仕事もひと段落ついてきたので、過去作も頑張ってやりまーす!
天下のお膝元とも言われる江戸。町民は元気に街を歩き回り、商人は活き活きと商いをし、鍛冶屋の様な専門の職人たちも伸び伸びと仕事をしている町。そんな町に、異様な空気を放ちながら歩く2人の男と女がいた。
「ここは変わらんのお。昔のままのように賑わっておるわ。そうは思わんか?凛よ」
「そうですね。確かにそのように感じます、楓様」
黒色の着流しを着込み、上からさらに黒色の羽織を羽織ったやけに年寄りのような喋り方をする男と女性にしては身長が高く、スタイルも良く男と同じ黒の着物を身にまとった女が街を歩く。それだけで異様な雰囲気であるが、さらに異様に見せているのは2人の氣である。一般の人たちには見えないくらいの少量の氣を見にまとわせ、常に周りを警戒していた。
「ふぅ、しかし歩き続けるのは疲れるのぉ……お、あれは団子屋じゃのぉ」
「そうですね、少々休憩致しましょう」
楓の言葉で何がしたいか察した凛は、楓より先に団子屋に向かい席を確保する。楓はさもそれが当然のようで、また、確保したか確認もせず席に座る。凛もまた、そんな楓に笑みをこぼしつつ前の席に座る。
しばらくしてから団子が運ばれてきて、2人で静かに団子を食しながら街を眺めていた。そんな時楓はふと懐かしい気配を感じた。
「お主ともあろうものがこの場に来るとは……何かあったかの?」
外に向けた視線はそのままに、自分の横に立った人に声をかける。その人は楓に声をかけられると少し驚いた顔をしたが、すぐに膝をつき臣下の礼をとった。
「おひさしぶりにございます、楓様。また楓様に会えて恐悦至極にございます」
「いつでも会おうと思ったら会えるくせにのぉ。よく言うわい、管輅よ」
頭を下げている人に対して辛辣にはなった言葉だが、楓の顔はニコニコとしていた。
「凛も久しぶりね。ちゃんと楓様を守ってきたの?」
「もちろん、そこらの野党になど手の指一本も触れさせていない。管輅に言われるまでもない」
2人とも言葉はきつくとも、お互いそこに緊張などなく日常会話をしているだけだとわかる。この雰囲気が、いつもの2人なのだ。
「それで管輅よ。お主が現れたと言うことは何かあったと言うわけかの?」
だいたい何があったかなど、そんなことは楓はすでに予想がついていた。そんな楓に管輅は姿勢を整えた。
「外史にて、問題が起きております」
「やっぱりのぉ……主が現れたからにはそんなことだろうと思ったわい」
やれやれ厄介なことになった。そう言わんばかりに楓はため息をつく。そんな楓に管輅は更に状況説明をする。
「私たちが扱う外史は三国志の時代のもので、その中心人物は『北郷一刀』というものです。彼は天の御使いという存在で乱世を平定し、平和をもたらす存在でした。しかし…」
「しかし…?」
「北郷一刀は平和をもたらす代わりに存在が外史から消えてしまいました。そんな悲しい結末は私が望んだものではありません」
「つまり?」
「私の外史にきて、彼を助けて…!?」
その時、鋭い殺気と一陣の風が管輅の前に吹いた。
「それ以上言うようでしたら貴様であろうと容赦はしない」
「凛……」
結末を言おうとした管輅の言葉を遮ったのは、管輅の鼻先に刀を向けた凛だった。もちろん凛にそうされることは管輅は想像していた。
凛は忠臣である。その様は、最早依存レベルと言ってもいいくらいに。それは彼女の過去に関係することだが、そのこと以上に彼女は彼のことを好いていた。それは『臣下』としてではなく、『女』として。そんな大好きな楓が危険な場所に放り込まれかねない状況に、彼女が管輅に刀を向けることは最早必然だった。
緊迫した空気を破ったのは、楓だった。
「やめなさい凛。お前と管輅が戦ったらここら一帯がなくなってしまう。管輅も管輅じゃ。そんなことをいきなり言うたら凛がこうなることは予想できたはずじゃ馬鹿たれ。ほれ凛、刀を納めなさい」
「はっ」
楓に言われれば素直に刀を鞘に戻す。忠臣と言うよりは忠犬に近いかもと思う楓であった。
「………楓様、何か失礼なことを考えておいでで?」
「そんな事はないが、何か感じたなら許してくれんか?」
「あっ………ん」
そういい、楓は凛の頭を優しく撫でる。凛は楓に撫でられるのが大好きで、目はトロンと虚ろになり、よだれが垂れそうなほど口は緩んでいる。楓に撫でられるためなら、城1つは簡単に落とすだろう。
「私には時間がありません、楓様。私の力ではもう、何度もこの外史をやり直す余力は残ってないのです。ですからどうか、私に協力してください!お願いします!」
「ふむ……」
しばらく考えるように顎に手を置き空を見上げていた楓であったが、何か考えついたように管輅を見る。
「あいわかった。旧知の友が困っているのに協力せぬのは武士の名折れ。この柊 楓の名にかけてお助け致そう」
「ありがとうございます!楓様!」
感極まり、楓に抱きつく。何を隠そう管輅は楓のことが大好きなのだ。凛とあまり仲が良くないのはそこがかなり原因として大きい。
「よしよし、可愛いな管輅は。このまま食ってしまいたいくらいにのぉ」
「楓様でしたら私は…どこまでも…」
「では夜にでもまた、わしの部屋にでも来てくれるか」
そういい、抱きしめている左手と逆の右手で管輅の頬を撫でる。もう既に管輅はまともな思考ができておらず、目はトロンとしていた。
「は、はい……」
「ま、まて管輅!貴様楓様に抱きつくだけではなく夜伽の話までするとはなんと羨ま…いや不敬な事を!!」
凛は楓のために怒っていると言っているが、顔はとても羨ましそうである。しかし凛は自分に言い聞かせていた。『私は節度ある素晴らしい従者である。そのため、みっともない真似はしない』と。
「凛もくるか?」
「楓様ーーー!!!」
最早無意味であるが。
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数日後。
「それでは楓様、私の外史でも体調には気をつけてくださいね!?変なものを食べてはいけませんよ!?変な人に付いてってはいけませんからね!?」
「あーはいはい、わかったわかった」
出立準備を整え、いざ出発となった途端これである。管輅が楓のことを心配しているのはわかるが、流石にこれほどとはと思う楓であった。
「まあまて、楓様は私がお守りする。それで不満も不安もあるまい?」
「不安と不満だらけよ!」
「何!?」
「あんた楓様のためだったら外史1つ消しそうだもの!私からしたら恐怖の対象でしかないわ!」
「外史であろうと何であろうと、楓様の前に立ちはだかるなら敵だ!私が切る!!」
「その考えが怖いって言ってるの!」
あー長引きそうだ。これなら団子でも買っておくべきだったと思う楓であった。
コツコツ頑張る精神で