『TDD-1建造』相良宗介、軍曹から提督へ   作:ローファイト

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誤字脱字報告ありがとうございます。

タービュレントさんの正体はこれです。



第十九話 タービュレント

「私の名はTrafalgar class submarine HMS Turbulent(トラファルガー級原子力潜水艦二番艦タービュレント)貴方がAdmiralですか……なんと可憐な……女王陛下に感謝を」

 

20台半ば頃の敏腕秘書風の風体をしているウエットスーツ姿メガネ美女は、顕現装置から降り立ち、何故かテッサに向かって片膝を付き、自己紹介を行いだした。

 

「あの~、私は提督じゃないですよ……」

テッサはタービュレントに誤解を解こうと声を発するが……

 

そんな声など聞こえていないかのようにタービュレントは振り向き、同席している艦娘達を見渡し、

「可憐だ。まるで英国王室庭園に咲き誇るバラのようだ!」

興奮気味にこんな事を言う。

宗介もその視界の中に居るハズなのだが、彼女の目には映ってないようだ。

 

「あの~、私は提督じゃないですよ~提督はこちらの相良さんです♪」

テッサはそういいながらタービュレントの視界の目の前まで来て宗介の腕を取り思いっきり抱き付く。

 

「なっ!」

テッサのその行動にタービュレントは驚きと共にテッサに腕を抱き寄せられた宗介をキッと睨みつける。

 

「メリダ島鎮守府提督相良宗介だ」

宗介は若干の違和感を感じつつ、自己紹介をする。

 

「君が提督だと!?こんな若造が……」

女性としては身長が高いタービュレントは同じ目線で宗介を睨み付けたまま、こんな事を言う。

 

「タービュレントさん!提督に失礼ですよ!」

すかさず神通は宗介とタービュレントの間に入り注意をする。

 

「いや、すまない。つい……しかし、あなた方はこんなあやしげな若造、いや提督になぜ付き従っている?」

 

「相良さんはやさしいからです」

「相良提督はやさしい方です」

「相良提督は良い奴だぜ!」

「司令官さんは良い人ですよ」

「提督は結構おもしろい奴だって」

「提督さんは良い人です」

「提督は、皆にやさしいです」

ここにいる皆は口々にそう言った。

 

「提督というのは、やさしさや人が良いだけではやっていけないと思うのだが……そのうち可憐な貴方達がそこの若造のせいで危険に晒されてしまう」

 

「そんなことはありません!」

「なんで、相良さんに意地悪言うんですか!」

神通はかなり怒りをあらわにする。

テッサはプンプンしていた。

 

「いや、君達を怒らすつもりはなかった」

そんな二人を見て、一歩下がり謝罪をするタービュレント。

 

「ふむ、君とはどこかで会ったことが……」

宗介はそんなタービュレントの態度に疑問をもちつつ、何故かそんな気がして仕方が無かった。

 

「……なんだ君は、いきなり初対面の人間にナンパなどと軽薄な行為を行うとはどういう了見だ」

タービュラントは不機嫌そうに宗介を睨みつける。

 

「提督はナンパなどいたしません!」

「そうです~相良さんはわたしだけの提督なんです!相良さんに意地悪言う人は嫌いです!」

 

「…嫌い…………すまない。私の勘違いだったようだ。謝罪する……君にも悪かった」

タービュレントはそんな彼女らの言い分にショックを受け肩をガクッと落とした後、宗介を一睨みしてから、フッと息を吐き宗介に近づき深々と頭を下げ謝罪をするのだが……

 

頭を上げ際にメガネの真ん中のフレームを右手で押さえ、キラリとレンズを光らせながら宗介の耳元で、なにやら宗介だけに聞こえるボリュームで早口で恐ろしげな事を伝えた。

 

「君が提督である事をいいことに、彼女らになんらかの破廉恥な行為に及んでいたとしたら、私は神と女王陛下に誓って、君を八つ裂きにしてやる。魚雷発射管に君を詰めて、三〇〇キロの爆薬と一緒に射出する」

 

宗介は額から玉のような汗が吹き出るのを感じる……

 

「……忠告は聞いておこう」

何とか其れだけを、同じく小声で伝え、面目を保つ。

 

