仁義のルイズ ~漆黒の風~   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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前話から早一年。
私は「アニメ五部始まる前までに次話を完成させる」と心に誓っていました。
そして今、私はアニオリで暗チの見せ場がマシマシだった事にとても満足しているので初投稿です。


   ※   ※   ※


前回のあらすじ
オリキャラ(子)の仇を討ちたいオリキャラ(親)がオリキャラ(野盗)に依頼した暗殺を、後から来たルイズさんが代行する事になったのでオリキャラ(標的1)とオリキャラ(標的2)の親子を殺しに行く事になったとさ。


『お仕事』を始めよう その2

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが異世界・地球にやってきたのは、西暦で言う1993年頃の事。

 この世界にやってきたばかりの頃は、彼女からすれば全くもって理解不能としか言いようのない社会や人々に混乱し困惑し、ただただ翻弄されるのみだった。

 何しろ彼女の常識、即ちハルケギニアの常識では計り知れない事だらけなのだ。この世界では貴族の権力が通用しないのは言わずもがな、魔法など空想の産物なので誰も怖がりもしない。()してや彼女は魔法成功率0%、貴族の落ちこぼれである『ゼロ』のルイズなのだから何をか言わんやである。

 爆発魔法を実演したところで、魔法を知らず科学を信じるこの世界の住人にとっては精々『テロリストの爆弾魔』扱いだろう。すぐに『ケーサツ』とか呼ばれる平民の官憲が駆けつけて、メイジなんて簡単に殺せる域まで進化した『銃』で蜂の巣にされるのがオチだ。

 

 賢しいルイズはこの世界において自分自身が『はみ出し者』であり、『つまはじき』にされるであろう事をすぐに悟った。

 

 

 

 最初の一日は、只管(ひたすら)呆然と立ち尽くした。

 それから一週間は、この意味不明な悪夢から覚めどうにかトリステイン魔法学院へ戻ろうと、持てる限り全ての力と知恵を振り絞って方々(ほうぼう)を奔り回った。

 一ヶ月が経った頃には、このタチの悪い"現実"を受け入れざるを得なくなり、絶望の中でも己の生存の為に足掻き続けた。

 そうして、一年の月日が過ぎた頃には―――既に全てを諦めながらも生きる事だけは諦め切れず、野良犬のように路上生活を続けるルイズ・フランソワーズの姿があった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 そんな彼女の運命に転機が訪れたのは1994年のイタリア・フィレンツェの街であった。

 

 当時のルイズはそこらのストリートチルドレンと何も変わらぬ格好で、もはや貴族令嬢の面影は欠片も残っていなかった。髪はくすんでボサボサ、肌も荒れ放題、服装だって拾い物の破れた古着。ゴミを漁って飢えを凌ぎ、新聞紙やボロ布で寒さを凌ぐ毎日。

 とてもイイトコのお嬢さんが堪えられる環境では無かったが、それでも適応せねば死ぬだけだ。ルイズは彼女自身もびっくりする程の逞しさを開花させ、どうにか命を繋いでいた。

 

 

 

「……これは……フライドチキンの骨。まだ身が付いてるわね、ごちそうだわ」

 

 今日も今日とてゴミ山の中からまだ食べられそうな物を探しては腹の足しにする。もはやルーチンワークと化した日課。悪臭がぷんぷんと臭うが、今更そんな事は気にも留めない。

 彼女はとっくの昔に女を捨てていた。貴族の誇りすらも。……だからこそ、受け入れられた物もあるのだが。

 

 

 彼女がチキンの骨にしゃぶり付こうとした瞬間、小さな影がサッと目の前を(よぎ)ったかと思えば、手に持っていた骨が消えている。キッと振り向けば、そこに居たのは一匹の薄汚い子犬。

 

「クゥ~ン……グルル」

 

「あ、あんた……! 私の骨をッ!」

 

「バウッ」

 

 わなわなと震えて怒りを露にするルイズを嘲笑するかのように、その犬は勝ち誇ったかのような鳴き声を上げると彼女から奪った骨をボリボリと貪り食う。

 あっという間に食べきってしまったが、この野良犬はまだまだ腹が減っているのか涎を垂らしながらルイズを―――いや、ルイズの後ろのゴミ山を睨む。

 

