そして今回は初のイーロンに視点を当ててみました!
修行を終え、時計の部品の一つがあるとされる荒野へとやってきたガジル達。彼らは今、岩壁をよじ登っていた。
「本当にここで間違いないの!?」
「テメェらのよこした地図にはここだって書いてあったんだ」
「普通の地面ならいくらでも走れるけど、こんな崖上りじゃ勝手が違うぜ…」
「リリーが俺達を乗せて飛んでくれりゃ簡単なんじゃねぇのか!?」
「それでは途中に手がかりがあった場合に見逃してしまうだろう。安易な手段を選んではいかん」
ウンウンと自分で言ったことに納得するリリー。現在一番上にいるガジルへとイーロンは声をかける。
「ガジルの兄さん、どっちが一番上まで行けるか競走ッス!」
「面白ぇ、受けて立ってやる。テメェらもグズグズしてっと置いて行っちまうぞ!」
「イーロンはともかく…アイツむかつく!」
「ってか、なんでアイツはガジルと張り合ってるんだ?」
「さあ…」
レビィ達の呟きはガジルとイーロンには届くことなく、二人は上へと進んでいく。拮抗していたが、僅かな差でガジルが先に一番上へとたどり着いた。
「ハァ、ハァ…!」
「まだまだだな、ギヒッ。罰ゲームで鉄よこせ」
「くっそー…次こそは」
自分は息を切らしているのに対し、ガジルは汗一つかいていないことに体力差を痛感するイーロン。罰ゲームとやらは寝耳に水だったが、大人しく要求に応じる。すぐに呼吸を整え、先程までいた崖下を見下げる。
「レビィの姉さん達はまだかかりそうッスね」
「さて、とりあえず飯だな」
「いやいや、部品探さないんスか!?」
早速イーロンが魔法で出したパンや骨付き肉といった食べ物の形をした鉄を食べ始めるガジル。仕方が無いので、イーロンは辺りを調べることにした。
「もしかして、隠しスイッチでもあるんスかね?」
「それらしい物は見当たらないが…」
後ろからついてきていたリリーと一緒に地面やその辺の岩を調べるが、ただの岩にしか思えない。地面も同じくだ。だが、人為的に何かをこの場所に隠しているのならばそういった仕掛けがあるはずだ。
「ま、まさか俺達が登ってきたのと反対の岩壁にスイッチがあったりとかは…」
「考えられなくはないな」
リリーの一言を聞いて、若干顔を引きつらせる。ただでさえ時間がかかったというのに、岩壁全てを調べるとなるとさらに時間がかかってしまう。今いるこの場所は、岩山というよりも岩の塔と言えるような形状をしており、普通の岩山よりはマシかもしれないが、手間な事には変わりない。
「と、とりあえずもう少し調べてみるッス…」
「お前、さっきから何してんだ」
「え?いや、時計の部品が隠されていないか探してるんスよ!」
丁度その時、レビィ達三人がようやく頂上にたどり着く。
「レビィの姉さん達、お疲れ様ッス」
「やっと頂上…!」
「空気が薄い…」
「寒ぃ~!」
「へばってる暇はねぇぞ。さっさと時計の部品を探そうぜ」
「それ、アンタが言うんスか」
さっきまで食事をしていた人間の台詞ではないとイーロンは思った。実際に探索していたのは自分とリリーなのだから。
「ちょ、ちょっと休ませて…」
「もう一歩も動けねぇ」
「腹減った~」
「…いかん!山を間違えた!」
「「「「えぇ!?」」」」
「部品があるのは向こうの山だ!もう一回、登り直しだ!」
「「「「嘘ぉ~~!!?」」」」
あまりのことにレビィ達三人は放心状態になり、イーロンも両手を地面につけて落ち込む。
「と言うのは冗談だ。ギヒッ!」
「…はい?」
「む……愉快なジョークで元気づけようとしたのだが。逆効果だったか」
「……だって、リリーは冗談言うキャラじゃないッスよ」
しっかりしていて冷静な人(この場合エクシードだが)にいきなり冗談を言われても、周りの人は本当のことなのかと思ってしまう。今回のような現実味を帯びた話だったら尚更である。チーム・シャドウギアはしばらく行動不能になってしまった。
