ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか   作:ザイグ

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第二十六話:白兎と猛牛

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

「ッッッ!」

 

 『隻眼のミノタウロス』が振り下ろした爆撃めいた一撃を僕はなんとか回避。

 半から折れていようと長剣(ロングソード)と変わらない規格の漆黒のドロップアイテムは、猛牛の怪力が組み合わさればLv.1の冒険者を簡単に挽肉(ミンチ)にしてしまう。ゆえにベルは一撃一撃を命懸けで避けるしかない。

 

 ——よく見ろ、目を瞑るな! 敵の動きを見逃すな!

 

 自身に言い聞かせながら、ベルは疾走する。止まれば一瞬で叩き潰される。それを理解しているからこそ彼は最高速で駆け抜ける。

 

『ヴゥンンンンンンンンンンンン……‼︎』

 

 だが、Lv.1(ベル)の最高速などLv.6(アステリオス)には止まって見える。その動体視力でしっかりとベルの姿を捉えた一撃は——空振りに終わる。

 

 ——相手は瀕死だ。僕にも追いつけないほど重鈍になってる(・・・・・・・)

 

 『隻眼のミノタウロス』は瀕死だ、いや、死に逝くだけの存在と言った方が正しい。

 体に甚大な損傷(ダメージ)を負った猛牛(ミノタウロス)は『耐久』補正で辛うじて生き繋いでいる状態だ。そして『魔石』に大きな破損を負ったことで潜在能力(ポテンシャル)も大幅に弱体化している。いまの彼はミノタウロスがカテゴライズされるLv.2、それより少し強いLv.3下位といったところだろう。

 加えて【ケイオス・ラビュリントス】を維持できないほど精神力(マインド)を失って、精神疲弊(マインドダウン)寸前に陥っており、剣技の精彩を著しく欠いている。

 そして魔法を維持できなければ能力下降(ステイタス・ダウン)もなくなり——何故か結界だけは残り、フィン達の侵入を防いでいる——ベルの能力(ステイタス)は元に戻っていた。

 無論、それだけならLv.1のベルが避け続けられるのはおかしい。格上の猛牛にギリギリ喰らい付いていけているのは彼が持つ二つ(・・)のレアスキルだ。

 

 一つは、【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】。

 成長速度に影響を及ぼす前代未聞の『レアスキル』。スキルを発現させてしまうだけの憧憬(アイズ)への想い。成長速度を促進させるほどの懸想の絶対量。

 彼女に追い付くために出鱈目に成長するベルは全アビリティオールSを通り越し上限の限界突破オールSS——『敏捷』はSSS——に至っていた。

 そしてもう一つは、【英雄疾走(アレギス)】。

 不死身と謳われ、神速とも称えられた大英雄の名を冠する『レアスキル』。他でもない、目の前の怪物に襲われて一歩も動けなかったベルが望んだ英雄の駿足。

 絶体絶命に陥った時、ベルは圧倒的な『敏捷(はやさ)』と速ければ速いほど攻撃力が増大する能力(スキル)を得た。

 限界突破した【ステイタス】と速度強化のスキルによっていまのベルはLv.3にも引けを取らない『敏捷(はやさ)』がある。

 だがら、猛牛はベルを捉えても体が追いつかない。いまやベルの方が猛牛より速い(・・・・・・・・・・・)

 

「ふッッ!」

 

 ベルの《ヘスティア・ナイフ》が煌めく。猛牛の体皮に吸い込まれるように触れ——斬り裂けない。

 

「⁉︎」

『ヴゥンンンンンンンンンンンン……‼︎』

 

 どれだけ潜在能力(ポテンシャル)が下がろうとLv.6まで強化された『耐久(まもり)』は健在だ。城壁を針で砕けないように、ベルの攻撃は猛牛には無意味。むしろ、猛牛の斬り裂いて、自壊しなかった《ヘスティア・ナイフ》を賞賛すべきだ。

 猛牛が反撃の一刀を繰り出そうとするが、それより速くベルが右手を突き出した。

 

「【ファイアボルト】!」

『グッ……ゥウウウウウッ⁉︎』

 

 炎雷の直撃を受けたミノタウロスが苦しむ。先程は何発当たろうが顔色一つ変えなかった猛牛が一歩下がった。

 城壁を針で砕くことはできないが、崩れかけた城壁ならば穴の空いた箇所に針を素通りさせるのは簡単だ。

 アイズ達の戦闘で猛牛は傷だらけだ。全身に傷を刻まれ、それを回復させる『魔力』も残っていない。そんな体に炎雷を受けるのは、傷口に塩を塗りこまれるようなものだ。ミノタウロスが苦しむのも当然だった。

