とある血盟物語 -Lineage-   作:三方真白

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その後1 船の珍客

 

 船が話せる島を出発してから半刻。

 ここは船に積んだ大きな荷物を積んでおく倉庫。薄暗く、人気もなく静まり返っているはずのこの場所に不可思議な荷物がと音が紛れ込んでいた。

 本来動くはずのない荷物が動いているのだ。しかも大きさは人間一人くらいは軽く入ってしまう大きさである。と言うか人間が入っている。

 モコモコと動き、

 

「ぷはぁ~」

 

 荷物を無理矢理突き破って顔を出したのは、どことなく艶っぽい女。

 

「こんなところに長時間篭ってたら毒よ、毒」

 

 やはり喋り方にも艶やかさが感じられる。埃をパンパンとはらう。

 

「ほら、いくわよ」

 

 荷物の積まれた方を向くが、誰もいない。というか反応がない。

 もう一つ、人間大の荷物があるのだが、

 

「……」

 

 沈黙を保ったままなのだ。

 

「……z」

 

 微かに、呼吸をしているのが伺える。規則正しい、寝息。

 

「…ん…」

 

 寝返りでゴソゴソと荷物袋が動く。

 

「ほう…」

 

 女が口元をニヤっと動かすが、笑みは全く見えない。こめかみにシワがより、血管が浮き出る。

 カツカツと歩み寄ると沈黙を持って見下ろして、呼吸を溜める。

 

「いつまで寝てんだこのボケェェェェ!!!! さっさと起きて、目的通り動くんだろうがぁ!!! 速く起きねぇとブッ殺すぞおおおおォォォォ!!!!」

 

 船内中に聞こえそうな勢いのある怒声が響き渡る。さっきまでの艶っぽさからは一変、般若の形相に変わった。この声で誰もこなかったのは船員も恐怖し逃げたのかも知れない。

 少しヒールの高い靴のかかとで、動く寝袋に容赦のない蹴りを無数に浴びせる。袋の中にいる人間も流石に目を覚ました。

 

 ガスガスガスガスガスガスガスガス ドゴッ バキッ グギャッ

 

「イタイ! 姉さん、グフッ。 やめ、ガッ。て、オゴッ!」

 

 あわれ袋の中の方。急所に入っているのか、咳き込みながら言葉を繋ごうとする。

 

「起き、起きたからああぁぁぁぁぁ!!」

 

 泣きながら、やっとそういった時には蹴りのリンチは止み、女も息を切らせて肩で息をしていた。やおら、さぁと髪を掻き揚げ、入り口の方に体を向けた。

「行くわよ。王子様を待たせるわけには行かないんだから」

 元の艶っぽい女に戻っている。

 

「……」

 

 返事がない――

 

「………z」

 

 まさか、あの状況で再び寝るという事を寝袋の中の男はやってのけたのか――?

 

 プチン

 

 あ、切れた。

 

「ふ、ふふふふ」

 

 笑っているみたいだが、どこを見ても笑ってはいない。

 両手を空(ここでは天井だが)に掲げて、詠唱開始する。

 

天空に住まうは善の神

 

 最初の一言目を言い終える前に、部屋中の大気がバチバチを呼応していた。

 

「っ!?」

 

 幸せと呼ぶべきか不幸と呼ぶべきか、袋の中の男はただならぬ殺気に気がついたようにビクッと体を震わせる。

 

共に祓うは悪しき闇の神

 

「げ、まさか!!?」

 

 袋から急いで出した顔はなかなか整った顔立ちをしており、高貴な雰囲気を感じさせてはいるが、どこか頼りないと思わせる。

 善の神とはアインハザードの事、闇の神とはグランカインの事。この二つが示す呪文は多々ひとつしかあり得ない。その呪文の思い当たり、一瞬にして男の顔が青ざめた。

 

全てを薙ぎ払う終焉の裁き

 

「や・め・て~~~~~~ぇ!!!!」

 