「グルゥゥゥゥ……!」

 

「何よ……折角のごちそうを奪った上、まだ持ってくつもりなの!? ざけんじゃないわよ、このゴミ山は私のナワバリなんだから!!」

 

 野良犬とナワバリ争いをする少女。彼女の知り合いが見れば目も当てられない、涙もちょちょ切れそうな惨状だが、この世界には知り合いなど居る筈も無いので彼女は気にしない。

 そんなことより目の前の敵をどうにかしなければならないが、彼女とてコチラに来てからの一年間を無為に過ごしていた訳では無い。今までだって、野生生物や他の浮浪児達との食糧(ゴミ)の奪い合いは飽きる程経験してきた。だから今回も、『いつも通り』に追い払うだけだ。

 

 

「バウッ―――」

 

「このッ―――」

 

 牙を剥いてルイズに飛び掛かる野良犬。対する彼女の手には、一本の(タクト)が握られていた。

 それは、魔法学院の制服も貴族の証であるマントも失って久しい彼女が唯一捨てずに持ち続けた、『魔法の杖』。貴族の娘だった頃の唯一の名残だが、別に在りし日を偲んでとか過去の見栄に縋ってとか、そんな下らない執着では無く、もっと実用的な理由からだ。

 

 

「―――『失せなさいッ』!!」

 

 

 ぞんざいに魔力を込めた、呪文詠唱ですら無いテキトーな魔法行使。当然、魔法としては失敗であるが、どうせ『ゼロ』のルイズはどんな魔法も失敗するので関係ない。そして()()()()()()()()()()()のだから、起こる結果はただ一つ―――【爆発】である。

 

「キャウンッ!?」

 

 パチン、と風船が弾けたような小さい爆発。野良犬を驚かせて立ち退かせるには十分であった。これこそルイズが杖を捨てずにいる理由。失敗(ばくはつ)魔法の利便性に気付いたからだ。

 貴族だった頃のルイズなら、『魔法の失敗』は何であれ"恥である"と捉えただろう。()してそれを利用するなど、見窄(みすぼ)らしい乞食以下の卑しい行為と断じて、思い付いたとしても実行に移さなかっただろう。

 だが今の彼女は貴族では無い―――貴族である事を捨てたからこそ、自分自身の『魔法』を受け入れ、使い(こな)せるようになったのだ。何とも皮肉な話である。

 

 ともあれ、今まで幾多の敵(野生動物やチンピラ少年等)を追い払ってきた爆発による脅しは、今回もまた威力を発揮した。野良犬はビクリと身を翻し走り去り、それを見送ったルイズは再びゴミ漁りに戻る。

 

 

「やれやれ……チキンの骨、他にも残ってないかしら」

 

 

 

 ……ここまでは何ら代わり映え無い、ホームレスとして過ごしてきたルイズの日常の風景。特筆すべき点も無い、平常の生活。

 

 

 

「グ……ルルゥ……!?」

 

「……? さっきの犬……?」

 

 

 そしてここからが、『今』の彼女の『原点(ゼロ)』となった、一つの事件。彼女にとって『新たな日常』となる、ある種の『異常』との出会い。

 

 

 ……その始まりを告げたのは、『目から血を吹き出しながら野垂れ死ぬ子犬』と。

 

「グルルォオオバアァァァァ!?」

 

「きゃああぁぁッ!? な、何!? 血!? 一体何が起きて―――」

 

 

 

「しょぉぉぉおがねぇぇぇなぁぁぁぁ……!!」

 

「―――ハッ!?」

 

 

 足元で苦悶の声を上げる、一人の『小人』―――否、『暗殺者』。

 この瞬間こそが、『暗殺者ルイズ』の初めの一歩。その出発点であった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「なーんか、新鮮な気分というか懐かしい気分というか……改めて『暗殺者としての第一歩』って考えると、あの時の事を思い出すわね」

 

 地球とは違う、二つの月が浮かぶ星空を見上げ、独り言ちる。木々を揺らす夜風が彼女の綺麗な桃色の髪をふわりと弄ぶので、手櫛で流すように整える。月明りに照らされる林間の交通路に佇み思い出に浸る少女の所作の一つ一つから、年齢不相応なまでの艶やかさが滲んでいた。

