仁義のルイズ ~漆黒の風~   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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 前話の、大体二倍の文量。だから何って話だけど。

 今回本文中でクロス先は明らかになるのですが、ネタバレ防止の為タグに作品名を追加するのは次回更新時で。……ネタバレを気にする意味が有るのかは知らないけども。
 あ、色々オリ設定とか諸々にはくれぐれもご注意を。


『誇り』を取り戻せ!

 暗闇から意識が覚醒した時、彼女は自分が『生きている』という事実を発見してしまった。

 

 ベッドの上から部屋を見回せば、そこは懐かしきトリステイン魔法学院の医務室。なるほど、理由は不明だが要するに私はこの世界に『戻ってきた』という事なのだろう、と即座に現状を把握する。その辺りは『向こうの世界』で培った状況判断・対応力の賜物だ。

 伸びをしたり腕を回してみたり、暫く自分の体に異常が無いか調べるうち、ちょっとした違和感を覚える。その正体を確かめようと本腰を入れて自らの身体を検める直前、これまた懐かしい顔が入室してきた。

 

「おお、ミス・ヴァリエール! 目が覚めましたか!」

 

「……ええ、おかげさまで。ミスタ・コルベール」

 

 寂しい頭頂部をしたこの男は、確かコルベールとかいう教師だ。『火』の属性を得意とするメイジ―――『魔法使い』である。と、瞬時に遠い記憶を引っ張り出し、ルイズは不自然にならないように応答した。ともあれ、今は状況が分からない。情報を聞き出すのが先決だ。

 

「それで……どういう状況ですか?」

 

「それはこちらのセリフです! 貴女が『昨日の使い魔召喚の儀』で、鏡の『あちら側』へ吸い込まれてしまった時は、全く肝が冷えましたが……見たところ怪我も無く戻ってきたようで、それは何より。ですが一体どうやって戻ってきたのですか? あと個人的には、『召喚の鏡』の潜り心地や『召喚される感覚』などにも興味が……」

 

 研究熱心なコルベールが学術的興味から半ば興奮気味に捲くし立てるのを聞き流し、適当な返事でいなしながら、ルイズは状況の整理を進める。

 

(……『どうやって戻ってきたのか』なんて、私が一番知りたいくらいだけど。でも、そうね、『昨日の使い魔召喚の儀』……『()()』、ね)

 

 その言葉で、とりあえずシチュエーションは理解できた。どうやらこの世界の『現在(いま)』は、あの『運命の日』の翌日―――1()()()()()()()()()()らしい。そして私の身体も……と、改めて自らの体を確かめれば、『あの頃』のままの姿。

 

(『あっちの世界』で過ごした『8()()』の歳月は、完全に『無かった事』にされたとでも? ……ハッ、馬鹿にしてくれるわね。『無かった事』になんてならないわ、私は『覚えてる』もの!)

 

 ―――そう、この世界の人々にとっては、ルイズの失踪はたった1日の出来事だった。しかし当の彼女にとって、『鏡の向こう側』に広がっていた『異世界』での生活は、既に『8年』もの月日が流れていたのだ。その全てが丸々否定されるなど、腹立たしい事この上無いが……幸い、彼女の肉体が重ねた年月を失っても、彼女の魂にはその8年の『記憶』と『経験』が刻み込まれていた。

 故に彼女は、自身が『生きた』8年間が『夢』や『幻』では無く『実際にあった事』なのだと、一寸の迷いも無く断言する自信があった。既に『心』がそう認識している為、証拠や証明など探す必要も無いが……それでも『証』を提示するなら、落ち着きを取り戻しばつが悪そうに咳払いするコルベールの隣に立つ、自らの『半身』こそが『あの世界』が実在した『証』だろう。

 

 ルイズ・フランソワーズは鏡を越えた先にあった『奇妙な世界』で、ある能力(チカラ)を手に入れた。それはこの世界『ハルケギニア』に存在する『魔法』とは全く別種の法則(ルール)によって成る、特別な『才能』。

 基本的に同じ『才能』を持つ者にしか知覚できないとされる()()は、『この世界』においても同じルールを保つらしい。現に、コルベールは隣に居る『ルイズの分身』とも呼ぶべきモノに気付きもしない。

 

 

 とにかく、この『能力』を扱える事そのものがルイズの8年の『証』だ。彼女は転移した先の世界で、その『能力』に目覚め、共に生きる『仲間』を得、新たな『生き方』に誇りを見出し、栄光を掴む為の『闘争』に身を投じ、そして―――

 

 

(……そう、そうして私は……『死んだ』筈だった。それが何で『生き残っちゃった』、いや『生き返っちゃった?』のよ……いえ、別に死にたかった訳じゃないし生きてるのはラッキーだけど、でも……)

