FAIRY TAIL 守る者   作:Zelf

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第82話  試合、決着

 時間は少し遡る。

 

 ウェンディとシャルルは、医務室から妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチーム用の観覧席へと向かう通路を進んでいた。

 

「今、ゴーシュ兄がラミアのジュラと戦ってる!俺がイーロンについてるから、二人は観客席へ行ってくれ!」

 

 と、ロメオが医務室に押しかけてきたからだ。その知らせを聞いた途端、二人は血相を変えて大急ぎで向かっていた。

 

「アイツも災難ね、ホント!」

 

「ジュラさんと当たっちゃうなんて…」

 

 以前、六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いで二人はジュラの強さを知っていた。ブレインの攻撃を一度も受けること無く完封してみせた実力の高さ。ゴーシュにはその時のことを話したりはしたが、百聞は一見に如かず。ゴーシュは本当の意味でジュラの強さを知らないのだ。

 

「ジュラさんって確か、聖十大魔導の序列五位になったんだよね?」

 

「確かね。強くなったとはいえ、それでもしあのジャガイモ頭の本気を出させたりしたら…!」

 

「ジャガイモって…失礼だよ、シャルル」

 

「それより、ゴーシュは大丈夫かしら…流石に勝つまではいけないでしょうけど、大怪我とかしそうで心配だわ」

 

 そんな会話をしつつ、外の光が見える場所を見つけた。そのまま真っ直ぐ向かおうとした二人だったが、すぐに足を止めた。

 

 

 

「な、何…この魔力!?」

 

「大気が…震えてる!」

 

 

 

 前方から途轍もなく巨大な魔力を感じ、歩みを止めてしまった。大気を振動させるほどの魔力を間近に感じて、本能で危険を察知したのだ。

 

 

 

「でも、この先って…」

 

「…ゴーシュ!!」

 

「ウェンディ!」

 

 

 

 感じていた魔力がすぐに消え、その直後にウェンディが駆け出しシャルルもそれに続く。そして、二人が目にしたものは。

 

 

 

 呆然と立ち尽くしているAチームのメンバー達と、彼らの視線の先にある闘技場の中心。そこに立つジュラと、彼の視界全てを覆う程に広がった砂煙だった。

 

 

 

「ゴーシュ!!」

 

 静まりかえった闘技場内に、少女の叫び声が響いた。砂煙に視界を一切遮られた中、ゴーシュはピクリとその声に反応した。

 

(ウェンディ…来てくれたのか。これは…無様な格好は余計見せられない、か)

 

 ジュラの鳴動富嶽は、ゴーシュの外殻の結界(シェル)を消し飛ばす程の威力を持っていた。

 

循環の結界(サイクル)の能力は、魔力の吸収と放出だ。結界に触れた魔法の魔力を一瞬で吸収し、放出させて魔力を回復させることも出来る。譲渡結界(ランブル)の強化版として考案されたこともあり、吸収時と放出時で色も変わる。吸収時は朱色、放出時は藍色という風に。

 

外殻の結界(シェル)やジュラの攻撃を切り裂いていたように見えていたのは、触れた部分の魔力を吸収していたのだ。

 

 その循環の結界(サイクル)外殻の結界(シェル)に張り巡らされている円環殻(リングシェルター)には、高い防御力と魔力吸収・放出の2つの能力が掛け合わされている。受け止めきれなかった魔力分を4つの循環の結界(サイクル)が全て吸収し、その余剰分の魔力を外殻の結界(シェル)に放出して外殻の結界(シェル)を更に強化させることが出来る。一瞬であろうと外殻の結界(シェル)が持てば、相手の攻撃を利用して強化し受け止めきることが出来る、そのはずだった。

 

 

 

 そう、鳴動富嶽は、円環殻(リングシェルター)であれば防ぎきることが可能だったはずなのだ。しかし、ゴーシュは致命傷とまではいかずともそれなりに大きなダメージを負っていた。

 

 

 

(奴ら…また、こんなことを……!!)

 

 鳴動富嶽を受け止めた瞬間、ゴーシュの全魔力が消えた。いや、消されたと言うべきだ。

 

魔力を失っても一定量の魔力を注いでいれば展開し続けられる防御結界(ディフェンド)と違って、外殻の結界(シェル)は魔力量によって強度を変える。つまり、ゴーシュの全魔力が消え去ったことにより外殻の結界(シェル)の強度は最低値となってしまいジュラの攻撃に耐えきれず消滅した。それでも防御結界(ディフェンド)とほぼ同程度の強度はあるが、ジュラの渾身の一撃はそれを遥かに上回る威力だったのだ。

 

