身支度を済ませたゴーシュ達がギルドへと戻ると、興奮冷めやらぬといった様子でギルドの皆が宴会を続けていた。家に戻る前にデジモン達を簡単にだが紹介し、皆と馴染んでもらおうと思い置いてきたが、どうやら心配はいらなかったらしい。
「テメェ、
「飯じゃねぇだろ!」
「ドルモン、大丈夫~?」
「お前はさっさと降りろっての!」
「駄目ですよ、グレイ様!まだ動かないで下さい!」
「貴様か…私のケーキを台無しにしたのは…許さん!!」
「ひぃ!お、お助け~!」
「エルザ落ち着いて!」
「プロットモンも謝ってるんだし!ね?」
(……なんだこの
ガジルとナツが喧嘩している横でドルモンが気絶して、グレイの頭の上に乗ったパタモンが声をかけている。グレイはパタモンを退けようとするが、絵を描いているリーダスの傍にいるジュビアに制止されている。少し離れた場所では、エルザが怒気を放っており、それに怯えるプロットモンと、彼女を庇うルーシィとレビィの姿。さらに別の一角では、もうこの騒ぎが日常と認識したのかマスター達が酒を飲み始めており、ギルダーツに関してはカナをお姫様抱っこして間抜けな面を晒している。
「あーっ!ガジルの兄さん、俺の作った椅子食べたッスね!?」
「これ、お前の魔法なんだってな?もっと作れや」
「先に謝ってほしいッス!」
イーロンは自分の作った椅子が虫食い状態になっていることに気づき、ガジルへと詰め寄る。ガジルはまだ食べ足りないと言わんばかりに、イーロンへとおかわりを要求し始めた。
「おい犬野郎!さっさとかかって来いやぁ!」
「ナツ兄!そいつもう気絶してるって!」
ナツはまだ元気が有り余っており、気絶しているドルモンへと喧嘩を売るという行動に出た。ロメオはさすがに不味いと思ったのか、慌ててナツを止める。そんな様子を見ているゴーシュの横で、ウェンディは裾を引っ張り尋ねた。
「ドルモンって犬なの?」
「…さあ?」
意外とマイペースな少女だと、彼は思った。
「ちょっと、あれ止めなくていいの?」
「あ、そうだった」
このままでは話が進まない。そう思ったゴーシュはこの
話とはもちろん、デジモン達のことだ。彼らの事情について詳しく聞く機会がなかった為、
「ちょっと皆さん、聞いて下さい!」
「どうしたんだ?」
「デジモン達に聞きたいことがあるので、皆さんにも彼らの話を聞いてもらいたいんです」
「聞きたいことって?」
「ドルモン達がデジタルワールドっていう異世界から来たって話は聞きましたよね?」
「ああ」
「うさんくせぇけどな」
「あたし達は異世界行ったけどね…」
ゴーシュ達が一度家に戻っている間に、そのことも話すように頼んでいたのだ。異世界云々の話はするべきかどうかゴーシュは迷っていたが…今ではないにしても、自分のことも打ち明けるつもりの彼は、仲間達に話すことにした。
「彼らには、何か事情があるみたいなんです。こっちの世界で、やらなければいけないことが」
「そうなのか?」
「ひ、ひゃい!そうです!!」
エルザの問いに、プロットモンがビビりながらそう答える。この短時間でプロットモンの心に、エルザへの恐怖心が植え付けられていた。
「三人とも、話してもらえる?どうして、この世界に来たのか」
「うん、いいよ~。ちょっと待ってね~」
パタモンがグレイの頭から降りて、まだ気絶しているドルモンの元へと向かった。グレイの頭から移動したことによりジュビアが残念そうな声を出したが、誰も気にせずにパタモンの行動を見守る。
「ドルモン、起きて~」
「ぐふっ!?」
パタモンが羽でドルモンをビンタする。力加減が出来ていないのか、ドルモンは吹っ飛ばされてゴーシュの方へと飛んできた。それを見て、ゴーシュは
「まだ寝てる~?」
「起きた、起きたから!」
(…パタモンは怒ったら怖そうだなぁ)
そんなことを思いながら、ゴーシュはドルモンに改めて説明し、事情を話してもらうことにした。そして、ドルモンの傍にパタモンとプロットモンが来て、
☆
デジタルワールド。そこは、人間達の住む世界の影のような世界。決して混ざることが無いはずのその二つの世界はある時、世界の次元の歪みによってデジモンが人間の世界に、反対に人間がデジタルワールドにやって来ることがあったらしい。