 

 

「ぐ、ぐぐゥ……!」

 

「あ、気が付いた? なら聞きたい事があるんだけど」

 

 隣から聞こえた呻き声。それに反応したルイズが見下ろした先には、一人の男性が血塗れで倒れていた。彼の上には木片や鉄板などが体を押し潰す形で乗っかっており、身動き一つ取れないようだ。特に両腕は完全に潰れており、傍に落ちている魔法の杖を拾うことすら(まま)ならないだろう。

 そんな状況だからだろうか、本来なら人を見下し蔑む表情が似合いそうな尊大な顔付きの男は、泣きそうになりながら縋るようにルイズに助けを乞う。

 

「だ、誰だよオメー……助けてくれよォォ~~~オレゃ何にもしてねーんだ……なのに突然馬車が爆発してよォ~~~! 体中血塗れで痛ぇんだチクショウ、御者のヤローはどっか行っちまうしよォ~~~、助けてくれェェ~~~~」

 

「っさいわね、一々説明されなくても知ってるわよ、()()()()()んだから……つーか御者ならアンタの()に居るっての」

 

「な、何ぃ……ひっ!? ひぃええぇぇぇぇ!!」

 

 面倒臭そうに告げられた言葉の意味を理解するより先に、彼の上に折り重なっていた馬車の残骸が崩れ、その間から惨死した人間()()()()()が零れ落ちた。

 随分と情け無い声で喚くものだが、ぐちゃぐちゃに潰れた顔面、というか肉塊がすぐ隣に落下してきたらそりゃあビビるし、千切れ飛んだその眼球が口の中に入ってきたら、確かにどんな豪傑だろうと『ゾゾッ』とするだろう。

 

「うえぇぇぇぇッッ、キモチワリィーーーッ離れろ! 離れろぉ!! うぁぁ何でコイツこんな近くに居ンだよぉ~~~」

 

「うだうだ騒ぐな鬱陶しい、アンタが掴み寄せて盾に使ったんでしょーが……それよりちょっと質問があんの。アンタの父親の事なんだけど」

 

「あっそうだテメー、あの爆発お前がやったっつったか!? どういう事だオイ、オレを誰だと思ってやがる! たかが小娘一人、親父に言いつければ簡単にあの世に―――」

 

 混乱しながらも男はルイズにがなりたてるが、それは彼女の反感を買うだけだった。感情を全く映さない瞳で足元の五月蝿い野郎を見下ろしながら、手に持った『不思議な材質の刃物』―――『爆発』を能力で固めて作ったナイフを、男の肩口に突き立てる。

 

「ギニィヤァァァァーーーーーー!!?」

 

「うだうだウッセェーってのよボケ!! 質問してんのは私だッお前じゃあ無い!!」

 

「ぐぎゃあッッ!?」

 

 グリグリと抉るように傷口を広げ、男に口答えする気力が無くなったのを確認すると、爆発のナイフを上から思い切り踏みつけて肩を貫通し地面に縫い付ける。

 息も絶え絶え、反抗の気力も無くして歯をガチガチと噛み鳴らしながら涙をボロボロ流す男の姿を眺めながら、ルイズは懐から『マッチ棒』と『能力で小石程度の粒状にした爆発の欠片』を取り出し、見せ付けた。

 

「はいっ注目~~♪」

 

「……っ?」

 

 先程までのドスの効いた声から一転、爽やかな微笑みを浮かべながら猫撫で声で話しかけられ、むしろ不気味に感じ戸惑う男。その視線が『爆発の欠片』に向くのを待ってから、それを地面に落とす。

 次いで、マッチを擦るとジャッという摩擦音と共に発火、夜の林道に灯る一点の火。

 

「んー、()()()にはライターが無くて不便よね……発明が遅れがちなのは魔法が便利過ぎる弊害か。まっ、それはさておき……」

 

 呟きながらマッチを手から離せば、火は重力に任せて落下し……先に落ちていた爆発の小粒にぶつかった。

 

 

 ―――瞬間、小規模ながらも確かな破砕力を持った()()が発生し、ザバッと砂を巻き上げる。

 