そして、宗介は彼女を見たときから感じていた違和感の正体を……そのタービュレントの口調と言い回しで思い出したのだ。

宗介が転移前に所属していたミスリル西太平洋戦隊の副司令官を………

その名は、リチャード・ヘンリー・マデューカス中佐。宗介に対し、幾度と無くいじめとも取れる態度を示しており、宗介がミスリルで苦手としていた人物のトップを争う人物だ。

因みにそのトップを争っていたのはテスタロッサ大佐だったのだが……

 

それには理由があった。当時の司令官テレサ・テスタロッサ大佐が宗介に明らかに片思いをしていたからだ。

マデューカス中佐はテスタロッサ大佐の亡くなった父親の友人であり、テスタロッサ大佐を実の娘のように公私共に気に掛けていた。

それで愛娘のような感覚で見守っているテスタロッサ大佐の恋の相手が素性も定かでない宗介であったため、自然と宗介に対し、かなりキツイ扱いになっていたのだ。

 

「提督?どうしたのですか、顔色がすぐれないようですが」

「相良さん?あの人に何か言われたんですか?」

神通とテッサは心配そうに宗介を見る。

 

 

 

「……問題無い…少し席を外す」

宗介はそう言って、足早に建造室を出ていく。

 

宗介は通路を足早に歩み。建造室から随分離れてから携帯端末を取り出し、アルを呼び出す。

「アル……どういうことだ?中佐と同じ口調に同じ言い回しをあのタービュレントがしていたのだ」

 

「私も聞きました。タービュレントはイギリス海軍で1980年代から2010年まで稼動していた原子力潜水艦です。その初代艦長は……ミスリルに在籍する前のリチャード・ヘンリー・マデューカス中佐でした。当時もその天才的な手腕で数々の武功を上げていたようです。淡々と勝利を重ねる姿に付いたあだ名がデューク(公爵)……やはりその影響が彼女にも多分にあるのだと思われます」

 

「や、やはり…そうか………」

宗介は若干のめまいを覚える。

先が思いやられる気がして仕方が無かった。

 

「しかし、相良提督、今はあなたのほうが立場が上なのです。ここはビシッと態度で示したほうがよいのではないでしょうか」

 

「うむ。そうなのだが……どうしたものか……彼女は飽く迄もタービュレントを顕現された存在、中佐とは違う人物だ。確かにその思いを引きずっているようだが……」

 

「相良提督……わかりました。私が何とかしてみましょう」

 

「アル?できるのか?」

 

「任せてください」

アルはそう言い切った。

 

 

 

建造室に残したタービュレントは艦娘達に接する態度は、はなはだ良好であった。

というよりも、過剰にもてはやしたり、褒めちぎるのだ。

テッサには、もはや姫に騎士が忠誠を誓うの如く態度なのだ。

 

 

 

そして、司令官室で正式にタービュレントに対し辞令を行うため、そのまま司令官室に呼びだした。

宗介の横には神通が控えている。

 

タービュレントは宗介にキッと睨みつけるような態度を一瞬するが……その後は淡々とした態度を取る。

 

宗介はタービュレントにアルを紹介し、アルから話があることを伝える。

アルの声がスピーカーから聞こえた時は流石に驚きを隠せないで居た。

 

 

宗介と神通はアルとタービュレントを残し、司令官室を出て、そのまま司令官室横にある控え室で話し合いが終わるのを待つ事にする。

 

「相良提督、アルさんがタービュレントさんに話とは…何かあるのでしょうか?」

 

「ああ、神通には話しておかないといけないな、実はあのタービュレントはどうやら……」

宗介は神通にタービュレントの元艦長と宗介の間柄について説明をする。

 

 

「そんなことが……それで、提督にあんな態度を……でも、相良提督は何も悪く無いではないですか、一方的にその上司の方が……」

驚きと共に憤りを感じる神通。

 

「人の思いが顕現する……それが艦娘なのだろう?」

 

「そうなのですが……」

 

「タービュレント自身が悪いわけではない。たまたま、俺との相性が悪い中佐の思いが残ってしまったための事だ。俺ではどういう風に誤解を解くのかが見当も付かない……そこでアルが自分に任せろと言ってくれたのだ」

