第20話 アースランド
「777年7月7日?」
「私やナツさんに滅竜魔法を教えたドラゴンは、同じ日にいなくなっているんです」
「そういえば、前にナツがガジルの竜も同じ日に姿を消したって言ってたかも」
「どういうことなの?」
「遠足の日だったのかしら」
「ルーシィさんも、たまに変なこと言いますよね…」
「はい、皆。飲み物もらってきたよ」
「ありがとー!」
ミラさんからもらったジュースを、皆に配っていく。ルーシィさんはもうお酒が飲める年齢なんだけど、苦手らしいからジュースにした。まあ、酔っぱらった所をOVAで見たことあるから飲ませようとも思わないけど。
「火竜イグニール、鉄竜メタリカーナ、天竜グランディーネ…。皆、今どこにいるんだろう…?」
「シャルル~!これ、オイラが獲った魚なんだ!シャルルにあげようと思って」
「いらないわよ。私、魚嫌いなの」
ハッピーは今日もシャルルにアタックしている。でもハッピー、紅茶飲んでいる所に生の魚持ってくるのはどうかと…。せめて紅茶に合った食べ物とかなら受け取ってもらえるんじゃない?
「そっか、じゃあ何が好き?オイラ今度…「うるさい!」…!」
「私に、付きまとわないで!」
「ちょっとシャルル!」
シャルルはそのままギルドの外へと向かっていく。ハッピーはすごく落ち込んでしまった。
「何もあんな言い方しなくても…。ねぇハッピー?」
「シャルル!ちょっとひどいんじゃないの!?」
「待って、シャルル~!」
ウェンディの言葉でシャルルは一旦足を止めるけど、またすぐに歩いて行ってしまった。それを見たハッピーはすぐさま追いかけていく。…事情を知っていたら、シャルルの行動もしょうがないって思えるんだけど…。ハッピーじゃなくて、シャルルの方が特殊なんだっけ。
「なんかシャルルって、ハッピーに対して妙に冷たくない?」
「どうしたんだろう…」
「…たまたま機嫌が悪かっただけかもしれないよ。少しそっとしておこう」
「うん…」
「兄貴っ!ご飯持ってきましたっ!…あれ?シャルルの姉さんは?」
「ちょっとね。ほら、ウェンディも食べよう?」
今更だけどイーロンはなぜか僕のことを兄貴と呼ぶし、ウェンディのことを姉御と呼ぶ。他の人は名前の後に兄さんと姉さんをつけるだけなのに。完全に舎弟みたいになっていて、ちょっと気が引ける。
「私…やっぱり探してくる!」
「姉御!…行っちゃいましたね」
「…僕も行ってくる。イーロンは先に食べてていいから!」
「え、ちょっと兄貴!?」
「これ、どうするの?」
ルーシィさんのそんな呟きが聞こえた気がした。
☆
「シャルルー!どこにいるのー!」
「ウェンディ、いた?」
「ううん…。こんな天気なのに、どこ行ったんだろう…」
僕らがシャルルを探しに出てから少しすると、雨が降り始めた。段々と強くなってくる雨にうたれながらも、ウェンディはシャルルを探すのを止めようとしないので一度ギルドに戻って傘とタオルを借りてきた。
「あ!」
「シャルル!やっと見つけた!」
「ウェンディ…。あんた、びしょ濡れじゃない」
「シャルルもでしょ!…シャルル、私達ギルドに入ってそんなに経ってないんだから、もっと皆と仲良くしなきゃ駄目だと思うの」
「必要ないわよ!あんたがいれば、私はいいの。…ついでにゴーシュも」
「僕はついでか…」
「もう…。またそういうことばかり…ん?」
ウェンディに渡した傘を預かり、ウェンディがシャルルをタオルで拭いていく。ウェンディがどこか別の方向を見始めたのでどうしたのかと思っていると、水たまりを歩く音が聞こえてきて…全身をローブで包んだ、彼がいた。
「誰?」
「…ウェンディ、ゴーシュ」
「え?その声…」
「それに、その杖は…!」
「まさか君達がこのギルドに来るとは…」
その言葉の後、彼は顔に巻かれたマスクだけを取って見せた。青い髪に、特徴的な模様…ジェラールと同じ顔だ。
「っ!ジェラール!?」
「ど、どういうこと?あんた確か捕まって…!」
「それは私とは別の人物だ」
「でも、どう見てもジェラールじゃない!」
「私は、
「え…?まさか…!あなたが、7年前の、あの時の、ジェラール…?」
ウェンディの目から、雨とは違う大きな雫がこぼれ落ちる。ウェンディはグランディーネだけじゃなく、ジェラールの行方も気にしていた。もちろん僕も気になってはいたけど、ウェンディはたまに一人で涙を流していることもあった。
「ずっと…ずっと、会いたかったんだよ!?」
「会いに行けなくて、すまなかった…。だが、今は再会を喜ぶ時間はない。今すぐ…今すぐ、この町を、離れるんだ…」
「ジェラール!?」
ジェラールが突然、膝から崩れ落ちる。それを見て僕は
