『TDD-1建造』相良宗介、軍曹から提督へ 作:ローファイト
ついに建造開始??
神通と清霜はメリダ島の中核を成す地下基地を訪れていた。
そして、妖精に案内され新設された艦娘用の装備開発ラボに着く。
ラボ内は広々として、幾つかに区分けされていたが壁や床に至るまで白一色の清潔感あふれる空間だった。数人の妖精がなにやら画面に向かって、作業をしている。この世界では存在しないコンピュータ(PC)だ。
部屋の真ん中あたりの大きな作業台の前で宗介と鉢巻をしている妖精がなにやら話し合っていた。
「ふむ、出来た艤装はこれか……よりによって、最新装備ではないか、ハープーン(対艦ミサイル)に76mm砲、ファランクス(対空兵装)とRAM(対艦ミサイル防衛用ミサイル)……いや敵にミサイルが無いのにファランクスとRAMはいらないだろう。いや待て、敵艦載機や爆雷防衛に使えるか……」
宗介は作業台の上に置かれている艤装とタブレット端末に目を通し、妖精が提示した兵装ラインナップを見て唸っていた。
「うん、清霜の出力だったらこんなもんかな~でも、兵器の情報統合システムを別にしないとあの子のあたまパンクしちゃうよ~」
中尉と呼ばれる兵器担当の妖精は宗介と何やら、聞きなれない言葉を交わしていた。
「相良提督、神通、清霜参りました」
神通の宗介を見る顔は若干を赤みをさしていた。
その後ろを歩く清霜は、初めて基地の中に入り、物珍しそうにキョロキョロしている。
「ああ、早速、清霜の艤装開発についてなのだが……取り合えずこれを着てくれ」
宗介はそう言って元々清霜が着ていた夕雲型艦娘用の戦闘服によく似た服を渡した。
これは使えなくなった清霜の服を装備開発と顕現(建造)と同じ過程を踏み修復不可能だった服を再構成したものだった。
「え!本当に出来たの!?……でもここで?」
清霜は驚き嬉しそうに頷きはしたが、宗介の顔をまじまじと見て困った顔をする。
「相良提督……その、ここでは流石に」
神通も困った顔をしていた。
「すまない、配慮が足りなかった。あちらに更衣室も用意しているから使ってくれ」
宗介は彼女も女性であることに気が付き、謝る。
清霜は戦闘服を着替え、喜びをあらわにして戻ってきた。
「前と同じで、力を感じる!……これで艤装が取り付けられる!ありがとう相良提督!!」
神通もそんな清霜の様子に頬をほころばせる。
「うむ。どうやら、着る事が出来た様だな、取りあえずは良かった。これで、艦娘に戻れる目途が立ったという事だ。しかし、艤装自体はまだだ、現在調整中だ。新型装備群は清霜の体に合わせなければ意味が無い上、ここで開発した装備は俺の居た世界の装備だ。扱いが今までと全く違う可能性が高い。訓練が必要なはずだ」
宗介は清霜が戦闘服を着用出来た事にホッとしたようだ。まだ、艤装自体はかなりの調整が必要であり、装着が可能になってもそれ相応の訓練が必要なのだ。
しかも、宗介の時代の兵器である。駆逐艦という小さな体に合った兵器群だとしても、戦艦並みの攻撃力が兼ね備えられているのだ。特にハープーンなどという、200㎞前後の射程がある対艦ミサイルまで搭載されているのだ。その制御が彼女に出来るかは疑問である。そもそもミサイルの概念が無いのと、制御するための情報管理システムを搭載しているがその意味合いを理解できるかも問題であるからだ。
駆逐艦ではあるが、現代の駆逐艦はミサイル駆逐艦……いわゆるイージス艦ではあるが、排水量や出力は当時の駆逐艦に比べ段違いに高い。巡洋艦レベルなのだ。神通でも最新駆逐艦の装備は搭載できない可能性が高い。
よって、今装備を検討しているのは、アメリカのフリゲート級。所謂、海防艦級の装備なのだ。しかしながら、現代の海防艦は、WW2の駆逐艦クラスまたはそれ以上の大きさがあるのだ。
そして、小さな躯体に限りあるスペースと出力で攻撃力を高めるために、用途に合わせて兵装が自由に交換できるシステムを搭載していた。基本は水上戦を視野に入れた装備ではあるが、対潜装備や防空装備にも変更が可能なのだ。
「一気にはいかんが、一つ一つ装備を試し、決めて行くか」
宗介はそう清霜に言う。
「うん、本当にありがとう相良提督!」
清霜は涙ぐみながら宗介に再度お礼を言う。
そんな二人を神通は嬉しそうに見つめる。
「アル、すまないが清霜のシミュレート訓練に付き合ってくれないか?俺では役にたたん。基地内各種兵器のシミュレータ―の使用を許可する」
宗介は何処と無しにアルに声を掛ける。
「了解です……では清霜さん、そこの妖精さんについて行ってください」
基地内のスピーカーから無機質な男性の声でアルが答えた。