ドルモンとプロットモンとパタモンの三体は、ロップモンというデジモンと共に、始まりの町と呼ばれる集落の近くで暮らしていた。元々、ドルモンは別の場所からやって来たデジモンであったが、パタモン達は快く受け入れてくれた。ドルモンは、見ず知らずの自分を受け入れてくれた三体に感謝していた。しかし、他のデジモン達はそうではなかった。
「こんな怪しい奴、この町に入れるわけにはいかねぇよ!」
「その子、変なウイルスにかかってるって聞いたわ!」
この町の一番の特徴は、デジモンが生まれる卵であるデジタマが集まる場所だと言うこと。この町に住んでいるデジモン達はそのデジタマを守る為、大昔に集まったデジモン達の末裔だ。そんな彼らからすればドルモンは不審者として扱われるのは当然、しかもドルモンはXウイルスと呼ばれるウイルスに感染しているという噂もそれを助長していた。
Xウイルスは、X抗体と呼ばれる特殊な抗体を持っていないデジモンにとっては猛毒のようなもの。X抗体を持つデジモンは総数で見ると圧倒的に少ない。Xウイルスを持つデジモンを入れるわけにはいかないというのが、町全体の意見だ。もちろんドルモンは、そのX抗体を持つデジモンのうちの一体である。
「ちょっと!何度も言ってるけど、ドルモンは悪いデジモンじゃないよ!」
「そうだよ~、すごく優しいんだ~」
「ドルモン…可哀想」
プロットモン達が弁護するが、それでも町の人達は受け入れるわけにはいかない。もちろん良いデジモンか悪いデジモンかは重要だが、ドルモンは例外…町に命を脅かす存在を入れてはならないというのが、この町のルールだ。
「もういいよ、皆」
「でも!」
「いつものことさ。入れないものは仕方ない…俺はいいから、皆で行ってきて。後で話聞かせてよ」
この日、彼らはこの町でイベントがあるという話を聞きつけてやって来ていた。ドルモンは通ることは出来ないということは分かっていたので、あっさりと引き下がる。が、プロットモン達はそれで諦めるつもりは毛頭無かった。
「じゃあ、行こうか~」
「悔しい~…いつか仕返ししてやるもん!」
「ほどほどにね~。二人も、後でね~」
「え…?」
「了解…行こ」
パタモンとプロットモンは始まりの町へと入っていったが、ロップモンはドルモンと残り、そのままドルモンを入り口とは別の方向へと押す。ドルモンはわけが分からず、ロップモンに尋ねた。
「ロップモン、何処行くの?」
「二人はある場所に行ったの…ボク達が、入りやすいようにって……皆で、話してたの」
「俺のために…ありがとう!」
「こっちに非常用の通路がある…見た目は、ただの井戸。二人は、その通路の出口に向かうって」
「分かった!」
ドルモンは元気にそう答えた。三体の思いやりを、すごく嬉しく思っていた。これまで迫害のような扱いを受け続けていた自分に、手を差し伸べ友達だと言ってくれたことに、出会うことができて良かったと、心から思っていた。
足早に歩いているドルモンに会わせるように、ロップモンも足早になる。しかし、ロップモンはあまり運動が得意では無かった。まだ緊急用の出入り口には走っても数分かかる。ロップモンがそんなに長くこのペースを保つことは出来ず、少しすると息切れし始めた。
「ハァ…………ハァ…………」
「…ん?ロップモン?」
「ごめん、ちょっと………休ませて」
「あ、ごめん!嬉しくなっちゃってつい…そうだ!」
「?」
ドルモンは何か思いつき、ロップモンに背中を向ける。
「ほら、乗って!俺が走れば速いしさ!」
「あ…うん……!」
ロップモンは戸惑った様子だったが、すぐにドルモンの背中にしがみつく。ドルモンはそれを確認した後、井戸へと走り出した。
森の中はよく遊び場にしていたからか、井戸の場所だけでなく湖や他のデジモン達の住処などの場所も把握していた。ドルモンがペースを落とすことなく走り続け、やがて目的の井戸が見えてくる。
「ここ?」
「そう……この下…少し、水の中を進まないといけないけど」
「よし…それじゃ行こう!ロップモンはそのまま俺に掴まってて!」
「分かった…!」
ドルモンはロップモンを背負ったまま、井戸の中へと飛び込む。暗さであまり見えなかったが、ロップモンがその大きな耳で方向を示してくれたので迷ったりすることはなかった。少し進むと、上に水面が見えてきた。
「ぷはっ!」
「大丈夫…?」
「あ、ああ。ロップモンは?」
「問題ない。ここを、道なりに進んでいくと…」
「町の中?」
「そう」
「それじゃ急ごう!」
「ボク、降りる」
「別にこのままでも大丈夫だよ?」
「ここ、狭いところある。多分、通れない…」