 ゆえに身体能力(キャパシティ)で勝り、高圧的にねじ伏せられるはずの猛牛は攻めきれない。後一歩というところで魔法による妨害が起こる。

 決定打を与えられない英雄(ベル)と、彼を殺せない怪物(アステリオス)。形勢こそ、その身体能力(キャパシティ)を活かし攻め続けるミノタウロスが終始有利だが、互いの命を平等な条件のもとで賭けた、死闘であることに変わりはない。

 

 

 その光景にベート達は固まった。瀕死とはいえあの『隻眼のミノタウロス』に挑む、無謀な少年。何故か魔法が解除されても残る結界に阻まれ、第一級冒険者は助けにいけない。まるでダンジョンが我が子の邪魔はさせないというように。これから起こる悲惨な光景を見るしなかった。

 しかし、起こったのは誰もが疑わなかった一方的蹂躙(ワンサイドゲーム)ではなく、互角(・・)の攻防戦。

 かつてベートが嘲笑った、みじめな冒険者はもういなかった。そんな中、フィンが口を開く。

 

「僕の記憶が正しければ……一ヶ月前、ベートの目には、あの少年がいかにも駆け出し(・・・・・・・・)に見えたんじゃなかったのかい?」

 

 激変を遂げていた。ミノタウロスからみっともなく逃げ回っていた惰弱な冒険者の一人ではない。確かな実力の片鱗を窺わせる、紛れもない新人冒険者(ルーキー)だ。

 『隻眼のミノタウロス』に襲われたのが一ヶ月前。まだ、一ヶ月である。

 僅か三十日前後の時間幅(スパン)では、才能に恵まれた冒険者とはいえ見違えるほどの成長は得られない。並大抵の冒険者ではそれこそ亀の歩みだ。底辺の脱出からの、ありえない飛躍。

 モンスターとヒューマンが真っ向から衝突し、力と速度の戦いを継続させる。

 誰もが口を閉ざし、一人と一匹が交わす闘争を最も近いところから凝望した。

 その光景にティオナはあるお伽話を思い出した。

 

「『アルゴノゥト』……」

 

 英雄になりたいと夢を持つただの青年が、牛人によって迷宮(ラビリンス)へ連れ攫われた、とある国の王女を救いに向かう物語。

 時には人に騙され。時には王に利用され、多くの者達の思惑に振り回される、滑稽な男の物語。

 友人の知恵を借り。精霊から武器を授かって。なし崩しに王女を助け出してしまう、滑稽な、英雄の名前。

 

 いまの状況はそのお御伽と非常に酷似している。

 王女(アイズ)を襲おうとする牛人(アステリオス)。そして彼女を助けようとする英雄(ベル)

 (フレイヤ)の思惑に振り回され、王女(アイズ)に鍛えられ、精霊(ヘスティア)に武器を授かって、必死にミノタウロスと戦う姿は、まさに『アルゴノゥト』。

 そしてティオナ達もアステリオス本人も知らぬことだが、そのお伽話こそが、猛牛が覆したいと思っている『英雄の物語(ヒーロー・ミィス)』そのものだった。

 

 もはや結界がなくとも、乱入しようなんて無粋なことを考える者はいない。それだけベート達の瞳を掴んで離さない何かがあった。

 それは【ファミリア】を統率する首脳、そして幹部になり、万が一を侵せないベート達にとって、眩しい瀬戸際の戦い。

 冒険者ならば誰もがかつて夢見た戦い(すがた)。忘れて、失って、けれど胸の奥底でくすぶり続ける——真っ白な情熱(ほのお)

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ——あは、あはははははッ! すごい。すごいよ!

 

 僕は歓喜する。僕の方が強い。唯一『敏捷』は負けているが身体能力も戦闘技術も、経験値も間違いなく僕が上だ。

 それなのに勝てない。追い詰めているのに攻め切れない。間一髪で生き延びて喰らい付いてくる。おかしい。理不尽だ。でも、納得できる。勝てないはずの強者(かいぶつ)に勝ってしまう弱者(えいゆう)。神から愛されたように奇跡を呼び、勝利してしまう存在。だからこそ、彼に勝てば僕は怪物でも勝者になれることを証明できる。

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

「ああああああああああああッッ‼︎」

 

 咆哮する。爆発する感情を力に僕は斬閃の嵐を加速させる。比例するように少年も加速。僕を上回る連撃を繰り出した。

 限界突破した速度の一閃。黒いナイフが正確に傷口を狙う。皮膚が裂けてあらわになっていた肉質を見事に抉るが、それだけだ。浅く斬りつけるに終わり、せいぜいかすり傷がいいところだろう。

