二チームともこれまでに無い最高の結果を残した、大魔闘演武三日目の夜。三代目に呼び出された僕とラクサスさんは、酒場を出て人気の無い場所へと移動していた。
「じじい、ルーメンイストワールって何だ?」
「イワンから聞いたのか?」
「聞いたも何も、異様に欲しがってるようだったな」
「全く、あのガキは…」
「僕も聞きました。
きっとこれは、本来ならただのギルドメンバーには伝えられないことなのかも知れない。けど、闇とかそんなこと言われたら気になってしまうのだ。どんなギルドでも闇の部分はあるとかイワンは言っていたけど、そんなのは偏見だと思うんだ。人柄や立場…様々な要因で考え方は人の数だけあるんだから。
「闇ではありません」
「初代!」
「
「初代!いけませんぞ」
「分かっています。これはギルドのマスターとなった者しか知る権限が無いもの…ラクサス、ゴーシュ。分かっていただけますか?」
「変なモンじゃねーなら別に詮索しねぇよ」
「気にならないわけでは無いですけど…そういうことなら、僕も詮索しません」
「ありがとうございます」
「しかしイワンの奴はどこでその情報を掴んだのか…」
「二代目…プレヒトでしょうね」
「うむぅ、あり得ん話では無いな…」
マスターしか知り得ないんだったら、二代目しかいないよね。ここに初代と三代目がいるし、
「まさかプレヒトが闇に落ちるとは…私の浅はかな人選の結果が…」
「いいえ、初代のせいではありませんぞ」
「私のせいです…私が……ふぐっ……ひぐっ」
「初代がー!?」
「じ、じじい!どうすんだ!」
「な、泣いてなんか…いないです~!」
「ゴーシュ、ラクサス!あやせーっ!!」
「なっ!?ハードル高すぎんぞ、それ!」
ラクサスさんは子供の扱いとか分からないだろうなぁ…しかも相手は子供じゃないし。寧ろ最年長だ…子供じゃないんだよね?何か、初代の年齢が気になってくるんだけど。確かに見た目は子供っぽいというか…とても大人には見えないと言うか。
とにかく、まずはあやすことが最優先だ。
「じゃ、じゃあ!どこか気分転換に良さそうな場所に行きませんか?」
「そうじゃ、それが良い!初代!ゴーシュが楽しい場所に案内してくれるそうですぞ!」
え、ちょっと?そこまで言ってませんよ?って、既に初代から期待の眼差しが…!
いや、今こそ大魔闘演武予選前に観光した前情報を役立てる時!どこか、どこか無いか…食事、にはちょっと遅い時間だし、こんな時間までやってる観光施設って…ん、待てよ?確か、ここからだと…あ。
「あ、あそこなんてどうですか?」
☆
リュウゼツランド。フィオーレ有数のサマーレジャースポットだ。凄く大きなプールで、水族館なんかもあるってなんかの雑誌に書いてあった気がする。超有名らしく、夜遅い時間でもバリバリ営業している。
プールなので水着が必須。僕らは流石に持ち歩いたりはしていなかったけど、そこは初代が持っていた物を借りた。前も気になったんだけど、幽霊なのにどうやってその質量ある大量の水着を…しかも女性物だけじゃなく男性用も混ざってるし。
今は大魔闘演武期間中だからか、夜にも関わらず観光客で超満員に近い。こんなに巨大な施設があるとは…七年で結構変わるものだなぁ。七年前は王都のことなんて僕は気にしたこともないけど、もしこんな施設が出来ていたならウェンディが気づいていたと思う。そういう特集の雑誌か何かたまに読んでるんだよね。
「あれ?初代はどこに…?」
「あそこだ」
ラクサスさんに指差された先を見ると、水の中に潜っている初代が見えた。さっきまですぐそこにいたのに…やっぱり初代も賑やかなのが好きなのかな。
「わーい!楽しいですね、プール!」
「な、何やってんの!?」
聞き覚えのある声が聞こえてきたと思ったら、ルーシィさんとエルザさんがいた。酒場にいると思ってたけど、皆で来たのかな?エルザさん、もう怪我は大丈夫なんだろうか…大丈夫なんだろうな。っていうか傷一つ見当たらないんだが。この人の回復力どうなってるの?あの頑丈が取り柄のエルフマンさんでさえまだ医務室で寝込んでいるのに…
「何って…」
「あやしておる」
「ははは…」
「はあ…?」
「あ!いっけない、大事なことを忘れてました!泳ぐ前には準備運動ですよね!さあ皆さん、ご一緒に!」
「何で俺が…」
「黙ってやれラクサス。初代の命令じゃぞ」
三代目、もう既に体操しているし。あれ、これ僕もやらなきゃ駄目な感じ?
