ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか   作:ザイグ

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第十一話:白鬼と猛牛

11白鬼と猛牛

 

 

 ——数が多過ぎる⁉︎

 

 前話でも同じようなことを言った気もするが何度でも言おう。数が多過ぎる。

 

 あの自爆する狂った人達を相手にしていたら、花のモンスターまで襲いかかってきた。その数は通路で戦った比じゃない。

 ここは奴らの巣なの、と叫びたいくらい尋常じゃない数が襲ってくる。ざっと見渡しただけでも百は下らない。

 正直、きりがない。殲滅するにも一匹一匹が速いから時間がかかる。となれば

 

 色違いのローブの男がいる場所の更に奥、白骨(ドロップアイテム)の鎧兜を被る白ずくめの男。あの人物の動作で花のモンスターが一斉に動き出した。あの男がモンスターの指揮をしているのは間違いない。人間にモンスターが従っているのか疑問だけど、いまはあの白ずくめの男が指揮官なのは事実。ならば頭を潰せば花のモンスターも統率を失う。

 白ずくめの男に狙いを定め、僕は駆け抜ける。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

 

 再び『咆哮(ハウル)』。敵全てが強制停止(リストレイト)している間に高速で白ずくめの男のもとへ。途中、人間側の指揮官らしい色違いのローブの頭目に黒大剣を一閃。

 

「があっ⁉︎」

 

 致命的に硬直していた色違いのローブの男は避けることも、防ぐことも、武器を構えることも許されずに切り捨てられた。崩れ落ちる男を置き去りにそのまま駆ける。

 

「やはり私が始末するしかないか……」

 

 口端に皺を寄せる白ずくめの男は、自ら前に出る。迫る猛牛を迎撃する素振りを見せるが、あっという間に埋まる間合い。先に猛牛が仕掛けた。

 上段から振り下ろされた黒大剣を、白ずくめの男は難なく空振りに終わらせる。振り下ろした一瞬の隙を、男は見逃さない。

 腕を伸ばし、猛牛の角を掴む。そのまま地面に叩きつけられる。

 

「ぬんッ!」

『ブゥッ⁉︎』

 

 頭から地面に当たり、脳に響く衝撃。視界がチカチカしてうまく見えない。

 

 ——なんて馬鹿力!

 

 お前が言うな、と言われそうだけどこの男の膂力は尋常じゃない。巨躯の僕を難なく片腕で持ち上げ、そのまま振り回す恐ろしい怪力。……いや、そもそもこの男、人間(・・)か? 人間の匂いはする。ただそれに混じってもう一つ匂いが……。

 思考を巡らせていると男が追撃をかけようとする。

 僕は逆さまになったままカポエイラのように体を回転させ、回し蹴りを繰り出す。男は後方に飛ぶことで回避。

 その隙には片腕だけで自らを持ち上げ、跳躍。一回転して姿勢を元に戻し、再び接敵する。

 

 男が掌撃を繰り出せば、猛牛は片腕を掲げ防御する。黒大剣で反撃すれば男は難なく回避して蹴撃が返される。

 男も、猛牛も、並の冒険者では視覚で捕捉もできない恐ろしい速度の白兵戦を展開する。

 凄まじい攻撃と反撃の応酬だ。両者の戦い方は似ている。素手で人を粉砕できる恐ろしい膂力、異様とも言える打たれ強さ。

 男は掌撃を、猛牛は鉄拳を、何度も防御を超えて直撃させているにもかかわらず、互いに応えた素振りを見せない。打撃が効かないほどの強靭性(タフネス)を発揮しながら攻撃を与え続ける光景はいっそ異常だ。

 ただ一つ勝敗を分ける要素があるとすれば、それはミノタウロスが持つ《ウダイオスの黒剣》だ。

 

 繰り出す鉄拳の連撃ともに繰り出される《ウダイオスの黒剣》の一閃。男は大きく後退して回避する。

 《ウダイオスの黒剣》は上級鍛治師(ハイ・スミス)が鍛え上げた第一級武装に匹敵する『ドロップアイテム』。

 男が並の刃物では食い込むこともできない強靭な筋繊維をしていようとこの黒大剣だけは防げない。猛牛の攻撃手段の中で有効打を受けてしまう唯一の武器だと理解しているから、男は《ウダイオスの黒剣》を異常なまでに警戒する。