 どれだけ傷口を突こうが、ナイフの短いリーチでは深手は負わせられない。刃が届かないのだから、有効打を与えられない。

 どんなにベルがアステリオスと張り合い奮戦しても、攻撃が成立しないことには勝機は絶対に訪れない。

 だが、アステリオスもぐずぐずしていられない。彼の命は風前の灯火だ。刻一刻と消え続けている。

 時間切れによる不戦勝。そんな結末アステリオスは、そしてベルも望んでいない。ゆえにアステリオスは勝負に出たのは当然の流れだった。

 

『ヴゥムゥウウウウンッ!』

「⁉︎」

 

 振り上げられた蹄が地面に打ち込まれ、爆発する。Lv.6時に比べればあまりに弱々しい威力の踏鳴。それでも岩盤は割れ、発生した衝撃は綿糸を飛ばすようにベルの体を宙に浮かせるには十分だ。

 地面から足が離れ、行動の自由を奪われるベル。蹴る地面に足がついていなければ、自慢の『敏捷(はやさ)』を発揮できない。

 

 ——避けられないよ! どうする、少年(えいゆう)

 

 正面で浮遊している動けない獲物(ベル)に向かって、アステリオスはフルパワーで黒大剣の薙ぎ払いを放った。

 絶対絶命。誰もがベルの死を予感する。だが、英雄(ベル)は諦めない。彼の瞳は死んでいない。カッと目を見開き、《ヘスティア・ナイフ》を見舞う。

 

『——⁉︎』

「うあああああああああああああっ!」

 

 今度はアステリオスが両眼を見開いた。迫る黒大剣に《ヘスティア・ナイフ》を叩きつけて軌道を逸らした。なんとか攻撃を回避したベル。だが、彼の行動はそれだけでは終わらない。黒大剣を弾いた勢いを利用して猛スピン。そのままもう一閃。

 

 この時、Lv.という概念を考えればありえない現象が、常識外れな奇跡をベルは引き起こした。

 

 アステリオスの桁違いな『力』を自身の『回転(いきおい)』に変え、

 『回転(いきおい)』を《ヘスティア・ナイフ》を振るう『敏捷(はやさ)』に変え、『敏捷(はやさ)』を『英雄疾走(スキル)』によって『攻撃力(ちから)』に変える。

 

 限界突破した一撃にアステリオスの『力』が合わさった攻撃力(インパクト)

 更に《ヘスティア・ナイフ》は鍛冶神(ヘファイストス)が作成した神造武装。ナイフ自身に【ステイタス】が発生しており、装備者の成長と連動して強化されていく。生きた武器だ。

 つまり、ベルの一撃の威力が強ければ強いほど、《ヘスティア・ナイフ》の攻撃力も上昇する。

 強力な一撃と強力な武器。この二つが合わさったことでベル(Lv.1)の一閃は猛牛(Lv.6)の手首を斬り裂いた。

 

『——————』

 

 予想外な出来事にアステリオスは呆然とする。勝負を仕掛けた時、彼なら生き延びると予想していた。だが、結果はどうだ? ベルは生き延びるどころか反撃し、手痛いしっぺ返しを喰らった。

 アステリオスの視線の先は自身の剛腕。最硬を誇る体皮を裂かれ、強靭な筋組織も斬られ、強固な骨も断たれた。

 見事に断絶された(・・・・・)腕。黒大剣ごと右手を空へと斬り飛ばされた。

 

『ゴ、ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ⁉︎』

 

 遅れてやってきた激痛にアステリオスは天井へ仰け反る。

 間近で爆発する絶叫にもかかわらず、ベルは膝を溜め、その場で跳んだ。アステリオスの巨体を梯子に見立てるかのようにら。膨れ上がった肩へ足をかけて蹴り飛ばす。中空へ飛翔した。

 ぐぐっとその細腕を懸命に伸ばす先には、血塗れの黒大剣。

 フォンッ、フォンッ、と空中で円を描く長大な剣の柄に指を掠めて、次には——掴み取る。間を置かず、フロアへ落下。

 そこへアステリオスは反転し、後方に落下するベルに猛進する。

 斬られた剛腕を振りかぶり、鉄拳——握り拳はないが——繰り出す。

 

 ——この手じゃもう剣は振るえない。その大剣はあげるよ。ただし、代金は君の命だ!

