ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか   作:ザイグ

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第二十七話:再誕と黒牛

 

 ——ここはどこ? 僕は死んだはずじゃ……。

 

《不思議だ。二つが混ざり合った魂》

 

 ——誰?

 

《転生しようとその魂があれば自我を失うことはないだろう》

 

 ——ひょっとして、まさか……。

 

《お前ならあの都市(ふた)を破壊してくれるかもしれない》

 

 ——この声の主は。

 

神々(やつら)の真似事になるが恩恵(ちから)を与えよう》

 

 ——お母さん(ダンジョン)

 

 そこで僕の意思は落下した。まるで赤子が生まれ落ちるように。

 

 

 地中の奥深く。いくつもの道が錯綜する広大な地下迷宮。

 平面を描く壁と床、天井。計られたように造られた規則正しい地下天然の通路が、いくつもの曲がり角や十字路を形成し、足を踏み入れた者を惑わせる。

 そこで、ビキッ、と。迷宮の一角で壁面に亀裂が走り、また新たなモンスターが産まれ落ちようとする。

 ビキリ、ビキリ、と音を立てて壁面を破り、最初に現れたのは、漆黒の極太い腕だった。

 すぐに同色の肩、首、頭部、次には一気に上半身と下半身が出て、地面に落ちる。

 迷宮の闇の奥から生まれたかのような漆黒の体皮。三M(メドル)近い巨軀は岩のような筋肉で覆われており、頭部から生える双角の色は紅。

 その威容から連想させる単語は、猛牛。だが、ミノタウロスと聞かれれば違う、と答えるほどそのモンスターは規格外だった。

 やがて倒れ伏した体勢から、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……ここ、どこ?」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ——死んだと思ったら、またモンスターに転生した件について。

 

 そんな事を思いながら、僕はダンジョンを歩く。まさか転生を二回も経験するとは思わなかった。世界広しといえど僕くらいじゃない? あ、いや、生き物は死んだら輪廻転生するんだとしたら誰もが経験してるのかな? 覚えてないだけで。

 それはどうでもいいとして

 

「……まよった」

 

 絶賛迷子です。前世でも迷子にならなかったかと言われるかもしれないが、仕方ないでしょう。ここの迷宮構造は本当の意味で『迷路』だ。入った者を迷わせようとする気満々だ。

 

 ——それに問題は迷宮だけじゃないしね。モンスターも何故か襲ってくるし。

 

 僕は前方を見る。そこにはごつごつと黒光りした皮膚組織を持つモンスターの一群が敵意をむき出しにしていた。

 二足歩行を取る犀型のモンスター。皮膚の色から同族かと思ったが違った。

 だって、あれ犀だよ。僕は牛だから普通に考えて同じ種族なはずない。

 体格も、二M(メドル)に届く個体はいない。対して僕は三M(メドル)近い。それに何より弱い。

 体格で勝るミノタウロスよりは、潜在能力(ポテンシャル)は高いが僕より遥かに弱い。

 現にいまも、放たれた剛拳が最後の犀型モンスターを屠った。

 僕の体の潜在能力(ポテンシャル)はLv.6相当。それに対して犀型モンスターはLv.4以下。多少の差はあれど産まれ落ちたばかりの同種で潜在能力(ポテンシャル)にここまでの差はないと思う。

 

 ——少し、休憩しよう。ちょっと疲れた。

 

 考えを纏めるために座り込み、壁面に背を預ける。そして裏拳を壁面に見舞い、破損させた。

 ダンジョンが壁面を修復している間はモンスターが産まれ落ちない特性を利用して、冒険者が休んでいるのを真似たのだ。

 倒したモンスターの『魔石』をぽりぽりと食べながら状況を整理する。

 

 ——さて、整理すると、まずここは何階層か。まぁ、間違いなく『深層』かな?

