FAIRY TAIL 守る者   作:Zelf

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全部三人称というのは、もしかしたら初めての試みかもしれない。

感想などでよく指摘されていましたが、ここでようやく彼が沢山喋ります。





第51話  X791年、妖精の尻尾

 フィオーレ王国にある港町・ハルジオン。どこまでも続く水平線を一望できる防波堤のある場所に、少年がいた。彼の左肩には、所属しているギルドの紋章がある。その赤い紋章は、彼が尊敬しているある人物と同じ場所にあった。今こうして彼が水平線を見つめ続けているのは彼を、いや彼らを思い浮かべているからだろう。そのどこか寂しそうな少年へと、二人の男女が声をかけた。

 

「いつまで海を見てるんだい」

 

「仕事も終わったし、ギルドに戻ろう」

 

 その二人の男女――アルザック=コネルとビスカ=コネルは、その少年――ロメオ=

コンボルトと共に魔導士としての依頼を受けていた。その仕事が終わり、今まさにギルドへの帰路へ就こうとしていた所で、ロメオが一人ふらりとここまで歩いて行ったので追いかけてきたのである。と言っても、急ぎでもなくこの場所にいるだろうということも予想も出来ていたので、その足取りはゆったりしていた。

 

 二人はロメオを連れて何度もハルジオン港から船に乗ったこともあるが、ロメオは必ず一度はこの場所から水平線を見つめている。これは、そう…もう七年も前からだ。最早癖とも言えるその姿を何度も見ているからこそ予想できていたのである。

 

「…………」

 

「やれやれ」

 

「早く帰らないと、父さんが心配するよ」

 

「マカオからあんたのこと頼まれてるのよ、ロメオ」

 

「うん………」

 

「ロメオ、気持ちは分かるけどさ…」

 

「ビスカ」

 

 ビスカが続けて話そうとしたのを、アルザックが止める。

 

 

 何を言っても、気休めにもなりはしない。

 

 

 

 心の傷は、簡単には消えない。

 

 

 

 七年経ったとしても、それは。

 

 

 

 ただ残酷に、彼の…いや、自分たちの心を蝕み続けているのだ。

 

 

 

X791年。天狼島消失から、7年の時が経っていた。かつてフィオーレ王国最強と謳われていたギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は現在、最弱のギルドと呼ばれるまでに衰退していた。ギルドの場所も移り、マグノリアの町の中心部から離れた丘の中腹にひっそりと、現在の妖精の尻尾(フェアリーテイル)は佇んでいる。

 

天狼島の一件でS級魔導士昇格試験に行った受験者とそのパートナーである魔導士、当時のS級魔導士、そして三代目マスター・マカロフまでもが行方不明となったことが切欠となり、当時増加し続けていた魔導士が次々と辞めていった。現在のメンバーはほとんどが古参からのメンバー達である。

 

「ロメオはまだ帰って来ねぇのか!アルとビスカの奴、ロメオをほったらかしてイチャイチャしてるんじゃあるめぇな!」

 

「うるせぇな、いい年なんだから少しは落ち着けよマカオ」

 

「俺のことはマスターって呼べって言ってんだろワカバ!」

 

「こんな貫禄のねぇマスター見たことねぇよ!何が四代目だか!」

 

「お前もマスター補佐としての自覚をだな!」

 

 彼らもその一人。現妖精の尻尾(フェアリーテイル)の四代目マスター――マカオ・コンボルト。昔から変わらず子供を心配する彼を窘めるマスター補佐――ワカバ・ミネ。七年前に主力だったメンバーが行方不明のため、現ギルド最古参の彼らが、ギルドのマスターとその補佐を担うことになったのである。

 

「それにしても…また人減ったかな」

 

「しょうがねぇよマックス。俺ら弱小ギルドじゃ、良い仕事回してもらえねぇし」

 

「ウォーレン、見ろよこの依頼書の数!」

 

「七年も仕事行かねぇお前には関係ねぇだろ、ナブ!」

 

