入学時点でエースのなのはと、そのなのはと同期になった少年が、なのはと訓練するお話。
お試しがてらの、ちょっと息抜き投稿です。
武装隊第四陸士訓練校・グラウンド。
ミッドチルダにある幾つかの陸士訓練校の内の一つ、第四陸士訓練校。
そこにある模擬戦用に結界が張られた広大なグラウンドの真ん中で、一人の少年が呻いていた。
年の頃は十代前半。耳に掛からない程度の長さに整えられた金髪に、黒い瞳が特徴的だ。
名前はレオ・グラムド。第四陸士訓練校の生徒だ。
広大な管理世界を守護する管理局。その局員の卵とも言うべき存在であるレオだが、今の姿は、お世辞にも立派な管理局の局員になれるとは思えないものだった。
管理局が採用している一般的なバリアジャケットのデザインをそのまま使ったバリアジャケットは、至る所で破れたり、焦げたりしており、まるで何時間にも及ぶ訓練をした後のようなボロボロ具合である。
しかし、そこまでバリアジャケットがボロボロでありながら、怪我らしい怪我がないのは、訓練相手が絶妙な加減で、レオに向かって放つ魔法の威力をコントロールしているからである。
「レオ君、大丈夫?」
レオの近くに白いバリアジャケットを着た少女が降り立つ。
上空からの着地であるにも関わらず、完璧に勢いを殺し、自然に着地している所だけを見ても、少女が高ランク魔導師である事が伺える。
少女の名前は高町なのは。
数ヶ月前に管理外世界で起きた事件の際、魔法の素質があった事から、現地の協力者として事件解決に貢献した少女である。
数ヶ月前までは魔法の存在すら知らなかったなのはだが、その類まれな才能とストイックと言ってもいい程の向上心で、急激に実力をつけていた。
無論、全てが完璧かと言えば、そうではなく、実戦の連続で身につけた魔法の扱い方や戦い方にはアラがあり、それを修正するために、この第四訓練校に短期プログラムで通っている最中である。
そんななのはと、訓練校に正式に入学し、通常プログラムで通っているレオが訓練しているのは、些か不釣合いに見える。しかし、この光景は随分前からのものである。
「だいじょばない……」
「だよねー。だから射撃魔法にしようって言ったのに……」
間違いなくレオより年は幾つか下であるなのはが、仰向けのまま呻いているレオに向かって、呆れたようにそう言った。
些かプライドを傷つけられたレオはムッとしたような表情で起き上がり、なのはに対して言う。
「もう一度だ! もう一度、ディバインバスターだ!」
「一回でダウンしちゃったのに……? バスターじゃ訓練にならないと思うけど……」
レオの再度の要求に首を傾げるなのはに対して、レオはやる気満々な様子で準備を始める。
そんなレオを見て、何を言っても聞いてはくれない事を、出会ってからの短い期間の経験で知っているなのはは溜息を一つ吐いて、全く力まずに瞬時に空へと飛び上がる。
みるみる上へと上がっていくなのはを見つつ、レオは右手を遠くに居るなのはに向ける。
なのはとレオの訓練は至極簡単だ。なのはが魔法を放ち、それをレオが受けるだけ。
砲撃魔導師であるなのは。防御系統の魔法が得意なレオ。二人で訓練をすれば、自然となのはが攻撃で、レオが防御になるのは必然であり、高ランク魔導師であるなのはに対して、色々と制限を設けた結果、この訓練方法に行き着いたのである。
上空へと上がったなのはは、相棒であるインテリジェントデバイス・レイジングハートに声を掛ける。
「今度はもう少し強くしよっか。レイジングハート」
『マスター。それではいつまで経っても終わらないかと』
「いいの! フェイトちゃんが来るまでは時間があるし、バスターを防いだら、絶対、レオ君は調子に乗るもん」
『わかりました。マスターは彼との訓練を楽しんでいるのですね』
レイジングハートの返答になのはは満面の笑みを浮かべながら頷く。
同時に十分な高度に達した事を確認すると、一度、上昇にブレーキをかけ、その場で反転し、眼下のレオに視線を向ける。
「レオ君のラウンドシールドは硬いけど、それをずっとは維持できないから、何か工夫をすると思うんだよね」