 

 逃げられない落下途中のベルに剛拳が迫る。それに対してベルは右腕を静かに突き出し、一声。

 

「【ファイアボルト】」

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ォ、ッォォ⁉︎』

 

 大爆発。至近距離からの射撃に、傷口を焼かれ、アステリオスは悶え苦しむ。接近しようにもこの炎雷に阻まれることを、頭に血が上った彼は失念していた。

 間髪入れず。視界を塞ぐ爆炎の中から、黒煙を突き破ったベルが、黒大剣を両手に斬りかかった。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッ‼︎」

 

 狙うは左胴体。安い矜持など捨て、アイズに皮膚も、肉質も抉られ、臓物さえあらわになっている左側を果敢に突いた。

 大上段から振り下ろされた、渾身の一撃。

 

『ヴグゥッッ⁉︎』

 

 内臓を直接攻撃された損傷(ダメージ)はアステリオスでも耐えられるものではない。彼の巨体がぐらりと後方によろめいた。

 ベルはこの好機を逃さない。

 

「んのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」

『ヴオォォッ⁉︎』

 

 相手の手に渡った黒大剣がアステリオスへ牙を剥く。

 肉厚の刃が風を巻き込んで、ベルの手を散々焼かせた破壊力を解放した。立て続けに迸る強撃。

 

 ——下手くそ……ド素人の技だね。でも、キツイ!

 

 追い詰められる中、アステリオスは他人事のようにそんなことを思った。

 お世辞にもベルの大剣捌きは格好がいいとは言えなかった。

 大剣を振るうのではなく、むしろ大剣に振り回されている絵。細い体が大重量の黒塊に外見負けしてしまっている。しかし、激痛に苦しむアステリオスを追い詰めるには十分だった。

 まるで風の渦だ。剣が縦横無尽に走り抜け、ベルの咆哮を道連れに黒の大閃を見舞っていく。

 だが、それで終わるアステリオスではない。灰褐色の外套(フーデッドローブ)を口と手のなくなった腕で器用に巻き付け、簡易の籠手(ガントレット)にする。

 

『——ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

 

 右手に巻いた外套(フーデッドローブ)籠手(ガントレット)代わりにして、反撃の拳砲を放つ。

 調子に乗るなと全身を怒らせ獣の本能を取り戻す。もはや『技』も『駆け引き』も抜きにしてモンスターの潜在能力(ポテンシャル)で圧倒しにかかる。

 

「『——————————————————ァッッッ‼︎』」

 

 決戦する。もつれ合う気勢と気迫が空気をわななかせた。既に意味をなさない互いの轟声がダンジョンに満ち満ちる。

 アステリオスの剛拳に応えるようにベルが黒大剣を振るった。人の剣技に真っ向から対決するように怪力がつくされた。

 妥協を彼方に放り投げたぶつかり合い。凄烈な一進一退を繰り返す。アステリオスは怒涛の連撃を叩き込む。ベルは加速する。猛牛以上の速さで黒大剣を繰り出し、全ての鉄拳を打ち返す。

 なけなしの力を振り絞る怪物と英雄は決して止まろうとしなかた。決して手を休めようとしなかった。

 止まらない。止まれない。譲れない。血塗れた黒大剣と布切れが巻かれた剛拳が激突し——アステリオスが渾身の力で押し返した。

 ベルが後方に吹き飛ばされ、その僅かな隙にアステリオスは動いた。

 

『フゥーッ。フゥーッ……⁉︎ ンヴゥウウウウウオオオオオオッ!』

 

 離れた彼我の間合い、およそ五M(メドル)

 隻腕がたった一本で地面を踏み締め(・・・・)、頭部を低く構えらはれる。臀部の位置を高く保たれ四つん這いになるその姿は、まさに猛牛のそれだ。

 追い込まれたミノタウロスに度々見られる突撃姿勢。己の最大の(ぶき)を用いた切り札。

 例えて黒大剣を失おうとアステリオスには最高硬度まで高められた双角が残っている。

 ただし、この距離では助走が足りない。短い感覚では威力も半減する。なりふり構ってられないほどアステリオスが瀬戸際まで追い詰められた、何よりの証だ。

 

 ——もう時間がない! これで最後だよ!