「あう……」

 

「見てほしい!このビジター=エコーの新しい舞が完成したのである!名付けて、弱小の舞!」

 

「気分悪ぃからこいつ追い出せよ…!」

 

 七年前は今と違って、人数も依頼書も増えていたものだと、昔を懐かしむマックスやウォーレン達。彼らも古くからいるギルドメンバーだ。ふと、彼らの目には大食い大会でも開催しているのかと思えるほどの皿が並べられているテーブルが映る。

 

「キナナちゃん、おかわり持ってきて!」

 

「はーい」

 

「ねぇドロイ、また大地への圧力が増えた?」

 

「太ったって言いてぇのか、このヤロー!」

 

「ラキに当たるなっての!っていうか自覚ねぇのかよ。リーダスを見ろよ、あんなにスリムになっちまって」

 

「ウィ、俺元々こっちが本当の体だよ」

 

「俺は鍛えてんだよ!分からねぇのかこの筋肉!」

 

 リーダスはマカロフの巨人化の魔法によって体を肥大化させていただけであり、七年経った今では魔法が解け、以来細身の体のままである。

 

「キナナだってすっかりお淑やかになってよ…それに比べておめぇは」

 

「うるせぇ!食うことで魔力を高めてだな!」

 

「止めなよ二人とも」

 

「はぁ…」

 

「ったく、レビィが今のお前見たら、なんて言うかね」

 

「…レビィは帰って来ねぇ!」

 

 思わず叫んでしまったその言葉によって、雰囲気がより静まりかえってしまう。

 

「あ……」

 

 ドロイも悪いと思ったのか、俯いて黙ってしまった。そんな時、ギルドの入り口の扉が開く音がした。

 

「おやおや…相変わらず、昼間っからしんみりしてるねぇ。これだから弱小ギルドは嫌だよな」

 

 金棒を背負った男性と、彼に付き従うように後ろに待機している四人。一見不良のような五人組が入ってきた。彼らを見て、マカオとワカバがすかさず前に出た。今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)と繋がりのある魔導士ギルドのメンバーである。

 

「ティーボ…!ここにはもう来んなって言ってんだろうが!」

 

「おいおい、俺たちにそんな口利いていいのかよ?マグノリアを代表する魔導士ギルド・黄昏の鬼(トワイライトオーガ)によぉ…?かつてはフィオーレ最強だったか知らねぇけどよ、お前らの時代はもう終わったんだよ。立っているのがやっとのこのボロ酒場と、新しい時代の魔導士ギルド・黄昏の鬼(トワイライトオーガ)じゃ、どっちがマグノリアの発展と向上に貢献してるか、一目瞭然だろ」

 

 ティーボが話している途中から、ギルド内にいた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー全員がマカオの元へと集まる。彼の発言を聞き、マックスが声を荒げた。

 

「でけぇだけのギルドが偉そうに!」

 

「そうだ、俺たちには魂があるんだよ!」

 

「魂じゃ飯は食えねぇんだよ」

 

「…何しに来たんだ、ティーボ」

 

 このままでは喧嘩になるだろうと考えたマカオは、本題に入ろうとする。

 

「今月分の金だよ」

 

「うっ…」

 

「まだ払ってなかったのか、マカオ!」

 

「マスターって呼べって言ってんだろ!」

 

「借金の返済が遅れてるぜ?あんたら」

 

「今月は良い仕事が回ってこなかったんだよ!来月まとめて払ってやるから、待ってやがれってんだ!」

 

「おやおや?潰れる寸前だったこのボロ酒場を救ってやったのはどこの誰だったかなぁ?」

 

「俺たちがテメェらの借金肩代わりしてやったんだろうが!」

 

 ティーボの取り巻き達の言うとおり、この酒場を運営していく上で金が足りなくなった。そこへ、当時から発展し始めていたこの黄昏の鬼(トワイライトオーガ)が肩代わりしてくれるという話が出たのである。しかし、これは一時の救いであったが、罠でもあった。

 

