『TDD-1建造』相良宗介、軍曹から提督へ   作:ローファイト

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第十五話 摩耶と鳥海

深海棲艦超大規模部隊によるメリダ島包囲網は、覚醒したテッサ(将官服バージョン)とテッサの艤装ダーナの活躍で全ての敵を轟沈させ、大勝利に終わった。

神通をはじめメリダ島の艦娘達は絶体絶命のピンチから解放され、緊張の糸が解け、誰もがホッと胸を撫でおろす。

 

 

その翌日、神通は油断していた。

 

「うわあああああああ!」

提督の寝室から叫び声が響く。

 

「むにゃ~、さ~がらさ~ん。そこは魚雷発射管です~、上部装甲甲板を撫でてください~」

宗介のベッドにまたしても潜り込み、上下の下着に薄手のシャツ一枚とあられもない姿で気持ちよさそうに寝息を立てながら、わけわからない寝言を言っていた。

 

「完全に油断してました。すみません相良提督!テッサさん、何度も何度も口酸っぱく言っておりますが、提督の寝所に潜り込んではいけません!」

大きな足音が近づくと同時に、扉が勢いよく開く。神通が肩を上下させ、息も荒い。どうやら全力疾走でここまで来たようだ。まずは、壁を背に多量の汗を顔面から噴き出している宗介に謝り、そして、ベッドの上のテッサに手を掛け揺すり起こすのだが、いつも通り一向に起きない。

 

ベッドの上で気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てているテッサの姿は、昨日、敵深海棲艦を一方的に蹂躙しつくした凛々しい姿は、もはやそこには無かった。

 

遅れて川内が寝室に入り、いきなり寝ているテッサの首根っこを掴み、無理矢理ベッドから引きずりおろす。

「はいはい、毎度懲りないわね。この子は……提督もいい加減になれたら?」

 

「慣れてもらったら困ります!」

神通は川内に抗議する。

 

「イタッ……あれ?相良提督は?……あっ、また川内さんがいじわるする~」

テッサは漸く目が覚める。

 

「はいはい、帰ろうかテッサ」

川内は慣れた手つきでテッサを引きずって行く。

 

「いや!離して下さい!提督~相良さん~助けて下さい」

こうしてテッサはいつも通り、寝室から退場して行く。

 

「相良提督……申し訳ございません」

神通は再度宗介に謝る。

 

「う……うむ、何か対策を取らねば……」

汗を掻きながら呻くようにそう言う宗介。

 

どうやら、昨日の凛々しいテッサはもういない様だ。何時ものテッサに戻ってしまっていた。

 

 

 

 

午前、宗介は司令官室兼執務室で、早速昨日の戦闘結果の報告を神通から受けていた。

「先日の敵深海棲艦、414隻、別動隊の潜水艦隊、24隻合計、438隻轟沈。すべて、テッサさんの功績です。さらに、ハワイ、サイパンを壊滅、硫黄島及び小規模泊地2の資材集積所以外をすべて破壊を確認いたしました。これもテッサさんの功績です。これほどの功績は世界を見ても類を見ません。一隻の艦娘が、10年費やしても難しい戦績をわずか半日もかからずに成し遂げました」

 

「うむ、此方の損害は?」

 

「皆無です」

 

「重巡摩耶と鳥海の様子は?」

 

「重巡鳥海は既に回復しておりますが、リンク切れが原因で艦娘本来の力が出せないようです。また、重巡摩耶は現在も尚、入渠施設で回復を行っており、本日中には回復するそうです。両足欠損も、この鎮守府の入渠施設は回復させることが可能なようです。これはひとえに相良提督が提督としての資質が高い事が影響しているものと判断いたします」

 

「そうか……では回復を待って、二人には正式に会おう」

 

「……提督、ただ喜んでばかりはいられません」

 

「何か問題でも?」

 

「昨日の戦闘でテッサさんの資材補給を行った結果、メリダ島の備蓄3分の1が消費されました」

 

「なっ……メリダ島は元々資材が豊富にあるはずだ。それでもか……昨日の戦闘を確認し、ある程度予想はしていたが……」

 

「はい、テッサさん本人の燃料は殆ど消費しておりません。何でも、半年補給が無くとも連続稼働が可能だとか……問題は艤装兵装の弾薬・鉱物資源と次に艦載機の燃料です」

 

「……やはりか…ダナンはパラジウムリアクターが搭載され燃料補給は殆ど必要ない。ダナン用のパラジウムやAS発電用のパラジウムの備蓄は有に3年はある。問題はミサイル群だな……」

 