「―――と、まあこんな具合に、私の『ゴールデン・ボンバー』が固体化させた【爆発】は、それ自体が『()()』としての性質を持つのよね」

 

「んなっ、なっ、なっ……!?」

 

「つまり何が言いたいかってーと」

 

 ニタリと悪どい笑みを浮かべたルイズが次に取り出したのは、細く短い『蝋燭(ろうそく)』。それを彼女は男の肩を地に縫い止めるナイフの上に―――さっきの小粒とは比べ物にならない程大きな『爆発の塊』の上に設置し、火を付ける。

 

「う……うわあああああああァァァァッッ!!」

 

「アンタの余命はあと少しだって事よ……『オービニェ侯爵子息』」

 

 デロデロと音を立てて溶けゆく蝋燭(ろうそく)は、もはや足掻く体力も残っていない男―――オービニェ侯爵子息の残りの寿命を示していた。

 ちなみにこの男の名はジージュ・ノマ・ド・タイロ・ラ・オービニェ……なのだが、暗殺難度から言って本命のターゲットは父親のナロース侯爵の方である為、ルイズはこいつの名前をド忘れした。よって侯爵子息と呼んでいる。所詮その程度の雑魚だ。

 

 

「な、何だお前何なんだよっ!? どうしてオレをこんな目にィィ~~~~い!」

 

「私はルイズ、『暗殺者』よ……キツィーグ伯爵の件で『復讐』を依頼された、って言えば心当たりはあるでしょう?」

 

「き、キツィーグ……あの生意気ヤローの親父かぁ!? まっ待て、あれは金積んだオレより成績が上だったあんにゃろーが悪いんだ! オレは積んだ金の分だけの『正当な地位』を貰っただけでッ! 賄賂も裏金も、1ドニエだって払ってねーのに首席で騎士になろうとしたあのクソ生意気な素寒貧がそもそも悪ィんだ!! ―――ガッ!?」

 

「うっさい」

 

 恐怖と焦燥に駆られながらも、どこまでも自己中心的な言い訳を展開する侯爵子息。だが聞かされる側にとってはただウザいだけだ。トチ狂ったラジオのようにクソの役にも立たない事ばかりベラベラ吐き出す口を、蹴りで強引に閉ざす。

 

 その振動で蝋燭(ろうそく)がグラリと震え、彼は一瞬青ざめた様子だったが、火は零れ落ちずに蝋燭(ろうそく)も倒れはしなかったので安堵の息が漏れる。と同時に、目の前の少女にはどうあっても逆らう事は出来ないと心の底から理解した。

 

 

「やぁっと静かになったわね。漸く本題に入れるわ……尋ねたいのはアンタの父親、ナロース・ケイ・ド・タイロ・ラ・オービニェ侯爵の事よ。只のドラ息子のアンタと違って、曲がりなりにもそれなりの地位にある侯爵なら警護も厳重でしょう? で、面倒だからアンタに聞きたいのよ……『侯爵が一人になるタイミング』。知ってる事を吐いて―――」

 

()()()!! 毎日夜寝る前、親父は自宅の庭園に出て月を眺めながらワインを嗜む! その時だけは警備も付き人も遠ざける! 侯爵邸の安全性を知っているからだ! だからもし潜り込めれば逆に()()が隙となるッ! そこが狙い目だッッ!!」

 

「……即吐いたわね。根性無さ過ぎない? まあ私としては助かるけど。ついでに聞くけど、侯爵の使う魔法―――」

 

「親父の得意呪文は『ヘビィ・アトモスフィア』、親父が編み出したオリジナルスペルだ! 風と水の複合トライアングルスペル! 発動の為に、一般的には火の魔法に使われる"燃焼補助の秘薬"が必要だけど、親父は常に持ち歩いてる! 魔法の仕組みは親父しか知らないが、周囲の空間に『目に見えない瘴気』が充満して範囲内の生物は徐々に体が麻痺、目から血が噴き出して最終的には死に到るッ!! ……な、なぁ、こんだけ喋ればもういいだろ? 早く助けてくれよォォーーー死んじまうよォォォーーーーー」

 