「あんな馬鹿げた利子だって知ってたら、お前らなんかに頼らなかったのに…!」

 

「あぁ?なんか言ったかぁ!?」

 

「止めろ、ジェット!」

 

「けどよ…」

 

「来月まで待ってくれや!ちゃんと払うからよ…!」

 

 マカオのその言葉に、ティーボは口角をさらにつり上げる。そしてそのままマカオへと近づいていき、彼を右足で力強く蹴飛ばした。

 

「マカオ!」

 

「マスター!」

 

 マカオは酒場のカウンターへと叩きつけられる。その姿を見て、五人組はその顔に嫌らしい笑みを浮かべていた。

 

「すっげぇ飛んだ!」

 

「吹っ飛び方は一流だよなぁ?」

 

「ハハハハハっ!」

 

「テメェら!」

 

「よくも…!」

 

「やんのかコラ?」

 

 ギルドの仲間を傷つけられて、他のメンバーが黙っているはずがない。世界であろうと敵に回すという意志は、今このギルドの中にいるメンバーにも宿っていた。戦おうとするメンバー達を、マカオが止めた。

 

「手ぇ出すな―――っ!!!」

 

「聞こえたろ…堪えろ」

 

 その言葉を聞き、五人組の内の一人が手始めにとばかりに近くにあった椅子を壊そうして、思いっきり蹴りつけた。

 

「ぎゃーーーっ!?」

 

「どうした!?」

 

「め、メチャクチャ固ぇ…!」

 

「う、腕がーっ!?」

 

 他の奴らも他の家具を手当たり次第破壊しようとするが、あまりの固さに殴った腕や、中には武器が壊れているメンバーもいた。それを見ていたのか、外から一人の少年が入ってきた。

 

 肩までかかる金髪を後ろで束ねているその少年は、以前ガルナ島でゴーシュが連れてきた人物。風精の迷宮(シルフラビリンス)というトレジャーハンターギルドにいた彼は、この七年でその肉体と魔法を鍛えることに集中し、今では立派な魔導士となっていた。

 

「今戻ったッス!……あれ、黄昏の鬼(トワイライトオーガ)の皆さんじゃないッスか。どうかしたッスか?」

 

「なんだ、このガキ!!」

 

「イ、 イーロン…!」

 

「あ、もしかして椅子とかにぶつかりました?これ全部特注品なんで、相当堅いッスよ?ほら!」

 

 イーロンは椅子を持ち上げ、机に向かって叩きつける。すると見た目が木製なのにどこからそんな音がしたのか、金属同士がぶつかり合ったような音が辺りに響き渡った。あまりにも不快なその音に、全員が耳を塞ぐ。

 

「…ってなわけで、ぶつからないようお気を付けて下さいッス」

 

「舐めた真似しやがって…!」

 

「ッチ、おい!忘れんなよ…来月だ」

 

 ティーボがそう言い残しギルドから外へと出て行く。それに続くように他の四人も椅子をあらぬ方向へ投げたりした後退散していった。

 

「またいつでもお越し下さいッス~」

 

 まるで営業スマイルのような笑みを浮かべながら、イーロンは彼らを見送った。彼の元にジェットやマックス達が近づく。

 

「へへ、やったなイーロン!」

 

「ざっとこんなもんッスよ!」

 

 ジェットが肩を組みながらそう言い、イーロンはイタズラが成功したかのような達成感を覚えていた。

 

 ご覧の通り、今ここにある椅子や机は金属製だ。リーダスのペイントマジックによって木製に見せかけており、黄昏の鬼(トワイライトオーガ)の連中は木製の物だからと簡単に引っかかったのだ。

 

「テメェら…あんま舐めた真似すんじゃねぇぞ。変な言いがかりつけられちゃたまんねぇ」

 

「でも、たまにはいいだろ?な!」

 

「そうッス!いつもはいいようにやられてばっかりなんだから、これくらいやっとかないと!」

 