「と、とりあえず三人はその内復活するから良いとして…どうするッスか?」
「周りにそれらしい物はねぇんだろ?だったらやることは一つだ」
「何をする気だ?」
「ギヒッ……オララララァ!!」
ガジルは雄叫びを上げながら地面を殴り始める。イーロンとリリーはその行動を見て何をしているのかを理解する。一見仕掛けのような物は何も見当たらない。しかし、ここが目的の場所であることは間違いない。だったら、地面の中に埋められていると考えられる。仕掛けを探すよりも強引に掘り当てれば良いという発想がガジルらしい、というかこのギルドらしいが。
「俺もやるッス!リリーも道具作るから手伝うッスよ!」
「うむ、頼んだ」
☆
程なくしてシャドウギアの面々が復活して手伝い始めてから数十分。空はもう夕焼けで赤く染まり始めた頃、皆が黙々と作業を続ける中ガジルが突然作業の手を止めた。
「どうしたの?ガジル」
「…誰か見てやがる」
「え?」
「誰かって、誰だ?」
皆が辺りを見渡すが、人影は見当たらない。ガジルがふと空を見上げるとそこには、翼を持った眼鏡をかけている猫の姿があった。ハッピーやシャルルと同じようにこのアースランドに送られた百人のエクシードの内の一人で、レギオン隊に所属しているのがこのサミュエルである。ナツ達が先日ハートフィリア邸にて遭遇した敵。そのことを情報として知っていた為、気づくことが出来た。
「ああ…気づかれちゃったか」
「レギオンの一人!?」
「何しに来た!」
「決まっているだろ?欲しいものはお互いに、同じだよね?」
「アンタらも部品狙いってことッスね、やっぱり!」
「…君たちとは初対面だね。名乗っておこうか。僕はサミュエルだ」
「アンタが、ナツ達の言ってたエクシード?」
「そう、レギオン隊の頭脳と呼ばれているのはこの僕さ」
堂々とそう言い放つサミュエル、しかしこの言葉には偽りはない。ルーシィの鍵を奪いにやって来た時や、ナツ達との戦闘でダンに作戦を与え上手く立ち回らせたのもサミュエルなのだから。
「勝負してぇなら、さっさとかかって来やがれサミー!」
「勝手に名前を略さないでくれ。僕の名前はサミュエルだ」
「…ここは俺が引き受けよう。お前たちは一刻も早く、時計の部品を見つけろ」
「パンサー=リリー…エクシードの先輩だね。僕にとっては、謂わば兄貴分のような存在ってわけだ」
「貴様に兄貴などと呼ばれる謂れはない!」
背中の剣を構え、サミュエルと同じように空を飛ぶリリー。
「つれないこと言わないでよ、エクシード同士仲良くやろうじゃないか、兄さん」
「嫌がらせのつもりか、サミー!」
「…」
互いに挑発し合い、相手を見据える。今すぐにでも戦闘が始まりそうな為、ガジル達は先程まで掘り進めていた穴の中に飛び込む。
「一気にぶち破るぞ!」
「はいッス!」
「鉄竜槍・鬼薪!」
「
ガジルが両手を鉄の槍に変え高速での連続突きを放ち、イーロンは両手に鉄のドリルを持ち掘り進める。程なくして足下の地面に罅が入り、五人はそこを蹴破り目的地の遺跡へと侵入した。
「なんだこりゃ?」
「変な顔の遺跡だな…」
周囲には人の何倍の大きさもある謎の石像がいくつも並んでおり、その石像達はガジル達が降り立った場所を見つめていた。そして目の前には岩の壁のようなものがあり、石像達はこれを見つめているようだ。
「とりあえずその辺を探すぞ」
「うん!」
彼らはその辺を片っ端に調べ始める。こうしている間もリリーが戦っているが、彼の実力を一番理解しているガジルが全く慌てることがない。他の四人も多少なりともリリーの強さは知っていた為、ガジルが焦っていないのならば問題ないのだと信じることにした。
「気になるのはこの岩ッスね…」
「…おい、ここに何か書いてんぞ」
「えっと…お腹すいた、だって」
「は?」
石像の一つに文字を見つけたガジルがレビィに知らせ、解読してもらったのだが意味が分からなかった。イーロンは岩壁の周囲をぐるりと一周し、形状を確認した。
