『TDD-1建造』相良宗介、軍曹から提督へ 作:ローファイト
誤字脱字報告ありがとうございます。
陸の上のテッサ(偽)は、短編のテッサと同じ性格です。
宗介は目が覚めると、知らない天井が見えていた。
頭はボーっとしていたが、多分これは、神通が妖精に作らせた自分の為の新たな部屋なのだろうと考えに至る。
宗介は何故自分がここで、しかもベッドの上で寝ているのかが思い出せないでいた。
昨日は何やら酷くストレスがたまる様な体験をした気がしている。
(……うむ、確か艦娘の顕現に立ち会っていたはずだが………)
左手のひらには何か柔らかい物を触っている感触がする。手のひらを動かしそれを掴む仕草をする。何やら素敵な感触であった。
しかも何故か、甘い良い香りまでする。
左手の平の感触をしばらく確かめていると……
胸元あたりで声がする。
「あっ、うん♡、いけません~♡、むにゃ~」
しかも悩まし気な高い声の女性の声だ。
宗介はバッと自分にかぶさっているシーツを剥がす。
すると、アッシュブロンドの小柄な少女がほほを染めながら気持ちよさそうに寝息を立てていた!!
しかも、シャツははだけ、上下の下着が見えている!!さらに自分の左手は彼女の胸を掴んでいたのだ!!
宗介は顔面に玉のような汗を掻き
「うゎあああああああああーーーーーー!!」
大声で叫び、吹っ飛ぶようにその場から離れ壁を背に座り込む。
「失礼します!!どうされましたか相良提督!!」
スーツ姿の神通がトントンとノックした後、慌てた様に寝室の扉を開け見た光景は……
壁に張り付いて、驚愕の表情でプルプルと首を左右に振りながら顔面一杯に汗を掻く宗介、悪夢でも見ているかのようなその視線の先にあるベッドの上には
「……ダナンさん!!何をやっているのですか!!」
ミスリル西太平洋戦隊司令官テレサ・テスタロッサ大佐、いや、テッサと名乗るテレサ・テスタロッサ大佐そっくりな艦娘トゥアハー・デ・ダナンが宗介のベッドであられもない姿で気持ちよさそうに寝ていたのだ!!
「ダナンさん!!起きて下さい!!」
神通は語気を強くしてベッドの上に寝ている艦娘トゥアハー・デ・ダナンを揺すって起こすのだが……
「むにゃー、違いますよ~テッサって呼んでください♡」
こんな寝言を言って一向に起きないのだ。
「神通居るーー?」
このタイミングで司令官室の方から神通を呼ぶ川内の声が聞こえてきた。
「姉さん!!こちらに来てください!!」
神通は部屋二つ離れた司令官室の方へ大声で叫ぶ。
そして川内は開けっ放しになっている寝室に一応ノックして入ってくる。
「神通、ダナン見なかった?起こしに行こうとしたら、もぬけの殻だったんだ……って、なんでダナンがこんなところで寝ているの?まさか、相良提督が?」
そう言って、汗だくで壁に張り付くプルプルと首を左右に振る宗介を見るが……それはあり得ないことだと悟った。
「姉さん、いつの間にかダナンさんが相良提督のベッドに……しかも起きないんです」
神通は困った顔を川内に向ける。
「こら、ダナン!!起きなさい!!なんでいつの間にこんな所に!!起きなさいって!!」
川内は最初は揺すって起こすだけだったが、痺れを切らし、首根っこを掴んでベッドから引きずり下ろしたのだ。
「イタッ、アレ?相良さんは?提督は?」
ベッドから引きずり降ろされようやく目が覚めたダナンはキョロキョロとあたりを見渡す。
そして、壁に張り付いている宗介を見つけ
「相良さ~ん♡」
宗介に飛びつこうとするが……
「あんたはこっち!」
川内に首根っこ掴まれたまま、寝室から引きずり出され、
「なにするんですか~~~、提督~~助けて下さい~~」
ダナンはジタバタと抵抗するが川内によって強制的に艦娘専用宿泊施設に戻される。
宗介はその様子を見てホッと一息つく。
神通はそんな宗介に冷たい水が入ったコップを差し出す。
「大丈夫ですか?」
「……あ、ああ、助かる」
宗介は一気に水を飲みほした。
そしてしばらくして、新設した司令官室に併設している応接室で宗介と神通、そして、宿泊施設の部屋にダナンを閉じ込めてきた川内がダナンについて話し合いを始めていた。