 

 彼女は彼女なりに『覚悟』を持って戦い、全てを出し切って『敗北』し、命を落とした。それが何の脈絡も無く落とした筈の命を拾ってしまった事に、何となく歯痒さというか、居心地の悪さを感じる。そもそも、彼女の『仲間達』もまた、一連の戦いの中で皆死んでいったのだ。それが自分一人だけ生き延びてしまった事に、罪悪感のような申し訳無さを抱かずには居られない。

 

(まあ『アイツら』なら私が生き延びた事を祝いこそすれ、僻む事なんて決して無いでしょうけど……それでも気まずいモンは気まずいのよね~~~っ、結局『目的』も果たせず退場して、『リーダー』を一人残してきちゃった訳だし。それに多分、……リーダーも、……)

 

「……聞いていますか? ミス・ヴァリエール」

 

「はい、聞いてません」

 

「す、素直で宜しい。……どうやらまだ疲れているようですね。『召喚の儀』の後の記憶も曖昧なようだし、これ以上質問責めにするのも酷です。私は学院長に報告に行きますので、もう暫く安静に休んでいなさい」

 

 実のところ考え事に夢中で、受け答えは丸っきりなおざりであったが、どうやら上手い事誤魔化せたようだ。去っていくコルベール先生を見送りながら、彼女は陰鬱な気持ちでベッドに横になる。

 

(……リーダーも、多分ダメだわ。彼の『能力』は無敵に近いと知ってるのに、何故だか生きて本懐を遂げる場面が想像できない。せめて私が合流できていれば……。……何にせよ、私にできる事は()()()()。……私達の『反逆』は、終わったのね……)

 

 胸にぽっかり穴が空いたかのような喪失感と寂寥感。辿り着いた結果は不本意でも、辿ってきた過程に後悔は無い。『なるべくしてなった』というのがまた、虚無感に拍車をかける。仲間達の居ない世界に今更一人で放り出されて、どうしろというのか。己が生命を賭した『大博打』も失敗に終わった今、彼女は自分の人生を完全に見失ってしまった。所謂『燃え尽き症候群』のような状態である。

 

 この日以降、彼女は『8年前』のあの日以前のような生温い学生生活に再び身を置きながら、満たされぬ日々を送る事となる。無論、このまま燻り続けるつもりも無いが……しかし、この億劫になった気持ちを整理するのに、もう暫くの時間が必要だと思えた。

 

 

 そんな彼女が再起する『きっかけ』は、予想外のアクシデントから訪れる。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 その日もルイズは、いつものように大盛りの料理をガツガツと平らげ、おかわりを待っていた。貴族としては多少はしたないかもしれないが……『食べられる時に食べられるだけ食べる』、これはもう身に染みついた癖というか習性のようなものだ、仕方ない。

 彼女と仲間達が所属していた『チーム』は、『組織』の他のチームは元より、『上』の連中からも疎まれていた。よって『仕事』の報酬も薄給で、常にカツカツの貧乏生活を強いられる毎日。彼女達が起こした『反乱』の目的は『誇り』と『栄光』を奪い返す為、ではあったが……それとは別に『困窮した生活の改善』という世知辛い理由も、皆無だったとは言い切れない。情けない話だが。

 何はともあれ、そんなルイズにとって学院の多少過剰とも言える豪華料理は、正に『御馳走』であった。タダで食べ放題だというのだ、食えるだけ食っておこう、空腹や食費に悩まされない生活のなんと素晴らしい事か! ああ、貴族の生まれで良かった―――と、ここ最近は食事の度に感無量のルイズ嬢である。

 

 しかし、今日はおかわりが来るのが遅い。「すぐにお持ちします」と言ったっきり、あの黒髪のメイドは一体どこで油を売っているのか……と不満げに辺りを見渡した瞬間、パチンと平手打ちの音が響く。

 

 

「さようなら!」

 

 音源の方を見れば、泣きながら走り去る一年生の女子の姿。後に残ったのは、同級生のギーシュとモンモランシー、そしてルイズに料理のおかわりを持ってくる筈だった黒髪のメイド。

 

「ギーシュ……やっぱりあの一年生に手を出してたのね……」

 

「待ってくれモンモランシー! 誤解だ、彼女とはただ……」

 

 モンモランシーとギーシュのやり取りから、大体の事情を察する。痴情のもつれ、という奴だろう。全く、バレるくらいなら始めから二股などしなければいいのに。或いはバレないように上手く誤魔化すか、バレたとしても言い包めてなあなあにする自信が有れば話は別だろうが……などと、他人事のように淡白な感想を抱く。実際問題、他人の恋愛事情など、野次馬的興味の対象以上のものでは無い。

