魔法つかいプリキュア 想い出の魔法   作:ミナミミツル

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永遠を超えて

 私たちは、ただはーちゃんに会いに来ただけだ。

 でもなぜか向かった先には知らないプリキュアがいて、私たちはそのプリキュアと戦っている。

 良くないカンジだ。

 そしてメモリーとソーサリーと名乗るそのプリキュアは、追い詰められてプリズムフラワーの力を使った。

 ますます良くない。

 プリズムフラワー。それは世界と世界を繋ぐ花で、その力は“誰か”という個人が使うべきじゃない。

 でもその光を吸い込んでメモリーとソーサリーの力は増していく。

 こうしているだけでその力の凄まじさが分かる。

 嵐がくる前みたいに空気がビリビリして、本能が今すぐ逃げろって叫んでいる。

 闇の魔法使いやデウスマストと戦った時もこうだった。それでも私が逃げずに戦い抜けたのは、隣に一緒に戦ってくれる人がいたから。

 リコやはーちゃんやモフルンがいたから。

 

「ミラクル~、マジカル~」

 迸るパワーを前に、ミラクルとマジカルが構え直すとモフルンの声が聞こえた。

「あの二人から甘い匂いがするモフ!」

「そうね。モフルン」

「ええ。分かるわ」

 モフルンの言葉にミラクルとマジカルは頷いた。

 きっとあの二人もそうなんだろうなってことは伝わってくる。

 誰かのために必死なんだってことは分かる。

 でもそれは私たちも同じだ。

 

「おおおおおおおおおおっ!」

 雷光に似た光を放ちながら、メモリーとソーサリーが飛び出してきた。

 その勢いは先ほどまでとは比べ物にならない。

 ミラクルとメモリーがぶつかり合い、他方ではマジカルとソーサリーが激突していた。

 メモリーの足がしなり鉄の鞭のような蹴り放たれる。

 ミラクルは何とかブロックするものの、その衝撃に受けた腕は痺れ、体の芯を揺らした。体がメキメキと聞いたことのない音を立てる。

「だああああああっ!」

 ミラクルは何とか一発防ぐのが精一杯。しかしメモリーの猛攻は止まらない。

 プリズムフラワーの力を受けた拳は虹色に輝き、容赦なくその力を振るった。

 まともに受ければ一発一発が致命傷になりうるだけの攻撃、それが瞬きする間に何十発もの嵐となってミラクルを襲う。

「……っ!」

 ミラクルは歯を食いしばり、体を小さく丸めて耐えていたがやがて押し破られることは明白だった。

 どうにかしないと。

 でも反撃の切っ掛けがまるで見つからない。

 

「きゃああああっ!」

 荒れ狂う力がミラクルの防御を食い破る寸前、聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。

 その瞬間、ミラクルは心臓を鷲掴みされたような感覚を覚える……悲鳴はマジカルのものだった。

「マジカルっ!?」

 大砲の雨に等しい攻撃を受けている、まさにそのさなかに、ミラクルは相手から視線を外し思わずマジカルの方を振り向いた。

 戦いの中よそ見するという致命的なミス。

 だが、その無意識の行動がメモリーの動きを止めた。

 ミラクルが振り向いた瞬間、その動きに釣られメモリーも同じ方向を向いたのだ。

 激しい戦闘の中に生まれた刹那の空白。

 一瞬早く気づき、その間隙を突くことができたのはミラクルの方だった。

「――!」

 ガシャという金属を拉げたような音とともにミラクルはメモリーの顎を蹴り上げた。

 会心の一撃だった。しかし相手がどうなったのか確認するよりも、ミラクルはマジカルの元へと急ぐことを優先した。

「たあああッ!」

 ミラクルは声を張りあげ、マジカルの相手をしているソーサリーの無防備な背中に力の限り飛び蹴りを放った。

「えっ?」

 痛みよりも先に、驚きがソーサリーの体を支配した。

 意識していなかった方向からの攻撃を受け、ソーサリーは踏ん張ることができず勢いよく吹っ飛ばされる。

 

「マジカル、大丈夫?」

「ええ。ありがとう、ミラクル」

 ミラクルは腕を伸ばしマジカルが立つのを手助けした。

 再びマジカルが立ち上がった。しかし、満身創痍の二人の前に、やはりメモリーとソーサリーが立ちふさがっている。

 なんて強い相手。こんな時はーちゃんがいてくれたら……。

 ミラクルはその思考を振り払うようにかぶりを振った。

 この二人を何とかしなければ、はーちゃんの所には行けない。大変な相手だが私たちだけで何とかしないといけないのだ。

 やるしかない!

