仁義のルイズ ~漆黒の風~ 作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)
……殆ど使い捨てだがな!(無慈悲)
トリステイン王国は始祖ブリミルから連なる三王家の一つであり、歴史と伝統を重んずる由緒正しい国家である。だがその保守的な国風は、結果として政治中枢を司る宮中の貴族達を腐敗させた。時代が降るにつれ衰え続けた国力は、前王の崩御の後、第一位の王位継承者であった王妃マリアンヌが私情により即位を拒んだ事で、一層表面化しつつあった。
そういった背景事情もあり、貴族が平民に対し公然と暴虐を働くのも事実上黙認されつつあった。無論、そういった悪徳貴族はほんの一部であり、多くの貴族は真っ当に仕事をこなしているのだが……自分に累が及ぶのを恐れ、他者が行う悪事には目を瞑る傾向は否定できない。長年培われた保守的な思想からくる、官僚的事勿れ主義である。
現状を正そうと考え行動する、真に国を思う貴族も居ない訳では無い。無いのだが……その代表格とも言える大貴族、王家の縁戚にしてルイズの実家でもある『ヴァリエール公爵家』の力を以ってすら、自領内の治安維持に手一杯で他領地や国家中枢にまでは手が回らないのが現実だ。
一言で言って、現在のトリステイン王国は失敗国家一歩手前、早急に何らかの対策を練らねば近い内に滅んでもおかしくないのである。……歴史と伝統を履き違えた腐敗貴族共は、「始祖から続く王権が倒れるなどありえない」と根拠の無い自信を持っているようだが。
ともかく、今回押さえておきたいポイントはただ一点。『悪徳貴族の横行』である。
※ ※ ※
……一人の悪徳貴族が居た。名前は『ターヌ・ド・キツィーグ』……別に覚える必要は無い。貴族としては実力も並なら役職も凡、働いている悪事も賄賂や裏取引などセコイ金稼ぎばかりで、トリステインでは十把一絡げの『量産型小悪党』。唯一家格だけは、この男の亡き父が実力有る人格者だったおかげで『伯爵』という位を戴いてはいるが、遠からず没落するだろう事は目に見えていた。
が、この男には一人の息子が居た。この息子は父親を反面教師として育ったのか、或いはマトモな貴族だった祖父の血が濃く出たのか、正義感の強い好青年であった。彼は父の悪行を幼い頃から快く思っておらず、いつの日か成人した暁には宮中に仕える近衛騎士となり、国の為に自らの親を始めとした悪徳貴族の罪を暴き、片っ端からお縄にするのだと息巻いていた。
当然、伯爵はそれを疎ましく思い、実の息子を追い落とし社会的に抹殺しようと、様々な謀略を以って幾度も妨害工作を行ったのだが……彼なんかよりずっと、息子は優秀だった。祖父譲りの明晰な頭脳に、王宮に蔓延る陰険な悪を暴こうと培ってきた知識が合わさり、何度と無く入る邪魔を全て押し退けて、遂には騎士見習いの中でも主席の成績を収める事となったのだ。
そうして騎士見習いを卒業し、念願の近衛騎士として配属される直前……彼は死んだ。
公的には事故死という事になっているが、実際には暗殺である。父親である伯爵の仕業では無い。彼は血の繋がった息子を殺せる程肝の据わった人物では無かった。彼よりもっと『大物』な『小悪党』……『ナロース・ケイ・ド・タイロ・ラ・オービニェ』侯爵の仕業である。一応紹介はしたが、この名は覚える
何の事は無い、侯爵の息子は親に甘やかされて育ち、騎士を目指したのも女にモテる為だ。無論、訓練や勉強など真面目にする筈も無く、父親のコネと賄賂だけで主席の座を手に入れるつもりだった。だがしかし、情熱に燃える青年……キツィーグ伯爵の息子が邪魔となった。彼の努力と才能は並ならぬ物であり、侯爵のコネクションでもその類稀なる成績を捻じ曲げる事は敵わなかった。