 拷問されてるとはいえ、実の父親の致命的な情報をベラベラと喋る息子。親の命より我が身が可愛いらしい。それだけルイズに対する恐怖が深く刻まれた、という事だろう。

 ……いや、それでもこの罪悪感の無さを見るに、元から父親の事はあまり大事に思ってなかったのかもしれない。むしろ『うまく始末されちまえば領地も爵位もオレのモノだな、ラッキー』くらいの事は考えていそうだ。

 

 

 ―――まっ、そんな事、彼女にとっては全然関係無いのだが。

 

 

「なるほど……参考になったわ、そういう事なら早速侯爵邸に向かわないと。うまくすれば今夜中に終わりそうね」

 

「おっオイ、何一人で立ち去ろうと……全部教えたんだから俺の命は助けてくれるんだろ!?」

 

 

「……はぁぁーーー???」

 

 男に背を向け立ち去ろうとすると、後ろから焦り喚くような命乞いが投げかけられた。

 が、彼女に言わせれば『何言ってんだコイツ?』って感じの戯言だ。目線だけで振り向いて、呆れ声で答えた後、冷酷な声音で残酷な事実を告げる。彼女にとって最も思い出深い、(かつ)ての仲間の口癖……今や彼女自身の口癖にもなった言葉と共に。

 

「本ッ当、しょおおおがねえなぁぁ~~~……私は『情報を吐け』とは言ったけど『助けてやる』とは一言も言ってないわよ? っつーかアンタも標的(ターゲット)の一人なんだから、どの道死んで貰わなきゃ困んのよ。何を勘違いしてたのか知らないけど、まあ残念だったわね」

 

「なッ―――!?」

 

「でもま、私も鬼じゃあ無いし。口が軽かったお礼として、せめて楽に逝かせてあげる」

 

「えっ、ちょっ」

 

 言うが早いか、彼女のスタンド『ゴールデン・ボンバー』は蝋燭(ろうそく)を蹴り倒し、その火は固まった爆発の上に落ちる。直後、その塊は爆薬としての性質を発揮し、その場に落ちていた馬車の瓦礫ごと侯爵子息を粉々に吹き飛ばした。

 

 月明りを掻き消すほど強烈な爆発の閃光。響く爆音に樹上で寝ていた小鳥達も驚き飛び立ち、草の間を小動物が逃げ惑う音がする。そんな中、一人静かに、落ち着き払った足取りで平然と歩みを進めるルイズ。

 去っていくその背を炎が赤く照らし長い影を作るが、それも僅かの間。燃焼しきった爆炎はやがて消え、林道には元通りの静寂が戻ってくる。

 

 

(……それにしても、オリジナルスペル『ヘビィ・アトモスフィア』……『目に見えない』、『体が麻痺』、そして『目から出血』―――いよいよ以て()()()の事を思い出してきたわ)

 

 侯爵の屋敷へと足を向けつつ、想起するのは彼女と『暗殺者』との……そして『スタンド使い』との出会い。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 いつもの裏路地、いつものゴミ山。だがいつも通りでないのは"目から血を流して"突然死した子犬の亡骸と、そして足元で苦しむ背丈十数センチ程の『小人』。その混乱の真っ只中、日常と非日常の境界線上に立たされたルイズの心中は、存外に凪いでいた。

 混乱が限度を越えて押し寄せた結果、一周回って落ち着いてしまったのだ。或いはあまりの事態に頭が追い付かず、夢でも見ているかのように現実感が無くなったと言うべきか。

 

 ともかく、ルイズからして見れば状況は不明瞭。何か『マズい事』が起きているようではあるが、このままではどう動くのが最善かも分からない。かと言って、ルイズが一人であれこれ思い悩んでも現在置かれた状況を理解できるとは思えない。

 よって、彼女はとりあえず一番手っ取り早い解決策を試すことにした。状況が分からないなら、()()()()に聞けば良いのだ。

 

「ね……ねえ……ちょっと、そこの……『小人?』さん? これは一体どういう……」

 

「……あ? 何だ……女の声? くッ……ハァ、ハァ……血の所為で、よく見えねぇ……ガキか? 畜生、俺とした事が……ハァ……『仕事』中に、()()……されちまう、とは……しょうが、ねえ……なぁぁ……ぐっ」

 