「マジカル! 行くわよ!」

「分かったわ、ミラクル!」

 ミラクルとマジカルは素早くリンクルステッキを取り出し金魔法を発動させる。

「永遠の輝きよ!」

「私たちの手に!」

 二人の魔法が杖の中でさらに収束し、ステッキの柄にはめられたダイヤの宝石が眩い光を放っていく。

「フル!」

 ミラクルとマジカルがそう言って杖を一振りすると、メモリーとソーサリーの目の前に魔法の結晶が構築されていく。

「フル!」

 結晶は輝きを増しながら強度を増していく。

「リンクルン! プリキュアダイヤモンドエターナル!」

 物質化された魔法の結晶がメモリーとソーサリーを閉じ込めると、ギリギリと締め付けるように二人を圧迫していく。

「おおおおお……ソ、ソーサリー……!」

「メ……メモリー!」

 ミラクルとマジカルがそうするようにメモリーとソーサリーもまたぎゅうっと手を握り合った。

「永遠を!」

「超えたと言ったはず!」

「があああああああッッ!!」

 閉じ込められたメモリーは獣じみた咆哮をあげ、ソーサリーも力の限りダイヤモンドの魔法に抗った。

 反発する両者の魔法力がぶつかり合い、稲光のように恐ろしい光の奔流となって周囲を照らす。

 ピシッと石の割れる音がすると、マジカルが目を見開いた。

 まさか……!

「ダァァァァァッ!」

 次の瞬間、ダイヤの魔法をぶち破ったメモリーとソーサリーは、その勢いを駆ってミラクルとマジカルへと襲い掛かった。

 回避する間もなくメモリーの強烈な蹴りがミラクルの脇腹を打ち抜き、魔法が込められたソーサリーの拳がマジカルの腹部に突き刺さる。

 

 ミラクルとマジカルは数秒宙を舞った後、バタンと無造作に地面に叩きつけられた。

「うぐ……」

 痛む体を引きずって、何とかミラクルは身を起こそうと踏ん張ったが、そうして立ち上がるよりも早くソーサリーが目の前に立ちふさがっていた。

 ぞっとするほど冷たい目で、ソーサリーはミラクルを見下ろしていた。その瞳に射すくめられまいとミラクルもソーサリーを見つめ返したが、両者の間には歴然たる力の差が横たわっていた。

「噂に違わぬ戦いぶりお見事でした。しかし、これで終わりですわ。キュアミラクル」

「止めろ、ソーサリー」

 トドメを刺そうとしたソーサリーを制止したのはメモリーである。

 彼女は相棒を止めると「見ろ」と親指で背後を指差した。

「マザーの用意が整った。これ以上傷つける必要はない」

 ソーサリー、そして這いつくばったミラクルもメモリーが指差したモノを見た。それが視界に飛び込んだ途端にミラクルの顔から血の気がさっと引いていく。

 屹立したソレは巨大であった。また脈打っているようにも見えた。

 ソレは巨木のようであり、人間のようであり、山のようであり、大気のようであり、そのどれにも似ていなかった。それはまさに混沌であった。

「デ、デウスマスト……」

 かつて倒したはずの大いなる悪。それが再びミラクルの目の前に出現していた。

「あ、あなたたち、一体何をするつもりなの!? あれがどんなものか……」

「知っていますわ」

 ミラクルの言葉を遮ってソーサリーが語りだした。

「終わりなき混沌。それによって世界を混沌に還すことこそ、私たちの望みです」

「そんな……なんでなの! あなたたちはそれででいいの!?」

「……混沌の中では全ての要素がばらばらになって意味を失くします。全てが消えてしまうよりは、混沌に砕かれた残骸としてでも残した方が慰めとなると私たちは考えたのです」