「アルさん、清霜でいいよ」
「そうですか、では私もアルで」
一人の妖精が清霜の前まで来て案内しだす。
「こっち」
清霜と妖精は基地内のシミュレート施設に向かって行く。
「神通はすまないが、俺に付き合ってくれ」
「へ?……は、はい」
神通は一瞬素っ頓狂な声を上げていた。
「艦娘顕現用施設がこの隣で完成した。ついてはレクチャーを頼もうと……大丈夫か?」
宗介はそう言って、隣の部屋へと案内しようとしたのだが、神通が顔を真っ赤にしているため、体調が悪いのかと思い聞いたのだ。
「い…いえ、その……大丈夫です」
神通は自分が勘違いしたことに気が付き、恥ずかしそうに答える。
「ならいいが……こっちだ」
宗介はそう言って神通の前をスタスタと歩き隣の扉一枚でつながっている施設へと入って行く。
此方も、装備開発ラボ同様、一面白一色で統一された清潔感のある部屋だった。
真中には直径5m程の何やら、術式の様なものが描かれた円台が置かれ、上からはセンサーや電光掲示板、レーザー装置の様なものが多数吊り下がっていた。
どうやらこれが、顕現(建造)装置らしい。
神通が今まで見てきた建造施設とは雰囲気が全く違うものだった。
その前に置かれているコンピュータに先ほどの中尉と呼ばれた鉢巻をしている妖精が、後ろから小走りで走ってきて、妖精サイズにしては少々高い椅子にちょこんと座ってカタカタとキーボードを操作しだす。
「中尉、首尾はどうだ?」
宗介は中尉と呼ぶ妖精に聞く。
「あ~、準備行けてるよ~ いつでもOK~」
中尉は指でOKサインを作りそう言った。
「神通、再度建造に必要な事項を教えてくれ」
宗介は神通にそう言う。
神通は宗介の横に立ち顕現(建造)装置を見ながら説明をしだす。
「はい、既に建造施設があるので、資源を投入します。各種資源の投入量で、顕現される艦娘は大きく異なります。ボーキサイトが多ければ空母系、鉄鋼系、弾薬が多ければ戦艦などです。
また、投入量が多い程、強力な艦娘が顕現されます。
後は、秘書艦……提督をサポートしている艦娘によっても影響が出るようです。これについては未だ確証には至っていないのですが、間違いなく影響が出る事は分かっております」
「なるほど、秘書か……では神通がなってくれないか?」
「へ?あ……あの、その、私はその提督麾下の艦娘ではないので、効力はないです」
神通は宗介の不意な言葉にまたしても顔を赤くし、その後残念そうに俯き加減に答えた。
「ふむ、では、アルでいいか、清霜はまだ、復帰とはいいがたいからな……」
宗介はそんな神通をよそに、アルに一任することを決めた。
「……後、資源投入し、建造開始してから、顕現時間が長い程、優秀な艦が出来ます」
神通は気を取り直し、続きを説明する。
「では神通もそうなのか?」
宗介はまたしても不意に、神通の心を揺さぶる様な事を言う。
宗介は川内から、神通が日本国でも屈指の艦娘であることを自慢げに聞かされていた。
「いえ……私はその後、実戦経験が長く、改装を数度行えるぐらいの経験を得ましたので」
神通は実戦経験も長く、努力し、改装(進化)を数度行っているため、他の同クラスの艦娘に比べ圧倒的な力を持っていた。
「うむ、初期スペックよりも、努力が必要か……神通も今の強さはたゆまぬ努力の結果なのだな」
神通を見やり、宗介は頷き、感心した様にそう言った。
「いえ……その私など」
神通はまたしても、顔を真っ赤にして答える。
どうやら、宗介の言葉はいちいち神通の心に心地よく突き刺さる様なのだ。
「ふむ、中尉、資源の方はどうだ?」
宗介は中尉に振り向き資源投入の有無を聞いた。
「提督~、なんか良さげなのがあったから投入しといた」
中尉はそう言って、奥にある巨大な炉の様な資源投入設備を指さしそう言った。
「まあ、最初だ。任す」
神通から前々から聞いていた話によると、顕現(建造)時間は数十分から半日以内に収まるらしいため、試しに行う程度に思っていた。
「じゃあ~ 行くね~、秘書はアルっちで、ポチっと」
中尉はそう言って、コンピューターの前にあるひと際大きなボタンを押す。
すると、顕現(建造)装置は淡く発光しだした。
そして、顕現装置の上部に掲げられた電光掲示板に時間が掲載される。
そこには
120時間00分
と表示された。
それを見た宗介の額に一筋の汗が流れる。
聞いた話では、少なくとも半日で終わるはずなのだが、120時間…5日と表示が出たのだ。
失敗したのではないかと……
宗介は横の神通を見やるが
「……120時間……聞いたこともありません。あの超弩級戦艦大和さんでも8時間と聞いております」
神通も驚いた顔をあらわにし、宗介にそう答えた。