 言葉が通じて意思の疎通も出来そうな『小人』に話しかけてみたルイズだったが、当の小人はそれどころでは無さそうだ。子犬同様に目から出血しており、視界が狭まってすぐ隣のルイズにも気付かずに居たらしい。

 だがその小さな男は、漸くルイズの存在を認識したにも(かかわ)らず、ぶつぶつと独り言を呟くばかりで彼女の言葉に応える素振りも見せない。彼にも何らかの事情が有るのは当然だろうが、それにしたって何か一言くらい反応してくれても良いではないか―――と、多少腹を立てたルイズが文句の一つも言ってやろうと口を開きかけた時、自身の不調に気付く。

 

 

「―――あ、れ……?」

 

 

 ふらり、と立ちくらみのように眩暈(めまい)を覚え、バランスを崩して尻餅をついた。慌てて立ち上がろうとするも、手足の末端が痺れるような感覚がして、うまく体を起こせない。それに何だか、目も充血してきたように思える。

 

「い……一体何が……」

 

「……おいガキ、テメー……ひょっとして、俺と同じ症状か? さっきまでピンピンしてたってのによォーーー」

 

「え……」

 

「いいから答えやがれッ『手足の先が麻痺して』『目から出血』してんのかって聞いてんだ!!」

 

 困惑気味の彼女に話しかけてきたのは、今まで無関心を貫いてきた小人。とはいえ倒れたルイズを心配してる風でも無さそうで、じゃあなんで急に……と言葉に詰まると、切羽詰まったように答えを急かしてくるので、咄嗟に答えを返す。

 

「そ、そうよ! 目は出血というか、充血してるだけだけど……」

 

「へ~え? そうかよ……"俺より先"にこの場に居たガキは、症状が出んのが『遅かった』って事か……だが転んだ後は症状が一気に進行した……」

 

 問いに対する返答を聞いた小男は、再び独り言を呟きながら思考の海へと没頭する。

 放置されたルイズは何が起こっているのか分からないながらも、今の彼に話しかけるのは躊躇われた。それは単純に身体を動かすのが辛いというのもあったが、それよりも彼から鬼気迫るような……何というか『凄み』を感じたから、という理由の方が大きかった。

 

 

 

 だから次に彼に言葉を掛けたのは、ルイズでは無く『第三者』であった。

 段々動かし難くなる身体をどうにか操り、漸く壁伝いに中腰のような姿勢になろうかという所で、どこか上の方から嘲るような声が響く。

 

「んん~~~……さっきよりチビになってるのかぁ? 道理で見つからねーワケだ。全く逃げ隠ればっかり上手い、下らねえスタンドだなあ、え? ……とはいえ、見つけちまえばこっちのもの、もう二度と目は離さないぜ……尤も俺のスタンド能力ならその必要も無いがな」

 

「だ、誰……?」

 

「……ちっ、追い付かれたか……しょうがねえなあ~~~」

 

 声の方へ振り返れば路地の奥、高台の上の公園の裏手へと繋がる階段の上に、パジャマを着た男が立っていた。何故か腹と胸元、腰回りの部分が大きく空いた露出度の高いパジャマを着た見た目は間抜けな男だが、その相貌は凶悪そのもの。鋭い眼光と牙を剥くように笑う口元からは、隠し切れない殺意が滲んでいる。

 

「さーてチビ助よォ、テメー何所の組のもんだ? いや言わんでも分かる、パッショーネだろ? 大方、最近右肩上がりのウチの組を脅威に感じて潰しに来たんだろーが……この俺サマが用心棒として雇われてたのが運のツキさ。ダンナにゃ指一本触れさせないぜ、三流暗殺者(ヒットマン)よぉ!」

 

(パッショーネ、って……聞いたことあるわ。この国の国家機関よりも強大な力を持つ()()()()!!)