 ゴーシュは魔力が消えた直後に全ての循環の結界(サイクル)を咄嗟に操作して攻撃を受け止めたが、受ける面積が足りず結界の隙間からゴーシュに降りかかりダメージを受けてしまった。循環の結界(サイクル)はゴーシュの魔力が消えてもある程度込められた魔力で持続させることが出来るので、生身で鳴動富嶽を受けるという最悪の事態は避けることが出来たが。

 

 

 

 魔力が消えた理由…その最たる原因であるだろう人物、その人物が所属しているギルドの面々を思い浮かべ、ゴーシュは顔を歪めた。砂煙が視界を遮っていなければ、そのギルドのメンバーがいる場所を睨み付けていたことだろう。

 

 

 

 魔力を循環の結界(サイクル)である程度回復させながら、砂煙が晴れるまでの間この後の作戦を考える。

 

(ダメージをここまで負うと、さっきまでみたいに動き回るっていうのは無理だろうな…聖結界(ホーリー)では毒とかは治せても傷は治せないし。となると、また円環殻(リングシェルター)を張り直す?魔力を消すなんて強大な魔法、そう何度も使えないはず…でも、多少回復した今の魔力じゃ、外殻の結界(シェル)がジュラさんの攻撃に耐えられない)

 

 時間も既に残り十分を切っている。しかし、今のゴーシュにはそんな短時間でも耐えきる自信は無かった。循環の結界(サイクル)で回復したことで魔力欠乏症にならずに済んだとはいえ、全快にはほど遠い。これ以上の回復は可能ではあるが、その前に砂煙が晴れてしまうのが先だろう。

 

 

 

 とはいえ、今のゴーシュは勝とうとはしていない。負けないようにして引き分けに持ち込むつもりだ。しかし、このまま終わらせるつもりも無かった。

 

 

 

隠匿魔法(ヒドゥン)

 

 砂煙が晴れる前に姿を隠して、回復しながら移動を始める。他者からは見えないことは分かっているが、ジュラには先程の攻撃を防がれていることもある為、下手に近づかないようにして遠距離攻撃を仕掛けることにした。隠れ続けて時間を稼ぐという手もあるが、それをやるつもりは無かった。流石に反則だと思っているからだ。

 

(ジュラさんの今の攻撃で循環の結界(サイクル)4つ分も充填完了するとは思わなかったけど、嬉しい誤算だったな)

 

水晶結界(クリスタル)(レイ)!」

 

「!」

 

 今の一撃で倒したと思っていたジュラは、四方からの魔力光線攻撃に反応が遅れる。それでも三方からの光線は防ぐなり躱すなりして対処したのは流石と言える。残る一方からの光線も衣服に掠める程度だった。

 

 ゴーシュが次々と水晶結界(クリスタル)を生み出し続け、ジュラは岩の礫で水晶結界(クリスタル)を相殺しながら、闘技場の中心に移動してから巨大な岩の腕で全方向を攻撃していく。負傷したゴーシュでは躱すことは出来ない速度で、闘技場内に逃げ場を無くしていく。このままではゴーシュはまともに攻撃を食らってしまう。

 

円環殻(リングシェルター)!」

 

 しかし、そうはならなかった。自分の周り…ではなく、自分のいる場所から少し離れた場所に結界を展開する。丁度、岩の腕がぶつかるように。魔力が吸収されたことによって岩の腕はボロボロと崩れ、ジュラはその一点に集中攻撃を開始した。

 

 ジュラの頭には、ゴーシュが鳴動富嶽によって大なり小なり負傷したという考えがあった為、この結界はゴーシュが逃げ遅れた為の苦肉の策であると勘違いするようにゴーシュが思考を誘導したのだ。そしてこれは、ゴーシュの最後の逆転のチャンスだった。

 

 

 

 循環の結界(サイクル)の回復を続けていたことで、ようやく半分程度まで回復したゴーシュはこのチャンスを逃すまいと、慎重にジュラの背後に近づく。

 

 

 

彼が持つ最大の遠距離攻撃は緑竜の咆哮だが、近距離ならばそれを大きく上回る技があった。まだ未完成の域は出ないが、それでも八割近く完成していると言えるその技に彼は賭けた。

 

 

 

 両手を祈るように合わせて、魔力を集中させる。最大まで溜まる前に、ゴーシュは円環殻(リングシェルター)の強度を弱めた。その次の瞬間に岩の腕が円環殻(リングシェルター)を粉砕した。ジュラに、やったという油断を持たせる為だ。

 

(今だ!!)

