時間は少し遡る。
ウェンディとシャルルは、医務室から
「今、ゴーシュ兄がラミアのジュラと戦ってる!俺がイーロンについてるから、二人は観客席へ行ってくれ!」
と、ロメオが医務室に押しかけてきたからだ。その知らせを聞いた途端、二人は血相を変えて大急ぎで向かっていた。
「アイツも災難ね、ホント!」
「ジュラさんと当たっちゃうなんて…」
以前、
「ジュラさんって確か、聖十大魔導の序列五位になったんだよね?」
「確かね。強くなったとはいえ、それでもしあのジャガイモ頭の本気を出させたりしたら…!」
「ジャガイモって…失礼だよ、シャルル」
「それより、ゴーシュは大丈夫かしら…流石に勝つまではいけないでしょうけど、大怪我とかしそうで心配だわ」
そんな会話をしつつ、外の光が見える場所を見つけた。そのまま真っ直ぐ向かおうとした二人だったが、すぐに足を止めた。
「な、何…この魔力!?」
「大気が…震えてる!」
前方から途轍もなく巨大な魔力を感じ、歩みを止めてしまった。大気を振動させるほどの魔力を間近に感じて、本能で危険を察知したのだ。
「でも、この先って…」
「…ゴーシュ!!」
「ウェンディ!」
感じていた魔力がすぐに消え、その直後にウェンディが駆け出しシャルルもそれに続く。そして、二人が目にしたものは。
呆然と立ち尽くしているAチームのメンバー達と、彼らの視線の先にある闘技場の中心。そこに立つジュラと、彼の視界全てを覆う程に広がった砂煙だった。
☆
「ゴーシュ!!」
静まりかえった闘技場内に、少女の叫び声が響いた。砂煙に視界を一切遮られた中、ゴーシュはピクリとその声に反応した。
(ウェンディ…来てくれたのか。これは…無様な格好は余計見せられない、か)
ジュラの鳴動富嶽は、ゴーシュの
その
そう、鳴動富嶽は、
(奴ら…また、こんなことを……!!)
鳴動富嶽を受け止めた瞬間、ゴーシュの全魔力が消えた。いや、消されたと言うべきだ。
魔力を失っても一定量の魔力を注いでいれば展開し続けられる
ゴーシュは魔力が消えた直後に全ての
魔力が消えた理由…その最たる原因であるだろう人物、その人物が所属しているギルドの面々を思い浮かべ、ゴーシュは顔を歪めた。砂煙が視界を遮っていなければ、そのギルドのメンバーがいる場所を睨み付けていたことだろう。
魔力を
(ダメージをここまで負うと、さっきまでみたいに動き回るっていうのは無理だろうな…
時間も既に残り十分を切っている。しかし、今のゴーシュにはそんな短時間でも耐えきる自信は無かった。
とはいえ、今のゴーシュは勝とうとはしていない。負けないようにして引き分けに持ち込むつもりだ。しかし、このまま終わらせるつもりも無かった。
「
砂煙が晴れる前に姿を隠して、回復しながら移動を始める。他者からは見えないことは分かっているが、ジュラには先程の攻撃を防がれていることもある為、下手に近づかないようにして遠距離攻撃を仕掛けることにした。隠れ続けて時間を稼ぐという手もあるが、それをやるつもりは無かった。流石に反則だと思っているからだ。
(ジュラさんの今の攻撃で
「
「!」
今の一撃で倒したと思っていたジュラは、四方からの魔力光線攻撃に反応が遅れる。それでも三方からの光線は防ぐなり躱すなりして対処したのは流石と言える。残る一方からの光線も衣服に掠める程度だった。
ゴーシュが次々と
「
しかし、そうはならなかった。自分の周り…ではなく、自分のいる場所から少し離れた場所に結界を展開する。丁度、岩の腕がぶつかるように。魔力が吸収されたことによって岩の腕はボロボロと崩れ、ジュラはその一点に集中攻撃を開始した。
ジュラの頭には、ゴーシュが鳴動富嶽によって大なり小なり負傷したという考えがあった為、この結界はゴーシュが逃げ遅れた為の苦肉の策であると勘違いするようにゴーシュが思考を誘導したのだ。そしてこれは、ゴーシュの最後の逆転のチャンスだった。
彼が持つ最大の遠距離攻撃は緑竜の咆哮だが、近距離ならばそれを大きく上回る技があった。まだ未完成の域は出ないが、それでも八割近く完成していると言えるその技に彼は賭けた。
両手を祈るように合わせて、魔力を集中させる。最大まで溜まる前に、ゴーシュは
(今だ!!)