体操している間に、フリードさんとビッグスローさんが合流。なんかどんどん大所帯になっていくな…
「はい!準備運動終わり!それでは泳ぎましょう!」
そう言って、また水の中へと飛び込む初代。本当に最年長なんだろうか、あの人…どうやらラクサスさん達は見守ることにしたようだ。
「ゴーシュ、ちょっと来なさい」
「何ですか?」
「これで飲み物を買って来ると良い。お前さんも色々見て回りたいじゃろ?顔に書いてあるぞ」
「あ、いや…じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
小銭をくれた三代目に御礼を言って、早速色々と見て回ることにした。どこから行こうかな…目につくのは、凄い長いウォータースライダーと…あ、あの建物が水族館かな。魔法の世界の水族館…興味あるな。あのウォータースライダーは、ちょっと。名前がラブラブスライダーって、行きにくいし…よし、先に水族館の方に行こう。
それにしても、ルーシィさん達がいたってことは他の皆も来ているんだよね、きっと。ってことは…ウェンディも来てるのかな。そう考え始めてから、つい目で探してしまう。変な男とかに言い寄られたりしていないかな…
「……って、流石に過保護か」
これじゃ。いつかウザいと思われるかも…それも嫌なんだけど、ウェンディが心配なのが正直な気持ちだし…どうするのが正解なんだ?影ながら見守れば…いや、それは最早ストーカーか。そもそもウェンディは強いんだし、馬鹿なマネする男はいないはず…いや、でも――
「さっきから何してんの?」
「あ、皆…いつの間に」
「今!楽しそうだから、つい!」
「大丈夫、あまり離れたりはしないようにするよ」
デジモン達が普通に人前に出てきてしまっているけど…やっぱり、この世界の人はデジモンを見てもそこまで大騒ぎしたりしないみたいだ。まあ、ハッピー達を見ても普通に会話しているから、デジモン達もそういうものだと思っているのかもな。
「そういえば、今までこういう所は連れてきたこと無かったっけ…よし!今日は思いっきり遊ぼう!」
「ホント!?やったーっ!じゃあ水泳競走しようよ!ドルモンとパタモンも!」
「僕は泳ぐの得意じゃ無いから、上から見てるよ~」
「じゃあ、どこか広そうな場所探そうか」
これだけ広いんだ、それなりに広くて人があまりいない所だってあるだろう。
パタモンが見つけてくれた、人気が無い広いプールで早速ドルモンとプロットモンと一勝負することになった。僕はまだ子供だからそこまで体格に差は無いけど、流石に負ける気はしない。だって二体とも、犬かきしか出来ないでしょ。手足の長さ的に。
「それじゃ、位置について~、よ~い…ドン!」
パタモンの合図で同時に飛び込む。身体能力の高さもあるからか、そこまで引き離されること無く僕のすぐ後ろにつく二体。でもスピードはほぼ同じ、このままいけば勝てる!
「っ!?」
そう思っていたら、急に耳が痛くなった。まさか…プロットモン、水中でパピーハウリング使ってる!?
「メタルキャノン!」
「ちょ…!?」
ドルモンは真後ろに向かって技を放ち、反動で大きく前に出る。しかも前に出てからも放つから、僕達に鉄球が襲いかかる。これ、妨害とかアリなの?だったら、僕だって…!
まずはドルモンの鉄球でプールが壊れないように
「こんなのアリ~!?」
「ぐぐっ…!」
いや、先に妨害してきたのそっちだからね?文句を言われる筋合いは無い。ちゃんと十秒くらい経ったら解除されるから。
結果は僕、ドルモン、プロットモンの順でゴール。まあ当然の結果だ。そもそも妨害しない方が良い勝負できただろうに。
「ゴーシュの勝ち~!」
「おーい!」
「ん?」
パタモンが降りてきて僕の頭の上に乗るのと同時に、どこからか声が聞こえてくる。声が聞こえてきた方を見ると、そこには水着姿のシェリアとウェンディがいた。良かった、探す手間が省けて…それにシェリアと遊んでいたのなら、心配する必要も無かったか。
「あ、ウェンディだ~」
「やっぱりゴーシュも来てたんだね。さっきマスター達もいたからもしかしてって思って探してたんだ」
成る程…互いに動いちゃってたから合流までに時間がかかっちゃったのか。ずっとマスター達の傍にいたら良かったな。
「ウェンディ~、ゴーシュがいじめるの~!」
「よしよし、大丈夫だよ」
プロットモンがウェンディにダイブして、慰める。既に見慣れた光景となりつつある。プロットモンはふざけてやっているのは間違いないが、ウェンディは…あれは天然な気がする。最初こそオドオドしていたけど、慣れたんだろうな。