 

 

「君が軽率に香水瓶を拾った所為で二人のレディが傷ついてしまった。どうしてくれるんだね」

 

「えっ、あ……も、申し訳ございません!」

 

 だからギーシュがメイドに八つ当たりを始めた時も、何の感慨も抱かなかった。明らかに無茶苦茶な言い分ではあるが、彼女には対岸の火事である。知り合いでも無い、たかが一メイドの災難にも興味は湧かない。強いて言えば、自分の頼んだおかわりはちゃんと届くのだろうか、という点は少し心配だったが。

 

 

 そこまでは何の気無しに騒動を眺めていたルイズ。だが、次にギーシュの放った言葉を耳にした瞬間、心の内にどうしようも無い激情が宿る。

 

 

 

「全く、君のような平民がいるから我々貴族が迷惑するのだよ! 特に『メイド』などというものは、貴族に『飼われる』しか能の無い『犬畜生』のようなものだ! それが『飼い主』である僕に対し、よくも『手を噛む』ようなマネをッ!」

 

(……ッ!!)

 

「いいか、もう一度言うぞ! 『使われる』分際のメイドが、『使ってやっている』僕に対し! 『許しがたい罪』を犯したのだッ! その『罰』を受ける義務が、君にはある筈だぞッ!!」

 

 『飼われる』『犬畜生』『使われる』『使ってやっている』―――。それらのフレーズから連想され、脳裏に浮かぶのは死んだ『仲間』の事。特に、散々尽くしてきた筈の『組織』によって誇りと命を奪われた二人。36枚の額縁。"罰"の文字。苦痛と恐怖に歪んだ死に顔。今尚記憶に残る屈辱的な光景がフラッシュバックし、暗い感情が心の中を満たしていく。

 

(私は、私達は……『組織』に『道具』として、『捨て駒』として使われてきた。不満を抱けば『粛清』され、従うしか無かった。誇りは完全に奪われた。報いる手段も無く、屈辱を忍んで、侮辱にも耐え続けて、でも我慢の限界で。遂に『反乱』を起こしても、結果は……)

 

 一人また一人と、倒れていった仲間達。彼女自身もまた、全力で抗ったものの……力及ばず、何も為せなかった。せめて最期まで戦い抜いた事で、失われた誇りだけは取り戻せたと信じたいが……。

 悔しさで唇をきつく噛みしめ、拳をぎゅっと握り締めるルイズ。今の彼女にはギーシュの『傲慢さ』が、自分達『チーム』を踏み躙った『組織』と……『ボス』と同じ物におもえた。この後メイドは、理不尽を恨みながらも謝罪を繰り返し、何とか許しを乞うのだろう。若しくはギーシュが許さず、八つ当たりの為に適当な『罰』でも与えるのか。

 何にせよ、『誇り』など微塵も考慮されず、惨めな結末を迎えるのだろうと……自嘲の冷笑を浮かべながら、諦念の浮かぶ濁った瞳で推移を見物していた。組織に『首輪』で繋がれていた私達も、あのメイドと同じくらい滑稽に見えていたのだろうか……と。

 

その直後である。

 

 

「わ、私はっ! 貴方の『飼い犬』などではありませんッ!」

 

(!? あのメイド、何を……?)

 

 平民のメイドの、予想外の反抗。これにはルイズも驚いた。

 

「私は確かに平民です、貴族様の八つ当たりや責任転嫁で詰られようとも、ある程度は我慢いたします……でも、ですが! 私は『メイド』として最低限の『誇り』は持っているつもりですし、今回の件について『メイド』としての職務に問題点は『無かった』と自負します! それを『侮辱』されるのだけは、……それだけは、どうしても認められません! 『撤回』して下さい、先ほどの発言をッ!!」

 

 メイドが吼える。涙に潤んだ瞳は隠せないが、なけなしの気力を振り絞り、真正面から貴族を睨む。今にも震え出しそうに、というかよく見れば足がブルブル小刻みに震えているが、それでも膝を折らず理不尽に立ち向かう。その様子は確かに滑稽かもしれないが……ルイズには、そんな彼女の姿がとても美しく輝いて見えた。

 今にも泣き出しそうな表情を見るに、彼女は状況が分かっていない訳でも無ければ立場を弁えていない訳でも無い。故にこそ恐怖は相当の物だろう。魔法の使えぬ平民は、魔法の使える貴族には敵わない……それがこの世界の一般認識であり、事実として機嫌を損ねたギーシュがその気になって杖を振り、呪文を一言唱えるだけでメイドは命を落としかねないのだ。