 

「そうだったのですね」

 

 

30分程たち、司令官室の扉が開き、タービュレントは不機嫌極まりない顔で出てきたのだ。

控え室に居る宗介を見つけると、ものすごい形相で睨みつつ、その場を過ぎ去ろうとする。

 

「待って下さい。タービュレントさん、貴方にはこの鎮守府の規律などをお話しないといけません」

神通はそう言ってタービュレントを追いかける。

 

 

「…………アル?何を言った?」

 

「いえ、相良提督がどれだけ有能で艦娘にとって有益なのかを説き、少し話したに過ぎませんが分かってくれたでしょう」

 

「悪化している気がするのだが……どんな説明をした」

 

「そうでしょうか?端的に説明しますと、『提督は、艦娘を差別しない。人同様に扱う。艦娘と寝食を共にしている。三食皆と共にするのは当然。朝は2日1回はテッサと共に同じベットで起床している』」

確かに事実なのだが何かが間違っている。

 

「………」

 

「さらに、『提督は艦娘に非常に尊敬されている。裸同然で抱きつかれようが、着替えを覗かれようが、艦娘からのお咎めはない』」

そんな事もあったが、別に宗介は抱きつきたくて抱きついたわけでも、覗きたくて覗いたわけでもない。偶然が重なった事故だ。しかも、尊敬されているから、お咎めが無かったわけでもない。

 

「………」

 

「そして『提督は真の博愛主義者だ。タービュレントがどれだけ提督を罵ろうと蔑もうと、提督は喜んで受け入れるだろう』と、話しておきました」

これは別に意味に聞こえるだろう。ただの変態に……もはやアルも昔の宗介と同じくらいの語彙力しかないようだ。

 

「………アル…その言い方は誤解を招く恐れは無いか?」

 

「いえ、すべて完璧です」

さらに悪化したのは、間違いないようだ。

 

「………うむ、これは相談する相手を間違えたな……昔の俺のようだ」

 

「………………間違いらしい事はなんとなく分かっておりましたが……やはりそうですか」

 

「アル……お前は俺と一緒で、女性の心を読むのは難しいらしい」

 

「…………」

 

メリダ島鎮守府所属の男共?はどうやら、女性に関する機微にはかなり疎いようだ。

 

 

「まあいい、別に好かれなくともいい、任務や規則や役割さえ、真面目に遂行してもらえば良

いだけだ。個人的には嫌われていたようではあったが、マデューカス中佐も俺の任務遂行能力には疑問を持っていなかったはずだ」

宗介はそう言って、再度タービュレントを司令官室に呼び戻した。

 

 

「提督、何の御用でしょうか、神通殿に各設備の説明を受けていたのですが……」

口調は先ほどに比べ、上官に対する礼節を守っているが明らかに不機嫌な態度をとる。

マデューカス中佐もそうだが、タービュレントも規律については守る意思が強いらしい。

 

「うむ、君に少し話しておこうと思ってな。君がどういう理由で俺を嫌っているのかは分からんが、それは個人の問題だ。それはそれでかまわない。ただ、ここで過ごすために円滑なコミュニケーションだけは心がけてもらいたい。

そこで、君をテッサと同室にする。同じ潜水艦どうし仲たがいせずに寝食を共にしてくれ。さらに、テッサはここでは君の先輩となる。しばらくは四六時中彼女についてここについて学んでくれ。ここでは神通が副官…いや、秘書艦だ。彼女の言う事も十分聞いてくれ。以上だ」

 

「な、なんですと!……テッサ殿と同室…寝食を共に!?それが命令なんですか?」

 

「命令でもあり、お願いでもある。それ以外の任務などもあるが基本、神通から伝えることになるだろう。人数も少ない鎮守府だ。艦娘同士は仲良くやってほしい物だ」

 

「貴方はすばらしい提督だ!誤解をしていたようだ………」

タービュレントは先ほどとは打って変わって、美人だが神経質そうな顔つきをしていたのが、喜色満面と言った表情に変わっていた。

 

そして、嬉しそうにしてお辞儀をし、司令官室を出て行った。

 

 