そこで侯爵のドラ息子は、目障りな好青年を排除する為に彼を『暗殺』するよう父親に頼み……自分の子供の経歴に箔を付けたかった侯爵はそれを快諾した。こうして3日後には、一つの無残な死体が出来上がっていたのである。
そして伯爵は息子の亡骸と対面した時、自分が思いの外息子を『愛していた』事に気付いた。
彼は悪事を働いている自覚はあったし、できる事なら咎められる事の無いままぬくぬくと私腹を肥やしたかったのも事実だが……心のどこかでは、自らの『誇れる息子』の手で捕まり、終焉を迎える事も望んでいたのだ。実の親に反抗するばかりか、罪人として糾弾しようとする息子を憎らしく思う気持ちも嘘では無かったのだが、仕組んだ謀略や妨害を撥ね退け己が道を歩み続ける我が子の『正義感』と『気高さ』に、『誇らしさ』も見出していたのだ。
無自覚ではあったが、伯爵は「自分はいつか息子の手で裁きを受けるのだろう」と……今までの罪を償わされる事になるのだろうと、そう信じていた。―――息子が暗殺されるまでは。
伯爵とて決して無能では無い、息子の死に疑問を持ち、その裏側を自らの伝手を使って探り、そして真実を知って……胸に抱いたのはどうしようも無い程の『憤怒』、そして『憎悪』。もしもこれが、彼が騎士になった後に巨悪を追っている最中、口封じの為に殺されたのだったら伯爵もここまで感情を揺さ振られなかったろう。「分不相応な理想を持つからだ」と嘲笑ったかもしれない。
だが伯爵の息子が殺されたのは、極めて利己的な……それも彼自身の責任ではなく、その思想も人格も関係無く、ただ偶々『誰かの我侭の為には面倒な位置に居た』から。たったそれだけの、理由とも言えぬ理由で、彼の『理想』と『未来』は踏み躙られ『侮辱』された。
―――伯爵にはそれがどうしても『許せなかった』ッ!!
目には目を、歯には歯を、そして……『暗殺』には『暗殺』を。今まではセコイ違法取引程度しかしてこなかった、陰謀の為に人を殺すなど考えも付かなかった小心者の伯爵であったが、今や躊躇いは無かった。裏の繋がりから裏の繋がりを辿り、今まで接点も無かった『プロの殺人者』を探し求めた。そしてある時、貴族相手でも遠慮なく襲う、一部地域では有名な『強盗団』の噂を聞き、本人がメイジ殺しでもあるその頭目に接触。『ナロース侯爵親子を、物取りに見せかけて襲撃し殺してくれ』……その『依頼』の為、伯爵は貯めに貯め続けた『黒い金』の貯金の殆どを差し出したのであった。
※ ※ ※
―――そして今。屋敷の自室、安楽椅子に座る伯爵の目の前には、その強盗団の頭目の顔がある。そして伯爵は、自らの『復讐』が『
何故なら彼の前にある頭目の顔には、その下に有って然るべき筈の
「……あの強盗団は、返り討ちにあったという事か」
全てを諦めた表情で、椅子に深く凭れ掛かり呟く伯爵。しかし瞑目して深く息を吐いた後、カッと目を見開くと傍らにあった杖を掴み、立ち上がる。
「ワシとて『失敗』や『逆襲』は覚悟の上。所詮は『ライン』クラスに過ぎぬ私が『殺し』のプロに勝てるとも思わんが、『抵抗できない』のと『抵抗もしない』のは別だ……この上は貴様を息子の仇と思い、せめて最期まで『意地』を見せてやろうぞ!!」
そう言って構える伯爵が、呪文を唱え始めようとしたその時、フードの人物が口を開く。
「最後まであがき続けるその『精神』……評判よりずっと
「……何だと?」
その声の高さと口調で初めて相手が女性だと気付いた伯爵だったが、一番気になったのはその『言い草』。
「ああ、何か勘違いしてるみたいだけど私は別に『アンタを殺しに来た』訳じゃあない……むしろ逆よ」
「逆……だと?」