「はい、昨日の戦闘ではミサイル群の消費は艤装ダーナに搭載されている全量の四分の1にも満たないそうです。もしすべて消費した場合、メリダ島の備蓄量では追いつきません。兵装の性質は全く異なるため一概には言えませんが、資源価値として大凡大和型の100倍は消費するようです」

 

「……そうか、しかしそれだけの戦果に見合う、いや、それ以上の圧倒的な戦果を上げられるのだから、仕方がないか……」

 

「これからのテッサさんの運用には細心の注意が必要ですね」

 

「ふむ、それを見越して、硫黄島及び小規模泊地にある敵資材集積場を破壊せずに残したのだろう……。早速だが、資材を頂きに行くか……テッサの艤装ダーナならば多量に資材を積めるだろう、攻撃さえしなければ、運行のみだと資材もほぼ消費しない」

 

「テッサ及び川内と早霜、清霜を呼んでくれ」

 

「了解しました」

 

 

 

しばらくし、川内、そして早霜、清霜が司令官室に来る。

テッサはなぜか提督机の下から這い出てきて、宗介にくっ付こうとするが、川内にむんずと襟首を掴まれ横に整列させられる。

「うむ……テッサ、硫黄島及び小規模泊地2箇所の、敵資材集積場の資材を早速取りに行こうと思うのだが、どれくらいの時間がかかるだろうか?」

 

「嫌です~」

 

「…何が不満なのだ」

 

「だって、相良さんが一緒に来てくれないからに決まってます~、絶対嫌です~」

テッサは両頬を膨らませ、わがままを言う。

 

「テッサさん、提督はお忙しいんです」

「ぶーぶー、私が出ている間、神通さんが相良提督を独り占めです~、自分ばっかりずるいです~」

神通はテッサに注意をするが、テッサは不満たらたらである。

 

「独り占めなどいたしません。それに私の役目は提督のサポートです」

神通は若干顔を赤らめながらテッサに抗議する。

 

「テッサ、聞き分けてくれ。次の機会には同行する」

 

「ムムムム、絶対ですよ!!嘘ついたら、ダーナに閉じ込めちゃいますよ!!」

宗介のこの言葉で、テッサはしぶしぶだが、資源回収輸送任務に川内達と就いてくれるようだ。

 

「話を戻す。テッサ、ダーナの運行能力であれば、硫黄島を含む、三島すべての資源回収にどのくらいの時間を要するのか?」

 

「うーん、艦載機や輸送ヘリを半分おろして、上部甲板にも、資源を積めば、1回の輸送ですべて回収できますが……それでも2日ですね」

 

「そんな短期間で可能なのか?流石だな」

 

「エッヘン!」

テッサは自慢げに胸を張る。

 

 

 

 

 

そして、テッサ、川内、早霜、清霜は、早速、資源回収任務のため硫黄島に向け出発した。

テッサの艤装ダーナに乗っているため、川内達に疲労はない。

 

ダーナの発令所では……

カーキ色の女性用将校服をまとっているテッサが艦長席に座り、川内がその横で立っていた。

「……あんた、本当にテッサなの、まるで別人ね」

 

「そうでしょうか?わたくしはわたくしなのですが」

 

「ふ~、まあいいわ、深海棲艦に出くわしてもテッサは戦闘しなくていいから、戦闘はこっちで受け持つわ。もっとも、出くわしても艦隊から外れた野良だろうしね」

川内は淑女然としたテッサの様子を見ながら、ため息を付く。まだ、この姿のテッサになれていない様だ。

テッサは今資源回収任務では戦闘行為の一切を禁止されている。もちろん資源消費を避けるためだ。偵察機の発艦のみ許可されている。もし、深海棲艦に出くわしても、川内達にまかせるか、振り切るようにとの事だ。

ただ、この海域の敵艦隊は先日、テッサが徹底的に壊滅させたため、出くわすとは到底思えない、もっとも、スーパー潜水艦であるテッサに追いつける深海棲艦など居ようもないが……

 

 

硫黄島についてから、資源回収に、川内達の役目はほとんどなかった。

着岸したダーナから、次々と人サイズ(5分の1)のASが12機と妖精が運転するトラックが資源回収、運搬に出て行き、川内達がいるとかえって邪魔なだけだったのだ。

「ウルズ2・6・7は、北側弾薬庫、デーポ1とウルズ3・4・9・10は南側資材を運搬」

こんな感じでテッサがダーナから指示し、あっという間に回収作業が終わる。

 

川内達は、それをただ見ているだけしかできないでいた。

 

そんなこんなで、残りの小規模泊地の資源も滞りなく資源を回収していった。

 