「あの少女は、艦娘でトゥアハー・デ・ダナンの顕現した姿で間違いないんだな」
「はい、本人もそう言ってますし、中尉の妖精さんとアルさんもそう言ってますので間違いありません」
宗介の質問に神通は答える。
神通は昨日宗介が倒れた後、川内と共にアルに大まかな事情やトゥアハー・デ・ダナンの顕現する前の状況と、姿がそっくりなテレサ・テスタロッサ大佐について、話せる範囲で伝えていた。
「そうか……」
「相良提督の驚き様が尋常じゃなかったんだけど、どうして?」
「……それは、彼女が、俺があっちの世界で所属していた傭兵部隊の司令官にそっくりなためだ」
「随分若い司令官だったんだね。でもそれだけじゃ、そんな驚かないでしょ?なんか怯えていたし」
「いや、それには色々と事情が……」
宗介は言いにくそうにする。
実はその辺の事はアルに聞いていた。
ダナンの姿がある女性を模している事を……
ミスリル西太平洋戦隊司令官にして、強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナンを設計し艦長も務めたテレサ・テスタロッサ大佐という若いが優秀な女傑について……そのテレサ・テスタロッサ大佐は部下である相良宗介軍曹に恋をし、アタックし続けたのだが、やることなすことが、宗介にとって裏目にでて、宗介にとってはトラウマになるぐらい、いい迷惑になっていた。しかも、宗介自身は最後まで一人の女性としては見ず、尊敬できる上官として、また、一応は友人とまではいかなくとも、同年代の人間としても接していた事を話していた。
最終的にはテレサ・テスタロッサ大佐の告白は受け入れられず宗介に振られてしまったのだ。
「姉さん、その辺で」
神通は川内を止めるのだが……
「いや、聞いてくれ、当時の俺の司令官テレサ・テスタロッサ大佐はとても優秀な方だったのだ。戦団を最後まで取りまとめ、天才的な手腕で数々の困難な作戦を乗り越え俺たちを導いてくれていたのだ。
しかし、個人的にはどうやら相性が良くなかったらしく、迷惑をかけっぱなしで有った様なのだ」
宗介は簡単にだがテッサと宗介の関係について話す。最後の相性云々については宗介の一方的な勘違いなのだが……
神通と川内はアルに話を聞いているだけに、この鈍い相良宗介にアタックし続けたテッサに同情せざるをえなかった。
宗介は続けて
「強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン、俺もほぼ、戦団で過ごす半分の時間はこの艦に乗って作戦行動を行っていた。非常に世話になった艦と言っていいだろう。この艦はテレサ・テスタロッサ大佐が設計し、自らが艦長として、運営していた艦だったのだ。最終的には、役目を果たし轟沈し、この島の水路に今もその船体は沈んでいるだろう。
今思うに、俺とこの島にゆかりがある艦だったため、顕現された。さらにあの姿は、設計者と艦長として携わったテレサ・テスタロッサ大佐の思いがこめられていたため、具現化したのだろう」
自分の考えと思いを神通と川内に伝える。
しかし、宗介が困惑するのは、艦娘ダナンは姿だけでなく、宗介が知っているテッサの仕草や宗介に対する行動までそっくりであるからだ。
「……お話して頂きまして、ありがとうござます」
神通はそう言って宗介にお礼を言う。
宗介にとって元の世界の話しである。元に戻れない望郷の思いもあるかもしれず。話すのもつらいのではないかと神通はそう思ったからだ。
「潜水艦の艦娘は日本にも存在していたのか?」
「はい、数は少ないですが」
「そうか……」
「よりによって潜水艦か、奇襲や偵察には優れているけど、戦力としては、ちょっと期待はずれかもね」
川内は率直な意見を言う。
確かにこの時代の艦娘の潜水艦は真正面からの戦いには向いていない。しかも敵に優秀な水中探知機などが存在すれば、奇襲も難しくなる。
「いや……あのトゥアハー・デ・ダナンと同スペックなら凄まじい戦力だ。なまじこの時代の戦艦よりずっと戦力は上だ……アル説明してくれ……」
無機質な男性の声が応接間に響く。
「了解です。……流石にあのトゥアハー・デ・ダナンが艦娘になるとは驚きです。しかも大佐と同じお姿とは……」