警戒しながらも杖を下ろした伯爵に、フードの女は改めて告げる。
「伯爵、アンタの『復讐』……この『私』に、預けてみない?」
※ ※ ※
決闘騒ぎから数日後。あの後ルイズは学院長に呼び出され、学内で禁止されている『決闘』を勝手に行った件についてみっちりお叱りを受けた(まるっきり馬耳東風だったが)。一応『使い魔』の件に関しては、恙無くルイズの主張が認められたので一安心だが……決闘の罰として一週間の謹慎を言い渡され、寮の自室に篭ったまま退屈な時を過ごす羽目になった。……なる筈だった。
そんなルイズ嬢は現在、穏やかな日差しと爽やかな風薫るアウストリの広場にて、椅子とテーブル、日傘を設置して優雅に午後のティータイムを楽しんでいた。謹慎という概念をもう一度考え直してみたくなる光景である。
「紅茶を淹れる時にはね……鉄製じゃあなくて陶器のポットを使うべきなのよ」
そう言いつつルイズは、茶葉の入った陶器のティーポットに薬缶で沸騰させた湯を注ぎ、蒸らす。その様子を眺めるのは、ルイズに給仕しようと張り切っていたら何故か自分が座らされ給仕されてしまい絶賛困惑中のシエスタと、屋外でお湯を沸かす為に連れて来られた『火』属性メイジのキュルケ、そしてその付き添いでやってきたタバサ。彼女らの視線を受けながら、まるで講師の様に解説の言葉を紡ぎ続ける。
「紅茶に含まれる成分"タンニン"は、"鉄分"と反応する性質がある……だから鉄製のポットに紅茶を淹れると、"タンニン"が化合して『味』も『香り』も『色』も落ちてしまう」
詠うように口述しながら、十分に蒸らした紅茶をポットから人数分のカップに注いでいく。辺りに紅茶の香りが漂い始め、その鮮やかな紅色が少女達の目をも楽しませる。全員分を注ぎ終えると、ソーサーに置いて各人の前に差し出した。
「以上、紅茶に纏わる雑学……まっ、貧乏舌の私にとってはそんな些細な味の変化なんてどうでもいいんだけどね~」
「いや、貧乏舌ってアナタ、ヴァリエール公爵家はトリステイン有数の大貴族でしょうに……」
「というかルイズ様、ひょっとしてその雑学を披露する為に私の仕事を奪ったんですか?」
「……『タンニン』とか『
三者三様の反応を見せながら、淹れたての紅茶を味わう面々。
ちなみに本日のお茶請けは学院の料理長マルトー氏特製のバタークッキー。このお茶会の為にわざわざ焼いてくれた。例の騒動以降、シエスタは学院の殆どの平民から『我らの誇り』と褒めそやされた。一部の僻みっぽい連中からはルイズに懐き付き従う姿を『結局は貴族に媚を売っている』と見られやっかみを受ける事もあるが、マルトー氏を筆頭に大多数はシエスタ共々ルイズにも好印象である。
尤も、ルイズからすればシエスタ以外の平民に対しては特に恩義がある訳で無し、『どうでもいい物』に分類されるのだが……それを告げてもなお、「学が無いんで粗野な口調で悪いが」と前置きしてから語ったマルトー曰く、「恩義というなら、お前さんに対しては『シエスタを助けて貰った』という恩がある。俺達にとってそれは、礼を返すに値する『義理』なんだ」との事。その上でクッキーを焼いてくれたりなど、可能な範囲で便宜を図ってくれるマルトー氏を始めとする厨房組に対しては、ルイズとしても上手に付き合っていきたいと思い始めている。
閑話休題、自分の仕事を取られて膨れっ面になったまま、紅茶をちびちびと飲むシエスタ。ルイズはそんな彼女の椅子の裏側に回り、後ろからそっと抱きしめながら膨らんだほっぺたをぷにぷにとつつく。
「ごめんごめん、貴女が紅茶の準備してるの見てたら昔『仲間』が教えてくれた雑学を思い出しちゃってさ……それに決闘以降は殆ど付きっ切りで世話焼いてくれたし、ちょっとした『恩返し』も兼ねて、ね?」