「なるほど…」
ロップモンはドルモンから降りて、ドルモンを先導して行く。言っていた通り、道は一本道ではあるものの天井が低い場所や、ドルモンがギリギリ通れるくらいの横穴のような場所もあった。通りにくい場所に時間がかかってしまったが、ようやく真上に続く梯子が見えてきた。
「や、やっとか…」
「ボクがまず、見てくるね」
「ああ、出ても大丈夫そうだったら呼んで!」
「うん…待ってて」
ロップモンが梯子を登っていくのを、ドルモンは見届ける。いきなり自分が町に出て行ったとして、それで他のデジモンに出会ってしまったら一大事だ。ロップモン達が上手くやってくれるのを待つことにしよう。
そう考え、ドルモンは待ち続ける。
音は何も聞こえない。そういう仕組みでも施されているのかもしれない。
数分、数十分。
体感ではあるが、大体三十分くらいは経ったか…さすがに、遅すぎるんじゃないか?そう思い、上の様子を確認しに行くことにした。梯子を少しずつ登り、一番上のマンホールを少しずつ開ける。そこに映った光景は。
「や、止めて…」
「うう……」
「ドル………モン…………?」
荒廃した町と、ボロボロになった友達の姿だった。
それを見た瞬間、ドルモンは勢いよく飛び出す。
「皆!何があったんだ!」
「ドルモン…!」
「ロップモンが、私たちを庇って…」
「ロップモンが!?」
見たところ、ロップモンとパタモンが一番ダメージが大きい。プロットモンはまだ動けているので、自分たちが地下を進んでいる間に何者かに襲われ、パタモンがプロットモンを守っていたのだろう。ロップモンはその時に出て行ったので、パタモンの加勢に入ったということか。そこまで予想したドルモンはひとまず、どこかで休める場所を探すことにした。
「皆、急いで休める場所を探そう!」
「で、でも…お願い、ドルモン。あのデジモンも一緒に連れて行って!」
「あのデジモン…?」
ドルモンが辺りを見渡すと、少し離れた所に人型デジモンが倒れていた。白いボロボロの衣服を身に纏っており、その体には生傷がいくつも出来ている。ドルモンは一度もこんなデジモンを見たことがなかった。見知らぬデジモンということで警戒する。
「違うの!あのデジモンも、ロップモンやパタモンと一緒に戦ってくれたの!」
「戦ったって、誰とだよ?」
「なんか悪そうなデジモン!そいつが影みたいなの出してロップモンを攻撃したの」
曖昧な説明で、ドルモンが疑問を浮かべる。そんな時、パタモンが異変に気がついた。
「…!待って、二人とも……!ロップモンが、変だよ……」
「うう、ううう…!!」
ロップモンは先程から蹲ったまま動かない。それほど怪我がひどいのかとも思ったが、明らかに様子がおかしい。
「おい、ロップモン!大丈夫か!?」
「だ、め………来な、い…で!」
「何言ってるんだよ!放っておけるわけないじゃないか!早く、どこか休める場所に…」
「もう、無…………………うああああああああっ!!!!」
「ロップモン!?」
「ドルモン、危ない!」
「うわぁっ!」
ロップモンから突如として黒いものが溢れ出し、それによってドルモンが弾き飛ばされる。そのまま地面に転がるが、すぐに起き上がりロップモンがいた場所へと目を向ける。
「え…!?」
ロップモンが黒いものに包まれ、中から出てきたのは…ロップモンではなく、茶色の巨人のような体躯をしたデジモン、ウェンディモンだった。
「ロップモン…!?」
「……うぅ…こ、これは!?」
白い服を纏ったデジモン――サンゾモンが目を覚ます。ウェンディモンがパタモンとプロットモンに迫っているのが見える。悪しき力を感じ取ったサンゾモンはどうにかして守ろうとするが、この町を襲ったデジモンとの戦闘で相当なダメージを負っており、咄嗟に動くことが出来なかった。その間にもウェンディモンは腕を振り上げ、パタモンへと攻撃をした。
「あうっ!!」
「パタモン!!」
「きゃあっ!!」
「プロットモン!!」
ウェンディモンがパタモンとロップモンを殴り飛ばす。最後に、ドルモンの方へと向き、同じように殴り飛ばそうとする。
「メタルキャノン!!…………ぐあっ!!!」
ドルモンが口から鉄球を飛ばし攻撃したが、ウェンディモンはそれを生身で防御した後にドルモンへと攻撃を当てた。ドルモンは地面を何度も転がる。
「く、くそ……!まだ、だ…!」
