ここは何処なんだ。体は動かせないし、声も出せない。自分の体は見えるのにその他は何も見えない。今どこに立っているのかも、そもそも地面があるのかどうかも分からない。それに…覚えていない。どうしてこんな場所に来たのかも、体の中から湧き出てくるものがなんなのかも…自分の名前すらも。
苦しい…全身が痛い。頭に霧がかかり思考が鈍る。そして全身を強い倦怠感が襲う。駄目だ…僕は、こんなわけが分からない所にいる暇はないんだ。早く、戻らないと……あれ、何で戻らないといけないんだっけ…どこに、戻るんだ…?
「・・・・、・れ・・・・・ナー、・・・!」
「ゴ・・・、や・・・・・・っ!」
「さい・・・・・どう・・・・・・・・・・・!」
声が聞こえた。何を言っているのかは聞き取ることが出来ない。でも、この声達は聞き覚えがある。一体、誰なんだ…?僕を知っている、のか。誰でも良い、出口を教えてくれ。そのまま声を出し続けてくれ。
「みん・・・・・・と・」
さらに別の誰かの声が聞こえてくる。その直後、全身に温かい感覚が広がっていく。この感覚によって僕の心が少しずつ安らいでいくのを感じる。僕は、この感覚を…知っている。すぐ身近にあった…はずなんだ。もう少し、もう少しで思い出せそうなのに…!
「・・・ュ、もう大丈夫・・・・・・・・から」
両手が何かに濡れたような感覚がする。一体何が大丈夫なんだろうか。苦しさも痛みも消えることはない。何故かただの水じゃないのは分かった…これじゃ、嫌な感覚が増えただけじゃないか。
「・・と・は、きず・・たく、ない・・よね?ごめ・・、ゴー・・・・」
…僕の体に傷はない。昔の傷跡はあるけれど、今の僕の体に生傷なんか見当たらない。この両手に広がるのは僕では無い別の誰か…きっとこの声の主のものだ。
これは、僕がやったのか…?
止めなければ。僕は誰かを傷つけることなんてしたくない。そんな誰かを苦しめてしまうような生き方は絶対にしたくない…!
「これ・、君・せい・・ないよ。わた・・・うぶ・から」
違う。君はいつもそうやって大丈夫、大丈夫って強がりを言うんだ。君が無理をしているのなんて、分かりきっている。僕が、しっかりしなければ。君を守る為に、僕は…!
「私は…もう守られているだけじゃ嫌なの。・・・・のことを、支えたいんだ」
…そう、か。僕は、また一人で頑張ろうと必死になってしまっていたのか。
出口を探す必要なんてない。この声に、この温かい感覚に全てを委ねれば良い。きっと、元いた場所へ連れて行ってくれる。
「…ありがとう。やっと、君を助けることが出来たね。今まで、助けられてばっかりだったから」
少しずつ、今までの記憶を思い出す。次々と流れる記憶の奔流…その大半に出てくる、一人の少女。
君が、皆がいたから今僕は存在している。既に何度も助けられていたんだ。今回だけじゃ、ないんだよ。
「デジモン達も、ギルドの皆も、大事な家族だよ…皆、君が戻ってくるのを待ってる」
僕の大事な仲間であり、友人であり、家族である人達。その皆が…待ってくれている。
気づけば、さっきまでいた何処でも無い場所ではなかった。崩壊が続く礼拝堂、そして心配そうに見ているギルドの皆、すぐ傍にいるパートナーデジモン達、そして…僕を連れ戻してくれた女の子が、僕を抱きしめてくれていた。
「…お帰りなさい、ゴーシュ」
「…ただいま……ウェンディ」
極度の疲労と安堵から、僕は眠ってしまった。
☆
これが、僕が覚えている最後の記憶だ。問題はその後…あそこからどうやって脱出出来たのか、そして今はどういう状況なのか、だ。
「…誰か、来てくれないかな」