「……ルイズ様はずるいです。私は助けてもらった恩もまだ返せてないのに……」
「あー、決闘の件なら私の感覚では貸し借り無し、って風に思ってたんだけど……しょうがないわね、私に奉仕したいって言うならほら、私にクッキー食べさして? あーんってするから」
「……本当、ずるいです」
シエスタの肩越しに顔を突き出し、口を開けてクッキーを待つ。そして恐る恐るといった感じでシエスタがクッキーを差し出せば、パクリと食べてもきゅもきゅと咀嚼する。そんなルイズの様子が琴線に触れたのか、次々とクッキーを摘んでは彼女の口へと放り込んでいくシエスタ。
惚けた様に「ずるいです、ずるいです」と繰り返し呟きつつも渋面を保とうとしているようだが、声にも顔にも幸せそうな感情が隠し切れていない。というよりもう殆どニヤケ顔であった。
「……っていうか私、ホントに湯を沸かす為にだけ連れて来られたのね……授業あるのに」
傍から見れば完全に『餌付け』な少女二人の茶番を眺めながら、キュルケがぽつりと呟いた。
「ん、私は謹慎中だから授業とか関係無いし?」
「なお不味いでしょ……いや、そもそもそっちの事情はさておきこっちの都合よ! 貴女はともかく、私は言い訳のしようも無く完全なサボリじゃない!」
「悪い子ねー」
「よくも他人事みたいに……まあ、授業なんて退屈なだけだし、構わないっちゃ構わないんだけど」
のほほんとクッキーを頬張りながら適当な返事を返すルイズをジト目で睨んだ後、キュルケは隣で黙々とクッキーを消費していく青髪の少女へと振り返った。
「ごめんねタバサ、付き合わせちゃって……」
「別に、いい。そもそも今日の授業は殆ど内容が無い様な物だった」
「へ? どういう事?」
尋ねられたタバサはクッキーを食べる手を止め、眼鏡の角度を手でくいと直しつつ答える。
「今日の授業で使われる予定だった教材のマジックアイテムが、トラブルで学院に届かなかった。王都にある老舗魔道具屋から学院までの輸送中に、荷を積んだ馬車が『強盗団』に襲われたとか」
「学院の馬車を襲撃? 普通より護衛も厚かったでしょうに、随分と命知らずというか……」
「付近の村々では有名な強盗団らしい。頭領は『メイジ殺し』、との噂もある」
「ふ~ん……あ、という事は今日の授業は中止だったのかしら? 私達、サボリじゃあ無い?」
「いや、授業は本来の予定を変更して決行。ミスタ・コルベールが自分の研究成果を……」
キュルケとタバサの会話を遮るように、爆音が響く。次いで伝わってくる爆風。……一応補足しておくが、ルイズの失敗魔法では無い。今回の爆発は、どこかの教室が爆心地となっているようだ。音の聞こえた方向に振り向けば、黒煙を上げる部屋が一つ。あそこはそう、確かルイズが所属するクラスの、つまりコルベールが授業を行っていた筈の―――
「……多分あれが研究成果」
「……湯沸し係で良かったわ、あたし」
「なんだ、私が居なくても結局爆発は起こるじゃない、この学院」
「でもルイズ様の爆発の方がもっとこう、格好良いですよ?」
冷や汗を流しつつ安堵する者2名、爆発に慣れ親しみすぎて動じない者1名、何故かルイズを讃え始める者1名。教室の惨状は想像も付かないが、とりあえず茶会の席は平和であった。
「ああ、そうだ、タバサ……って言ったっけ? 今まで余り親しくなかったけど私はルイズ、以後よろしく」
「知ってる……何が目当て?」
「話が早くて助かるわ。さっきの『強盗団』とやらの噂、もう少し詳しく聞きたいんだけど……例えば根城はどの辺か、とか……あ、モチロン興味本位よ?」
そう言ってニヤリと笑んだルイズの瞳が冷たく輝いた。
※ ※ ※
とある山の洞穴に作られた砦。それは巷で噂の強盗団が
