第1話
「リンク・スタート!」
そう言葉を紡ぐ。
瞬間、世界はがらりと変わる。
閉じていた目を開き、自分の手を視界に入れた。
拳を握り歓喜の笑みを浮かべ
「ここが、茅場さんが作った世界。」
そう言って歩き出す。
辺りには他のプレイヤー達の姿がちらほら見えた。
VRMMO『ソードアート・オンライン』
一人の天才によって生み出されたと世間では公開されている仮想世界である。正確にはツナ個人も出資しヴェルデ・入江正一・スパナ・ジャンニーニも技術協力をしていた。
今日はこのソフトの正式サービス初日であった。
「どぉわ!!」
ツナは考え事をしていたため、悪趣味なバンダナをした若武者とぶつかってしまった。
「ごめんなさい!まだ慣れてなくて。」
直ぐに頭を下げて謝るツナ。
「良いってことよ!お前も初参加か?お互いに頑張ろうぜ!」
と若武者は爽やかに手をヒラヒラと振り去って行った。
ツナは抵当な武器を買いフィールドでモンスターと戦っていた。すでに次の街に到達しそうな場所にいたため周りには他のプレイヤーはいなかった。
モンスターを倒し、一息つくと
大きく鐘の音が響き渡り、同時に青い光が包んでいった。
気が付くとそこはフィールドではなくはじまりの街。
中央の噴水広場ツナはいた。
彼だけではない様々なプレイヤーがこの場所に強制転送されてきていた。
訳もわからないといった様子の者やログアウト出来ない事にイラだった者もいる。
やがて一人のプレイヤーが
「おい! 上!!」
そう言って指をさした先には赤く染まった文字が浮かんでいる
『Warning』『System Announcement』
そう表示された赤いパネルが段々と空を覆うように広まっていく。
やがてそこから滴る赤い滴が集まっていき巨大な人型を創り出す。
20メートルはあるだろうそれは、フードを被り、顔は隠れている為見る事は出来ない。
いや、隠れているというよりは最初から中身がないともいえる。
そして完全に形をなしたそれから
『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』
声が発せられた。
『私の名は茅場晶彦、この世界を唯一コントロールできる人間だ』
『プレイヤー諸君はメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いているだろう。しかし、これはバグではなくソードアート・オンライン本来の仕様である』
「仕様……だって?」
告げられた言葉に誰かが掠れた声で呟く。
『諸君は今後、自発的にログアウトする事は出来ない。また、外部の人間によるナーヴギアの停止もあり得ない。それを試みた場合……ナーヴギアが発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
告げられた言葉はあまりにも現実離れしていた。プレイヤー達は馬鹿馬鹿しいと吐き捨てている。
『残念ながら、警告を無視したプレイヤーの家族、あるいは友人らがナーヴギアを強制解除しようとしたその結果、すでに213名のプレイヤーが、このアインクラッド及び現実世界から永久退場している』
『この事はすでにあらゆる報道メディアが繰返し報道している。よって、ナーヴギアの強制解除の可能性は十分に低くなっているだろう。諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい』
『しかし十分に留意してほしい。今後このゲームに於いて、あらゆる蘇生手段は機能しない。諸君らのHPがゼロになった瞬間に、アバターは永久消滅し同時に…………諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』
放たれた言葉。
すでにプレイヤー達に余裕な雰囲気はない。
重い沈黙が周囲を駆け巡る。
それを切り裂くように
『諸君らが解放される手段はたった一つ、このゲームをクリアする事だ。アインクラッド一層から最上層の100層までを完全クリアする事でのみ、生き残ったプレイヤーはこの世界からログアウトする事が出来るのだ』
「クリア……100層だと! 出来る訳ねぇだろ! βじゃロクに上がれなかったんだろうが!!」
『では最後に、諸君らに私からのプレゼントがある。アイテムストレージを確認してくれたまえ』
言われたプレイヤー達は自身のストレージを確認する。
そこに表示されていたのは手鏡。
ツナはそれをタップしオブジェクト化する。
鏡を覗き込んで見ると同時に青白い光が自身を包んでいった。
「うわぁ!!」
その光は広場に居るあらゆるプレイヤーを包んでいく。
やがて光が収まっていく。
ツナは鏡を見ると本来の姿、金髪に近い髪色に腰まで伸びた髪になっていた。
辺りを見るとプレイヤー達はその姿が変わっていた。
中には男性装備をした女性、その逆のプレイヤーもいる。
皆、作り上げた理想のアバターではなく現実の自分に戻っていたのだ。
『諸君は今、「何故?」と思っているだろう。SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦は何故こんな事をしたのかと。私の目的は既に達成せしめられた。私はこの世界を鑑賞する為にナーヴギアを、SAOを創造したのだ』
告げられた言葉。その言葉に再び辺りは沈黙が包んだ。
『以上で『ソードアート・オンライン』正式サービスのチュートリアルを終了する。諸君らの健闘を祈る』
最後の一言が終わった瞬間。
フードアバターは融けるように消えていった。
辺りは静寂に包まれたままだ。
その中でツナは一人思考を巡らせる。
(茅場さんの言った事は全て事実だ……)
力いっぱいに拳を握りしめて
(茅場さん!俺は貴方を止める!)
奥歯を噛み締めて、既になにもない空を見上げた。
この日、当たり前の日常が終わり……ありえない非日常が始まったのだ。