「ウェンディたちも大分このギルドに慣れてきたみたいね」
ウェンディとシャルル、イーロンと一緒にギルドの一角で話していると、ルーシィさんからそんな言葉がかけられる。
「はい!」
「女子寮があるのは気に入ったわ」
「ぼぼぼ、僕はまだそこまではっ…!」
「僕達より後だからね」
相変わらず緊張で言葉が詰まるイーロン。数日しか経っていないからか、ギルドのメンバーでまともに話せるのは僕とウェンディ、あとはハッピーとシャルルにロメオ君くらいか。やっぱり同年代だと話しやすいんだと思う。
「そういえばルーシィさんはどうして女子寮じゃないんですか?」
「女子寮の存在、最近知ったのよ。ってか、寮の家賃って10万Jなのよね…。もし入っていたら払えなかったわ今頃」
あれ、ルーシィさんが女子寮の存在を知っているってことは、OVAの話があったのかな?まあ女子寮での話だから、男の僕は関われないししょうがない。そういえば何日か前にギルドについているプールで覗き穴が見つかったって誰かが言ってたっけ。
「た、大変だ!!」
「何?」
「「鐘の音?」」
「ななな、何が起きるんですかっ!?」
「イーロン、落ち着いて」
入り口の方からそんな叫び声が聞こえたと思ったら、町の方から鐘の音が聞こえてくる。しかも鳴らし方が変。意図的に鳴らし方を変えているみたいだ。これは、ついに…!
『ギルダーツだぁっ!!』
「ギルダーツって…。あたし、会ったことないんだけど何者なの?」
ギルドの皆がそう叫び、乾杯している。ルーシィさんが知らないから、ウェンディとシャルルとイーロンも何が起きているのか分からない。僕は内心では同じように騒ぎたいけど我慢している。ついに、あのギルダーツさんに会える…!ギルド最強の男に直接会えるのを、実は結構楽しみにしていた。
「…ゴーシュ?どうしたの?」
「え…?」
「なんかニヤけてるけど…」
「そ、そんなことないよ?」
「兄貴って表情に出やすいんですねっ!」
いかんいかん、どうしてか僕は表情に出やすいらしいから、気持ちをもっと抑えるようにしないと。
「どうでもいいけど、この騒ぎようは何?」
「お祭りみたいだね、シャルル!」
「ホント騒がしいギルドね」
「皆が騒ぐのも無理がないわ。三年ぶりだもん、帰って来るの」
「三年も…?そのギルダーツって人、何してたんですかっ?」
「S級クエストの上にSS級クエストっていうのがあるんだけど、そのさらに上に10年クエストって呼ばれる仕事があるの」
「10年クエスト?」
「10年間、誰も達成した者はいない。だから10年クエスト。ギルダーツはさらにその上、100年クエストに行っていた」
「100年クエスト!?100年間、誰も達成できなかったってこと!?」
僕からすれば途方もない話だ…。S級やSS級のクエストが軽く思えてくる。S級を受けられる魔導士の少なさを考えれば、10年クエストと100年クエストがどれだけ困難なのか、それに行くことができる魔導士のすごさが分かる。
『マグノリア、ギルダーツシフトに変えます。町民の皆さん!速やかに所定の位置へ!』
「それにしても、騒ぎすぎじゃないかしら?」
「なんでだろう?」
「マグノリアのギルダーツシフトって何?」
「外に出てみれば分かる」
外に出てみると、建物が地面ごと移動していく。しばらくすると、マグノリアがきれいに真っ二つに割れてしまった。でも、いくらギルダーツさんがクラッシュ――触れた物を粉々にする魔法を使うからってこれはやりすぎなのではないかと思っちゃうけど…。こんな大工事をするお金より、ギルダーツさんが壊した物の修理費の方が高かったんだろうなぁ。
町が割れたことによってできた道を、ゆっくりと歩いてくる人影が見えてきた。数分すると、入り口にギルダーツさんがたどり着いた。
「ふぅ…」
「ギルダーツ、俺と勝負しろ!」「いきなりそれかよ!」
「お帰りなさい!」
「お嬢さん、確かこの辺に
「ここよ。それに私、ミラジェーン!」
「ミラ…?おおー、随分変わったなお前!っていうか、ギルド新しくなったのかよ!」
「外観じゃ気づかないんだ…」
ま、まあ三年もいなかったらそうなる…か?外に
「ギルダーツ!!」
「おお、ナツか!久しぶりだな!」
「俺と勝負しろって言ってんだろー!…ぐはっ!どわぁっ!?」
「また今度な」
飛び掛かったナツさんを片手で受け止めて、そのままナツさんをぐるぐると回して天井にぶん投げた…。あのナツさんが軽くあしらわれるなんて、実際に目で見るとやっぱり驚く。ナツさんはナツさんで笑ってるし。
「あ、あ、あの人、
「…イーロン、君はまずその上がり症をどうにかしなきゃね」
「変わってねぇな、オッサン!」
「漢の中の漢!!」
「いやぁ、見ねぇ顔もあるし本当に変わったな…」
「ギルダーツ!」
「おお、マスター!久しぶり!」
「仕事の方は?」
「ん~…。ガハハハッ…!駄目だ、俺じゃ無理だわ」
「あのギルダーツが…」「クエスト失敗!?」「嘘だろ…」
「オッサンでも駄目なのか…」
ギルダーツさんの失敗の報告に皆驚いている。僕も原作知識だけど、ギルダーツさんの強さを少しは分かっているつもりだ。あのギルダーツさんでも無理だった100年クエストって、どういうものなのか…。そういえば、原作でも語られていないような。そしてルーシィさんがエルザさんに注意されている。まあ前科があるから仕方ないのかな…?