その中の一角、体育館ほどの大きさのある空間は、団員が集会を行う時に使う大広間。そこには現在、この強盗団に所属する全団員が集められていた。頭目から『話』があるからだ……無論、その内容は皆知っている。『通達』では無く『確認』の為の集会であった。
「それにしてもよぉ~~~、『ターヌ伯爵』つったっけ? あの狸親父もよぉー、お互い嫌い合ってた筈の『息子』の為に『仇討ち』しようだなんて……泣かせる話じゃあねーかよ~~」
無表情で淡々と語る頭目。周りの部下達も神妙な顔で静聴している。
一旦言葉を切った頭目は、部屋に置かれている大量の金貨の詰まった袋―――伯爵が彼らに前払いで支払った『依頼料』の中から金貨を一枚取り出し、手で弄んだ。
「お偉い貴族様なのによぉ、俺達みてーな人殺ししか能の無いゴロツキに頭まで下げて、必死こいて貯めこんできただろう大金を気前良くポンと渡してさァ、「どうか息子の仇を取ってくれ」ってさァ……いやホント、感動したねオレは」
ひたすら無感情に、王都トリスタニアの劇場で演じられる大根役者の三文芝居のような棒読み具合で台詞を回す頭目は、明後日の方向に目を向け物思いに耽るような、それでいて何も考えていないような顔付きである。
と、そこに部下の一人―――この強盗団のサブリーダーと目される男が声をかけた。
「それでお頭……
「…………『どうする』っつーと?」
話しかけられた頭目は無表情を崩す事無く振り返ると、わざとらしく聞き返した。
「つまり……その何とかっつー伯爵に頼まれた『殺しの依頼』、マジで
「……………………」
真顔で問いかける部下から目線を外し、同じく真顔で暫し沈黙する頭目。
そして。
「ンな訳ねェーーーーーーだろバァーーーーカ!!!!」
『ですよねーーーーーーギャハハハハハハハ!!!』
それまでの暗澹とした空気とは一転、爆笑が広間に響く。頭目も、サブリーダーも、その他黙って話を聞いていた部下達も、皆一斉に笑い出す。何が可笑しいのか腹を抱えて地べたを転がる者までいた。
「なァーーーんで俺達がそんなメンド臭ぇ事しなきゃなんねーんだよ! 金だけ持ってさっさと逃げるに決まってんだろ、なァ?」
「あのオッサンのガキがどうなったとか、興味ねえし? オッサンが騙された事に気付く前に次の
ゲラゲラと下品な笑いが再び広がる。そう、彼らはハナから伯爵の依頼など無視する気だったし、言葉巧みに伯爵を唆して結んだ契約も最初から破る前提であった。息子の死に平静を欠いていた伯爵は、まんまと一杯食わされたのである。
……と、そんな風に強盗団の面々が笑い転げていた時、異変は起こった。
洞窟全体を揺るがす轟音と共に、広間の入り口の扉が突如
「なッ……なんだァ!?」
皆の混乱を代表するように叫んだ頭目。それに答えるように、鈴を転がすような声が奏でられた。
「貴族相手でも臆さない強盗団って触れ込みだったから、イイトコのご令嬢様の一人や二人は攫って嬲り者にしてるんじゃあないかと思って潜入してみたけど……どうやら『期待外れ』だったみたいね、誘拐された令嬢なんて影も形も無い。……いや、それより面白い話が聞けたから『
爆風の向こうから歩み出たのは、フードとマントで正体を隠した女。突然の事態に着いて来れず未だ硬直したままの強盗団に、左手に持っていた杖を向けると一言『爆破』と呟く。それだけで十分な効果が出た。
虚空から発生した爆発が、彼らを包み込む。密集していた連中はひとたまりも無く汚い花火と化した。事ここに至り、漸く状況を理解し始めた生き残り達は迎撃せんと斧や棍棒など各々の武器を構えるが、爆煙によって視界が遮られ思うように動けない。
故に、動けた者は一人―――フードの襲撃者、即ちルイズ・フランソワーズのみ。