 あの連中にどれだけ家具やら壁やらを破壊されたか。それだけでなく、ギルドのメンバーへの暴行等もあるのだ。仲間を傷つけられて黙っていられるわけがない。以前のイーロンは臆病で、相手に言い返すことすら困難に感じるほどであったが、今の彼はそんな過去など嘘であったかのように快活な少年へと成長していた。

 

「とりあえず、そこら辺片付けるか」

 

「マスター、大丈夫?」

 

「あ、ああ」

 

 イーロンがタイミング良く入ってきたおかげで少しだけ雰囲気が明るくなったが、それでも少しずつ暗くなっていく。あんな連中、もし天狼島組がいたら簡単にやっつけていただろう。問題児ばかりだが、中心人物と言っても過言ではなかった。彼らが起こす喧騒の日々を、今は誰もが恋しく思っていた。

 

「あ…」

 

「これって…」

 

 先程の投げられた椅子を戻そうと近づくと、すぐ傍の本棚から一冊の本が落ちてきた。表紙には、スケッチブックと書かれている。かなり前の物なのか、中から何枚か絵が飛び出た。それを見て、全員が顔を歪める。

 

「あれからもう、七年か…」

 

「そんなに経つのか…」

 

「…懐かしいな」

 

「あれ以来、何もかも変わっちまった…」

 

皆が話している中、イーロンは絵を拾い始める。当時の彼は、この絵の人物達とほとんど関わっていなかった。話そうと思えば話す機会はいくらでもあったが、いつもある人の後ろに隠れながらただ眺めているだけだった。自分を憧れの魔導士ギルドに連れてきてくれた、あの人の。

 

「………!」

 

 あの人――――ゴーシュと、彼と仲が良かったウェンディ、彼女に抱えられているシャルルの三人が描かれている絵を見つけ、何かが自分の中から込み上げてくる。それを精一杯抑えて、他の絵も全て拾って、本棚へと戻した。

 

「あいつらがいなくなってから、俺たちのギルドは弱体化する一方…マグノリアには新しいギルドが建っちまうし」

 

「………畳むときが来たのかもな」

 

「そんな話――!」

 

「あ、おい、イーロン!」

 

 ワカバがそう呟いた瞬間、イーロンは入り口へと走り出し飛び出していった。

 

「…どうした、マカオ」

 

「……俺は、俺は…心が折れそうだ」

 

「おめぇはよくやってるよ…マスター」

 

「…あれ以来、ロメオは一度も笑わねぇんだ……っ!イーロンの奴も…必死に明るくしようとしてやがるが…見てられねぇ…っ」

 

 イーロンの笑顔、あれが心の底からの笑顔でないということは見ていれば分かる。これならばまだ、ゴーシュに隠れながらナツ達の喧嘩を見ながら浮かべていた苦笑いの方が自然な笑顔だった。

 

 皆が涙を浮かべ、しばらく沈黙が続いた後…カウンターの奥にある酒瓶が揺れ始めたことにキナナが気づいた。

 

「な、何…?」

 

「何の音?」

 

「また(オーガ)が嫌がらせに来たのか…?」

 

 全員がギルドの外へと出ると、空には…天馬の船があった。

 

 

 

 ギルドに青い天馬(ブルーペガサス)がやって来ていることに気づくことなく、イーロンは彼が七年間住み続けている家にやって来た。中に入り、適当に荷物を整理した後、エプロンを身につける。夕食と夜食を二人分(・・・)用意する為である。向かう先は、いつも彼が使っている修行場。

 

 家の近くでやっても良かったのだが、ここは本来あの人の家だ。自分はあくまで居候の身。魔法の訓練でもしてる最中に万が一家を傷つけてしまっては申し訳が立たない。なのでイーロンは、いつも少し離れた荒野で修行をしている。

 

 簡単な握り飯を少し多めに作る。中の具は鮭やおかか、梅干しなど。こんな簡単でおいしい料理をどこで教わったのかとあの人に尋ねたこともあったが、東洋の人に聞いたとしか答えてくれなかった。てっきり彼とよく一緒にいた、イーロンが姉御と呼ぶ(本人は嫌がっていたが)少女から学んだのかと思っていたので意外だとイーロンは感じた。