 

 

その頃、メリダ島では、

「高雄型3番艦重巡摩耶様だ!助かったぜ!ありがとな!」

「同じく、高雄型4番艦鳥海です。助けていただいてありがとうございます」

回復した摩耶と鳥海が司令官室に訪れていた。

 

「改めて自己紹介をする。メリダ島鎮守府提督相良宗介だ。君たちを歓迎する」

 

「うわ、お前が提督だったのか、しっかし若い提督だな~」

摩耶はまじまじと宗介の顔を見る。

 

「摩耶、提督に失礼よ……あの相良提督、神通さんからは大凡の事は聞いておりまが、ここは日本直轄地でも同盟国でもなく、本当に独立した勢力なのですか?」

 

「うむ、確かに独立した勢力ではあるが……このメリダ島鎮守府はつい3か月前に出来上がった生れたばかりの勢力だ。独立も何も、他国との接触が無い上、地球上のどの国からもここを勢力として認識されていないだろう」

 

「……で、なんでそんな新米勢力の秘書艦を日本国の大エース様がやっているんだ?」

摩耶は神通に対し皮肉じみた言い方で質問をする。

 

「私達、元第六偵察艦隊は、現在、相良提督率いるメリダ島鎮守府に所属しております」

 

「なっ!おまえ、裏切ったのか!?何故だ神通!」

 

「……私達は、日本国から亡命しました」

 

「お前!!神通達に何をした!!」

摩耶は宗介の胸倉を掴む勢いで詰め寄るが、さっと神通がそれを遮る。

 

「摩耶さん、勘違いしないでください。私達は自分たちの意思で提督の麾下にはいり、艦娘としての使命を全うすべく働いております。

私達はトラック泊地自爆後、本土に帰還すべく深海棲艦の追撃を逃れておりましたが、弾薬、燃料もつき、風前の灯火だったところを相良提督にお救い頂いたのです。その後、帰還の目途が立つまで滞在を許可して頂いておりましたが、相良提督の人柄や行動力に胸を打たれ、末席に加えて頂き、今にいたっております」

 

「お前、日本に帰るつもりはないのか?」

 

「はい」

 

「摩耶、冷静になって……相良提督にお尋ねします。なぜ私達を助けにきてくれたのですか?」

鳥海は摩耶を元の位置まで連れ戻し、改めて宗介に問うた。

 

「うむ、神通達の元同僚であったのでな、純粋な感情の下救助したのもある。ただそれだけではない。正直な話、このメリダ島鎮守府は人手不足だ。あわよくばスカウトしようと思っている」

 

「ふん!もう化けの皮がはがれたか」

 

「私達が拒否したらどうするつもりですか?」

 

「日本国に返す。ただ、現在、日本国と国交がないため、しばらくは時間がかかると思う。現在硫黄島までの航路は開けている。そのまま返すだけならば、小笠原まで返す事が出来るだろう」

 

「なぜ、そこまでの事をしていただけるのですか?」

 

「単純に他国と事を構える気が無い、飽く迄も敵は深海棲艦だからだ。無理矢理残ってもらっても士気にかかわるならば、同じく深海棲艦を敵にしている国に帰す事は此方としても有益だからだ」

 

「なるほど分かりました。では、私達に何を欲しますか?」

鳥海は顎に手をやり、何か考えた後、宗介にこんな質問をする。

 

「一緒に深海棲艦と戦ってほしい」

宗介はその一言だけを言う。

 

「鳥海!何を言っている?」

鳥海の問いは明らかに、宗介との交渉のテーブルに乗った意味を示していたため、摩耶は鳥海を止めようとするが……

 

「摩耶は黙っていて……提督、その見返りは?」

鳥海に制され、交渉が続く。

 

「君たちに、それなりの待遇を用意する。詳しくは神通……」

 

「はい、メリダ島の艦娘宿舎は一流ホテルよりも設備が整っております。高級感あふれる部屋をご用意しております。ただ、食事は当番制となっております。お給金はでますが、使えるところは皆無な上、使う用途は今の所有りません。基本的な生活必需品は無償で用意されております。

福利厚生も充実しており、簡単なスポーツなどが出来る施設も存在。ゲームなどが多数存在しております。屋内プールなども設計されております。

シフト制で休日は設定されておりますが何せ人手不足なため、休日返上しているのが現状です」

神通は淡々と説明をする。

 

「……まるで、人と同じ扱いですね。しかも、本国の尉官よりも待遇が良いようです」

鳥海は目を丸くしその内容に驚きを隠せないでいた。

 