 それを分かっていて尚、彼女は勇気を振り絞り、理不尽な傲慢に抗う道を選んだ。そんなメイドの姿が、とても眩しく思える。何故なら彼女は、自分自身の『仕事』に『誇り』を持っていたから。命よりもむしろ『誇り』の為に戦う事ができる、強く気高い『覚悟』を持っていたから。そんな姿に、魅せられた。

 

 

 そして気付く。その『誇り』と『覚悟』は、私達が嘗て抱いた()()と同じだと。あの時、勝ち目など僅かも無いのだと分かっていながら、誰一人躊躇う事無く死出の旅路へと向かっていった私達。そんな私達の決死の反乱と、彼女が今行っている必死の反抗は、規模や程度こそ違えども本質的には同義の行動なのだと。

 

 

 ルイズの目に光が宿る。このハルケギニアに戻って以来―――一度()()()以来、失われていた『熱』が心の中で再燃する。目の前の光景は、本来時間をかけて癒さねばならなかったルイズの感傷を、一瞬にして完全に吹き飛ばしてくれた。自分達の戦いが、無駄では無かったと……結果は惨敗だったかもしれないが、その過程で確かに私達は『誇り』と『覚悟』の灯を燃やし尽くし、燦然と輝く事ができたのだと、その『事実』を客観的に再確認できたから。

 ルイズは、自身の心が完璧に立ち直った事を自覚した。そしてそれを為したのは、一人のちっぽけなメイド。今正に彼女の目前で、逆上したギーシュに害されそうになりながらも決して屈さず、最後まで抗う意志を貫く一人の少女である。

 

 ―――ならば、もはや彼女は『無関係の他人』()()()()。ルイズにとって彼女は、自分と仲間達にとって『一番大切なモノ』を思い出させてくれた、恩人だ。立ち止まっていたルイズに再び歩き出す『きっかけ』を与えてくれた、恩人だ。……だから。

 

 

 

「がふッ……!?」

 

「……え?」

 

「……さて。しゃしゃり出るつもりも無かったんだけど……やっちまったモンはしょうがねぇー、なるようになれって所かしらね」

 

 ……気付いた時には、『いつもの調子』で彼らの間に割って入っていた。というか、『手』が出ていた。周囲で誰かがギーシュを止めようとしている気配も感じたが、それよりも早くギーシュの鳩尾を思いっきり殴り抜けていたのだ。尤も、『能力』……己が『半身』の手で殴ったので、知覚できた者は居ないだろうが。

 

 

「る、イズ……君が、僕に……何か、いや『何をしたッ!?』」

 

「とりあえずそこのメイド……えっと、あんた名前は?」

 

「……え? あっ、その、シエスタと申します……けど」

 

 呻くギーシュを無視して、メイドに話しかけ……そういえばまだ名前を聞いてなかった事に気付く。尋ねればきょとんとした表情で答えるシエスタ。そして改めて告げる。

 

「そう。ならシエスタ、下がってなさい。この浮気ヤローは私が引き受けるわ」

 

 抗う『意志』はあっても戦う『力』の無い貴女の代わりに、このむかつくお坊ちゃん(ギーシュ)は自分が相手をするのだと。

 

 

「ルイズッ! 君はその平民の肩を持つと言うのか!? なるほど『ゼロ』のルイズにとって平民はお仲間だもんな、魔法の使えないもの同士で下らない『同族意識』でも湧いたという事かい!」

 

「は? 何言ってんのあんた、私がそんな『仲良しごっこ』で動く訳無いじゃない。別に、平民がどれだけ虐げられようが何されようが興味も無いわ。そもそも『貴族』だろうが『平民』だろうが私に関係無いなら勝手にやってて下さい、って感じ?」

 

「あ、あの……ミス・ヴァリエール? それじゃあ何で私なんかを庇って下さったのですか?」

 

 思わず素で答えたが、その答えに納得できないのはギーシュだけでは無かったらしい。背後のシエスタから疑問の声が飛ぶ。それに対し答えるため、そちらへと振り向く。彼女の顔はさっきまでの凛々しさはどこへやら、困惑した表情が浮かんでて、ちょっと可愛く思えた。

 

 

「ああ、理由は二つよ。一つはこの馬鹿(ギーシュ)の事が心底『ムカついた』から」

 

 ギーシュの行いが自分達を虐げた『組織』や『ボス』と同類に見えて、心の底から腹立たしかった。それが『ギーシュと相対する理由』。そして。

 

 

「そして、もう一つは……シエスタ、()()に『義理』ができたから。受けた恩義は、必ず返すわ」

 