「横に長い岩壁が三つ…?ジェットの兄さん、ちょっと高いところから見下ろして貰っていいッスか?」
「ああ、ちょっと待ってな」
ジェットは一瞬で近くにあった石像を駆け上がり、岩壁の方を見下ろす。
「お、これってもしかして時計の文字盤じゃねぇか?」
「やっぱり。この岩壁、時計の針だったってことッスね」
「じゃあ…おやつの時間を指すとか?」
「それだ!」
「こいつを動かせばいいんだな?」
ガジルが鉄竜棍で岩壁を殴りつけると、岩壁が動き始めた。
「よーし、俺もやるッス!」
「でも、どの方角が三時なんだ?」
「…!この石像、数字が書いてあるよ!」
「レビィの姉さん、指示をお願いするッス!」
「任せて!」
ガジルとイーロンが協力し、レビィが指示を出すことでそれほど時間をかけることなく文字盤を三時の形に動かし終えた。すると、何か仕掛けが作動した音がした。文字盤は地面へと沈んでいき、入れ替わりで岩の柱時計のようなものが現れる。そこには目的だった時計の部品の一つが埋め込まれていた。
「やっと見つけた!」
「時計の文字盤だな」
「……」
ガジルはそれに近づき、文字盤を舐めた。
「な、何やってんだ?」
「コイツは鉄で出来てるようだな」
「他の確かめ方ねぇのか…」
「なんか、持ち運ぶのが嫌になったッス…」
レビィはその文字盤の下に何かが書いてあるのに気がつき、解読を試みようとするがガジルがそれを無視して無理矢理文字盤を引っ剥がそうとする。
「ちょ、レビィの姉さんならすぐに…!」
イーロンの叫びも虚しく、ガジルが文字盤を引っ剥がしてしまった。その次の瞬間、遺跡全体が揺れ始める。
「な、なんだ!?」
「こう書いてある!警告、これを奪う者は岩の番人許さぬであろう!」
「ってことは…!」
地面から巨大な石像が現れる。その辺にあった石像と同じ見た目だが、一回り大きくその石像の足下からは触手のようなものが生えていた。ガジル達はその石像からの攻撃を紙一重で回避する。
「だから待ってって言ったのに!慌て者、おっちょこちょい!」
「俺が悪いってのか!」
「ガジルのせいでしょ!」
「ホントッスよ!巻き込まれる身にもなってほしいッス!」
「「喧嘩してる場合かよ!!」」
直後、触手による攻撃がガジル達を襲う。これも何とか回避に成功し、レビィは石像の頭の上に赤く光っている部分があることに気がついた。
「あの光ってる所が岩を操ってるみたい…」
「ってことは、あそこが急所か!」
「よーし、シャドウギアのチームワークの見せ所だぜ!」
「まずアイツの動きを止める!
石像はレビィによって足下に撒かれた石油に足を取られ、バランスを崩した。その隙をつき、ドロイが手に持っていた魔法の種を自分の足下に投げる。
「次は俺の番だ、チェーンブラスト!!」
魔法によって急激に成長した種は蔓を伸ばし、石像へと絡みついていく。これにより動きは阻害され、さらに頭の上へと続く足場にもなった。
「最後は俺だ!ハイスピード!!」
そしてジェットがドロイの放った蔓を一気に駆け上がっていった。
「おお!すごい連携ッス!」
「見た?シャドウギアのチームワーク!」
「へっ、ちったぁやるじゃねぇか」
レビィがガジルとイーロンに向かってそう言っている間に石像が僅かに動き、何本かの蔓が千切れる。ジェットが足場としていた蔓も切れたことで落下してしまった。
「ジェット!」
「任せろ!」
ドロイが咄嗟にジェットの足下に巨大な葉を何枚も生み出し、それによって衝撃は分散される。ジェットはそのまま石像の足下、つまりレビィの放っていた石油の中へと落ちてしまった。
「大丈夫?」
「うぇ~、油でベトベトだ…」
「…来るぞ!」
「何の、もう一度!」
石像が動き出し、全ての蔓が千切れてしまう前に駆け上がろうとするジェットであったが、油によって滑りやすくなってしまいすぐにまた石油の中へと落下してしまった。それを見たドロイが今度は自分だと走って行くが、体力がなく途中で止まってしまいそこを触手でたたき落とされた。