ジュラは背後に迫る強大な魔力を感じ取ったのか勢いよく振り返ったが、時既に遅し。
「くっ…巌山!!!」
「――滅竜奥義!!
巨大な山が作り出されたことで足場を崩され、その身を宙に投げ出されながらも、ゴーシュはその技を撃ち込んだ。
両手の爪が岩に食い込み、そこから緑竜の魔力が爆発的に流れ込む。岩の山が、水面に波紋が広がっていくかのように亀裂が広がっていき、岩の山自体が爆散した。
(よし!!)
ジュラの姿を捉えたゴーシュが彼に殴りかかったが、ジュラは半身になって躱す。そのまま方向転換をしようとしたゴーシュだったが、勢いを殺すことが出来ず倒れてしまった。
(あと、もう少しなのに…!!)
彼の想像よりも鳴動富嶽によるダメージが大きかった。ジュラの渾身の一撃を受けてもまだ動けていたのは、最後までゴーシュが諦めずに戦おうとする意志を失っていなかった為だ。動けていたといっても、歩くのがやっとの状態だった。ゴーシュは何度も立ち上がろうとするが、体を起こすことも出来なかった。
『タイムアーップ!!そして、決着!!勝者、ジュラ=ネェキス~!!!』
という機械的な音声と、遠くからドラの音が鳴り響いた。
☆
負けた、かぁ……いや、勝てるとは思ってなかったよ?それでも…あともうちょっとだったんだけどなぁ。せめて一撃入れて、一矢報いたかった。
「はっ…はっ…はぁ~」
「大丈夫か、ゴーシュ殿」
大の字になって倒れ込んだ僕に手を差し伸べるジュラさん。息切れはしてるし溜息も出てしまったが、ジュラさんは呼吸も乱れていないし服に汚れすらもついていない。これが、僕とこの人の間にある圧倒的な力の差か。もっと強くならないと…
「あ、ありがとうございます…」
ジュラさんの手を借りてようやく立ち上がる。何とか自力で立てることを確認していると、ジュラさんは右手を僕に伸ばしてきた。
「本当に強くなった。その歳でこれ程の魔導士になった君を、少し羨ましく思ってしまうな」
「いえ…やっぱり僕はまだまだです。こんなにダメージを受けたのは初めてですよ…」
「それも儂の本気の一撃でようやくだ。いずれ儂も越えられる日が来るだろうな」
「…その時は、ぜひまた勝負して下さいね」
「ああ。約束しよう」
僕も右手を出して握手に応じ、ジュラさんとそんな約束をした。そんな日はしばらく来ない気もするけどね。
「…どうやら、迎えが来たようだな。ではゴーシュ殿、失礼する」
「あ、はい。ありがとうございました」
ジュラさんが背を向けてリオンさん達のいる場所へと帰っていった。でも、どう見てもジュラさんに迎えなんか来てないけど…
「ゴーシュっ!」
「あ、ウェンディ…はは、ちょっと、情けない姿見られちゃったね」
「全然そんなことないよ!その…カッコ良かった」
「…そ、そっか。あ、そうだ!ちょっと肩貸して貰っても良い?正直一人で歩くのも辛くてさ」
「じゃあ、真っ直ぐ医務室だね」
そのままBチームの皆にも労いの言葉をかけてもらいながら、真っ直ぐ医務室へと向かった。
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
大魔闘演武一日目、終了
あと1つ忘れていたことが。今回は出てないですが、
循環の結界(サイクル):手裏剣のような結界。吸収時は朱色、放出時は藍色に変化する。魔力の吸収と放出が出来る。吸収モードだとあらゆる魔法を吸収するので、相手の魔法に向かって攻撃するとその部分が抉れたようになる。ただし魔力を吸収するだけなので無機物などに当てても何の効果も無い。放出モードだと当てると魔力を与える。