 女の目は既にイッッちゃっているため聞こえてなどいる様子は微塵もない。

 

我 求むは 光の真剣なり

 

「イイイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!」

 

 鼻水、唾、涙を流すに流し大声で絶叫する。こんな近距離で食らえば確実に即死の魔法、これがメテオストライクと並ぶ最強呪文――――

 

「ディスインテグレートォォ!!!」

 

 手を前にかざし、発動――――

 

ポフッ

 

 しなかった。そして女は「よしっ」と一言言うだけで何事もなかったかのように室内から出て行こうとする。

 

「だ、だすがっっだ(訳:助かった)」

 

 男はソレだけを言うのが精一杯だった――――。

 

「どうした!? 何があった!!!」

 

 騒ぎを聞きつけたガードが駆けつけて来る途中、女と肩がぶつかった。

 

「あ、大丈夫ですか?」

「ごめんあそばせ」

「あ、はい」

 

 急いで駆けつけた勢いはどこへやら、女に一瞬にして毒気を抜かれたようになってしまった。

 そして、ガードが中を確認したときには静かになった部屋だけが残っていた。

 

「死ぬかと思った」

 

 通路を歩く女の前にヒュッとテレポートで男が現れた。顔面蒼白、冷や汗ダラダラ

といった感じである。対照的に彼女は颯爽としており、いたって普通だ。

 

「あら、いいんじゃない? なんとかは死ななきゃ直らないって言うし」

 

 かなり冗談ではないセリフをニコッと微笑を浮かべて言う。

 

「いつか殺される・」

 

 心底本気でそう思った。

 

「何か言った?」

「っ! 何も言ってません!」

 

 ピキっと一瞬で張り詰めた殺気を感じた男が、シャキっとする。

 

「そう」

 

 スタスタと前を歩く女をよそに、ハァと重いため息をつく。そしてその息以上に重い足取りで歩を進めた。

 果たして彼らの目的とは────。

 

  * * *

 

バンッ!

 

「!?」

 

 ジュン、クレイン、摩利支天の3名は船内の食堂で食事をしていたところにいきなり、テーブルを叩く音が響いた。ジュンはフォークを口に咥え、クレインは食べかけの肉をングっと飲み込む。

 摩利支天はグラスを置くと傍らからサッと紙とペンを取り出した。その反応はすでに本能と化している。

 

「あなたでしょ? 話せる島で『反王エリアード=ケンラウヘル』の部下を倒したって」

 

 それほど大きな声ではないテーブル付近にいるメンツだけで聞こえる大きさで喋っている。

 並べられた料理から視線を上げると、一人の女と従者らしき男がいた。女の印象はどことなく艶っぽい。男は対照的に地味だが、どこと無く気品みたいなものがあるように思えた。

 

「……」

 

 無言の間があく。

 

「やっぱりそうね」

 

 肯定と受け取ったようだ。女はにやりと口元を軽く上げる。

 

「ねぇ、私たちを仲間にしない?」

「は?」

「反王を倒すんでしょ? 私たちも手伝ってあげるって言ってるの」

 

 女は実に楽しげにそう言った。悪政で虐げられて恐怖の対象となっている反王に対して、アデン王国内でコレだけの大事を言ってのけたのだ。コレが反王に知られれば極刑だろう。

 

「あまり軽く言うな。貴殿らとは覚悟の器が違う」

 

 周りには悟られないようにキッとクレインが二人組を威嚇する。男の方はヒッっと軽くのけぞるが女は涼しそうだ。

 

「穏やかじゃないわね。剣をおさめなさいな、騎士さん。それとそっちの魔法使いさんも」

「……」

 カチンと小さく音がなる。テーブルの下ではクレインが剣を鞘から出そうとしていたのだ。同じく天女も、アイスダガーの呪文を無言発動させていた。

 ジュンは無言でしばし考えると、「よろしく」と一言だけ言った。

 