「大きくなりすぎたアニマは、もはや私一人の力では抑えられない…。間もなく、マグノリアは消滅する」
傷で苦しんでいるだけではなく、その悲しんでいるようなジェラールの表情が真剣さを物語っていた。
「どういうこと…。全然意味わかんない!」
「終わるんだ…。すでに消滅は確定している。せめて、君達だけでも…!」
「
ジェラールはそれに言葉を失い、目を閉じている。
「…ジェラール、はっきり言ってくれ。マグノリアは、どうなるの?」
「全員、死ぬということだ…!」
それを聞いたウェンディは、ギルドの方へと走ろうとする。
「ウェンディ!」
「皆に知らせなきゃ!」
「行ってはいけない!君達だけでも、町を出るんだ!」
「私だけなんてありえない!…私はもう、
「!?」
ジェラールに向かって声を荒げてそう伝える。ジェラールは驚いて言葉を無くしてしまったようで、その間にウェンディはギルドの方へと向かってしまった。
「ジェラール…。僕も、ウェンディも、もう子供じゃないんだよ」
「…そのようだな。ウェンディが、あんなに強くなるなんて思わなかったよ。ゴーシュも、魔導士になれたようだな」
「うん…。マスター・ローバウルのおかげでね。…ねぇ、ジェラール。本当に方法はないの?」
「ああ…。もう、消滅は免れないんだ。…もしかして、君ならウェンディを救えるか?」
「どうかしら…」
ジェラールはシャルルに向かってそう告げる。シャルルは僕とジェラールに背中を見せながらそう呟き、ウェンディを追いかけていった。
「ゴーシュ、君だけでも逃げるんだ。ウェンディなら、きっとあの子が救ってくれる」
「嫌だ。たとえ、ウェンディとシャルルが無事だとしても…。僕は、仲間を置いて自分だけ逃げるなんてしないよ…!あれは…」
「アニマが…!」
「…ジェラール、その場を動かないでね」
「ゴーシュ…?」
空にできた大きな穴から光が溢れ、それが地上に…マグノリアに降り注いだ。
☆
空の穴から、光が溢れ出す。さっきギルドや町の皆が吸い込まれてしまった時とは違い、一定のリズムで光が出ている。あの大きな穴に向かって飛んでいった二つの影、ナツさんとハッピー、ウェンディとシャルルがエドラスに向かったんだ。
「ハァ、ハァ…ジェラール、大丈夫?」
「ああ…本当に強くなったな、ゴーシュ」
「僕は、守る者だからね…でも、魔力をちょっと使い過ぎたかな」
「無理もない。あのアニマを防いだのだから」
ミストガンと僕を、術式が書かれた紫色の結界が包み込む。以前、ロードレースで術式に捕まった時に完成した結界だ。これは
この結界には発動に条件がある。それは、設定する魔法はこの結界の範囲30m内にいる者の使用した魔法だということ。この使用した魔法というとこが肝だ。一方的に相手の魔法を封じることとかはできない。今回だと僕の結界魔法。まあこれは
「ゴーシュ、動けるか?」
「うん…。ねぇ、さっきの光はウェンディたち、だよね?」
「ああ。アニマの残痕から向こう側の世界、エドラスに行ったのだろう」
少しすると、人影が見えてきた。あれは…ルーシィさんだ!
「ルーシィさん!」
「ゴーシュ!無事だったのね!それにそっちの人は…」
「私はミストガンだ。ルーシィ、無事で良かった」
あ、いつの間にかジェラールがまたマスクで顔を覆っている。まあややこしいことになるから、それが正解だと思う。
「それでは、ゴーシュ。これを渡しておく」
「これは?」
「エクスボールという、向こうの世界で魔法を使えるようにする丸薬だ。半分ほど持っていくといい」
「ありがとうジ…じゃなくてミストガン」
ミストガンに中身を半分ほどもらい、それをミストガンが持っていた袋に入れてもらった。これさえあれば、原作みたいにナツさんたちと合流した後に王国軍と戦うことになっても苦戦することはない。
「ちょっと、これどうなってるの!?私状況がよく分かってないんですけど!?」
「それは後でゴーシュに聞いてくれ。では、任せたぞ!」
「うん!ミストガンも、気をつけて。…行ってきます!」
「ちょ、ちょっと~!?」
僕はジェラールにそう伝えた後、ルーシィさんと共にエドラスに転送してもらった。早くギルドの、町の皆を助けないと!
今回新しく出た結界、
・制限結界(リミット):紫色の、術式の文字が書かれている結界。結界内で設定した魔法を封じる。空間内にいる誰かの魔法を条件として発動する。ゴーシュが自分に設定して使った場合は空間系の魔法が使用できない。設定する魔法はこの結界の範囲30m内にいる者の使用した魔法でなければならない。一方的に相手の魔法を封じることはできない。つまりこの結界を使用した状態で相手が何か魔法を使うまではゴーシュ自身の魔法しか設定することができない。