 

 

 

 ジュラは背後に迫る強大な魔力を感じ取ったのか勢いよく振り返ったが、時既に遅し。隠匿魔法(ヒドゥン)を解除し、その分の魔力も両腕に集めたゴーシュが、勢いよく前に突き出そうとしていた。

 

 

 

「くっ…巌山!!!」

 

 

 

「――滅竜奥義!!万緑破断(ばんりょくはだん)!!!」

 

 

 

 巨大な山が作り出されたことで足場を崩され、その身を宙に投げ出されながらも、ゴーシュはその技を撃ち込んだ。

 

 

 

 両手の爪が岩に食い込み、そこから緑竜の魔力が爆発的に流れ込む。岩の山が、水面に波紋が広がっていくかのように亀裂が広がっていき、岩の山自体が爆散した。

 

 

 

(よし!!)

 

 

 

 ジュラの姿を捉えたゴーシュが彼に殴りかかったが、ジュラは半身になって躱す。そのまま方向転換をしようとしたゴーシュだったが、勢いを殺すことが出来ず倒れてしまった。

 

 

 

(あと、もう少しなのに…!!)

 

 

 

 彼の想像よりも鳴動富嶽によるダメージが大きかった。ジュラの渾身の一撃を受けてもまだ動けていたのは、最後までゴーシュが諦めずに戦おうとする意志を失っていなかった為だ。動けていたといっても、歩くのがやっとの状態だった。ゴーシュは何度も立ち上がろうとするが、体を起こすことも出来なかった。

 

 

 

『タイムアーップ!!そして、決着!!勝者、ジュラ=ネェキス~!!!』

 

 

 

 という機械的な音声と、遠くからドラの音が鳴り響いた。

 

 

 

 負けた、かぁ……いや、勝てるとは思ってなかったよ?それでも…あともうちょっとだったんだけどなぁ。せめて一撃入れて、一矢報いたかった。

 

「はっ…はっ…はぁ~」

 

「大丈夫か、ゴーシュ殿」

 

 大の字になって倒れ込んだ僕に手を差し伸べるジュラさん。息切れはしてるし溜息も出てしまったが、ジュラさんは呼吸も乱れていないし服に汚れすらもついていない。これが、僕とこの人の間にある圧倒的な力の差か。もっと強くならないと…

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 ジュラさんの手を借りてようやく立ち上がる。何とか自力で立てることを確認していると、ジュラさんは右手を僕に伸ばしてきた。

 

「本当に強くなった。その歳でこれ程の魔導士になった君を、少し羨ましく思ってしまうな」

 

「いえ…やっぱり僕はまだまだです。こんなにダメージを受けたのは初めてですよ…」

 

「それも儂の本気の一撃でようやくだ。いずれ儂も越えられる日が来るだろうな」

 

「…その時は、ぜひまた勝負して下さいね」

 

「ああ。約束しよう」

 

 僕も右手を出して握手に応じ、ジュラさんとそんな約束をした。そんな日はしばらく来ない気もするけどね。

 

「…どうやら、迎えが来たようだな。ではゴーシュ殿、失礼する」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 ジュラさんが背を向けてリオンさん達のいる場所へと帰っていった。でも、どう見てもジュラさんに迎えなんか来てないけど…

 

「ゴーシュっ!」

 

「あ、ウェンディ…はは、ちょっと、情けない姿見られちゃったね」

 

「全然そんなことないよ!その…カッコ良かった」

 

「…そ、そっか。あ、そうだ!ちょっと肩貸して貰っても良い?正直一人で歩くのも辛くてさ」

 

「じゃあ、真っ直ぐ医務室だね」

 

 そのままBチームの皆にも労いの言葉をかけてもらいながら、真っ直ぐ医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

1位 剣咬の虎(セイバートゥース) 20pt

2位 蛇姫の鱗(ラミアスケイル) 18pt

3位 大鴉の尻尾(レイヴンテイル) 14pt

4位 青い天馬(ブルーペガサス) 13pt

5位 妖精の尻尾(フェアリーテイル)B 6pt

6位 人魚の踵(マーメイドヒール) 2pt

7位 四つ首の番犬(クアトロケルベロス) 1pt

8位 妖精の尻尾(フェアリーテイル)A 0pt

 

大魔闘演武一日目、終了

 

 

 

 

 

 

 




循環の結界(サイクル)の説明は下記に書いておきます。

あと1つ忘れていたことが。今回は出てないですが、水晶結界(クリスタル)(ブレイド)の元ネタは、青い竜のアニメです。ラスティネイルって技を参考にしてます。しかし今更解説を入れましたが、多分もう出てくることは無いでしょう…緑竜の斬撃の方が強いので。


循環の結界(サイクル):手裏剣のような結界。吸収時は朱色、放出時は藍色に変化する。魔力の吸収と放出が出来る。吸収モードだとあらゆる魔法を吸収するので、相手の魔法に向かって攻撃するとその部分が抉れたようになる。ただし魔力を吸収するだけなので無機物などに当てても何の効果も無い。放出モードだと当てると魔力を与える。譲渡結界(ランブル)の強化版として考案された魔法。

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