 それこそが、『シエスタを守る理由』。赤の他人なら死のうが生きようが放っておくし、その方が()()()()()なら積極的に傷付ける事も厭わない。だが、『義理』があるなら話は別だ。恩義を受けたのなら、必ず『恩』で返さねばならない。『仇』で返すような事があってはならない。何故ならルイズは『誇り』を何より重んずるからだ。恩を仇で返す行為は、相手への侮辱である。何の理も無い侮辱は相手のみならず、むしろ自分自身の誇りをこそ傷付ける。故にルイズは、己が誇りに賭けて義理を果たす。果たさねばならない。

 

 その宣言と共にシエスタを真っ直ぐ見つめ微笑みかければ、顔を赤らめてわたわた。そんな仕草も可愛らしくて、そっと頬を撫でてやる。そのまま暫し見つめ合う二人。年の頃は両者共に然程変わらないだろうが、精神年齢では8年分の蓄積があるルイズである。その所作には大人の余裕というか、色気の様な物すら感じられた。

 

 

 ……そんな彼女達に無視され続けて完全にキレたギーシュが、一方的に決闘を宣言するもやはりシカトされ、「逃げるんじゃあ無いぞ!」という捨て台詞と共に決闘の舞台であるヴェストリの広場へと走り去る一幕があったが、筆者的にもどうでもいいので割愛。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「諸君! 決闘だ!」

 

(決闘ねー、専門じゃあ無いけど……まあ、負ける気はしないわね)

 

 所変わってヴェストリの広場。この面白い見世物を見物しようと、娯楽に飢えた学生達が仰山集まってきている。空には誰かの使い魔であろう、風竜まで飛んでいるが、そんなものまで持ち出して特等席で見ようとは……暇人しか居ないのか、この学院。とか考えてたら、ギーシュに話しかけられる。

 

「どうする? 地に這いつくばって許しを乞えば、ちょっと痛めつけるくらいで済ましてやってもいいんだぞ? 魔法の使えない、『ゼロ』のルイズ君?」

 

「……別に、使えない訳じゃあ無いわ。ただ全部『失敗魔法』になるだけ……でもそうね、一つ言っておくなら」

 

 沢山のギャラリーに囲まれ、自分より格下(だと思い込んでいる)相手を前にして、ギーシュは優越感に浸っていた。その口から零れ出た煽り文句に対し、ルイズは飽くまで冷静に冷徹に宣言する。

 

 

「アンタが幾ら這いつくばって許しを乞うても、私は必ずアンタを『ブッ殺す』」

 

「ッ! いくら落ち零れでもレディはレディと思っていたが……分かった、手加減は不要のようだな!」

 

 煽りを煽りで返されて、更に不機嫌になる気障男。自らの杖である薔薇の造花を一振りすると、彼の傍らに一体の人形が現れる。女騎士を模した、青銅の人形だ。これが『土』属性のメイジであるギーシュが最も得意とする魔法、『錬金』である。

 

「さて、今更名乗るまでも無いとはいえ、決闘の場においては『それが流儀』なので一応名乗りを上げておこう。我が名はギーシュ・ド・グラモン、二つ名は『青銅』! 洗練されし『土』の魔法とオリジナルゴーレム『ワルキューレ』がお相手しよう!」

 

 仰々しく胸を張り、杖を掲げながら声を上げる。それを冷めた目で見ていたルイズだったが、ふと思いついて自分もそれに倣う。ギーシュの尊大な貴族らしい決めポーズと異なり、彼女のポーズは、何と言うか……『奇妙な立ち方』だった。腕や脚、腰などの関節を微妙な角度に捻り、意味不明なまでに芸術的な、まるで彫刻のモデルのような姿勢で静止している。

 またその隣には、全く同じ体勢で宙に浮かぶ彼女の『半身』の姿もあった。その姿はまるで亜人。無機物と有機物の中間のような金色の肌。女性的な外見だが、体の所々に桃色の宝石が埋め込まれている。どこから見ても人外だが、先も説明した通り『才能』の無い者には不可視の存在だ。

 故に、人々はむしろルイズの名乗り口上の方に気を取られた。

 

 

「なら私も名乗らしていただこう、名前はルイズ・フランソワーズ……二つ名は『ゼロ』。爆発する『失敗』魔法と()()()()()()()()使()()()―――『スタンド』の『ゴールデン・ボンバー』がアンタを『ブッ殺す』わ」

 

 

 

 ……別に決闘の作法云々、なんてものに気を使った訳では無い。そもそも、ルイズは自分で定めた『誇り』に関しては重きを置くが、それは『貴族としての誇り』()()()()(必ずしも一致しない)。そんなもの、当の昔に捨て去った。貴族としての誇りや生き方は、あちらの世界で……あの環境下で栄達を目指す上では無用の長物だったからだ。では何故今更貴族主義的な『お作法』などに則るのかと言えば、この期に乗じて自らの『能力』……『スタンド』を、『使い魔』として周囲に認知させておきたかったから。