「ぐひゃっ!?」
「な、なん―――ぎゃばっ」
「ち、チキショ……かぶっ」
白煙の中、ルイズは倒すべき敵の気配を『経験』と『勘』によって感じ取り、速やかに行動する。杖と反対側の右手には、一本のナイフ。強盗達の武具に比べれば貧相に過ぎるそれはしかし、間合いが計れず真正面からの戦闘が不可能なこの状況下ではリーチの不利を覆す。
疾風のように駆け抜けるルイズの精密無比な刃捌きによって、屈強な男たちは一人また一人と首の頚動脈を掻き切られていく。そうして煙が晴れた後に残ったのは、床に広がる血の海と骸と化した死体の山。生きているのはルイズとあと一人―――この非常時にさえ即座に対応し、何とか煙の外に脱出していた頭目のみ。
「テメェ、オレの手下どもをよくも……何が目的だ!」
(今の爆発、見た事もねえ魔法だ……とにかく今は情報が足りねえ)
仲間達を皆殺しにされ憤怒の形相ではあるが、この男は腐ってもメイジ殺しであった。手にした剣の切先はルイズに向けたまま、感情は心に埋め、冷静な思考で状況の把握に努める。
「目的? んー、最終的にはアンタ達の皆殺し……だったんだけど。今はもうどうでもいいかな」
「ンだと……!?」
心底興味なさげに言葉を返すルイズに対し、頭目の方こそ返す言葉も出なかった。
「いやさー、私の『目的』の為に『
「
「アンタ達って貴族も襲う強盗団だったんでしょ? ならどっかの貴族令嬢を攫って慰み者にでもしてないかなー、って。あんたらに『復讐心』を抱いてるだろう令嬢を唆して『依頼』してもらえれば、身分も申し分無いし、何より絶対に
語りながら、右手のナイフに付いた血糊を拭おうとするルイズ。しかし中々血が落ちないとみるやナイフをその辺に捨てて、近くに転がる死体が腰にぶら下げていた新しいナイフを代わりに拾った。そこで一息吐いて、再度口を開く。
「ま、結局そんなお嬢さんは見当たらなかったワケだけど。その代わり、もっとイイ話が聞けた……ターヌ伯爵、って言うとターヌ・ド・キツィーグ伯の事ね。せこい三下小悪党だと思ってたけど、なかなかどうして……骨がありやがるじゃないの。『動機』は十分、『身分』は期待以上。何より『裏稼業に理解がある』って点が特にベネ(良い)」
そう言うと、ルイズは頭目に杖を向けた。俄かに強まる殺気、攻撃の気配を感じ取った頭目の体に緊張が走る。殆ど反射的に地を蹴ると同時、少女から放たれる魔力を乗せた言霊が予定通りの暴走を起こす。
「『
一瞬前まで立っていた場所が爆裂するが、寸前で回避に成功。しかし息を吐く暇は無い、追撃が来る前に体勢を立て直さなくては。勢いのまま更に二、三歩を跳ぶように踏み出して、爆煙の外へ抜けると反転。じりじりと後退りつつ未だ立ち込める煙を注視、いつどこから相手が飛び出してきても対応できるよう構える。
同時に呪文の詠唱を聞き逃さぬよう、耳にも意識を傾ける。メイジ殺しとして、魔法使いの弱点は把握している。魔法の発動には必ず呪文が必須。今回の相手は見たことも聞いたことも無い魔法を、信じられない程簡素な詠唱で行使できるようだが……それでも魔法は魔法。声に出して呪文を唱えねばならない以上、その予兆は察知できる―――なら回避は可能だ。
そして頭目は自らの愛剣を油断無く握り締め、『後の先』を取ろうとルイズの動向を窺った。仮に彼女がカウンターを警戒して動かなければ、それはそれで良い。煙が晴れるのと同時に切りかかる。『襲撃者』はメイジにしては珍しく
待つこと暫し、相手に『攻め』の気配無し。ならば後は煙が消散するのを見計らうのみ……と思考を巡らせたところで、頭目は漸く場の『異常』に気付く。
(なんだ……『煙が晴れねえ』!?)