 

 今にも崩れ落ちそうな体を震える足で支えながら、隣で四苦八苦しながらゴミの山をよじ登ろうとしている小人をそっと見遣る。あのパジャマ男の言を信じるなら、コイツはそのパッショーネの一員、それも敵対組織の要人を狙った()()()らしい。

 

(そしてあのパジャマの男もギャング……こっちはパッショーネと敵対する側。なるほど話が見えて来た、要するに私はギャング同士の抗争に偶々巻き込まれてしまった、と。なら今起こってる現象もアイツの仕業? どういう原理かは全く分からないけど、"すたんど能力"ってアイツは言ったわね。この"地球"で使われてる『科学』とは別物に感じるけど……どちらかというと『魔法』に近いような……)

 

 

「……ああん? そういや隣のガキは……ふん、運の悪い浮浪児か。可哀想によう、偶然居合わせただけだろうが『目撃者』なら殺っちまわねーとなぁ!! く、ふふ……今日まで健気に惨めに生き延びてきたろうに、こんなロクでも無い最期を迎えるなんて、哀れだなあ~~~」

 

 ルイズが思考している間に、彼女の事など眼中に無かったパジャマ男も漸く薄汚い小娘の存在に気付いたらしい。にたにたと嫌らしい笑みを浮かべて彼女を眺めていたが、すぐに哄笑へと変わった。

 

「アッハッハッハハァァーーーーー!! 哀れな弱者を見下してやるのは最ッ高にイイ気分だぜ~~~♪ 無力なゴミ共を眼下に眺めながらジワジワ嬲り殺すのは本当に楽しいねェ!! パッショーネのチビも浮浪児のガキも仲良くあの世に行っちまいなァァーーー!!」

 

「ひっ……!?」

 

 醜悪な嘲笑と共に向けられたのは、ルイズにとって生まれて初めて体験する『ホンモノ』のドス黒い悪意と殺意。地球に来てからの一年で過酷な環境には慣れたとはいえ、ここまで明確で鮮烈な殺気を叩きつけられた事は無かった。

 それと同時に、彼女は一瞬……ほんの一瞬だけ、階段の上に立つ男の体から半透明な『人型の何か』が飛び出して来たように感じた。それはルイズが感覚の目で僅かに捉えた彼のスタンドであり、近い将来『ゴールデン・ボンバー』を発現させる彼女のスタンドの才の片鱗であったが、今の彼女には分からなかった。

 よって、俄かに湧き上がり心中を埋め尽くすのは『恐怖』。目撃したものの意味を理解する事は無くとも、いや意味が理解出来ないからこそ、その脅威は剥き出しの感情として彼女の心を蝕む。そもスタンドとは精神力の具現であり、意志の表象。理性では判断が付かずとも、感覚的・本能的に『アレは自分を殺すモノだ』という事を感じ取れたとて不思議は無い。

 

 

 ―――故にこそ、彼女は隣で冷静に分析を進める『小人』の呟きをも聞き流して―――

 

「そう、()()だぜ……俺が気になってんのはよォーーー、コイツは()()()()()()()()()()()()……さっき初めてコイツと遭遇した時も、高台に立って俺を()()()()()()。奴は『上』に居て俺が『下』だった……そして犬や小さくなっていた俺よりも背が高いこのガキは発症が遅く、しかし体勢を崩して転んでから症状の進行が早まった……この場合重要なのは『高さ』だぜ。『高けりゃ安全』で『低けりゃ危険』だ。その上、俺は発症するまで攻撃されている事にすら気付かなかった。それはこの『毒』が『不自然な物』じゃあ無いからだ。『自然に存在する毒』、それが攻撃の正体だとすれば―――」

 

 

 ―――無意識のうちに、悲鳴に魔力を込めて杖を振り―――

 

 

「い……『イヤァァァァッッ!!!』」

「な―――」

「だとすれば―――?」

 

 

 ―――『爆発魔法』を、()()()()()()()レベルの威力で炸裂させたのだった。

 

「ああああああッ!?」

「なにィィィィーーーーー!?」

「この『爆発』はッッ!?」

 

 

 

 ……To Be Continued→




俺「イタリアのギャング、それもスタンド使いのオリキャラ……」

俺「……うん、変態ファッションさせなきゃ(使命感)。でもどんな服なら……」

俺「……パジャマだ(名案)。穴空き露出仕様パジャマを普段着にしよう(悪魔的発想)」


   ※   ※   ※

さて、次の投稿はいつになるやら。
何ならまた来年の更新になる気がしなくも無い。
ま、焦ってもしゃーないしココ・ジャンボ並みの更新速度で行きますか。
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