ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか 作:ザイグ
迷路を彷徨うこと早三日。犀型モンスターを倒しては進み、大蜘蛛を倒しては進み、巨大蠍を倒しては進み、雷を発する蛇を倒しては進んだ。
いい加減、出口はどこだと言いたい。せめて喉も渇いたから水分補給もしたい。モンスターの不味い血で誤魔化しているが限界だ。吸血鬼はよくあんなものを美味しそうに飲める。絶対に味覚が壊れてる。
そんなことを考えていると、チョロチョロと液体が流れる音が聞こえてきた。
——水だ!
水音と判断した僕の行動は早かった。音のする方へ爆進。立ちはだかるモンスターを蹴散らし、音源たる『ルーム』に突入した。
迷路とは違い、林には届かない密度で疎らに木々が生え渡る。そしてルームの最奥にある美しい蒼色の水面を揺らす清冽な泉。
壁にできた割れ目——小さな岩窟から、僅かな量の水が不定期に湧き出ている。蒼いきらめきを宿す神秘的な泉水は、草花が広がる窪みに徐々に溜まっているところだった。——そんなことはどうでもよく、喉が渇いた僕は泉に駆け寄り、頭を突っ込んだ。泉の近くに‘うずくまる塊’に気付かずに。
——ぷはぁっ、美味い! 何だこの水。喉越し最高で、まるで疲れが癒されるようだ。
喉を潤した僕は水面を見る。そこには体色こそ漆黒であるが十人中十人が見ても『ミノタウロス』と答える牛頭が映っていた。ただ目立つのは左目にある
——この
その人物を思い出そうとする死の瞬間の時と同じように閃光が頭を塗り潰してしまう。僕の死因も未だに思い出せない。アイズ達じゃない。僕は
思考の渦に呑まれていると巨大な影が僕を覆った。何だと思い顔を上げると
——ドラゴン?
それは竜だった。強靭な四肢、全身を覆うのは強固な鱗、僕より高く見上げなければいけないほどの体高。腰から伸びる長く硬質な尾まで含めた全長は間違いなく大型級のモンスターだ。
竜の瞳は怒りに燃えていた。まるで自分のものを取られたと言わんばかりに。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』
泉の番人は咆哮を上げ、巨大竜は強靭な前脚を振り上げ、鋭くも巨大な竜爪を見舞う。
アステリオスも片腕を掲げで防御する。が
『ヴォオッ⁉︎』
アステリオスは鎧のような皮膚のおかげで無傷だが、それでも衝撃は凄まじい。
——なんて馬鹿力! いままでのモンスターとは
自分のことを棚に上げて何を言ってるんだと言いたいが、それも仕方ない。
この竜の名は『
その力は階層主を抜きにすれば、現在発見されているモンスターの中でも間違いなく
アステリオスがいままで戦ったどのモンスターよりも
アステリオスが反撃しようとするが——眼前に
——速い⁉︎
一瞬で間合いを詰める『敏捷』。大型級の巨軀には似合わない俊敏さで追撃がくる。
だが、アステリオスは何発も受ける気はない。竜爪を回避すると回り込み、横腹に剛拳を叩き込む。しかし、
——か、硬い!