 

 アステリオスは既に『上層』、『中層』、『下層』を訪れたことがある。いまいる階層はそのどれにも当て嵌らない構造をしている。ならば未到達階層——深層域しかありえない。

 モンスターの強さも『下層』とは比べものにならないほど強いのも理由の一つだ。

 

 ——次に僕が何のモンスターかは……深層出身のモンスターなんて詳しくないし、名前も知らないからわからない。いまは置いておこう。次。

 

 最有力候補は同色の犀型モンスターだったか、体格も、姿も、能力(ステイタス)も、違いすぎると結論を出していた。

 

 ——次に同じモンスターの僕が襲われる理由だけど、これも簡単だね。おそらく僕は『異端児(ゼノス)』になってる。

 

 モンスターに襲われるモンスターを僕は知っていた。

 『異端児(ゼノス)』。人魚(マーメイド)のマリィや歌人鳥(セイレーン)のレイ。彼女達は知性を有する、言葉を話せるモンスター。

 ただし、喋れるというモンスターの中でも異端である彼女達は冒険者だけでなく、同族(モンスター)にさえ嫌われて殺意と爪牙を向けられる。

 あ、そういえば転生してから言葉を大分流暢に話せるようになってるのも『異端児(ゼノス)』になった影響かな?

 

 ——最後は転生する直前に聞いた声。まぁ、十中八九あれはダンジョンの声だね。

 

 母は都市(ふた)を壊してと言った。母は地下からの解放を望んでいるのかもしれない。……でも、その期待には応えられない。僕には、僕の願望がある——願望(・・)

 

 ——願望……僕の望み? 僕は何をしたい? 何をするために生き返った? 死ぬ前に何を望んだ?

 

 ダンジョン9階層。アイズ達と戦い、倒した。——その後は? 誰かと戦っていた気がする。弱々しく、でも誰よりも強かった誰か。

 思い出そうとすると強烈な雷光が全てを塗り潰してしまう。何か、何か大切なことを忘れているような……。

 

「……ん?」

 

 必死に思い出そうと頭を抱えていると背後に違和感。

 背中にジュウゥゥゥと焼けるような音(・・・・・・・)がする。恐る恐る背後を見れば壁面に預けていた背中から煙が出ていた。

 

 ——熱つつつつつつつつつつつつつつつつつつ…………くない?

 

 慌てて背中を離し、転げ回る。が、気のせいだったようで全然熱くない。背中を触ってみても火傷はなく、岩のようなごつごつした肌触りだけだ。ていうより、本当に硬いな僕の皮膚。

 背中に問題がなかったことを確認した僕は、次に壁面に目を向ける。そこには

 

 ——文字?

 

 焼印でも押したような、そんな形の文章が壁面に書かれていた。

 どうやらさっきの焼ける音はこれだったらしい。

 

 

アステリオス

Lv.6

力:I 0→H 107

耐久:I 0→H 103

器用:I 0→52

敏捷:I 0→88

魔力:I 0→71

《魔法》

【ケイオス・ラビュリントス】

・迷宮魔法

能力下降(ステイタス・ダウン)

・効果対象の『力』と『耐久』が低下する

・一定領域内における結界発動

・迷宮内でなければ発動不可

・詠唱式【迷え、彷徨え、そして死ね】

《スキル》

天性猛牛(ミノタウロス)

・『力』と『耐久』の超高補正。

・炎属性と氷属性に対する耐久力強化。

天性黒犀(ブラックライノス)

・皮膚硬度強化。

・魔法攻撃に対する耐性強化。

 

 

 それは【ステイタス】だった。驚くべきことに人類が神々から与えられた『神の恩恵(ファルナ)』——人外のモンスターと戦うために冒険者が得た力と同じもの——が、怪物(アステリオス)の背中に発生していた。

 アビリティが上昇していることから、先程の焼音は【ステイタス】の更新(・・)。神々が神血(イコル)を使って【ステイタス】を更新するように、ダンジョンの一部である壁面に背中が触れた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ことで【ステイタス】が更新されたのだ。しかし、この上昇幅はおかしい。能力値(アビリティ)熟練度、上昇値トータル450オーバー。