「アル……なんだったのだろうか?あんなに喜んでいたが……俺は何か特別に彼女が喜ぶような事を言ったか?」

宗介はそんな様子のタービュレントを呆然と見送って、アルに話しかける。

 

「いえ……さっぱり分かりません」

 

 

 

宗介は神通と川内、それと鳥海に司令官室でタービュレントについて話し合う。

川内と鳥海にはマデューカス中佐とタービュレントの関係については先に説明をした。

 

「ああ、アレね。ただの男嫌いね。どうも男が嫌いなだけみたい」

すると川内がこんな事を言い出す。

 

「なんだそれは?」

 

「うーん、私も良くわからないけど、艦娘になる前になんか合ったんじゃない?」

 

「なるほど……丁度タービュレントが就航する頃、海軍にもに女性隊員が採用され始めたのですが、トイレの問題とセクハラ等が横行していたと聞きます」

アルが納得するかのように話をする。

 

「……それで男嫌いか」

 

「それと、あのタービュレント、テッサの事が好きみたいよ。あの子を見る目が尋常じゃないもの」

鳥海はそんなことを言う。

 

「艦娘同士、仲が言い事は良いとは思うのだが……」

 

「そうじゃないのよ提督、たまに居るのよ。前の鎮守府にも居たわ大井とか……女性が女性を好きな奴よ」

川内はうんざりした表情で説明を付け足す。

 

「なんだそれは……」

 

「提督はお分かりにならなくても大丈夫です。それはこちらで対処いたします」

神通は真面目顔で宗介にそう言った。

 

「もしかして、テッサと寮室を同じにしたのは不味かったのか?」

 

「不味くは無いけどね……もしかしたら良いかも…今あの子一人で部屋使っているから、同室の子が出来たら、提督の寝込みに部屋に侵入する事が出来なくなるかも」

 

「それはありがたいが……」

 

「まあ、なんにしても様子見ね。……提督が建造する艦娘ってなんでこう、変な子が多いのかしら?」

川内はそう言って締めくくる。

 

 

 

翌日夜明け前

宗介は寝ていたのだが、司令官室の方から言い争いの声が聞こえる。

司令官室と宗介のプライベートルームはドア一枚を隔ててつながっているのだ。

 

「ああっもう!なんで貴方までついてくるんですか!これじゃ提督のベットに潜り込めないじゃないですか!」

 

「テッサ殿いけません。私は提督に四六時中貴方に付いていろといわれました!」

 

「それが邪魔なんです!」

どうやら言い争いをしているのはテッサとタービュレントのようだ。

 

ガチャ

「はぁ、はぁ、テッサさん!提督の寝室に潜り込もうとしましたね!」

神通の声が聞こえる。

 

「もう!神通さんに見つかっちゃったじゃないですか!!」

 

「タービュレントさん良くやってくれました。テッサさんを部屋に連れ戻してください」

 

「了解しました副官殿。さあ、テッサ殿戻りましょう」

 

「ぶーぶー、次こそは!」

 

「次もありません!!」

 

 

どうやら、タービュレントをテッサの同室にしたのは正解だったと宗介は思うのであった。




トラファルガー級原子力潜水艦二番艦タービュレント
フルメタの原作では、タービュラントと表記されてましたが、マデューカス中佐がミスリルに入る前に乗っていたイギリス海軍の潜水艦です。

核兵器は積んでいなかったようですが……トマホークやハープーンは乗せていました。

このお話のタービュレントは、性格はマデューカス中佐に似ておりますが、まるっきりというわけではありません。
唯、男嫌いのテッサ好きという設定です。ヘタをすると百合の人なのかもしれません。
宗介を初見で嫌った言動をしていたのは男だという事と、テッサとくっ付いていたからですね。まあ、多少宗介を毛嫌いしている記憶はあるのかも知れませんが……
長身、黒色の長い髪をアップでまとめピンで留めてます。
ドラマとか映画とかに出てくる。きつめのやり手美人秘書風です。
スレンダーな体格(胸は清霜並み)に手足が長いという設定です。
服装はイギリス海軍風………艤装は某イタリア潜水艦と現代風ミサイル発射官をミックスした感じです。


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