ここがギルド内にある休憩室なのは確かだ。でもカーテンがしっかり閉められているせいで誰かいるのかも分からない。全身痛くて起き上がるどころか寝返りを打つのも厳しいし…今は誰かが来てくれるのを待つしか無い。
「あ、そうだ…って、駄目か」
自分が動けないならゴーグルの中にいるデジモン達に頼めば良いじゃないかと思ったんだけど、今の僕はゴーグルをしておらず、首も動かすのが辛いので視線だけで周囲を見渡すとすぐ近くのテーブルにゴーグルが置かれているのが確認出来た。さすがに体を動かせないんじゃ取れないや…最近ロック機能があることを見つけて、プロットモン対策で勝手にリアライズしないようにしたことが仇となるとは…
と、その時だった。誰かの話し声がゆっくりと近づいてきているのが聞こえてきた。良かった、これで状況が分かる。
「…遅いな」
声が大分近づいてきているはず…なんだけど、部屋に入ってくる気配がない。声が聞こえるくらいの距離ならもう部屋に入ってきても良いはずなんだけど。声の主は…多分二人?というか、この二人は…
「ほら、着いたぞ。いい加減元気出せよ」
「…分かってるッスよ」
やっぱりイーロンとロメオか。そしてようやくここまで来てくれたようだ。
「おーい…っ!ゴホッ」
呼びかけるように少し大きめの声を出そうとしたら咳が出た。これじゃ病人そのものだよ…でも、今ので気づいてくれたはず――
「…!」
「今の声…あ、おい!」
目の前のカーテンが凄い勢いで開け放たれる。そして泣きそうな顔をしたイーロンと溜息をついているロメオがいた。
「お、おはよう二人とも…」
「兄貴!!」
「~~!?」
イーロンが寝ている僕に飛びついてきた。その衝撃で全身に激痛が走り、声にならない声が出る。ってか、ちょ、めっちゃ痛い!なんでこんな痛いの!?
「目が覚めて本当良かったッス!俺兄貴が目を覚まさないんじゃないかって心配で心配で…!そうだ、傷の具合はどうッスか?姉御が殆ど治してくれたはずッスけど、まだ痛むならもうしばらく休んでた方が…!」
「お、おいイーロン!ゴーシュ兄さっきから意識飛んでるぞ!?」
この時、僕はホントに一瞬だけ気を失っていた。仲間に殺されそうになるとは思いもしなかったよ…。
☆
それから数分後、今ギルドにいる他のメンバーも僕の元へ来てくれた。現在の状況を教えて貰う為にイーロン達に読んで貰ったんだ。
「兄貴が気絶した後、崩壊が激しくなったッス。その時丁度天馬のクリスティーナ改が降りてきて脱出は出来たんスけど、無限時計は新生
「チーム編成と向かう場所はあたしの占いでね!」
「俺も行きたかったなぁ」
なるほど。ロメオやイーロンがここにいるのはチーム編成で入れなかったからか。まあ、さすがに六魔が相手じゃこの二人はまだ力不足だ。カナさんの選択は間違っていないだろう。
「その…ウェンディは?」
「…姉御も残ろうとして下さっていたッス。でも、チームに選ばれていたから俺達に任せて貰うよう説得したんスよ」
「あ、そうじゃなくて、ほら…傷の方」
「そっちも何ともないぜ。派手に出血してたように見えただけで、大した傷じゃないって」
「そう…」
やっぱりあれはただの夢じゃなかったんだ…あろうことかウェンディに怪我をさせてしまうなんて。この力、ちゃんと扱えるんだろうか。
六魔との戦闘、僕の中の何かが解放されたあの時に、ブレイン二世が哀れな傀儡がどうとか言っていたのを僕はしかと聞いた。つまり、少なくともブレイン二世はダフネ本人に僕のことを聞いていたということになる。ダフネに何かしらの実験を施されていたことも、それが何らかの魔法によって封じられていたことも。それをわざと解放させる為、バイロの魔法を利用した。僕が暴走することも見越して。