アルもどうやらダナンの姿に面を喰らった様だ。
「そうだな」
そしてアルは説明しだす。
「 強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン、設計者はテレサ・テスタロッサ及びバニ・モラウタ、パラジウムリアクター3基搭載、最大航行時間250日、通常推進30ノット、最高速50ノット以上計測しております」
「はぁ?潜水艦で50ノット?私たちより速いじゃない!」
「当時で世界最速の潜水艦です。全長218m 横幅44m、常にAS搭載9~10 攻撃ヘリ8、輸送ヘリ、3~4、その他揚陸小型船や水陸両用車両、通常車両なども搭載されております。格納庫だけでなく、上部甲板も使用すれば理論上、ヘリだけでも50以上は搭載可能です」
「あの~大きさは大戦艦並みで、艦載機ですか?それも空母並みに搭載できるのですか?」
「兵器は魚雷53.3㎝魚雷発射管6門、現行では通常魚雷が搭載されてましたが、予定では60ノット~120ノットの速力がでる追尾型高速魚雷が開発搭載されるハズでした」
「……その魚雷避けれる気がしないわ」
「多目的垂直ミサイル発射管10門、弾道ミサイル発射管2門、機雷発射管4門その他兵装もありますが、主にはこんなものです。特にミサイルはアド・ハープーンとトマホークを積んでおりました」
「ミサイル発射管?アド・ハープーン?トマホーク?」
「長距離ミサイル発射管の総称です。アド・ハープーンやトマホークは巡航ミサイルです。アド・ハープーンは大凡、射程は300㎞前後、トマホークが2500㎞、弾道ミサイルは7500㎞です。その他のミサイルも運用可能です」
「……………その、ダナンさんだけで戦略兵器ですね……」
「防空兵器として、対空ミサイル各種を……」
「まだあるの!?」
「アル……それくらいでいい、どれだけスペックが高いかこれでわかってもらえただろう」
宗介は驚きっぱなしの神通と川内を見て、アルの説明を止める。
「でも相良提督、ダナン……どう見ても艤装持っていなかったよ?」
川内が衝撃の事実を宗介に伝える。
「なに!……アルどうなんだ?」
「確かに、艦娘トゥアハー・デ・ダナンは艤装を持っているように見えませんでした」
「……トゥアハー・デ・ダナンと中尉を呼んでくれ」
宗介はダナンと兵器開発、艦娘顕現(建造)担当の妖精を呼ぶようにアルに言う。
宗介は額に汗を一筋流す。艤装の無いダナンは、陸に上がったテスタロッサ大佐同様、戦闘にはとても役に立たないただの美少女、しかも周りに厄介ごとをまき散らすドジっ子美少女と同じなのだ。
宗介がそう言ったのと同時に応接室の扉が開く。
「はいっ!!私はここです~相良提督~~でも、私の事はテッサって呼んでください♡」
笑顔でテッサ、いや、ダナンが現れたのだ。
「なんで……部屋に閉じ込めたのに……」
川内は驚きの顔でダナンを見る。
「私にあんなセキュリティ甘々の電子錠なんて、相良提督との愛の前では通用しません」
ダナンはスクール水着姿で胸を張って、自慢げな顔でそう言い切った。
「………まあ、いい、ダナン。聞きたい事があるのだが、艤装はないのか?」
宗介はダナンの顔を見て何か言いたそうだったが、諦め、本来の話題に戻す。
ダナンは宗介が座っている横にちょこんと座り、ワザとらしくこんな言い方をする。
「嫌です~。テッサって呼んでくれないと教えてあげません」
「…………分かった、テ、テッサ、君の艤装はどうした?」
「あはっ、やっと呼んでくれました!相良提督~」
ダナンは嬉しそうに宗介の右腕にすり寄る。
「あっ、ダナンさん提督から離れて下さい!」
神通はそんなダナンを注意する。
「ふんだ。……艤装は有りません。だって邪魔じゃないですか?提督とこうやってくっつけなくなっちゃうからです~」
神通を一瞥してから、宗介の腕さらにギュッと抱きしめてそう答えた。
神通は恨めしそうに宗介の腕とダナンを見る。
「……ちゃんと答えてほしい、艤装は必須ではないのか?」
宗介は溜息を一つ付いてから、諦めたような表情をしダナンに質問する。
「それは~、今、妖精さん達に作ってもらってるからです~」