『グゥッッ⁉︎』
またも吹き飛ばされるが宙で体勢を整え、着地。対峙する。
強い。
『グオオオオオオオオオオオオオオッ!』
だが、アステリオスも
その『力』と『耐久』を存分に発揮し、突進する巨軀を受け止めた。押しても動かないと判断した
『——オオオオオオオオオオオオオオオオッ⁉︎』
牙が砕けた痛みに
アステリオスは剛拳を振りかぶり——顔面に繰り出した。
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ⁉︎』
出鱈目な『力』が
両手と全身を用いて、竜の尾を引っ張り、持ち上げる。硬質な竜鱗を突き破り食い込む五指が
次には、咆哮を轟かせる。
『……ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
竜の尾を担ぎ、背負うようなアステリオスの動きに合わせ、竜の巨軀が地から浮かび上がった。
背負い投げ。尾を掴まれた
『ァ、ァアアアアアアアアアアアアッ⁉︎』
地面に激突した痛みに竜が悲鳴をあげる。しかし、すぐに立ち上がりアステリオスと対面する。高い『
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』
二匹の怪物が激突する。始まったのは後退なき
全てを粉砕する剛拳が繰り出され、硬質な竜鱗が防ぐ。全てを破壊する剛爪が見舞われ、鎧の如き
何発も互いの体に直撃しながら、怪物達は怯まない。一歩も引かない。引いた方が負けると言わんばかりに攻め続ける。
——攻撃が効きにくいなぁ。何か武器が欲しい。
アステリオスの攻撃は聞いていないわけではない。だが、それは鱗にひびが入るような微々たるもの。竜種特有の硬鱗と怪物特有の
だが、このまま
『
彼の皮膚は鉄壁の鎧。剛爪の嵐に晒されながら、その体には傷一つ入っていない。ダンジョンの
すなわち、
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ⁉︎』
ここで初めて
『グオオオオオオオオオオオオオオッ!』
『フゥウウウウウウウウウッ……!』
アステリオスの拳砲。己に迫る脅威に
『⁉︎』
アステリオスは驚愕する。彼を遥かに上回る巨大でありながら、
最強の——階層主を抜きにすれば——モンスターの名は伊達ではない。背中に生えた翼は飾りなどではなく、出鱈目な
たが、アステリオスは上に乗った竜の腹を蹴り上げ、退かすと素早く立ち上がり、対峙する。
距離が離れたことで戦いは振り出しに戻った。二匹の怪物は睨み合う。だが、少なからず傷を負った
このまま攻めれば勝てる、とアステリオスが一歩踏み出すと
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ⁉︎』
「……え?」
敗北を悟ったまさかの行動。恐怖に支配された生存本能が突き動かした答え。——敵前逃亡だ。
勝てない敵に、
「ま、まって……!」
◆ ◆ ◆
でも、それでもアステリオスは
『———————————————ァァッ⁉︎』
力尽きた
『フゥー、フゥー……!』
流石のアステリオスも半日近く続いた殴り合いには疲れたようだ。その場に座り込み、壁面に背中を預ける。またもダンジョンが焼けるような音を立てながら【ステイタス】を更新。それに構わず、アステリオスは魔石を噛み砕いた。
——おぉ〜〜〜! 溢れんばかりの力を感じる! 大きさはゴライオスには及ばないが、質はオリヴァス以上だよ!
極上の魔石を食べたことで全身に力が漲る。長期戦の疲労さえ吹き飛んでしまった。栄養ドリンクも真っ青な効力である。
満足したことだし、しばらく休憩しようと思ったその時——響いた。
地の底から昇ってきたかのような禍々しい雄叫びが。
——竜の、遠吠え? どこから? 周囲には何もいない。いや、この音源は——
耳朶に喰らいつく、怪物の王の叫喚。その元凶をアステリオスは察したがもう遅い。次の瞬間。彼の
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎』
突き上げる轟炎、そして紅蓮の衝撃波。全身を灼熱の色に焼く凄烈な爆炎に、アステリオスの目が限界まで見開かれた。
まるで特大の地雷が炸裂したかのような現象。階層の床がまるごと紅炎に包まれ、蒸発させる。
アステリオスの体は階層に空いた大穴に、そのまま落下した。飛行手段を持たない彼に抗う術はなかった。
アステリオス
種族:ブラックライオス:亜種
所属:ダンジョン
到達階層:51階層(27〜50階層未到達)
ステイタス:Lv.6
力:H 107→S 909
耐久:H 103→S 932
器用:I 82→E 515
敏捷:I 88→C 623
魔力:I 71→C 605
《魔法》
【ケイオス・ラビュリントス】
・迷宮魔法
・能力下降(ステイタス・ダウン)
・一定領域内における結界発動
・迷宮内でなければ発動不可
・詠唱式【迷え、彷徨え、そして死ね】
《スキル》
【天性猛牛(ミノタウロス)】
・『力』と『耐久』の超高補正。
・炎属性と氷属性に対する耐久力強化。
【天性黒犀(ブラックライノス)】
・皮膚硬度強化。
・魔法攻撃に対する耐性強化。
《装備》なし
補足
大蜘蛛=デフォルミス・スパイダー
巨大蠍=ヴェノム・スコーピオン
雷を発する蛇=サンダー・スネイク