 

 

 俄かにざわつき始める人々を余所に、ルイズは硬直するギーシュに話しかける。

 

「『使い魔と主は一心同体』……つまり決闘に参加させても問題無い、おーけー?」

 

「……は? 使い魔? どこに居るんだ、影も形も……いや、それ以前に君は召喚に失敗したんじゃ……」

 

「あら、私は『失敗した』なんて言った覚えは無いけど? 私の使い魔の『ゴールデン・ボンバー』、『スタンド』って種族の生き物なんだけど……特殊な『才能』のある人間にしか見る事が出来なくてね。それで誰も私の使い魔を認識できなかったってだけ。実は使い魔召喚の儀は、『成功していた』のよ」

 

 嘘である。召喚の儀は成功していないし、そもそもスタンドとは本人の精神エネルギーの(ビジョン)であり、生物ですら無い。全ては口からでまかせ。再召喚なんてやらされて、またぞろ失敗したら堪ったものでは無い。前と同じ世界―――『地球』に(ゲート)が繋がるなんて楽観的な考え方はしない。少なくとも、生活基盤が整っているこの学院の方が過ごし易い事は確かだろう。それ故のゴリ押しだ。

 

「ほら、ちゃんとルーンも刻まれてる……見えないでしょーけど」

 

 嘘である。ルーンなど無い。

 

「て、適当な事を! そんなものが実在するというなら証拠を……」

 

「はい」

 

 金属がひしゃげる音が広場に響き渡る。見ればギーシュのワルキューレは立派なスクラップに姿を変えていた。何の事は無い、ルイズが自らのスタンドで殴っただけ。それだけで青銅製の人形は破壊された。ギーシュも含め、その様子を見ていた全ての人間は、ルイズの言う『スタンド』とやらの存在を信じざるを得なかった。

 そしてルイズ(のスタンド『ゴールデン・ボンバー』)の攻撃が、決闘開始のゴングとなった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「くっ……『ワルキューレ』! 最大数展開しろーーーッ」

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……さっきのと合わせて『七体』ね。数は多いけど……スピードもパワーも不十分。連携は中の上。脅威じゃあ無いか。例えるなら近距離パワー型に近い群体型スタンド、って感じ? ゴミ性能の」

 

 包囲攻撃をしかけてくるワルキューレを軽くいなしつつ、時にスタンドによる反撃も加えながら、適当に戦うルイズ。もはや自身の勝利は確定事項なので、というか本気でやると一瞬で決着なので、適度に手を抜いてスタンドの存在をアピールしている。彼女の目標は皆に『スタンド』を周知させ、使い魔として認めてもらい、それを以て留年や退学を回避する事。そうすればある程度の『自由』と『安定』が担保されている学生生活を続ける事が出来るし、スタンドを使って物を動かしたりしても不審がられずに済んで何かと便利だろう。

 ……なんて思考していると、不意に足を取られる。見れば、土で出来た手が地面から生えてルイズの足をガッシリと掴んでいた。

 

「フンッ、ルイズ……君の言う『スタンド』なる使い魔君がそこそこ役に立つ事、それは認めてあげよう! しかしルイズッ、忘れていたようだな! ワルキューレだけでは無く僕の土魔法も相手にしなければならないという事を!!」

 

 『アース・ハンド』……地中から土の手を生成し、相手を捕らえる魔法。戦況が不利と判断したギーシュは、搦め手を用いて無防備なルイズ本人を狙う事で決着を図ったのである。身動きを封じられた彼女を囲む青銅の騎士たちが、一斉に飛び掛った。

 

「勝ったッ! 結局の所、最後に物を言うのは『自分自身の魔法』! 分かるか? つまり最初っから君に勝ち目など無かったのだよ、『無能(ゼロ)』のル・イ・ズ・君~~~~ッ♪」

 

 もう完膚無きまでに調子に乗っていた。ノリノリだった。対するルイズは、顔色一つ変えず……眉一つ動かさず、冷静に一言。

 

 

「『発破』」

 

「……は?」

 

 

 瞬間、爆発が起きる。学院の生徒たちにとってはお馴染みの、ルイズの失敗魔法。だが常日頃馬鹿にしていた筈のソレは、ギーシュのワルキューレ軍団を見事に吹っ飛ばしていた。

 

「な……なんだこれはァァーーー!?」

 