『はい。ですが、彼の実力を考えると、受け止める以外に手はないかと』
「うーん、受け止めるにしても、ただ受け止めるだけなら、さっきと一緒になるって思うはずだし、何かしてくると思うの」
『では、お手並み拝見といきましょう』
「うん! そうだね!」
なのははレイジングハートとの会話が終わると、ディバインバスターのチャージに入る。
単純な魔力砲撃ではあるが、膨大な魔力と瞬間放出量を誇るなのはのディバインバスターの威力は通常の魔法の常識を超えており、全力で放てば結界を破って、周囲に被害が出てしまう為、全力で撃つ事は固く禁じられている。
レオとの訓練に使うのは今日が初めてであったが、威力は全力の何分の一以下まで抑えていた。
一方、そんななのはのディバインバスターを受け止める為に、レオが選択した魔法はラウンドシールドだった。
レオの使える魔法の中では最も強度の高い魔法であるし、応用が効く魔法でもある。
「さっさと撃てこーい!」
『言われなくても撃つよ。準備はいいの?』
「バッチリだ!」
念話でなのはに要請を掛けつつ、レオはゆっくりと深呼吸をする。
レオは先ほど、ただ単純にラウンドシールドで受け止めようとして失敗した。数秒間は止める事に成功したが、すぐに押し切られ、飲み込まれた。
その教訓を元に、レオは即席ではある策を考えていた。
レイジングハートに魔力が注ぎ込まれているのは、レオの位置からでも分かった。気のせいか、先ほどよりも多いような気がすると、レオは感じたが、それを今更気にしても仕方がない。
「行くよ! レオ君! ディバイーン」
なのはの溜めが終了し、発射体勢に入る。
なのはの足元には魔法陣が浮かび上がり、反動に備えている。
同時に、レイジングハートの先には加速用の環状魔法陣が浮かび上がり、砲撃の威力が上がる状態になっている。
言うまでもなく、発射の体勢は完璧だ。
レオはバリアジャケットのポケットからカード型で待機状態にしていたオーソドックスな杖型のストレージデバイスを展開させる。
「来い!」
「バスター!!」
レイジングハートから放たれた桃色の魔力の塊が、レオを目掛けて真っ直ぐ進んでくる。
発射と同時にレオは右手に握った杖を思いっきり突き出して、ラウンドシールドを展開させていた。
円形の魔法陣がレオの前面を固める。
一瞬の後、ラウンドシールドとディバインバスターがぶつかりあう。
激しい魔力の奔流がレオの体を押しつぶさんと迫るが、レオは必死に耐える。
『それだけじゃさっきと一緒だよ!』
「なんの! 一つで駄目なら二つ用意するまで!!」
なのはからの念話にそう返して、レオは既に崩壊寸前のラウンドシールドから右手を引き、代わりに大きく左手を突き出して、もう一枚、ラウンドシールドを展開させる。
一つ目を突破したディバインバスターをギリギリの所で二つ目が食い止める。きわどいタイミングではあったが、想定通り、なのはのディバインバスターを先ほどよりも食い止めている。
「よっしゃ!!」
歓声を上げるレオに対して、なのはは笑みを浮かべつつ、しかし、呆れたように呟く。
「それも時間の問題なんだけどなぁ……」
なのはがそう呟くと同時に、レオのラウンドシールドにヒビが入る。
先ほどよりも強化されたディバインバスターであったという事と、単純に二つ目も限界を迎えたと言う事だ。
「やばっ!」
どれだけ魔力を注いでもラウンドシールドの崩壊を食い止められず、レオはそう呟き、そして、先ほどと同じ結末を迎えた。
最初のように、また仰向けの状態になったレオを見つつ、なのはは満面の笑みを見せる。
「うんうん。前よりもよかったね」
『はい。良いアイディアでした。彼の成長が嬉しいですか?』
「うーん、そうかも!」
『マスターはもしかしたら人を教える事に向いているのかもしれませんね』
レイジングハートの言葉に更に機嫌を良くしたなのはは、グラウンドへ降下しつつ、レオが次の時にどんな手を使ってくるのかあれこれと考えを巡らせていた。
「レオ君、大丈夫?」
「だいじょばない……」
「もう止める?」
「まだやる!」
年上の同期を完全に子供扱いしつつ、なのははその返事を聞いて、更に笑みを深めた。