 

 そうして彼は修行場へと向かう。少し暗くなってしまったが、いつも夜に行っている修行なので問題は無い。多分もう一人(・・・・)もまだ来ていないだろう。

 

 まずは筋トレを一通り行い、少し休憩した後に魔法の訓練を行う。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入る前、魔導士は肉体を鍛えないというのを聞いたことがあるが、そんなことはない。あの人も遠距離攻撃が主体の魔法ではあったが、毎日隙を見ては筋トレをしていた。この習慣は彼を見習ってのことである。最初はキツいと思っていたが、今では少しずつトレーニングを多くしようかと迷っているくらいだ。ここまで鍛えることが出来たのは、あの人へ追いつきたいという気持ちと、もう一つ。

 

「ふぅ…あれ、ロメオじゃないッスか!」

 

「……よう」

 

「マスターが心配してたッスよ?ちゃんとギルドには行ったッスか?」

 

「ああ」

 

 まだいないと思っていたので、イーロンは驚く。ロメオのこの態度は、別に不機嫌だからとかではない。七年前からずっとこんな感じで、それはイーロンも長い付き合いだから分かっている。ずっとこちらに背を向けていたが、いつもこんなものかとイーロンは荷物をその辺に置いた。

 

 ロメオとイーロンは5年ほど前から、ここで共に修行をし始めた。早く魔導士になりたいと願っていた二人は、早い内から鍛えておいた方が強くなれると考え行動し始めたのだ。たまに喧嘩もするが、二人はただの友達ではなくライバルと言い合える関係になっていた。

 

「…お前、あの話聞いたか?」

 

「あの話って、なんスか~」

 

 ストレッチをしているからか間延びしたような声だったが、ロメオは気にせず続ける。

 

「今日、天馬の人達が来たんだ」

 

「へぇ~、俺は偶々会わなかったんスね~」

 

「それで……」

 

「よっと……で、それがどうしたッスか?」

 

 ロメオが言葉を詰まらせたタイミングで、イーロンもストレッチが終わる。そこでようやくイーロンはロメオの顔をまともに見た。その瞳は、何かに揺らいでいるように思えた。そこでようやく、今日はいつもと違うということに気がついた。

 

「ロメオ…?」

 

「………天狼島は、残ってるって」

 

「!!」

 

 ロメオの一言で大きく目を見開き詰め寄りそうになるが、我慢してロメオに話の続きを促す。

 

 ロメオがギルドに到着すると、ギルドの面々は既に興奮しきっている人と気持ちを抑えようとしている人が半々くらいだった。何かあったのかと、一緒に仕事に行っていたアルザックとビスカが尋ねた。するとなんと、天狼島がまだ残っているのだという知らせを聞いたのだと言う。それを聞いたロメオは喜ぶことなく、ただ疑問に思っていた。

 

 評議院の話によると、天狼島は、アクノロギアという黙示録に存在する大昔に存在したドラゴンによって消滅させられた。島が跡形も無く消え去り、周囲の捜索を他のギルドの面々とも協力して行ったが、誰一人見つけることが出来なかった。エーテルナノ濃度が異常値だとかそんな話も聞いたが、ロメオにはそんなこと気にする余裕もなかった。

 

 なのに今更、天狼島が存在していると言われても、有り得ないと考えてしまうのが普通というものだろう。それに七年も経っているのだ、天狼島が存在したとしても皆が生きているかどうかは別問題だ。

 

「――――ってなわけで、明日早速船で捜索に行くってよ」

 

「…………」

 

「…イーロン?」

 

 全て話し終え、ロメオもストレッチしながら話していたので一通りそれも終わったのだが、イーロンが俯き震え始めた。どうしたのかと、ロメオが近づこうとした瞬間。

 

「ロメオっ!!!」

 

「うおっ!?」

 