だが、ドルモンは立ち上がる。ロップモンに何か起きたことは理解できた。もし暴走しているのだとしたら、自分たちの中で一番誰かを傷つけることを嫌うロップモン自身が、今の行動を後悔するだろう。だったら…暴走を止めるのが、友達の役目だと自分を奮起させる。
「ロップモン……!俺の、声が聞こえる、か…!おい、ロップモン!!」
「お止めなさい!!」
「っ!?」
「この者達にはこれ以上、手出しはさせません!」
「……………」
ウェンディモンは何も反応せず、ある方向へと目を向けた。そのままドルモンとサンゾモンを無視して歩き始める。サンゾモンは警戒をほんの少し緩める。今は無事に生き残ることが重要だ、このまま去ってくれるのであればそれで良しと考えた。
しかし、サンゾモンは知らなかった。そのデジモンはロップモンが暗黒進化したウェンディモン。そのウェンディモンはある特殊な能力を持っているということを。
「ま、待て……!」
「あの方向って…」
「デジタマが集められてる場所!」
「何ですって!?」
パタモンとプロットモンが、ウェンディモンの進む先がデジタマの安置されている場所だということに気づき、ドルモンとサンゾモンもその言葉を聞きウェンディモンの後を追おうとする。しかし、三体ともダメージがひどく、動くことが出来ない。ウェンディモンに追いつくことは叶わなかった。
どうすることもできないまま、ウェンディモンは大量の籠に入れられたデジタマ、その一つに手をかけようとしたが、最後にドルモン達の方へと目を向けた。ドルモンにはその目が、悲しみに包まれているように感じた。
「ロップモン、止めて…!!」
「どうする、つもり…?」
「ロップモン、待っ――――!!」
「っ!!……はぁっ!!」
目線をこちらに向けたまま、ウェンディモンは時空を歪ませる。それを見た瞬間、サンゾモンが何かを投げつけた。それらはウェンディモンや抱えられていたデジタマに直撃する。しかしウェンディモンは特に反応せずに、デジタマがいくつか入った籠を抱えたまま……どこかへ、消えてしまった。
「ロップモーーーーーーン!!!」
ドルモンの悲痛な叫びが、辺りに響き渡った。
☆
「そのデジヴァイスをくれたミレイさんとそのパートナーのマスティモンとは、その時知り合いでも何でも無かったんだけど、俺たちを助けてくれたサンゾモンが紹介してくれたんだ」
「そのサンゾモンって奴は何でこっちに来なかったんだ?」
グレイがドルモンにそう尋ねると、隣のパタモンが答えた。
「えっとね、サンゾモンがウェンディモンに投げたのはサンゾモンの力の一部でね~、それが無いとこっちの世界では生きていけないらしいんだ~」
「それに、サンゾモンは力をほとんど使い果たしてたから…」
ゴーシュはそれを聞いて一つ疑問を浮かべた。サンゾモンもデジヴァイスに入って一緒に来れば良かったのではないかと。デジヴァイスに入れば回復機能があるのだから、それで力の回復も出来るのではないかと。
「サンゾモンは何でデジヴァイスに入らなかったの?それに入ったら回復するんでしょ?」
ルーシィも同じことを思ったのか、そうデジモン達に尋ねた。
「サンゾモンの力は特殊で、休むだけじゃ回復しないんだよ。それに、デジヴァイスの容量の問題もあるし」
「容量?」
「そのデジヴァイス作られたばっかりだから、容量が無いとか何とか…」
「要するに、サンゾモンが入るスペースが無かったってこと?」
「そういうこと!」
「その容量とやらを増やすことは出来ないのか?」
「…ごめん、分からないんだ。そのデジヴァイスに書いておくとか言ってたけど」
ドルモンがそう言ったのを聞いてデジヴァイスを操作し始めるゴーシュだったが、まだ操作が慣れていない為分からなかった。
「どうだ、ゴーシュ?」
「ちょっと今すぐには出せそうにないです…」
「その内分かるってことで良いんじゃない?」
「それで、マスター…デジモン達をギルドの仲間として入れてもらいたいんですけど」
マカロフに再度確認の為に声をかけた。それによって、全員の視線がマスターへと集まる。
「そうじゃなぁ…デジモン達だけで仕事を受けるのは無しで頼むぞ、依頼人が困惑するから」
「じゃあ…!」
「新しい家族が出来た記念じゃぁ!皆の者、飲めぇい!!」
「「「「「「おおーっ!!」」」」」」
こうして宴が再開され、
なんか書きづらかった回だった。多分まだ三人称に慣れてないんだろうなぁ…
次回からまた本編というか、アニメ通りの話に戻ると思います。