「そうか、お主でも無理か…」
「すまねぇ。名を汚しちまったな」
「いや、無事に帰ってきただけで良いわ。儂が知る限り、このクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ」
「俺は休みてぇから帰るわ。ふぃ~疲れた疲れた。…ナツ!後で俺ん家来い。土産だぞ!じゃ、失礼」
ギルダーツさんが壁に向かっていたので、僕はギルダーツさんの前に行って目の前を塞ぐ。いきなり出てきたからか、ギルダーツさんは驚いていた。
「なんだ?お前も見たことねぇ顔だな」
「ゴーシュ=ガードナーです。最近このギルドに入れてもらいました」
「そうかそうか!いいギルドだろう?」
「はい、すごく楽しいギルドです。…あの、入り口はそっちですよ?」
「ん?おお!すまんすまん、また壁を壊しちまうとこだった。サンキューな!」
「いえいえ」
ギルダーツさんが入り口から出て行った後、僕に向かって皆が迫ってきた。
「ゴーシュ!お前、あぶねぇことすんじゃねぇ!」
「へ?」
「クラッシュのことは話しただろう!」
「ギルダーツの目の前に出るとか、粉々にされちまうぞ!?」
「…なるほど」
グレイさんやエルザさんがそう言うのだからそうなんだろう。僕は単純に壁を壊しそうだったから教えてあげるだけのつもりだったんだけど…。周りから見たら自殺行為だったらしい。これまでは暗黙のルールで周りが気を遣っていたんだ?
「土産って何かな~、楽しみだな!行くぞハッピー」
「あい!」
そして何事もなく出て行くナツさんとハッピーを見て、図太いなと思った。よく考えたらナツさんも危ないことしているのでは?と思ったけど、あれはちゃんとギルダーツさんに認識されてから仕掛けているから大丈夫なのかと自己解決した。不意打ちした方が粉々になるって…。それ、どんな化け物だ。
「ナツとギルダーツってそんなに仲が良いの?」
「ああ、ギルダーツはナツのこと気に入っているみたいだな」
「でも、たまにしか帰ってこないんでしょ?」
「ああ、よく土産話とか聞かせてるみたいだぜ」
なるほど、ギルダーツさんはよく遠い場所にクエストに行くから、その分ドラゴンのことを聞く機会が多いってことか。まあギルダーツさんに喧嘩を吹っ掛けるから仲良くなったっていうのもあるだろうけど。
そういえばルーシィさんが話しかける前にウェンディとシャルルに呼び出されたから一緒にいたんだけど…。
「そういえば、さっき何か用があるって言ってなかった?」
「あ、そうだった!ゴーシュにね、一緒に来てほしいの」
「一緒にって、何かの依頼?」
「ううん、そうじゃなくって」
「?」
「ウェンディの姉御!僕もついて行ってもいいですかっ!?」
「え?あ、うん。イーロン君も来てくれる?」
イーロンも一緒にってことは、仕事の話じゃないのか。なんだろう?
☆
目の前の魔道四輪を追って、僕も魔道二輪で走っていく。マグノリアを出て、やがて周囲が緑豊かな自然に囲まれた大きな建物が見えてきた。魔道四輪も止まったので僕もその近くに止める。魔道四輪からはウェンディとシャルルとイーロン、運転席からはエルザさんが降りてきた。
「ここが…」
「ああ。ハートクロイツ社だ」
ハートクロイツ社は服飾専門の会社で、よくルーシィさんが着ている服もハートクロイツ社製だ。最近はインテリア方面にも手を広げているので、今回はウェンディの部屋と僕の家の家具を買いに来た。エルザさんは全ての武具を、ここの会社に特注で作ってもらっているらしい。…本来、武具は専門外らしいけど、無理強いされているのかな?