「う…うむ……気長に待つか……」
宗介は唸る事しかできない。
「あの、高速建造材があれば、時間を一気にゼロにできます。大型艦でも10個で済むはずです」
神通は宗介にそうアドバイスをしてくれた。
「中尉、いけるか?」
「うーーん、高速建造材貴重だしね~、あれも滅多に発見できないし~、この島で見つけたのは漸く10個だよ………アレ?、この艦。高速建造材1200個要求するんですけど~~、どっひゃ~何これ?」
中尉はそんな事を言いつつ笑っていた。
「……普通に待つか」
宗介は失敗の予感を感じながら、そう言う事しか出来なかった。
この後、宗介は神通と共に艦娘の寄港する発着口について、レクチャ―を受ける。
艦娘は発着口に艤装や各種兵装を保管し、緊急発進に耐えれるように、なるべくオートマチックに艤装を装着していく。水面に浮かぶカタパルトの様なものに乗り次々と艤装、装備を取り付け、そして水上を一気に加速し、発進するそうなのだ。
因みに常勤時は常に艦娘専用の戦闘服を着るのは何時でも艤装を取り付けられるようにするためだそうだ。
メリダ島には、艦船用の発着場所は洞窟になっており、外からは見えない。
2人はその場所に行き、この場所は丁度適しているとの事で、早速、施設設備を管理している大尉と呼ばれる妖精を呼び、説明する。
大尉からすれば、その程度だと1週間もかからずにこの発着場の一部を艦娘発進施設へと改装出来るそうだ。
因みに、航空機用の発着口はジャングルの下にあり、滑走路は地下にあり一部が開口して、発進していく。戻る際には、一見草原に見える場所で、偽装した滑走路になっているのだ。そして、地下へと航空機は戻って行く。
ヘリポートはヘリポート自体が巨大なリフトになっており、地下から上がり、ジャングルの一部が左右に開口し、地表に現れるのだ。ちなみにここからも、垂直発進型の戦闘機は発着可能だ。
そして、問題は潜水艦ドックだが、地下洞窟が発着口になっており、地下水路を通り、島の水深100m程の場所から海への出入口となっている。
しかし、メリダ島最終決戦において、ミスリル西太平洋戦隊が誇る、強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナンはこの潜水艦発着口に特攻をかけ見事、兵力をメリダ島に運んだのだが、その後地下水路を塞ぐ形で沈没していったのだ。現在もトゥアハー・デ・ダナンは地下水路に沈んでいるはずだ。
現状では復旧の対象にはなっていない。復旧もかなり困難な上、この施設の利用価値も現状の戦力では見いだせないため、後回しになっているのだ。
その日の夜、駆逐艦たちの部屋では……
「おい、清霜大丈夫か?」
朝霜は顔が熱っぽく赤くなっている清霜に声を掛ける。
「目が回る~、うーん、あんなに覚える事が多いなんて……」
清霜は頭を押さえて、蹲る。どうやら頭を使いすぎて、脳がパンク状態の様だ。
「清霜は、新しい艤装を作ってもらってその為の訓練をしているの」
早霜は清霜の代わりに朝霜に説明する。
「うーん、覚える事が沢山あるし、なんか訳が分からない兵器とセンサーが一杯なんだ……頭が割れそう」
清霜もそう返答する。
「でも、清霜ちゃんのその戦闘服、前より素敵になったね」
秋月は清霜の新しい戦闘服を見て、素直に感想を言う。
「良かったな清霜!これで艦娘に戻れる!あたい達も一緒に居れるってもんだ」
朝霜は嬉しそうに清霜の方をパンパンと叩く。
「朝霜お姉ちゃん、私ね、ずっと一緒に居られない。相良提督の艦娘になったから……」
清霜は俯き小さな声でそう言った。
「そうか……でも、よかったぜ、艦娘にもどれて」
朝霜は、悔しそうな顔をするが、笑顔に戻しそう言った。
「まだ、しばらくは、一緒にいられる」
早霜はそう言って清霜を慰める。
「そうだ!!艤装見せてくれよ!あたい達も訓練付き合うしさ」
「うん、相良提督に聞いてみる。でも、実際に体動かすわけじゃないの、なんていうか仮想の映像で訓練するの」
「??……なんだそりゃ?わけがわからん、まあいいや、早霜も秋月も行くだろ?」
朝霜は何のことかわからないが、とりあえず清霜の訓練を手伝いたいようだ。
「相良提督の許可が無いと基地には……」
秋月はそう言って諫めようとする。
「なんとかなるだろ!」
相変わらず大雑把な朝霜である。
しかしこの頃から、深海棲艦の偵察機がメリダ島周辺に飛び交う様になるが、艦娘達には知らされていない。
宗介は、此方もまだ準備が十分でない以上、余計な手出しをせず、じっくり息を潜ませるつもりでいた。
ようやく建造開始~、
資材は何を使ったかは……アレです。