「私のオリジナル呪文(スペル)、『発破』よ……まあコモン・マジックの口語詠唱の理屈を応用して、適当な単語に適量の魔力を乗せて意図的に失敗の程度を調整できるようにした、ってだけなんだけど」

 

 憔悴するギーシュに対し、彼女はどこまでも冷静に告げる。だが周囲のワルキューレを全て巻き込む規模の爆発だったのだ、自身もタダでは済まなかったらしい。スタンドで防御したにも関わらず、体中に傷ができていた。代わりに、足を抑えていた『アース・ハンド』の魔手も破壊されていたが。

 

「ああ、思い上がらせないよう先に言っとくけど、やろうと思えば『無傷』でアンタのワルキューレを全滅させる事もできたわよ……一個ずつ潰してくのが面倒だから、一緒くたに爆破する為に自分を囮にしただけで」

 

 その言葉を聞き、愕然とする。それは即ち、全てが『作戦通り』の予定調和だったという宣言。

 

「ば、かな……自分も傷を負うんだぞ!? い……いや、それより僕の思考を誘導したのか!? 前衛を使い魔に任せ、自分は敢えて隙を晒す事で、僕に捕まった……()()()()()()! トドメの為に、全ワルキューレが同時に一箇所に集中する、その一瞬を狙う為に! 土の拘束も同時に破壊する事も織り込み済みで!! ―――僕は完全に、君の掌の上だったと言うのかァァーーーー!!」

 

「よく分かってるじゃん、えらいえらい。ま、こんな『かすり傷』なんて怪我の内にも入らないし、良い作戦だったでしょ? どんな戦いも所詮『(ココ)』の使い方一つなんだっての! 私の爆発(失敗)魔法みてーにさァ!!」

 

 確かに傷は深くは無いが痛みを感じない訳でも無かろうに、彼女は全く気にする様子も見せずに笑い飛ばしてみせる。その圧倒的な雰囲気に呑まれて、腰を抜かしながらも知らず後退るギーシュだったが、余裕の足取りで迫るルイズはあっという間に距離を詰めてしまった。

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

「んじゃ、覚悟は良い? なら―――『esplosione(エスプロジオーネ)(爆ぜなさい)』」

 

 命乞いをする間も無く、ルイズは杖を目の前の負け犬に突きつけると、さっきとは違う呪文―――結局の所、魔力の込め方は彼女の調整次第なので、気分以外に違いは無いが―――を唱えた。当然その爆発はギーシュを襲い、決闘前の『ブッ殺す』という予告の通り、彼の命を―――

 

 

「……あ、あれ? 僕、生きて……?」

 

 

 ―――絶つ事は無かった。爆風をモロに食らって負傷してはいるものの、手加減されていたのか、放っておいても数日で治る程度の軽傷だ。ルイズが爆破したのは、彼が手に握っていた薔薇の造花……彼の杖。トリステインにおける決闘の規定により、杖を手放したギーシュは名実共に『敗者』となった。

 

「じゃ、これで茶番はお終いね……後でアンタが泣かせたガールフレンド達に謝っときなさいよ? 当然、シエスタにもね」

 

「ま、待ってくれ!」

 

 そう言い残して立ち去ろうとするルイズの背に、慌てて声をかける。殺されずに済んだという安堵も束の間、目の前の恐怖によって頭から抜け落ちていた『命を惜しむな、名を惜しめ』という家訓を思い出し、聞かねばならない事ができたのだ。

 

「何故……殺さなかったんだ? 最初の『ブッ殺す』というのはハッタリだったのか? もしこの僕に対して情けを掛けたというのなら―――」

 

「はぁ? アンタまさか、あんな脅し文句を本気にしてたの? ホンット、しょうがねえなァーー……。つーかテメーみてーな『女の敵』に掛ける情けなんか有る訳ねーだろボケ」

 

 呆れ顔で振り向きつつ返答するも、つい口が悪くなるルイズ。だがそれも仕方無い、彼女にとってギーシュの発言は余りにも頓珍漢だったのだ。

 

「先ずそもそも、『ブッ殺す』なんて言葉使ってる時点で『本気で殺す気は無いんだな』って察しなさいよ」

 

「は? いや、それはどういう―――」

 

 疑問は途中で遮られた。未だ腰が抜けたまま動けないギーシュに歩み寄ると、顎を掴み上げて強制的に顔を合わせる。睫毛の一本一本まで見分けられそうな程近い距離にある彼女の瞳はどこまでも冷たく、温度を感じさせない。しかしギーシュはその眼の中に確かに見たのだ、強く深い冷徹な意志の表れのような、『漆黒の炎』を。

 

 

 

 

「本気で殺すつもりなら『ブッ殺す』なんて言葉は使わないし、使う必要も無いのよ……心の中でそう思った時、既に行動は『完了』してるんだから」

 