エルザさんが入り口付近の傭兵に軽く挨拶し、中へと入っていく。僕らもエルザさんの後について行くと、中のエントランスがすごく豪華だった。シャンデリアとか宝石とか、少し目がチカチカするくらいだ。
「エルザさん、今日はどんな御用でしょうか?」
奥にあった大きな階段から、スーツを着た男性がこちらに慌てた様子で近づいてきた。まあアポとってないみたいだし、エルザさん、待たせると何するか分からないしね…。
「今日は家具の注文に来たんだ。こいつらはギルドの新人でな、住む場所も決まったばかりなんだ」
「誰かを連れてこられるなんて、初めてですね。クロノア=ハートクロイツです。どうぞお見知りおきを」
「どうも…」
なんか、この人は
クロノアさんに案内してもらい、様々な家具が並べられているスペースにやって来た。どれもこれも高そうだけど…。イーロンとも同居しているわけだし、そろそろ最低限の家具は欲しい。マスターや皆は余裕が出来てから借金を返してくれればいいって言ってくれていたし、生活を安定させることを優先することにした。ここ数日、少し急いで稼ごうと頑張ったからか多少の出費もやむを得ないと考えるようにしよう。
「こちらがカタログになります。どうぞ」
「ありがとうございます。…やっぱり高いね」
「その分、性能は良い物ばかりですよ」
「うーん…シャルル、何から買った方がいいかな?」
「そうね…」
ウェンディはシャルルと相談して買うようだ。二人は女子寮のフェアリーヒルズで同居している。元々
「イーロン、欲しい物とかある?」
「い、いえ!兄貴にお任せしますっ!」
まあ、6歳の男の子に聞いても分からないことが多いか。どうしようかな…。生活必需品ってなると、まず冷蔵庫でしょ?掃除機に、洗濯機に、絨毯に、ベッドに…。あ、料理器具とかも欲しいな。あれ?絨毯はまだいらないか?いやでも足元寒いのは地味に辛いし…。
「…ゴーシュ、ちょっと貸して」
「え?ウェンディ?」
「だって色々買っちゃうでしょ?」
「え…?いや、そんなことは…」
「そうね。前のあんたの部屋、ひどかったものね」
それは認める。だって魔法が使われている家具とかあったら買っちゃうよ?面白そうだから。それにゲームとか大好きだからそれにも魔法が使われていたら買っちゃうよそりゃあ。…途中から使わなくなった物が多いけど、捨てるのもったいない気がしてそのままにしていたからどんどん積み重なっていったけどね。
「私とシャルルで決めちゃっていいよね?使い方も分からないこと多いんだし」
「…はい。それじゃ任せます…あ、できるだけ安いのにしてね」
「分かってるわよ」
そこまで言われたら口出しできません。もう二人に任せることにしよう。
「私はこれからクロノアに話があるので行くが…ゴーシュ、イーロン。お前たちも暇なら来るか?」
「どこにですか?」
「奥に武具注文の部屋があってな。私も世話になっている」
「当社では武具は扱っておりませんが、エルザさんがどうしてもとおっしゃるので他社のカタログを参考に作らせていただいております」
あ、やっぱりエルザさんが無理強いしているんだ。ちょっとクロノアさんが可哀想に思えてくる。でも、魔法の武具か…。興味あるな。もしかしたら必要になる場面もあるかもしれないし。
「それじゃあ、ついて行っていいですか?」
「ちょっと、あんたは残ってなさいよ」
「え?…居ても意味なくない?」
「自分の家具なんだから、自分好みの方がいいでしょ?参考に聞くこともあるから」
「ああ、そっか…。じゃあ、イーロンは行ってきなよ」
「い、いいんですか?そ、それじゃあ、お願いしますっ!」
「ああ。こっちだ」
「ちょ、ご案内しますよ!」
エルザさんが慣れた足取りで向かい、イーロンもそれに続く。そういえば、エルザさんの武器や防具って全部でどのくらいあるんだろう?当然原作では使われていない物もあるだろうし。確か換装の魔法空間に入れられない分はフェアリーヒルズで5部屋借りて収納してるんだっけ。…1部屋で月10万Jだから、合わせて50万Jも払っているんだよね確か。
「こっちの方がいいかな?」
「どっちもアリね…。ほら、ゴーシュ出番よ」
「あ、うん。えっと…。もうちょっと質素な物がいいかな」
「そうかな?可愛くていいと思うけど」
「僕、一応男なんだけど…」
それから数時間、僕はウェンディとシャルルの質問に答えながら家具を決めていった。途中から可愛らしい物を勧められすぎて感覚がおかしくなったせいか、途中からはウェンディとシャルルの巧みな誘導に乗せられてしまったけど。
次回からはエドラス編に入ります。
原作通りではないので、そこはご了承下さい。