「可愛い~!これがさっきウェンディが言ってたデジモン?」
「うん、プロットモンにパタモン、あっちにいるのがドルモンだよ」
「ねね、デジモンって姿が変わるんでしょ?私見てみたいな!」
そんなこと言われてもな…非常時じゃないと進化しても疲れさせちゃうだけだし。基本大きくなるから周りの皆がビックリしちゃうから、そう言う意味でも却下だ。
「ごめん、それはまた別の機会にするよ」
「良いじゃん!私進化しても良いよ?」
「駄目。せめて場所を変えなきゃ」
「えー…」
「そっか、じゃあまた今度だね!今はプールで遊ぼっ!」
シェリアがそう言って、ドルモンがいたプールの中に飛び込む。水飛沫で一瞬見えなくなったが、次の瞬間にはシェリアしかいなかった。その代わり、シェリアの近くの水の中から泡がブクブクとしていた。
「シェ、シェリア!下、下!」
「え?あ!ご、ごめんね!君、大丈夫?」
「ぶはっ…し、死ぬかと思ったよ」
「ウェンディ、私達もゴーッ!」
「え!?」
「ほら、早くおいでよーっ!ゴーシュも早く!」
「え、僕も?」
「たまには良いんじゃない?皆で遊ぼうよ~」
そんなやりとりの直後…なんか、バキッみたいな壊れる音が聞こえた。その音を聞いた僕とウェンディは若干顔が引きつり、デジモン達とシェリアは疑問に感じたようだ。
「あれ?今何か聞こえなかった?」
「…ところでウェンディ、ナツさん達ってどこに?」
「ごめん、はぐれちゃったから…やっぱり、今の?」
「あ!皆、あそこ!」
ドルモンが声を荒げ、目線の先を見る。あのラブラブスライダーとやらの入り口に設置されている大きなハート型のオブジェの上にいるナツさん。そのハート型のオブジェが本来の設置場所から外れ、スライダー部分へと倒れそうになっていた。やっぱりナツさんか!
「ゴーシュ!」
「分かってる!
ナツさんごと覆うように展開された結界で、オブジェによってスライダーが破壊されるようなことは無かった…とはいえ、多分これ修理代はギルドに行くよね。まあ、オブジェだけで済んだのは良かった――
と、思った次の瞬間。
「きゃあっ!?」
「な、何!?」
「今度は…グレイさんか」
スライダー部分から広がるように、プール全体の水が凍り付いた。折角修理代が少なく済むと思ったのに…勘弁してよ。
凍り付く瞬間は見ていたから、大体の居場所は分かる。でも…まずは目の前をどうにかしないと。氷に呑み込まれたウェンディとシェリア、そしてドルモンとプロットモンを救出しなきゃ。僕とパタモンは咄嗟に空中に避難した。
「ゴーシュ~…さ、さぶい~……」
「はいはい、今助けるよ。
「ま、待って!それよりあっちどうにかしないと!」
「ナ、ナツさん!?」
「え?…なっ!?」
ハート型オブジェから飛び出して(
「
咄嗟だったから
「ゴーシュ、邪魔すんな!氷溶かせねぇだろうが!」
「いや、駄目ですよ!それ、絶対プールごと壊しちゃいますって!」
ヤ、ヤバい!ナツさん本気でやる気だ!こうなったら、こっちも
「面白ぇ、勝負だゴーシュ!!火竜の――ごはっ!?」
「馬鹿なマネしてんじゃねぇ」
ナツさんの顔面に、ラクサスさんの右ストレートがクリーンヒット。よ、良かった…ナツさんの本気だと絶対
後はプールを凍らせた
☆
グレイさんとリオンさん、ナツさんの暴走を何とか阻止したことによって、プール全壊を阻止することが出来た。マスター二人は涙目ながら警備員に捕まったけど、きっと賠償と厳重注意で済むことだろう。多分、きっと、おそらくは。
ラブラブスライダーも入り口のオブジェが壊されたことによって、しばらく使用禁止されることになった。スライダー部分も水が凍り付いたせいで所々に穴が空いてしまっているので、再会されるのはかなり先になってしまうだろう。
「あ~あ、残念だったねウェンディ」
「え?それってどういう…」
「な、何でも無いの!」
「え~?だって二人は付き合ってるんでしょ?別にこれに二人で乗りたいっていうのは愛がある証拠だと思うけどな~」
「もう、シェリア!」
ウェンディが顔を真っ赤にしながらシェリアを追いかけていった。何かもうすっかり打ち解けてるなぁ…
「…また、来ればいっか」
さて、明日からも頑張らないと!明日からならリザーブ枠でもいけるし、僕もアップしておかないとね!
前回のゴールデンウィーク企画の影響か、21時投稿が基本となりましたw