イーロンが一気に目の前まで接近してきた。さすがにロメオも驚き、身を引こうとするがイーロンが肩を掴んで離さない。一歩下がると一歩進んでくる。

 

「明日、天狼島行くッス!!」

 

「……は?」

 

「兄貴達に会いに行くッス!!あれだけ、ナツの兄さんに会いたがってたじゃないッスか!!」

 

「…………俺は、行かねぇ」

 

 ロメオがそう言うと、イーロンの動きが止まる。肩から手を離し、一歩下がった。

 

「…どういうことッスか」

 

「…ナツ兄達が生きてるかなんて分かんねぇだろ」

 

「きっと生きてるッスよ!!だから――――」

 

「なんで言い切れるんだよ!!」

 

「っ!?」

 

 ロメオが声を荒げる。突然叫ばれたことに、今度はイーロンが驚いた。

 

「七年も連絡すらないんだぞ!そもそも、天狼島がまだ残ってるって話も信用できねぇよ!お前も見ただろ!?あの一帯の海域に、島なんて影一つなかったじゃねぇか!!」

 

「………それでも、今回でようやく見つかったのかもしれないじゃないッスか!ほら、姿を隠す魔法もあるんスから――――」

 

「そんな高度な魔法、七年も持つと思うのかよ!!」

 

 イーロンは俯き、ロメオは息を整える。この七年、ある一点において二人は真逆の思いを持っていた。

 

 イーロンは、いつか天狼島組が帰ってくると。その時に彼らに恥じぬ魔導士になるためにこうして毎日修行に励んでいる。ロメオは、天狼島組が帰って来ることはないと。だったら自分が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の誇りを守る為に強くなろうとしている。

 

 真逆の思いを持つ二人が同じ行動をとっていたのだ。

 

「それでも!!」

 

「……今日はもう帰る。とにかく、俺は行かねぇ」

 

 ロメオがそう言ったすぐ後、イーロンは先回りしある提案をした。

 

「…じゃあ、一つ賭けをするッス」

 

「賭け?」

 

「今から全力の勝負をするッス。俺が勝ったらロメオには天狼島捜索に参加してもらうッス!」

 

「何言ってんだ…俺が勝ったら?」

 

「何でも言うことを一つ聞いてやるッス!」

 

 ロメオは少しの間だけ考え込み…イーロンの目を見て頷いた。イーロンはそれを見てニヤリと笑い、ロメオに背を向けて離れていく。ロメオも同じように距離をとり、二人は向かい合った。

 

 イーロンは、ロメオの中にもまだ自分と同じ気持ちがあったことを確認出来て安堵した。今の所、二人の勝率は6:4でイーロンに軍配が上がる。まだまだ発展途上の二人だが、イーロンの方が身体面で鍛え始めるのが早かったからだろう。何はともあれ、イーロンの方がまだ勝つ確率が高いのだ。なのに、この賭けを了承したということは――――

 

「今度という今度は、容赦しないッス!!」

 

「それはこっちのセリフだっつの!!」

 

 イーロンは両手合掌の形をとり、ロメオは両手に紫色の炎を灯す。ギルドのメンバーがいれば仲裁に入っただろう。しかしここは、二人しか知らない修行場。止める者は一人もいない。二人の戦闘は徐々に激しくなっていき、過去最長の喧嘩へと発展していった。

 

 

 

「ロメオ、イーロン…ついて行かなくて良かったのか?」

 

「もし天狼島が見つかっても皆…生きてるか分からねぇんだろ?」

 

「俺は、ロメオが行かねぇなら残るッス」

 

「…何言ってんだお前」

 

 ロメオが少し驚いた様子でイーロンを見る。昨日と言っていることが真逆だったことにどうしたのかと。すると彼はニヤリと笑って言った。

 

「兄貴達が生きてないなんて、俺は信じてないッス。探しに行った皆がちゃんと、連れ帰って来るッス!だったら、俺はロメオがその時どんな顔すんのか、間近で見てやるッス」

 