 ゆえに黒大剣の攻撃は絶対に当たらず、拮抗が続く。

 

食人花(ヴィオラス)!」

 

 時間が経過する中、戦況を動かすべく男は声を張り上げる。

 猛牛の遥か頭上、緑肉の天井に無数に存在する蕾が複数開花した。醜悪な牙と口腔を真下に晒すモンスターは、男の叫びに応じるように次々と落下する。

 猛牛は迫りくる長駆の影を黒大剣で次々と切断。食人花に意識が向いた隙に白ずくめの男がたたみかける。

 手を掌撃でなく手刀に変えて喉を狙った攻撃。人間に近い肉体構造をしているミノタウロスは肉体的急所も人間に類似している。

 筋繊維の少ない喉は他に比べて脆い。そこに白ずくめの男の手刀が突き刺さった。

 

『ヴォ……⁉︎』

「終わりだ、化物め!」

 

 ミノタウロスが初めて血を流す。何より喉の傷は呼吸困難に繋がる、戦闘能力の低下は免れない。

 

 ——マズイ。このままだとジワジワと追い詰められる。

 

 食人花は続々と襲い掛かる。モンスターの処理に集中すれば白ずくめの男にまた急所への攻撃を許してしまう。かといって無視できるほど食人花は雑魚ではない。

 

 しばしの思考の後、ミノタウロスは黒大剣を両手で掴み、大上段に構える。

 いかなる防御も一刀で斬り伏せる威力を秘めた攻撃態勢。代わりに防御の一切を行えない捨て身の構えだ。

 当たれば必殺。外せば致命的な隙を生む。生死を賭けた大博打。

 

「破れかぶれの特攻か? 単純なモンスターらしい」

 

 男は冷笑を浮かべながら迎撃の構えに入る。

 応えるように『隻眼のミノタウロス』が咆哮する。

 大剣によるフルパワーの振り下ろし。彼の怪力から繰り出される剛閃は一撃必殺。階層主さえ仕留める威力がある。

 

「防げ!」

 

 白ずくめの男はモンスターを無理矢理操り防護壁を形成した。何匹もの食人花が折り重なって作られた肉壁により男の姿が見えなくなる。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

 

 猛牛は構わず攻撃する。盾となったモンスター達に大剣が食い込み、容易く斬り裂く。何匹ものモンスターを切断しながらも大剣は減速しない。威力を衰えぬまま必殺が全てを両断し、地面まで到達。爆撃めいた一撃が地中を掘り返し、巨大なクレーターを作り上げる。

 

 食人花の肉の欠片と体液が飛び散る。モンスター達は塗料と化し、地面を凄惨な光景に染め上げた。だが、その中に白ずくめの男の死体はなかった(・・・・・・・)

 

「やはり知性なきモンスター。このような手に引っかかるとは……」

『——ッ!』

 

 真横から聞こえた声に猛牛は驚愕する。視線を向ければ、そこには手刀を振り上げる男がいた。狙うは黒大剣を振り下ろしたことでこうべを垂れるな姿勢になったことで突き出された首。

 

 食人花は防護壁ではなく目眩し。男はモンスターで姿を隠した後、僅かに横にズレることで黒大剣の軌道から逃れた。そして攻撃後の無防備な猛牛に止めを刺す気だ。

 男の怪力と硬い手刀ならば猛牛の首も切断可能だろう。まさかに絶対絶命。——この猛牛が‘ただのモンスター’だったら。

 彼は地面を踏み締め、無理矢理方向転換。真横にいた男に突進を繰り出す。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

「何ッ……⁉︎」

 

 男は忘れていた。あまりにこのミノタウロスが人間らしい動きをするから。目の前にいるのは人外の存在。人が持たない武器(つの)を持ったモンスターであること。

 『隻眼のミノタウロス』の角は、度重なる魔石の摂取によって極めて硬くなっている。武器として使用すれば《ウダイオスの黒剣》と同等の第一級武装に匹敵する『ドロップアイテム』と化す。

 これが彼の切り札。生来から持つ最大の武器。第一級冒険者(ベート)さえ倒した必殺が白ずくめの男に牙を剥いた。

 

「————————————————ッッ⁉︎」

 

 完全な不意打ちに、防御もできず男は凄まじい勢いで後方へと吹き飛んだ。

 背中で緑肉の地面を削り取りながら勢いは止まらない。うずたかく積まれていたモンスターの死灰を巻き込む男の体は、巨大花が寄生する大主柱の前でようやく止まった。

 

 ……やったか?