 

 アステリオスは自身の死期を悟った。この瞬間が永遠に続けばいいと思った。ベルとの全てをぶつける戦いがいつまでも終わることなく。だが、アステリオスの命は残り僅かだ。時期に全ての命を使い果たし、彼は屍となるだろう。

 そうなる前に眼前の英雄(ベル)だけには勝ちたかった。

 ベルの眼差しと、アステリオスの眼光がかち合う。そして

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

「ああああああああああああああああああああああああああッッ‼︎」

 

 突っ込んだ。真っ向からの突撃を断行したベル。本来ならベルがこの正面対決に付き合う必要はない。むしろ潜在能力(ポテンシャル)で負けている分、自殺行為と言える。

 でも、ベルはこの勝負に応えなければいけない気がした。そしてアステリオスも少年ならこの勝負を受けてくれると確信していた。

 今日が初対面。人間と怪物。殺し合うだけの関係にもかかわらず、両者は誰よりもお互いの事を理解していた。

 一気に縮まる間合い。黒大剣が振り下ろされ、牛角がすくい上げられる。瞬く間に、決着の一撃が邂逅した。

 黒塊が砕ける音。黒大剣に食い込んだアステリオスの角が、そのまま突き進み、ひび割れ、剣身全てを破砕した。

 当然だ。既に限界など超えていた武器を更に酷似したのだ。耐えられる訳がない。

 アステリオスの角は、傷一つついていない。勝機を見出したアステリオスはそのまま振り下ろした体勢で無防備になったベルに突進する。

 牛角が吸い込まれるようにベルに突き進む中——彼は《ヘスティア・ナイフ》を抜いた。

 

「ッッ!」

『ヴオッ⁉︎』

 

 急激な超ブレーキ。最大酷似される膝からの悲鳴を無視し、回転。英雄の脚力が可能にしたギリギリで回避。

 アステリオスの角をスレスレで避けたことでインナーを斬り裂かれるベル自身は無傷だ。

 そのままアステリオスの懐に潜り込み、傷口に《ヘスティア・ナイフ》を突き刺した。

 モンスターの本能のままに戦ったアステリオスを、ベルは彼が捨ててしまった『駆け引き』で上回った。

 そしてベルは、体内に届いた黒刃をぐっと押し込み、ありったけの力を込めて——砲声(・・)した。

 

「ファイアボルト!」

 

 ドゴンッ、とアステリオスの全身が振り乱れる。体内で何かが爆発したかのように、肉厚な胸板が膨張した。

 全身の傷口から、口から、鼻から、火炎の息吹がばっと溢れ出し、アステリオスの瞳が限界まで見開き——悟ったように穏やかな目になる。

 

 ——僕の、負けだね……。

 

 いくら魔法を無効化させる強靭な肉体でも、体内(・・)に放たれては防げない。刃伝いに送り込まれた炎雷が体の中で暴れ狂い、僕を直に焼き焦がすのを感じて敗北を確信した。

 

 ——結局、英雄(かいぶつ)には勝てなかったなぁ。

 

 懐にいる少年を見る。最後まで諦めず、勝利をもぎ取った英雄を。そこで、名前を知らないことを思い出す。

 

『名前ヲ、教エテ……』

「⁉︎」

 

 突然、語り出した僕に少年が驚く。でも、構わず言葉を続けた。

 

『僕ハ、アステリオス』

 

 先に名乗る。僕に勝った英雄に名前を覚えてもらいたいから。

 

『君ノ、名前ハ?』

「……ベル。ベル・クラネル」

『……ベル』

 

 その名前を心に刻む。死んでいく僕には関係ないかもしれないけど、最高の戦いで終わらせてくれたベルに感謝する。

 

『アリ、ガトウ……ベル。楽シ……カッタヨ……。——ヤッテ』

 

 介錯を頼むようにお願いすると、ベルは意を決したようにありったけの精神力(マインド)を注ぎ込んで魔法名を唱えた。

 

「ファイアボルトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎」

 

 爆砕する。魔石が砕け散り、ドロップアイテムを残して体が灰と化した。

 

 

 

 

 

 

 所要期間、約一ヶ月。

 ベル・クラネル、Lv.2到達。

 『隻眼のミノタウロス』討伐報酬はフィン達の交渉の結果、【ヘスティア・ファミリア】の取り分は賞金の一割とドロップアイテム『ミノタウロスの角』と『ミノタウロスの体皮』となった。

 

 

 




ベル・クラネル
Lv.1最終ステイタス
力:SS 1082
耐久:SS 1000
器用:SS 1088
敏捷:SSS 1349
魔力:A 851
《魔法》
【ファイアボルト】
・速攻魔法

《スキル》
【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】
・早熟する。
・懸想(おもい)が続く限り効果持続。
・懸想(おもい)の丈により効果向上。
【英雄疾走(アレギス)】
・逆境時における『敏捷』の超高補正。
・スキル発動時、速度が上昇すればするほど攻撃力に補正。

補足
アステリオスの原作乖離に伴い、ベル君も大幅強化しました。
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