「…ハッ!勝手にしろ!」

 

「お前ら…また喧嘩したのか」

 

「「喧嘩なんかしてねぇ(ッス)!」」

 

 彼らは度々、昨日のような喧嘩をしている。その度にこうして傷をつくっては、二人揃って看病を受けている。ロメオは切り傷や青アザ、イーロンは火傷を喧嘩したときに必ずお互いにつくってくるので、喧嘩したことはバレバレである。ちなみにイーロンが作っていたおにぎりは、朝食として先程食べ終えたところだ。

 

「はい、これでいいわよ」

 

「いつもすみませんッス、キナナさん」

 

「…………ありがと」

 

「謝るなら最初から喧嘩しなきゃいいのによ」

 

「いやいや、あれは男同士の真剣勝負で――――」

 

 イーロンが喧嘩について語ろうとしたその時、ギルドの入り口から誰かが入ってきた。イーロンは彼らを見て勢いよく立ち上がり、ロメオは読んでいた本に栞を挟んで閉じる。

 

「おいおい…今日はまた、一段と人が少ねぇなぁ。ギルドって言うより何コレ、同好会?」

 

「ティーボ…支払いは来月のはずだろ!」

 

「ウチのマスターがさ、そうはいかねぇって。期日通り払ってもらわねぇと困るって…マスターに言われちゃ、しょうがねぇんだわ」

 

「…ふざけんな」

 

「よせ、ロメオ!」

 

 

 

 ロメオは立ち上がり、ティーボ達へと近づいていく。

 

 

 

「お前らに払う金なんてねぇよ!」

 

 

 

「何だクソガキ、その態度」

 

 

 

「こんな奴らにいいようにされて、父ちゃんも皆も腰抜けだ!俺は戦うぞ!このままじゃ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだ!」

 

 

 

「ロメオ、待つッス!昨日あれだけやって…!」

 

 

 

「…っ!」

 

 

 

 昨日あれだけの喧嘩をして、まだ魔力が回復しているわけがない。当然だ、喧嘩が終わったのは今日の朝、天狼島を探しに行ったそのすぐ後にギルドに帰ってきたのだから。

 

 

 

「名前なんかとっくに折れてんだろ?」

 

 

 

「ロメオっ!!」

 

 

 

「止めろーーーっ!!!」

 

 

 

「テメェら一生…俺たちの上には行けねぇんだ!!」

 

 

 

 ティーボはロメオへと背負っていた金棒を振り抜こうとする。

 

 

 

 その時、イーロンは気づいた。

 

 

 

 ティーボ達のすぐ後ろの扉が開け放たれ、誰かが入ってきたのを。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 その誰かに後ろから蹴り飛ばされたティーボは、そのままギルドの壁へと叩きつけられた。変な声を上げていたが、そんなことは全く気にする余裕がなかった。

 

 

 

なぜなら。

 

 

 

「「「「んだコラぁっ!!」」」」

 

 

 

 他の四人が凍らされ、鉄の腕で殴られ、剣で切りつけられ、巨大な拳に叩きつけられる。

 

 

 

「へへっ……ただいまぁっ!」

 

 

 

「皆様お待たせしました!」

 

 

 

 天狼組が、ここに帰還したのである。

 

「皆!!」

 

「七年前と変わってねぇじゃねぇか!」

 

「どうなってんだ!?」

 

 興奮したマックス達がそう叫び、ルーシィが説明を始めた。

 

 

 




一万字いきそうだったので、ここで区切りました。出来れば文字数は今回の半分くらいにしておくよう心がけています。手軽に読んで頂きたいので。今回みたいに長いのはあまりないかと。そしてイーロンの魔法の詳細は、次回お楽しみに。

そして、昨日真島ヒロ先生のツイッターで待ち望んでいた朗報がありましたね。

秋…大体半年ですね。今から待ち遠しい…!!出来るだけこの小説も話を進めていけるように頑張ります!

そして六月の新連載も気になる!絶対立ち読みします(^^)/


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