屋敷の結界はそんじょそこらの術者では破れんじゃろうが、それでも神殺しの親類を狙ったテロなんかも起こるかもしれんからのう」
「そうだな、それが一番怖いな、俺はともかくばあちゃんは強いから大丈夫として翠さんは一般人だし桜はまだ術者としては駆け出しだからな」
「そういえば桜のことじゃが大斗が出かけている間に一応術者見習いから1人前の術者として認めたよ」
「マジかよ!」
あのどこか抜けてそうな桜が見習いじゃなくて一人前だと?
あり得ない、さっき会ってパッと見たがあまり進歩しているようには見えなかったのだが、あれを実戦に出すなんて俺なら考えられない
「ばあちゃん、俺は反対だぜ、桜は俺から見てとうてい一人前とは思えない、見習いで実戦に連れていく程度なら許してもいいかもしれないがもっと修行させてから一人前として認めるべきだともう」
「これ大斗! 皆が皆大斗のように強くはないのじゃ、桜も術者としては中の中程度じゃろう、少し抜けているところが気がかりじゃがのう」
「しかし――」
「それならば大斗、お主が直々に実戦に連れて行ってどの程度使えるか試してみればよかろう、さすがにわしは年で実戦には付き合えんからのう」
「むむ」
ばあちゃんが言うなら桜の実力はほんとうに中の中程度あるのだろう
しかし、桜と一緒に育った俺としては抜けてるところが有り過ぎて一人前として認められない、でもこれは俺の贔屓目なのかもしれない
実際に実戦で桜の腕を確かめてみるのが良い方法だろう
「分かった桜のことに関してはその方向でいくとしよう、それとばあちゃん今回の旅で持って行った装備はほぼ全滅、旅費も底をついたから何か依頼を紹介してくれないか?」
「分かっておる、ここ数カ月大斗がいなかったせいで来た妖怪退治の依頼は仕方なく全部断ったからあまり依頼は来ておらんがのう、何かないか知り合いに聞いてみよう、ついでにその依頼に桜を連れて行く方向で良いな? さすがに一人前としたが初めての仕事に一人で行かせるわけにはいかないからのう」
「分かった」
「うむ、それと今夜は大斗が帰って来たということで御馳走じゃ、その前に桜と仲直りしておくのじゃぞ、一人前になったのに大斗が帰って来なくて初仕事に行くことができなくて随分怒っておったし、心配もしておったからのう」
「まあ、善処するよ、仕事に連れていくって言えばどうにか機嫌直してくれないかねえ」
「ほほ、そこは大斗が男気を見せるほかあるまい」
「ばあちゃんそんなものを俺に期待してもらっても困るよ、俺が強いのは二次元の中だけだからな!」
「相変わらずじゃのう、まあ頑張って仲直りをすることじゃ」
「ああ、自信ないが任せておいてくれ」
そうしてばあちゃんの部屋を退出しようとしたところで大切なことを思い出した。
これを返しておかないといけなかったな
「ばあちゃんこれ返すの忘れてたよ」
俺は懐から八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を取り出してばあちゃんの前に置く。
「そういえば、忘れておったのう」
ばあちゃんはそれを俺に突き返した。
「えっ?」
「わしが持っておいても使うことないからのう、それに神殺しになったことで使う場合があるじゃろう、それと言い忘れておったがわしはそろそろ隠居するからのう」
「マジで!」
こう見えてばあちゃんはバリバリの現役だ
さすがに体力が居る妖怪退治とかはしないが
解呪の依頼とか魔道書の解析、倒せそうにない神獣や妖怪の封印なんかをやっている。
再封印のときに神獣が逃げだしそうになった時も華麗に叩きのめして封印したとか聞いているからな
ちなみに事務処理とかはばあちゃんが全部やってくれている。
そして、そのばあちゃんが引退するということは俺がいつもやっている妖怪退治なんかに加えてばあちゃんがやっていた依頼に事務処理もしないといけなくなる……
うわ、めんどくさそう、やりたくねえな
そんなことしないといけないのと目に力を入れてばあちゃんを見つめると
「大斗や、わしもいつかは引退せんといけないんじゃ、それに大斗は神殺しになったことじゃし、良い節目じゃろう」
そう言ってばあちゃんは俺に八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を握らせた。
「それとその八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は壇ノ浦の合戦の時に祖先がちょろまかした代物じゃから決して正史編纂委員会辺りに知られないようにせんといかんぞ、さすがに三種の神器じゃから神殺しと公表していない状態で見つかったら返還を迫られるじゃろう、まあ、その時に神殺しと公表してごり押ししてもよいが」
ばあちゃん……やっぱこれって諸刃の剣じゃねえかよ
有名過ぎるものだし見つかったらどうするんだろう的な事を俺も考えてはいないことはかったが(現実逃避)、やっぱめんどくせええええええ
これ正史編纂委員会辺りじゃなくても民の術者でもこれ使うの見られたらOUTだろう、もしこれを見られなくても神器クラスを持っているとばれるから超面倒事になるだろう
うん、これは封印だな、神が出て来なければ使うのは止めよう
でもそうすると神獣クラスと他人の前で闘うことになったらどうしよう
権能を使うなんて以ての外
力を抑えて勝てるのか?
まあ、カンピオーネになったので超人的な体と呪力を持つようになったからどうにかなるだろう(遠い目)
取り敢えず現実逃避して問題を先送りにしてばあちゃんから八尺瓊勾玉を貰い懐に仕舞う。
「まあ、適当に頑張ることにするよ、神殺しということは黙っている方向で頑張って、なんか問題になったときは公表するよ、公表したら迷惑掛けると思うけどそのときはよろしくねばあちゃん」
「はいはい、分かったよ、別にわしも翠も桜も迷惑に思うことはないと思うけどねえ」
そういうことでばあちゃんとの話は終わり、これからどうにか桜を説得しなければならない。
めんどくさいけど俺が神を探す旅に出てたことが原因だから大人しく頑張って誤魔化すことにしよう。
さてと桜はどこにいるかな
今日のご馳走を楽しみにしつつ桜を探しに屋敷を歩き始めた。
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