 

 

 

 ギーシュはこの時、生れて初めて『本物の殺気』を身に浴びた。この後、再び歩き去ったルイズの姿が見えなくなるまで、体の震えが止まらなかったという。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 さて。以下に述べるのは余談である。

 

 

 

 ルイズはこの決闘で自らの『スタンド』を使った。だがしかし、彼女は『スタンド能力』の本質―――即ち、各個人のスタンド一体一体に固有である『特殊能力』を使う事は無かったのである。それはギーシュを相手にするなら『使うまでも無かった』という事でもあるのだが……それとは別に、自分の『手口』を広めたくなかった、という理由もある。むしろそっちがメインだ。

 知られては困る―――それはつまり、スタンド能力を用いる、秘密裏に行われるべき『何か』を企んでいる、という事なのだが……精神的不調を脱したルイズの新たな『目標』については、今は置いておこう。

 

 

 もう一つ、語っておくべき事があるとするならば、ルイズはこの決闘において、ある『可能性』を考慮していなかった。スタンドの性質について、重要な事を忘れていたのである。

 彼女は、「スタンドはスタンド使い以外には見えない」という性質を利用して、『不可視の生物』としてスタンドを紹介し、使い魔として扱った。しかし、この性質は言い換えれば「スタンド使いならスタンドが()()()」という事であり、実際『才能がある』というだけでもスタンドを知覚する事はできる。

 

 そして。

 

(ミス・ヴァリエールの『使い魔』……皆には見えてなかったの? ()()()()()()? 『才能のある人間にしか見えない』……つまり私にも『才能』が……?)

 

 有象無象の観客に紛れて一人、『才能ある者』が存在していた。まだ自身のスタンド能力は覚醒していないようだが、確かにルイズのスタンド『ゴールデン・ボンバー』の勇姿を目撃していたのである。こんな偶然、予想しろという方が難しい? 否、実のところ簡単に予想はできた筈だ。それこそルイズの犯した凡ミス。彼女はすっかり失念していたのだ―――『スタンド使いは引かれ合う』という、スタンド使いなら誰もが知っている『大前提』を。

 

 

(……今は、気にする事じゃあないか。それよりも、ミス・ヴァリエールに『労い』と『感謝』を伝えないと……ああ、あんなに傷だらけになって。……元はと言えば()()()()()()()、付きっ切りで看護するのが筋ってものよね)

 

 首を横に振り、()()を乱しながら余計な考えを振り払うと、才能あるその()()()は心からの敬意を表しながら歩み寄ってきたルイズを出迎え、医務室まで恭しくエスコートしたのだった。

 

 

 

 

 

 ルイズ・フランソワーズ(スタンド:ゴールデン・ボンバー)

 ―――勝利。精神的に完全復活。

 本人的には『義理』を果たして貸し借りゼロ、のつもりだったが殊の外シエスタに懐かれる。まあ可愛い娘に慕われるのだから悪い気はしないが。

 

 ギーシュ・ド・グラモン

 ―――完全敗北。再起可能。

 あの後暫く恐怖で竦み続けていたが、心配して駆け寄ったモンモランシーの姿を見て平静を取り戻す。今回の件を謝罪し、よりを戻した。

 ケティやシエスタにも謝罪した。特にケティには大層気を使って平謝りし、何やかんやでデートの約束を取り付けようとして、モンモランシーの手でフルボッコにされ再び見限られた。

 やっぱり再起不能かもしれない。

 

 シエスタ

 ―――体を張って窮地を救い、誇りを守ってくれたルイズに、強い尊敬の念を抱く。

 以後、暇さえあればルイズのお世話をしに行くようになって、それなりの仲に。「ルイズ様」と名前で呼ぶ事を許される。

 

 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー

 ―――色々あったが、ルイズが無事復活したようで一安心。

 ……と思ったら、使い魔召喚の儀以前と比べるとやっぱりちょっと違うルイズだった。ますます困惑。鏡の向こう側で何があったのか、謎と興味が深まるばかり。

 

 

 

 ……To Be Continued→




 はい。ジョジョでした。()()ジョジョでした。ISに続きゼロ魔でもジョジョ。馬鹿の一つ覚えかな?(自己分析)

 あ、僕は二次創作ssとwikiでしかゼロ魔を知らない、ネタを思いついたからってだけでコレ書いてるようなゴミなので、次回以降は原作から大きく離れたオリ展開になっていくと思います。原作知識が乏しいからそうやって誤魔化します(ホモは正直)。

 ついでに言うと、本ssの方向性とかそういうのは次回で大体分かって頂けるかと。
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