「鳥海!騙されるな!!そんな事があるはずがない!!」

摩耶は憤る。通常ではあり得ない待遇だからだ。

 

「相良提督は艦娘を特別視しません。それは妖精さんに対してもです。だからなのでしょうか、待遇はすべて同じです」

神通は憤る摩耶に冷静に話す。

 

「そんな事があるはずがない!あたしたちは兵器だ!」

 

「また、当鎮守府は艤装のみを一から作成することが出来ます。私の戦闘服もそうです」

 

「なに!!それは……失った艤装を再度作る事が出来るという事か?」

 

「はい、性能は段違いに良くなります」

 

「摩耶、貴方は艤装を失い。そして足も失っていたの……仮にその状態で本国に戻ったところで、処分されるだけよ。この鎮守府で足も修復してもらったでしょ?それに艤装も新たに作ってもらえるかもしれないのよ?私達は既に、日本国とはリンクが切れ、艦娘としての能力が全く発揮できない。まさしく人間の女性とかわらないわ。あの大エースで真面目一直線の神通が全幅の信頼を寄せている提督よ。悪い人間なわけがないと思わない?まあ、神通はそれだけじゃなさそうだけど……それと、ここの妖精さんの数は尋常じゃないわ。しかも大きい。提督としての素質も凄まじい物を感じるわ。どう摩耶?私達もここに所属しない?」

鳥海は摩耶を理路整然と説得にかかりだす。

 

「だってよ~、日本国を裏切ることになるんだぜ。あたしはどうせ処分される身だからいいかもしれないけど、鳥海がわざわざそんなリスクを負うなんてよ」

 

「私は提督が初めに言った言葉で決めたの。『一緒に深海棲艦と戦ってほしい』って言葉に。そんな事を言った提督は今まで居なかったわ。実際、提督自ら危険を顧みずに私たちの救助にきてくれたでしょ?あと、摩耶は前の鎮守府で愚痴ばっかり言ってたじゃない、あのエロ提督だとか、ハゲ提督とか」

 

「だってよ~、あのエロおやじ、私や鳥海の胸ばっかり見てくるんだぜ?まあ、この戦闘服自体が露出が高いから仕方がないけどよ~だからってわざわざエロい目で見るこたーねーだろ」

 

「だったら問題ないじゃない」

 

「でもよー」

摩耶はまだぐずっている様だ。

 

「摩耶は眠っていて分からなかった様だけど、ここの鎮守府の艦娘だけで、あのトラック泊地を自滅に追い込んだ深海棲艦の超大艦隊を一瞬で壊滅させたのよ」

鳥海はさらに摩耶の説得を続ける。

 

「げっ!!まじかよ」

 

そして、神通は摩耶にとどめを刺す。

自らの新艤装を装着し、説明しだしたのだ。

 

「すげーーーーーー!!対空ミサイルってなんだ!155mm砲!しかも、最大射程144㎞って!!おい神通これはなんだ!?」

摩耶のテンションは一気に上がる。

 

「摩耶さん、私も艤装を失って、これを新装して頂きました。摩耶さんにもきっと気に入っていただける艤装を作っていただけますよ」

 

「鳥海!!あたしは決めた!!……提督、あたしにも新艤装作ってくれるんだよな!!」

摩耶は高いテンションのまま、そんな事でメリダ島入りを決定した。

 

「……肯定だ」

 

そんな摩耶にも文句も言わず対応する宗介に鳥海は申し訳なさそうに目くばせをし、黙ってお辞儀をする。

こうして、摩耶と鳥海はメリダ島鎮守府にめでたく所属することになった。

 

 

 

 

 

その頃、テッサ達は、順調に資源を回収をしていたのだった。

妖精達による電波塔や防衛設備の設置。

ダーナ搭載の5分の1ASと輸送トラックとヘリが資源を次々と回収する。

川内達もようやく自分たちの役割を見つけ、島内の状況調査を行っていた。

 

テッサは資源回収という任務だけでは済ませなかった。

この、将校服を着こんだ(真?)テッサは、次の一手を考えていた。

偵察機を出し、ここら一帯を再捜索していたのだ。

それで分かった事は、摩耶や鳥海達以外に島で孤立している艦娘が複数生存している事が判明。連れて帰る事を画策していた。

取り合えず計画書をメリダ島に送るのであった。

 

また、発令所のスクリーンに映し出されている地形とソナー反応と海図を見ながら、資源対策を考案していた。

奇しくも、宗介が前々から資源対策として一考していた事と同じであったが、現戦力ではどうにもならないため、お蔵入りになっている事案であった。




摩耶と朝霜って結構気が合うような気がしてきました。

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