一応だが僕も六魔討伐に直接関わっているし、これは僕に対する復讐の一つということでもあるんだろう。そしてそれは達成された。僕にとってはこの上なく屈辱的なことだ…自分の生き方に反した行動をさせられたようなものだから。
「イーロン、ちょっと肩を貸してほしい」
「ど、どうするつもり?」
「今の僕は爆弾を抱えているようなものなので…僕の状況を確かめたいんです」
「でもそんな体じゃ…」
「今いきなり暴走することもあり得るんです…このままじゃ皆に迷惑をかけてしまいます」
「…了解ッス!でも、無茶だと思ったら止めるッスよ!」
「俺も行くぜ!」
「…ありがとう、二人とも」
僕のあの状態を見たからか、本当に若干だけど皆が怯えてしまっているような気がしてしまう。僕の妄想かも知れないけど、早くどうにかしたいというのが本音だった。この二人だって僕を怖がっても仕方ないのに…こうして協力してくれたことに、改めてお礼を言った。
「あ、そうだ。デジモン達も…」
「ああ、ちゃんと持っていくよ」
ロメオがテーブルの上からデジヴァイスを取ってくれた。外に出たらドルモンかパタモンに進化して貰って背中に乗せて貰おう。場所は…いつもの修行場にしよう。万が一僕が暴走してしまっても被害が少ない方が良い。ここで進化させられれば良いんだけど、狭くて動けないだろうからなぁ…
二人に肩を貸して貰いながら、少しずつ外を目指して歩いて行く。やっぱり全身が痛み続けている…これも暴走のせいなのかな。
「くっ……うっ…!」
「ホントに大丈夫かよ、ゴーシュ兄…」
「歩くだけでここまでとは…すごく痛々しいッス」
「ご、ごめん。あまり心配しなくて良いから…」
歩く度に呻き声を上げていたら、そりゃあ心配されるよね。でも、ようやく痛みに慣れてきた所だからもう少しだけ我慢してくれ…
一歩ずつ時間をかけてゆっくりと歩いて行き、そうしてようやく玄関から外に出る。ロメオからデジヴァイスを渡してもらい、デジモン達をリアライズさせる。
「やっと出れた~!」
「ゴーシュ、大丈夫~?」
「うん、何とかね…」
「いや全然大丈夫って感じじゃないよ!?無理しちゃ駄目だって!」
ドルモンから興奮気味にそう言われた。無理をしている自覚はさすがにあるけれど、今はそうも言っていられない。今回は大目に見てほしい。これ以上誰かを傷つけるなんて耐えられない。
「パタモン、いきなりで悪いけど進化してもらっていい…?」
「大丈夫、話は聞こえてたよ~」
「ありがとう…それじゃ、頼むよ」
「は~い!パタモン、進化――ユニモン!」
やっぱり乗り心地で言えばユニモンの方が良いと思う。ドルガモンも力強さはあるけれど、ユニモンはそれ以上に安定して飛んでいられるし。
「
魔法を使おうとしたその瞬間だった。僕の体に異変が起こったのは。
「あ、兄貴!?」
「どうしたんだよ、ゴーシュ兄!」
「来るなっ!!」
急にしゃがみ込んでしまった僕の傍へ駆け寄ろうとするイーロンとロメオを止める。今僕に近づくのは危険だ。
「ゴーシュの腕が…!」
「それに髪の色も…これも暴走のせい?」
リサーナさんが言った通り、今僕の右腕は肩側から徐々に緑色に変色し始めている。ミラさんの言葉から察するに、髪の色も同様に変色し始めているようだ。
「ぐっ…皆、離れて…くっ!!」
右腕に注がれ続けている膨大な魔力をどうにかしなければと考えた僕は、皆が離れているのを確認してから地面に右腕を突き立てた。そして僕がいる場所を中心として半径数mの範囲にわたって地面が十字に切りつけられたように陥没した。
