ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか 作:ザイグ
——ここはどこ? 僕は死んだはずじゃ……。
《不思議だ。二つが混ざり合った魂》
——誰?
《転生しようとその魂があれば自我を失うことはないだろう》
——ひょっとして、まさか……。
《お前ならあの
——この声の主は。
《
——
そこで僕の意思は落下した。まるで赤子が生まれ落ちるように。
地中の奥深く。いくつもの道が錯綜する広大な地下迷宮。
平面を描く壁と床、天井。計られたように造られた規則正しい地下天然の通路が、いくつもの曲がり角や十字路を形成し、足を踏み入れた者を惑わせる。
そこで、ビキッ、と。迷宮の一角で壁面に亀裂が走り、また新たなモンスターが産まれ落ちようとする。
ビキリ、ビキリ、と音を立てて壁面を破り、最初に現れたのは、漆黒の極太い腕だった。
すぐに同色の肩、首、頭部、次には一気に上半身と下半身が出て、地面に落ちる。
迷宮の闇の奥から生まれたかのような漆黒の体皮。三
その威容から連想させる単語は、猛牛。だが、ミノタウロスと聞かれれば違う、と答えるほどそのモンスターは規格外だった。
やがて倒れ伏した体勢から、ゆっくりと顔を上げた。
「……ここ、どこ?」
◆ ◆ ◆
——死んだと思ったら、またモンスターに転生した件について。
そんな事を思いながら、僕はダンジョンを歩く。まさか転生を二回も経験するとは思わなかった。世界広しといえど僕くらいじゃない? あ、いや、生き物は死んだら輪廻転生するんだとしたら誰もが経験してるのかな? 覚えてないだけで。
それはどうでもいいとして
「……まよった」
絶賛迷子です。前世でも迷子にならなかったかと言われるかもしれないが、仕方ないでしょう。ここの迷宮構造は本当の意味で『迷路』だ。入った者を迷わせようとする気満々だ。
——それに問題は迷宮だけじゃないしね。モンスターも何故か襲ってくるし。
僕は前方を見る。そこにはごつごつと黒光りした皮膚組織を持つモンスターの一群が敵意をむき出しにしていた。
二足歩行を取る犀型のモンスター。皮膚の色から同族かと思ったが違った。
だって、あれ犀だよ。僕は牛だから普通に考えて同じ種族なはずない。
体格も、二
体格で勝るミノタウロスよりは、
現にいまも、放たれた剛拳が最後の犀型モンスターを屠った。
僕の体の
——少し、休憩しよう。ちょっと疲れた。
考えを纏めるために座り込み、壁面に背を預ける。そして裏拳を壁面に見舞い、破損させた。
ダンジョンが壁面を修復している間はモンスターが産まれ落ちない特性を利用して、冒険者が休んでいるのを真似たのだ。
倒したモンスターの『魔石』をぽりぽりと食べながら状況を整理する。
——さて、整理すると、まずここは何階層か。まぁ、間違いなく『深層』かな?
アステリオスは既に『上層』、『中層』、『下層』を訪れたことがある。いまいる階層はそのどれにも当て嵌らない構造をしている。ならば未到達階層——深層域しかありえない。
モンスターの強さも『下層』とは比べものにならないほど強いのも理由の一つだ。
——次に僕が何のモンスターかは……深層出身のモンスターなんて詳しくないし、名前も知らないからわからない。いまは置いておこう。次。
最有力候補は同色の犀型モンスターだったか、体格も、姿も、
——次に同じモンスターの僕が襲われる理由だけど、これも簡単だね。おそらく僕は『
モンスターに襲われるモンスターを僕は知っていた。
『
ただし、喋れるというモンスターの中でも異端である彼女達は冒険者だけでなく、
あ、そういえば転生してから言葉を大分流暢に話せるようになってるのも『
——最後は転生する直前に聞いた声。まぁ、十中八九あれはダンジョンの声だね。
母は
——願望……僕の望み? 僕は何をしたい? 何をするために生き返った? 死ぬ前に何を望んだ?
ダンジョン9階層。アイズ達と戦い、倒した。——その後は? 誰かと戦っていた気がする。弱々しく、でも誰よりも強かった誰か。
思い出そうとすると強烈な雷光が全てを塗り潰してしまう。何か、何か大切なことを忘れているような……。
「……ん?」
必死に思い出そうと頭を抱えていると背後に違和感。
背中にジュウゥゥゥと
——熱つつつつつつつつつつつつつつつつつつ…………くない?
慌てて背中を離し、転げ回る。が、気のせいだったようで全然熱くない。背中を触ってみても火傷はなく、岩のようなごつごつした肌触りだけだ。ていうより、本当に硬いな僕の皮膚。
背中に問題がなかったことを確認した僕は、次に壁面に目を向ける。そこには
——文字?
焼印でも押したような、そんな形の文章が壁面に書かれていた。
どうやらさっきの焼ける音はこれだったらしい。
アステリオス
Lv.6
力:I 0→H 107
耐久:I 0→H 103
器用:I 0→52
敏捷:I 0→88
魔力:I 0→71
《魔法》
【ケイオス・ラビュリントス】
・迷宮魔法
・
・効果対象の『力』と『耐久』が低下する
・一定領域内における結界発動
・迷宮内でなければ発動不可
・詠唱式【迷え、彷徨え、そして死ね】
《スキル》
【
・『力』と『耐久』の超高補正。
・炎属性と氷属性に対する耐久力強化。
【
・皮膚硬度強化。
・魔法攻撃に対する耐性強化。
それは【ステイタス】だった。驚くべきことに人類が神々から与えられた『
アビリティが上昇していることから、先程の焼音は【ステイタス】の
Lv.6もの高位の『
通常、【ステイタス】の更新は交戦などをして蓄積された【
この急成長するアステリオスと冒険者の違い。それは彼がモンスターだからだ。本来、【ステイタス】を持たないモンスターの
【
その証拠に、魔法を使ってもいないのにアビリティ『魔力』が加算されている。魔法を使わなければ【ステイタス】には反映されない。それでも『魔力』の熟練度が上昇しているのは、魔石を食べた影響だ。
魔石はモンスターの核であり、魔力の塊だ。それを取り込むということは自身の魔石に他のモンスターの魔力を吸収するということ。むしろ、『強化種』は魔石の純度が高くなることで
次に《魔法》と《スキル》の項目。魔法に関しては転生前に使用した
問題は『スキル』だ。スキルの項目に記載された二種のモンスター名称。これはおそらく【ステイタス】を得たことで種族特性の
【
【
更に『スキル』として発言した影響か、ブラックライノスが持ち得ないはずの魔法耐性さえ獲得している。これによってアステリオスは物理攻撃だけでなく魔法攻撃も効きづらくなっていた。
まさにダンジョンからの祝福。【ステイタス】を得たことで彼はミノタウロスの時より、遥かに強大なモンスターと化した。が
——よ、読めない……。
そうアステリオスはミノタウロスになって二ヶ月もたっていない。その間、この暗いダンジョンの中でひたすら戦う日々を送っていた。無論、この世界の文字を学ぶ機会などない。文字が読めるわけがない。
ダンジョンが気を利かせてくれたのか、神々と一部の人類しか読めない【
——まぁ、いいや。ほっとこ。
そして読めないものは速攻で諦めた。アステリオスはのしのしと歩き去っていく。
何故か、ダンジョンが悲しげに震えた気がした。