爆発からどれだけ時間が経過しても、その爆煙は一向に薄まる気配を見せない。まるでその場に固定されてしまったかのように留まり続けている。いや、これはむしろ―――
(―――『まるで』じゃあねえ、本当に『
突拍子も無い考えに引きずられ恐る恐る剣先で煙を突っつけば、確かな『手応え』が柄を掴む両手に帰ってくる。その刃の先端部は『固体となった爆風』を貫く事無くガキンと弾かれた。信じ難い事だが、何らかの理由で目の前の『爆煙』は『固形物』に
否、『爆煙』と言ったが訂正しよう。よくよく見れば、煙のみならず
「な……何なんだ、これは……魔法、なのか……!?」
「残念、『魔法』じゃあ無くて『能力』よ」
「ハッ!?」
目前の奇妙な現象に一瞬気を取られた頭目だったが、敵対者の声で我に返る。その声が聞こえてきた方向―――『上』に目を向ければ、そこには『爆発』の上に両の脚で立つルイズの姿。
「私のスタンド『ゴールデン・ボンバー』の能力は『爆発の物質化』……スタンド自体に爆発を起こす力は無いが、『爆発魔法』を自在に操れる私にとっては『おあつらえ向き』な能力でしょ?」
「すた、んど……? な、何が……」
「で、この物質化された『爆発』、色々奇妙な性質があってね……例えば、さっきアンタも試したみたいだけど、
ルイズのスタンド『ゴールデン・ボンバー』が『爆発』を掴み、思い切り引っ張る。と、まるでお雑煮のモチの如くビニャーンと伸び、一部が千切れた。それをパン生地を捏ねるみたいに練り回したかと思えば、慣れた手付きで飴細工のように成形し、一本の剣が出来上がる。スタンドを知覚できない頭目にとっては、『爆発』の一部がひとりでに剣の形になったように見えただろう。
「ね、面白いでしょう? 手品じゃあ無いのよ……だからほら、そんなぽかんとしてると」
「……ッ!? し、しまっ」
「戦闘中にぼけっと棒立ちになるなんて、全く……しょうがねぇ奴」
余りに現実離れした光景に我を忘れてしまった頭目。そんな隙を見逃すほど甘い敵では無かったというのに。慌てて剣を構えなおそうとするが、時既に遅し。爆発の上から飛び降りざまに振るわれた『爆発の剣』は、容易く頭目の首を刈り取った。
「……さて。ここは片付いた事だし、早速噂の『伯爵サマ』に会いに行きますか」
そう言うとルイズは、自分が強盗団を壊滅させた『証』として、頭目の頭を無造作に拾い上げたのだった。
※ ※ ※
「―――つーワケよ。分かった?」
「……なるほど、事情は飲み込めた。ワシは危うく騙される所だったのだな」
そして現在、伯爵は目の前のフードの女……ルイズから状況説明を受けたところだった。
事態を把握した伯爵は、しかし胡乱な目で彼女を睨む。
「それで……何ゆえ『ヴァリエール公爵の娘』が、ワシの個人的な『復讐』に手を貸そうというのだ? いや、そもそもさっきの話を聞く限り、お前はワシの事情にこだわりがある訳では無さそうだった。お前の言う『依頼人』とやらに、たまたまワシが適任だった―――という風に聞こえたが」
「その認識であってるわ。復讐でも何でも、誰かしらに対する強い『殺意』を持っている事。且つ各方面に『コネがある』……要は『身分が高い』事。そして『口を割らない』という保障がある事。それが私の求める『依頼人』の条件だった」
フードを取り、髪を掻き揚げながら語るルイズ。自分を見定めるように睨んでくる伯爵を、怜悧な瞳で睨み返すと言葉を続ける。
「伯爵、アンタの『殺意』は本物だ……『身分』も高く、裏社会への関わりもある。そして自分自身が悪事に手を染めている以上、私を『
くすり、と笑みを零す少女の姿は、傍から見れば可愛らしいのだろうが……伯爵が彼女に抱いたのは得体の知れぬ『畏怖』の念と、そして彼女になら己の『復讐』を任せられるかもしれないという『期待』。
この時既に伯爵の心は決まっていたが、最後に一つだけ確認しておきたい事があった。彼女の瞳から目を逸らさず、真正面から『一番の疑問』を口にする。それは彼女が強盗団と戦ってまで自分のような『
「ミス・ヴァリエール……いや、ルイズ君。キミの『目的』は、一体『
「『暗殺』」
はっきりと力強い声でたった一言、答えが返ってきた。その言葉に込められた気迫に気圧されてか、伯爵の額に冷や汗が滲む。
「私の『目的』―――『人生の目標』はただ一つ。この世界で最高の『暗殺者』として『栄光』を掴むこと……ただそれだけよ」
今日一番の真剣な表情で、迷い無く自らの『夢』を語ったルイズ。そのまっすぐな眼差しからは、『やる』と言ったら必ず『やる』という『凄み』が感じ取れる。
―――だからこそ伯爵は、息子の仇『ナロース侯爵親子』の『暗殺』を、ルイズに対して正式に『依頼』したのだった。
……To Be Continued→
―――これは『暗殺者』ルイズ・フランソワーズが裏社会の伝説になるまでの物語。
ちなみに筆者は紅茶とか詳しく無いっす。
『罰』の人が紅茶党でルイズ達『チーム』のメンバーは耳にタコが出来るほど紅茶雑学を聞かされてた、って設定が今思い浮かんだのでそういう事にしとく。