「なっ! 王子、敵かもしれない輩を受け入れるのですか?」

 

 クレインは腑に落ちず、周囲には気取られないように空気声で反論する。反対に二人組はしてやったりって顔である。

 

「いいんじゃない?」

 

 天女もあっさり王子に賛成。カリカリとペンを走らせている。

 

「そんなあっさり」

「いつ、反王の手先に襲われるとも限らない。奪われた城を取り戻すこともある。だから今は戦力が必要なんだ。そうだろう?」

 

 さも当然。と言いたげにジュンは笑う。

 

「そうですが」

「それに、信じることは必要だ」

 

 不思議と妙に説得力のある、そして重みのある言葉だった。

 

「噂は本当だった見たいね。『ヴィオレント』のロゼ」

 

 ボソッと天女が王子と騎士のやり取りを紙に書き込みしながら呟く。

 

「あら、知ってたの?」

「当然。多分、緋之も知ってるわね。船室で今ダウンしてるけど」

 

「酔い止めをくれ~~~~~~~~~ウッ──」

 

 ベッドに横たわる緋之こと、緋之元。どうやら夢でも船に乗って酔っているようだ。エンドレスな悪夢とはこういうことをいうのだろう。なんともたちが悪い。

 

「で、うわさって?」

「サモナーを従える『激しい女ウィザード』って噂」

 サモナーとは魔法サモンモンスターを使い使役する召喚士のことを言う。後ろで話の流れを伺っている男のことだろう。地味な見かけによらず、なかなか高位魔法を使えるようである。

 

「あら、激しいかしら? 感情のままに動いてるだけだけど?」

「確かに激しい」

 

 後ろの男がうんうんと、腕を組み頷く。

 

「何か言った?」

「イエ、何も」

「そっちこそ有名じゃなくて? ダウン中の『復讐者』と、『旅人』さん?」

 

 話せる島のウィザードたちには色々とありそうだ。

 

「そうかもね」

「さてと、自己紹介。私の名前はロゼリット。ロゼでいいわ。よろしく。で、こっちが」

 

 一区切りついて名前を名乗ったロゼ。そして、後ろの男を紹介しようとすると、待っていました!といわんばかりな勢いで前に躍り出た。

 

「僕が、メンソーレオキーナワ=シルブプレー=エスプレッソ、だぁ!!」

 

 な、長い。やはり高貴な生まれなのか?といわんばかりに長い名前だったが、

 

「略して『めそ』」

 

 ロゼにあっさりと略称で紹介されてしまった。

 

「略すなぁ!!」

「文句あるの?」

「いえ、ありません」

 

 反論するもスグにシュンと小さくなってしまう。どうやらロゼという女は彼にとって絶対的な位置にいるようだ。

 

「よろしく、めそ」

 

 と、ジュン。

 

「めそ、よろしく」

 

 と、クレイン。

 

「よろしくね、めそ」

 

 と、天女。

 

「お、おえぇぇぇぇえぇぇ」

 

 今度は起き上がってトイレで嘔吐する緋之。話せる島では、あれだけかっこよかったと思ったのに。

 

「定着してやがる!?」

「だって長いし」

「確かに」

「覚えやすい方がいいだろ?」

「そうそう」

「だからぁ! 僕の名前は―――」

「「「「めそ」」」」

「ちっがぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁううううううう!!」

 

 と、こんなやりとりをメインランドにつくまで繰り返すのであった。

 

 

 

 

【リネージュ 豆知識】

 

  メインランド

 

 リネージュの舞台です。正式名称「アデン王国」。リネのほとんどをこっちで過ごす為『メイン』とついたのでしょうね。

 話せる島からグルーディンに行き、ケントに到着するのがベターです。ケントには城がありますが、地方城なので城主は、「グルーディオ公 ケント伯」という階級になります。

 実際にゲームでは使われてません(多分)が、NPCからチラっと聞けます。

 今回はホントに豆知識だ。

 

 

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