 Lv.6もの高位の『怪物(うつわ)』が数回交戦しただけでこれだけの【経験値(エクセリア)】は得られない。

 通常、【ステイタス】の更新は交戦などをして蓄積された【経験値(エクセリア)】を抽出し、それをもとに【ステイタス】に組成として成長の礎に変えられていく。その【経験値(エクセリア)】はLv.が高ければ高いほど獲得にしくい。深層のモンスターを相手にしたとはいえこの上昇幅はありえない。

 この急成長するアステリオスと冒険者の違い。それは彼がモンスターだからだ。本来、【ステイタス】を持たないモンスターの潜在能力(ポテンシャル)は産まれ落ちた時から変動しない。しかし、魔石を食べて『強化種』となることで能力(ステイタス)を強化できる。

 【経験値(エクセリア)】による熟練度の上昇。魔石を食べて潜在能力(ポテンシャル)を強化。

 冒険者(ステイタス)強化種(モンスター)。二つの力を得たことでアステリオスは【ステイタス】の二重(・・)更新を行っていた。

 その証拠に、魔法を使ってもいないのにアビリティ『魔力』が加算されている。魔法を使わなければ【ステイタス】には反映されない。それでも『魔力』の熟練度が上昇しているのは、魔石を食べた影響だ。

 魔石はモンスターの核であり、魔力の塊だ。それを取り込むということは自身の魔石に他のモンスターの魔力を吸収するということ。むしろ、『強化種』は魔石の純度が高くなることで能力(ステイタス)を強化しているといえる。

 

 次に《魔法》と《スキル》の項目。魔法に関しては転生前に使用した異常魔法(アンチ・ステイタス)が記載されているだけなので省略しよう。

 問題は『スキル』だ。スキルの項目に記載された二種のモンスター名称。これはおそらく【ステイタス】を得たことで種族特性の能力(スキル)が現れている。狼人(ウェアウルフ)なら『敏捷』、ドワーフなら『力』を強化する種族特有の『スキル』が発現するように、アステリオスはモンスターが持つ種族特性の能力(スキル)を『スキル』という形で発現させることでより強力にしていた。二種族が載っているのは今世(ブラックライノス)前世(ミノタウロス)能力(スキル)を引き継いでいるからだ。

 

 【天性猛牛(ミノタウロス)】。前世の種族であり、『力』と『耐久』に特化したモンスターの代名詞。攻防一体を体現するように、『力』と『耐久』を大幅に引き上げている。そしてミノタウロスの皮それ自体も耐熱耐寒効果を持つので、炎属性と氷属性にも強くなっている。

 【天性黒犀(ブラックライノス)】。今世の種族であり、鎧と見紛う皮膚は硬く厚く、とてつもない硬度を誇る防御特化した深層種である。『スキル』として発現したことでその硬度はより凄まじいものになっている。アステリオスは否定していたが、先程まで戦っていた犀型モンスターと彼は同種だ。ただし、アステリオスは『異常事態(イレギュラー)』、通常種より遥かな力を秘めた『亜種』なのだが。

 更に『スキル』として発言した影響か、ブラックライノスが持ち得ないはずの魔法耐性さえ獲得している。これによってアステリオスは物理攻撃だけでなく魔法攻撃も効きづらくなっていた。

 まさにダンジョンからの祝福。【ステイタス】を得たことで彼はミノタウロスの時より、遥かに強大なモンスターと化した。が

 

 ——よ、読めない……。

 

 そうアステリオスはミノタウロスになって二ヶ月もたっていない。その間、この暗いダンジョンの中でひたすら戦う日々を送っていた。無論、この世界の文字を学ぶ機会などない。文字が読めるわけがない。

 ダンジョンが気を利かせてくれたのか、神々と一部の人類しか読めない【神聖文字(ヒエログリフ)】ではなく、一般的に使用されている共通語(コイネー)で書いてくれているが、何の意味もなかった。

 

 ——まぁ、いいや。ほっとこ。

 

 そして読めないものは速攻で諦めた。アステリオスはのしのしと歩き去っていく。

 何故か、ダンジョンが悲しげに震えた気がした。

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