「な、なんて威力…こりゃ下手に近づいたら危険だね」
「はぁ、はぁ…っ!」
魔力を発散させることが出来たからか、僕の腕が元の色へと戻っていく。きっと髪も元の色に戻ったはずだ。
今の…止め方が分からなかった。抑え込もうとしていたのに、まるで右腕がどんどん体の内側から湧き上がる何かに浸食されてしまったような感覚だった。発散させれば元に戻るみたいだけど、体力をごっそりと持って行かれてしまうし…これじゃ戦いになったら足手まといだ。そして一番の問題は。
「ねぇ、今の暴走ってゴーシュが魔法を使おうとしたから起きたのかな」
「…多分、そうだと思います」
レビィさんの言ったように、魔法を発動させようとしたらこうなった。ということは、暴走しないようにしながら戦闘をするのは不可能だ。
「ゴーシュ、戦えなくなっちゃったの?」
「そんな…」
「何だって!」
その時、ギルドの中にいたウォーレンさんが突然大声を上げた。全員の視線が彼へと向けられる。
「ミッシェルが偽物だって…!?」
『その可能性が高いわ。だって、ここに本物がいるから』
今のは、ラキさんの声…確かラキさんはギルダーツさんと一緒に何かの任務に行ったって聞いていたけれど…まさか、ミッシェルさんの身元調査だったのか?
「じゃあ、今ルーシィ達と一緒にいるミッシェルって…誰なの?」
「連絡用のカードは?」
「各チームに一枚ずつ。エルフマンが持ってるよ」
ウォーレンさんがエルフマンさんにカードを使って連絡を取ろうとしたが応答はない。これはきっと何かあったんだ。もしかすると六魔の誰かと戦闘中なのかもしれない。
と、その時。ギルドに向かって走ってくるビジターさんの姿が見えた。
「大変である!カルディア大聖堂が六魔の襲撃を受けていると!」
「何!?不味いな…あそこには誰も行ってねぇ!」
「僕達が行く。行こう、ビスカ」
「ええ」
こんな時に襲撃なんて…くそっ。今の僕じゃ行っても足手まとい…それは分かってるけど、何か出来ることはないのか。
「…ゴーシュ、慌てては駄目よ」
「ミラさん?」
「もうすぐマスターも戻ってくるはず…マスターなら、何とか出来るかもしれない」
「…はい。皆、戻っていてくれ」
デジモン達をデジヴァイスの中へと戻し、僕はまたイーロンとロメオの肩を借りてギルドの中へと戻る。
せめて魔法が使えれば…無限時計を全て持って行かれてしまった今、新生
「…二人とも教えてほしいんだけど、僕が気を失っていた間、僕について六魔は何か言ってなかった?」
「いや、特に…兄貴が暴走したら全員逃げちまったんスよ」
「何でも良い…僕の中に何があるのか、少しでも情報が欲しいんだ」
「そういえば、ナツ兄がゴーシュ兄を
「
じゃあやっぱりダフネが関係してるのか。ドラゴンに関する魔法を僕に仕込んでいたとしてもおかしくない…きっと、僕の体の中にあるのは滅竜魔法の
……あれ?ちょっと待てよ。
…もしかして、何とかなる?
「…レビィさん!ちょっと来て貰って良いですか?」
「え?何、急に?」
「どうしたんスか、兄貴?」
「もしかしたら、また戦えるようになるかも知れない…!」
ロメオ、イーロン、レビィさんの三人に僕の考えを説明し、レビィさんからの「いけるかも!」との言葉で光明が見えてくる。そして僕らは早速作業に取りかかることにしたのだった。
現状、滅竜魔法はパワーアップではなく足枷となっています。今後修行して扱えるようになる予定ではありますが、今は上手く扱えません。
また、感想の返答でも書きましたが今後も結界魔法がメインなのは変わりません。結解魔法以外にも覚える予定の魔法はありますが、あくまでサブウエポン的な感じです。