「途中までは良かったんスけどね…」
「こうなったら、私が行くしか…!」
「邪魔だ、どけ!」
「アンタね、そういう言い方って…!」
「あいたっ!?」
レビィが行こうとしたがそれよりも先にガジルが駆け上がり始める。その際、イーロンの顔面にガジルが持っていた文字盤がクリーンヒットした。ガジルはそれを気にせず、あと少しで登り切るといった所で触手に攻撃され、やむを得ずまたレビィとイーロンの傍へと退避する。
「ガジル!」
「ちょっと、投げるなら投げるって言ってほしいッス!」
「それより今は、あの頭の上まで何とかたどり着かねぇと…くそ、腹が減って来やがった…おい、その文字盤を…「何言ってるの、駄目に決まってるでしょ!」本気にすんな、冗談だ!」
「冗談に聞こえないの、アンタの場合!」
触手による攻撃を躱しつつそんなやりとりを続けるガジルとレビィ。二人に対し必死になって攻撃を躱しているイーロンは叫んだ。
「いいから、早くどうにかするッスよ!!」
「ねぇ、さっきからその文字盤を狙ってるんじゃない!?」
「そういうことか…おい、ガキ!」
「ガキじゃなくてイーロンって名前があるッス!」
「チッ…イーロン、アイツを引きつけろ!」
「…!お任せあれッス!」
自分のことをようやく名前で呼んでくれたことが、自分を認めてくれたように感じイーロンは内心喜びながら、ガジル達と別方向へと走り出す。
「
「うおおおおっ!!滅竜奥義、業魔鉄神剣!!」
石像よりも上へと放たれたアンカーは壁に深く突き刺さり、それを確認したイーロンはアンカーを縮めることで突き刺さった場所へと高速で移動する。これにより石像は上を見上げる形になり、その大きな隙を突いたガジルの一撃が石像を一刀両断したのだった。
「こっちは片付いたぞ!テメェもさっさとケリをつけろ!」
「あれは…」
「そんな馬鹿な…あり得ない!僕の計算が通じない奴がいるなんてーっ!!予定が狂ってしまった、もうどうすれば良いのか分からない!計算不能、計算不能―っ!!」
上に登ったことでイーロンは、リリーとサミュエルがすぐ近くまで下降していることに気がついた。どちらもこれといってダメージはなさそうだったが、サミュエルは目に見えて狼狽えている…というより、駄々をこねていた。
サミュエルはガジル達があの石像に倒されることを計算してリリーを足止めしていた。しかし全く違う結果になったことが原因で計算が狂い大きく動揺していた。
「戦いは生き物だ。何が起きてもその場に応じて対応せねばならん。まだまだ経験が足りんようだな、サミー」
「その呼び方をするなーっ!!」
「隙だらけだぞ」
サミュエルは爪でリリーに襲いかかるが、リリーは瞬時に背後に回り込みサミュエルの腕を掴む。そしてそのまま地面へとサミュエルを投げ、サミュエルは受け身もとることが出来ず目を回す。本人が気絶したことにより、リリーと同じく体を巨大化させていた魔法も解けた。リリーも魔法を解き、関節技を極めてサミュエルを無理矢理起こす。
「筋は悪くないようだ。その内また挑戦してこい、いつでも相手をしてやる」
「確かに僕の負けだ…世の中には計算が通じない相手がいることが分かったよ」
「自分の未熟さに気づいたか」
「つまり、戦う前の計算が足りなかったってことなんだ!今回は負けたけど、今度はもっと緻密に計算して、きっと頭が筋肉の兄さん達を倒してみせる!そうだ、今戦ったデータをちゃんと書き留めておかないと…!」
「誰の頭が筋肉だ!!」
リリーはサミュエルを思いっきり蹴り上げ、サミュエルはそのまま天井の穴へと飛ばされていった。
「エクシードにも色々なタイプがいるのね」
「…リリーってその姿でも強いんスね」
「兄さん、だってよ。ギヒッ」
「兄になった覚えはない!」
こうして時計の部品を手に入れることに成功したガジル達は、合流地点である最後の部品のある聖堂を目指すのだった。