「私らもいい方法だとは思ってないけどさ。ま……考えようによっちゃ悪い事ばっかりじゃないよ。アンタにも嫌な思い出の一つや二つあるだろ? そういう事も無かったことになるからな」

 二人はミラクルを一瞥すると、そのまま混沌の方へと歩みだした。

「もし運が良ければ混沌の中でまた会おう」

「……さよなら、キュアミラクル」

 渦巻く混沌の中へキュアメモリーとキュアソーサリーは向かっていく。

 その瞳には勝利の喜びはなく、ただ深い悲しみだけがあった。

「……マザー」

 漏れ出すようにそういうと、二人は混沌の渦中へと消えて行った。

 

 

 

 消える。

 消える。

 未来も。

 過去も。

 魔法界やナシマホウ界も。

 私も。

 お母さんやお父さんも。

 友達も。

 モフルンや、はーちゃんや、リコも。

 何もかも。

 混沌に飲まれて消えてしまう。

 

 ……いつかこんな日が来るってずっと心の奥で思っていた。

 モフルンを失くしてしまう日。

 リコと離れ離れになる日。

 はーちゃんが消えてしまう日。

 いつか別れる日が来るって分かっていた。分かっていたはずなのに……。

 

 膨れ上がる混沌を前にミラクルは戦慄した。恐怖が心を鷲掴みにして、戦う意思さえも挫かんと胸の内を締め上げる。

 体から力が抜けていく。心が絶望に支配されていく。

 自然と涙が溢れていた。

 

「ミラクル」

 優しい声がミラクルの耳に沁み込んだ。その声の主はボロボロで所々土が付いている。それでもキュアマジカルは確かに立っていた。

「大丈夫? 立てる?」

 涙で喉が詰まり声は出なかったが、差し伸べられた手を握りながらミラクルはこくこくと頷いた。

「やられちゃったけど、まだ方法はあると思うの」

 渦巻く混沌の方を見ながらマジカルは淡々と告げる。その顔には、自分たちを倒した相手への恐れも気負いもなく、ただ凛々しさがあった。

「確かに相手は私たちの力を上回っているわ」

 リコ。あなたはまだ立てるんだ。

「けれど、それはフェリーチェやプリズムフワラーが向こうの手に落ちているからだと思うの」

 リコ。あなたはまだ諦めてないんだ。

「だから……危険な方法だけど、私たちも混沌に飛び込んでフェリーチェやプリズムフワラーをデウスマストから引き離すってのはどう?」

 リコ。あなたはまだ戦えるんだね……なら私も戦えるわ。もう立てないと思ったけど、あなたのおかげで私もう一度戦えるわ。

「う、うん」

 ぐずぐずと洟を啜りながらミラクルは頷いた。

「やろう、マジカル! 一緒にやろう!」

「ええ。ミラクル。一緒にはーちゃんの所に行きましょう」

「モフルンもいるモフー!」

 ぴょんとモフルンはミラクルの背中に飛び乗ると小さな手で混沌の中心を指差した。

「甘い匂いがするモフ! はーちゃんはあそこにいるモフ!」

「分かったわ、モフルン」

 ぎゅっとミラクルとマジカルは互いの手を握り合った。

 まだ少し怖くて、手が震えているのを隠すようにミラクルが少し力を入れると、マジカルもより強く握り返す。

「怖いのは私もよ」

 小さな声でマジカルが囁いた。

「でも、あなたがいてくれるから……ううん、あなたと出会えたら私はこうして立ち向かえるのよ、みらい」

「出……会え……」

 不思議そうに見つめるミラクルにマジカルが微笑み返す。

「あなたがいない五年間は寂しかったわ。でもいつかまた必ず出会えるって信じてたから、なんとかやってこれたのよ」

 ミラクルの瞳に、拭ったはずの涙が再びじんわりと湧きだしていた。

「……私も。私もだよ。リコと出会えて良かった! それにまだ終わりにしたくない! 終わりになんかさせない!」

 

 もう一度奇跡を起こす為、ミラクルとマジカル、そしてモフルンは混沌へと飛び込んだ。

 

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