 

 いまの完全な致死の一撃(クリティカルヒット)だ。胸を相当深く抉った。良くて瀕死。悪ければ即死。あの必殺を受けて無事で済む道理はない。

 固唾を飲んで僕は灰が巻き上げられて煙が発生する先を見据える。そして

 

『——ッ』

 

 煙の奥から長身の影が浮かび上がり、ゆっくりと歩み出てくる。

 

 ——化物だね、あれが直撃して動けるなんて。

 

 白ずくめの男は、全身をボロボロにしながらもその二本の足で立っていた。

 猛牛の必殺による損傷は激しい。白骨(ドロップアイテム)の鎧兜は破壊され、猛攻を受けた部分の戦闘衣(バトル・クロス)は大きく破け、薄紅色の血肉を晒していた。特に胸部が酷い。角の直撃によって皮膚と肉が抉られ、肋骨があらわになっている。だが、それ以上に目を見開くのが中心に埋め込まれていた極彩色に輝く結晶(・・・・・・・・)

 

「……惜しかったが」

 

 埋め込まれてモノに猛牛が絶句する中、血の気のない男の唇が動く。

 うつむいて目もとを隠す前髪の下で、男は薄気味悪く笑った。

 

「『彼女』に愛された体が、この程度で朽ちるわけがない」

 

 唇が裂けんばかりに吊り上がった、その時だった。男の体に変化が訪れる。

 角で抉られた胸部、そして鉄拳を浴びた胴体も含めて。ゆっくりと、傷口が塞がっていく(・・・・・・・・・)

 回復魔法が発動しているわけではないにもかかわらず、ありえない自己治癒能力。彼の視線の先で男が損傷がなかったことになっていく。体中から蒸気のようにうっすらと立ち上がっているのは、『魔力』の残滓と思わしき極小の粒子だろうか。

 男は、『魔力』を燃焼させることで怪物特有の自己再生を行った。

 そして再生する男の体を観察して彼は気付く。下半身、破けた服の中。二本の足はまるで食人花の体皮と似た黄緑色に染まっている。

 

 ——異常な打たれ強さ。ありえない自己治癒能力。花のモンスターと同色の足。何より胸部にある極彩石。ここまで揃えば決定的だね。

 

 僕は自分の推測が正しかったと確信する。この男からは二つ(・・)の匂いがしていた。一つは人間。もう一つは

 

 ——僕と同じ怪物の匂いだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ——くっ、自己治癒に体力と魔力を消耗し過ぎたか……。

 

 白ずくめの男、オリヴァス・アクトは内心で悪態を吐く。

 顔色にこそ出してないがいまのオリヴァスは碌に動かない。

 

 ——私を生かそうとしてくださる『彼女』の加護は、未だこの身には過ぎた代物か。

 

 体の傷は完全に消えている。だが代償として多大な魔力と生命力(エネルギー)を使用し、先程まで猛牛と繰り広げた攻防は不可能になっていた。

 動けるまでの体力を回復させるためにどう時間稼ぎをするか、猛牛(バケモノ)に視線を向けると

 

 生存本能がそうさせるのか、それともオリヴィスがしたことを真似ているのか、首元から『魔力』の残滓が立ち上がり、喉の傷口か塞がっていく(・・・・・・・・・)

 ミノタウロスもオリヴァス同様、魔力を燃焼させ自己治癒を行っていた。

 

 これで互いに外傷なし。しかし、仕切り直しとはいかない。ミノタウロスが首元の損傷だけに対してオリヴァスは全身の打ち身、特に胸部の自己治癒に魔力を消耗し過ぎた。いま戦闘になればオリヴァスに勝ち目はない。

 こうなれば巨大花を、と思考していた時

 

『……オ前、何?』

「——なっ⁉︎」

 