ニコッとした笑顔を宗介に向けダナンは答えた。
「?」
宗介はその答えに疑問を持つ、神通に事前に聞いていた話では、顕現(建造)時に初期スペックの艤装と共に顕現されると聞いていたからだ。
そこに先ほどアルからこちらに来るように連絡を受けていた装備開発担当の中尉と呼ばれている妖精が応接室に入って来ながら答える。
「いや~、なんかその艦娘と一緒に顕現された棺桶みたいなカプセルに、設計図が入ってたんだよね~、しかもあのカプセルがキーになるそうなんだ~、で、提督その子の艤装なんだけど、作成?に一週間はかかるからよろしく~」
宗介は艤装が出来ると聞いて一応はホッとする。
中尉はそう言って、用事が済んだとばかりに、直ぐ応接室を出ようとしたのだが宗介は呼び止めて質問をする。
「了解した。例外続きの艦娘だ。偽装と本体と別々になっている事は致し方がない。しかし、中尉、俺はあの時、顕現(建造)に必要な資源を、君は良さげなもの使ったと言ったが何を投入したのだ?」
「あ~、それね~、この島の水路に沈んでいる大きな潜水艦を調査した時に拾ってきた奴で……そう言えば、あの棺桶見たいなカプセルと同じもんだったかな?そんで、この基地にあった、司令官室にある小物類~あれは人の思いが詰まっていていい素材になると思ったんだ~、後は色々入れたけど忘れた~。もう忙しいから行くね~、あと提督~、新人がまた50人増えたんだけど、全部艤装作成班に回したから~」
中尉はそんな事を言ってさっさと応接室を後にした。
そう、艦娘トゥアハー・デ・ダナンを顕現(建造)させるために使った棺桶のようなカプセルとは、今は沈んでしまったトゥアハー・デ・ダナン本体に搭載されていたTAROSというシステムを動かすための装置である。操作できるのはウィスパードと呼ばれるテレサ・テスタロッサ大佐を含む一部の特殊能力者だけなのだ。そして、TAROSを使用することで、一人でトゥアハー・デ・ダナンを制御することも可能なしろものである。(但し、TAROS本来の使用目的ではない)トゥアハー・デ・ダナンの根幹システムとも言うべき物を、図らずも資源として使用したのだ。さらに、司令官室にある小物とは、もちろんテレサ・テスタロッサ大佐の私物だ。もちろんその中には宗介との思い出の品(写真)なども入っていたのだろう。
まさしく、トゥアハー・デ・ダナンとテレサ・テスタロッサ大佐の思いが詰まったものを資源にしてできたのが、艦娘トゥアハー・デ・ダナン。その姿がテレサ・テスタロッサ大佐と瓜二つなのも宗介への執着も必然なのだろう。
宗介は深くため息を付きながら立ち上がり、ダナンを腕から引きはがして真正面で向き、改めて挨拶をする。
「メリダ島鎮守府提督相良宗介だ。改めて、トゥアハー・デ・ダナン……いや、テッサ、メリダ島鎮守府は君を歓迎する。まだ、出来たばかりの鎮守府だ。色々と足りないものは山ほどある。貴官の活躍に期待する」
「はいぃ!相良提督の為に頑張ります!」
ダナンは嬉しそうに元気よく返事をする。
「神通、川内。ちょっと変わった艦娘なんだが、すまないが宿泊施設やここでの事を色々と教えてやってくれ」
「了解しました」
「わかったわ」
「私が変わった艦娘ってなんですか~?」
「ふむ、テ、テッサも神通と川内の言う事をちゃんと聞くように……それと、基地内で水着姿でうろつくのもどうかと思う……何か上に着てくれ」
「え~、これが正式な戦闘服なのに~」
「相良提督のおっしゃることは至極もっともな事です。後で何か手ごろなものを用意しますので……着て下さい」
神通はそんなダナンに軽く注意をする。
「う~~」
こうして、この島初めての顕現(建造)で生まれたTDD-1強襲揚陸潜水艦トゥアハー・デ・ダナン……艦娘テッサは、宗介との挨拶を済ませ、正式にメリダ島鎮守府所属の艦娘となった。
しかし……翌日の朝
「うゎああああああああーーーーーーー!!」
「ダナンさん!!提督の寝所に潜り込んだらいけません!!」
「むにゃ、相良さん~もう食べれません~」
提督の寝所では宗介の叫び声と神通の叱り声が響いていた。
宗介の悩みの種が増えただけの気がしてきた。
神通さんも気が気で仕方がないでしょう。