 オリヴァスは絶句する。理性なきモンスター。人と意思疎通が不可能なはずのミノタウロスが言葉を発した(・・・・・・)

 言葉が出ないオリヴァスに構わず、ミノタウロスは疑問をぶつける。

 

『オ前、人間ノ匂イ、スル。デモ、怪物ノ匂イモ、スル。ドッチデモ、アッテ、ドッチデモ、ナイ。……オ前、何?』

 

 ミノタウロスの疑問。オリヴァスは同胞(かいぶつ)仇敵(にんげん)、果たしてどちらの存在なのか。

 そんな疑問が込められた言葉にオリヴィスは唇に笑みをしたたらせながら、その白髪を揺らした。

 

 ——私が何かだと? 私は『彼女』に選ばれた存在。いかに言葉を喋れる程度の知性を有そうと特別(わたし)を理解はできんか。ならば無知なモンスターに私がどれほど崇高な存在か知らしめてやろう。私は高らかに宣告する。

 

「人と、モンスターの力を兼ね備えた至上の存在だ」

 

 オリヴァスはミノタウロスを見下しながら高言を吐いた。

 人とモンスターの『異種混成(ハイブリッド)』。

 知性と能力(ステイタス)、そして怪物の怪力と強靭な肉体を有する個体。

 混じり合うはずのない二つの力を持った——そのような荒唐無稽な存在だと言う。

 

食人花(ヴィオラス)も、私も、全ては『彼女』という起源を同じくする同胞(モノ)。『彼女』の代行者として、私は『彼女』の願いを叶えよう!」

 

 オリヴァスは饒舌になる。歓呼するように『彼女』への想いを叫ぶ。

 

「『彼女』は空を見たいと言っている! 『彼女』は空を焦がれている‼︎ 『彼女』か望んでいるのだ、ならば私はその願いに殉じてみせよう‼︎ そのためにお前などに邪魔される訳にはいかんのだ、ミノタウロス‼︎」

『……ソウ』

 

 長々と続いた宣告。黙ってきいていたミノタウロスは短く答えて黒大剣を構えた。

 

『オ前ガ、何ヲシタイカ。『彼女』ガ、誰ナノカ。ソンナ事ハドウデモイイ(・・・・・・・・・・・)

 

 どれだけ崇高な目的があろうとミノタウロスには関係ない。もとより彼がここに来たのは緑壁の迷宮が自身に害である判断したからだ。

 オリヴァスの言葉で自分に関係ある計画ではないのは分かった。だが、ここまで戦った以上は互いに収まりはつかない。

 少なくとも彼はオリヴァスの魔石を捕食しなければ割に合わないと考えていた。

 

「野蛮なモンスターに理解できんか。ならば死ね。——巨大花(ヴィスクム)

 

 オリヴァスはばっ、と片腕を高々と上げた。直後、大主柱に寄生していた三体のモンスターの内、一輪の巨花が蠢き、震え、毒々しい花弁を眼下の仔牛(ミノタウロス)に向ける。咆哮の代わりに鳴り響くのは、大主柱と緑壁に一体化した体をベリベリと引き剥がす、耳を塞ぎたくなるような裂音だった。

 階層主、いや全長から見れば優にそれ以上の大きさを誇る巨大花のモンスターは、恐ろしいほどの体積を鉄槌にして地面に叩きつけた。

 

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ⁉︎』

 

 避けた猛牛は、大空洞を震撼させる衝撃波に全身を揺さぶられる。

 

「蹴散らせ」

 

 オリヴァスの命に従い、巨大花が動いた。

 迫りくる濃緑の大長駆にミノタウロスは回避行動を取る。これほどまでに巨大な相手に半端な行動は許されない。巨大な長駆が蛇行するだけでそれは必殺となりうる。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

 

 巨軀から幾多も伸びる蔦の触手を躱しながらミノタウロスは反撃する。跳躍してフルパワーの横薙ぎを見舞う。

 凄まじい剛閃に、巨大花の体の一部は大きく切り裂かれるが、それも焼け石に水だった。モンスターは痙攣して苦しむ素振りを見せるものの、致命打には遠い。

 動きの速度や攻撃そのものは大したことはないが、まともに戦うのが馬鹿馬鹿しいほど質量と規模が違い過ぎる。

 

「ふははははははははっ⁉︎ 行け巨大花(ヴィクスム)、この神聖な空間に足を踏み入れたモンスターを根絶やしにしろ‼︎」

 

 戦場を傍観するオリヴァスの高笑いが響く。

 未だに二体の巨大花を手の内に残す男の余裕は微塵も崩れなかった。全身の傷も塞がりゆるりと体力回復を待つ中、周囲の食人花も使役してミノタウロスに襲いかからせる。

 

 あまりに多勢に無勢。食人花だけならまだしも巨大花はミノタウロスも無視できない。しかし、渾身の一刀は大して効かず、食人花達が邪魔で巨大花に集中できない。そして巨大花は食人花が巻き込まれることも気にせず体当たりを繰り返す。

 そんな絶望的状況の中、ミノタウロスは何を思ったのか。巨大花の体躯を駆け上がり、花頭部分に到達。そのまま巨大花の正面に跳び出した。

 

「はははっ、血迷ったか‼︎ 丸呑みにしてやれ、巨大花(ヴィクスム)

 

 オリヴァスの命令に巨大花は食人花より何倍もある大口を開ける。その大きさは大型モンスターのミノタウロスを一飲みにして有り余るほどだ。

 巨大花は空中のミノタウロスに突進。ミノタウロスは口腔に消えていった。

 

「ふははははははははっ⁉︎ これが『彼女』に刃向かった者の末路だ! 自身の愚かさをあの世で悔い——」

 

 それ以上は続かなかった。巨大花の動きが突如、停止。不自然に何度も痙攣するモンスターは、断末魔を発さないまま、大長駆が膨大な灰へと果てる。

 

「なっ、なぁっ……⁉︎」

 

 充満する灰で視界が塞がれ、一歩、二歩と、オリヴァスはその場から後退する。何が起きたか理解できない。その一瞬の空白、オリヴァスは迫る影の接近を許してしまう。

 灰煙を突貫した手刀が、オリヴァスの胸部に突き刺さった(・・・・・・)

 

『フゥウウウウウウウウウッ……!』

「なっ——」

 

 オリヴァスの前に現れたの喰われたはずのミノタウロス。破った胸の中に埋める手刀。生々しい鼓動の音に合わせて溢れていく血液。

 ミノタウロスは、ぐぐっ、と更に手を押し込んでいく。口には極彩色の魔石が咥えられており、それを目の前で噛み砕いた。

 

 ここでオリヴァスは悟った。ミノタウロスが巨大花に喰われたのは血迷ったわけではない。弱点(ませき)を破壊するためだったのだ。

 食人花と巨大花は大きさは違うは姿形はよく似ている。必然的に魔石の位置も類似する。だから、わざと食べらせたのだ。

 そして巨大花を撃破したミノタウロスは、オリヴァスの魔石も喰らおうと手刀を突き刺している。

 

「よせ、やめろ! 私はこんなところで死ねない! 『彼女』を守らねばならん! 『彼女』の望みを叶えなければ——⁉︎」

 

 オリヴァスの叫びを無視して、ミノタウロスは勢いよく胸部から手を引き抜いた。その手の中に握られているのは、血に濡れた極彩色の『魔石』。

 核を引き抜かれたオリヴァスは、モンスターの末路と同じく、あっけなく灰となって崩れ落ちた。

 オリヴァスから摘出した『魔石』を口の中に含み、嚙み砕く。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

 

 漲る力。いままでで一番の全能感にミノタウロスは咆哮した。

 飛躍的な能力(ステイタス)の上昇。彼は新たな段階に力を進化させた。

 

 

 




『隻眼のミノタウロス』
名前:ミノたん(仮)
推定Lv.6相当
到達階層:26階層
装備
【ウダイオスの黒剣】
・アイズの身の丈より長大な剣。
・第一級武装にも劣らない階層主の『ドロップアイテム』。
・彼は未加工のまま使用している。
【ウンディーネ・クロス】
・精霊の護布。水属性に対する高耐性。水中活動ての恩恵ももたらす。
・大半が破れ、残りを首元に巻いている。型はマフラー。
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