ダンジョンにミノタウロスがいるのは間違っているだろうか   作:ザイグ

3 / 29
第三話:樹海と猛牛

 

 あの覆面の女性と戦ってから数日——いや一週間? 太陽の光も届かない洞窟の中では時間の感覚が麻痺してくる。そんなことは置いといて彼女との戦いで力不足を痛感した僕は綺麗な階層の更に下の階層に降りることにした。

 色々な怪物と戦ってみて分かったけどどうやらこの洞窟は下に行けば行くほど怪物が強くなる傾向がある。つまり下層の怪物が持つ紫紺石を食べた方が効率良くパワーアップできるんだ。

 新しい大剣も奪——ゲフンゲフン、手に入れたので強い怪物とも戦えるだろう。僕は戦意を高揚させ下へ続く階段を降りた。

 

 

 

 ——結果から言うと大したことなかった。

 

 

 

 降りた階層は樹の中という表現がしっくりくる木肌に覆われていた。階層内には奇々怪界な植物が群生。上の階層とは違った形で目を楽しませてくれ、ジャングルのような場所を進むのは探検隊になった気分だ。

 ただ出現する怪物の力は大したことなかった。剣みたいな角を生やした鹿、巨体に似合わない速さの熊、その熊よりデカイ猪、二足歩行する甲虫、二メートルを超える太ったゴブリン、人型の蜥蜴リザードマンなど様々な怪物がいたが僕の敵ではなかった。

 むしろ、実力より警戒すべきは『毒』などのいままでいない攻撃をする怪物達だ。

 

 毒胞子を撒き散らす巨大茸を知らずに触った時は死ぬかと思った。この体は毒に強い抗体を持つのと解毒効果のある薬草を見つけられたので助かった。どうやらこの階層には回復効果や解毒効果のある薬草が多いようだ。

 他には空を飛ぶ怪物なんかも厄介だった。紅の大鳥は火炎放射を、巨大蜻蛉は弾丸で手が届かない上空から攻撃してくる。その時は拾った岩を力任せの投擲で撃墜した。

 慣れない攻撃に苦戦しながらも僕は順調に探検をしていた。

 

 あ、それから防具も新調した。というより新調せざるをえなかった。

 全長が人間並みにある巨大蜂に手を出したのがいけなかった。叩き斬った瞬間、壁面が吹き飛んだ。そして現れたとてつもなく巨大な『蜂の巣』。僕の四倍はあるだろう巨大な巣はネバネバしてくっつく粘液を吐き出して僕の毛皮に付着。そのまま取れなくなった。

 地面にくっついて身動きがとれなくなり、巨大蜂の大群が襲ってきたので毛皮は泣く泣く脱ぎ捨てた。……その後のことは正直、思い出したくない。

 倒せとども倒せとども飛来し続ける巨大蜂の大群。あの『蜂の巣』が巨大蜂を無尽蔵に産み出すと気付いたのは巨大蜂を百——、二百——、三百——数え切れないほど倒した後だった。

 毛皮は粘液で駄目になったけど、不幸中の幸いは巨大蜂が硬殻の『ドロップアイテム』をゴロゴロ落としてくれたことだ。

 この巨大蜂は僕が出会った怪物の中で一番硬い。これを使用すれば鎧が作れると思った僕は鎧——硬殻を繋ぎ合わせただけ——を作ってみた。少々形は歪になったが毛皮より遥かに防御力のある鎧が手に入ったので良しとしよう。 それに漆黒の鎧……カッコイイじゃないか。

 

 新装備を手に入れた僕はいま——

 

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎』

『——オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ⁉︎』

 

 

 十メートル以上もある竜を大剣で突き刺していた。

 

 数分前、探検中の僕はひときわ目立つ樹を発見した。それは果物の代わりに青や赤の美しい宝石が実るまさに金のなる樹だった。

 怪物の身では宝石なんて石ころと同じ価値しかないが、宝石が宿る樹そのものが摩訶不思議な光景なのでもっと近くで見ようと歩いた。そして根もとに体躯を寝かせている竜に襲われた。

 近づくだけなら平気だろうと思ったが、あの竜は宝石が宿る樹を守っていたらしい。近づく者は怪物・人間問わず襲うようだ。

 やはりファンタジーにおいて最強の生物とされる竜だけあり、その力は他の怪物とは一線を画す。

 圧倒的な身体能力と巨大な体躯で暴れられるのは脅威だ。でも、ハッキリ言って覆面の女性の方が強かった。

 素早い相手が苦手という相性の問題もあったが、彼女の『技』と『駆け引き』は怪物がすることのない既知外もので僕を苦しめた。

 対してこの竜は純粋な身体能力は覆面の女性より上だが、それだけ。戦闘経験を積んだ僕には大きな体躯など的でしかない。

 現にいまも大剣が吸い込まれるように竜の翼を斬りつけ、切断する。竜は地に落ちた。

 

『グオオオオオッ⁉︎』

 

 片翼を失い、血飛沫を飛ばす竜は怒り狂う。先程とは比べものにならない暴れっぷりを見せた。

 暴走する体躯を掻い潜り、僕は肉薄する。それを許すまじと竜は体躯を回転。

 長大な尾が渦を巻き、近付く全てを薙ぎ払おうとする。冒険者の上級武器にも劣らない凶悪な鈍器を僕は

 

『ゥウウウウウウウウウウウウウウウッ!』

『⁉︎』

 

 受け止める。その尾を片手で抱え込むように掴んだ。全身に力を入れ竜の尾を引っ張り、持ち上げる。

 

『……ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

 咆哮を上げる。次には、ねじれる僕の上半身の動き合わせ、竜か地から浮かび上がった。

 そのまま僕は回転を始める。尾を掴まれた竜も鉄球投げのごとく振り回された。

 

『ァ、ァァアアアアアアアアアッ⁉︎』

 

 竜が悲鳴を上げる。僕は構いもせず仕上げとばかりに宝石が宿る樹に竜を叩きつけた。

 叩きつけられた竜が口から血を吐き、地に倒れこんだ。竜を受け止めた宝石が宿る樹もメキメキと嫌な亀裂音を奏で、轟然と倒壊する。

 僕は体躯を倒れ伏した竜に急接近し、首を狙って大剣を見舞った。

 長い竜の首を切断する。

 竜は負けたことが信じられないと緑眼を見開き、絶命した。

 

 ふぅ。中々の強敵だった。歯応えのない怪物ばかりだったから、いい運動になった。

 では、さっそく食事にしよう。僕は竜の死体に手を突っ込み、紫紺石を取り出す。心臓部を抜かれた死体が灰になった。

 紫紺石を口に放り込み、咀嚼する。そして全身を駆け巡る力の奔流。

 

 

 ——ああ〜、堪らない。このなんとも言えない全能感。病み付きだよ。

 

 

 強かった分、大幅に強化されているようだ。力が漲る。

 満足した僕は意気揚々と次の獲物を探そうとし、ある事に気付いた。

 周囲を見渡す。一面の植物群。どうやら勘違いではないらしい。

 

 

……ここ、どこ?

 

 

 僕は迷子になっていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『ブォ……』

 

 僕は目の前に生える宝石が宿る樹——戦闘後しばらくして再生した——にため息を吐く。三日前に発見したあの樹だ。つまりまた同じ場所に戻ってきてしまった。

 最初の一日は楽観していた。二日目は不安になった。三日目でヤバイと思った。この三日間、僕は階層内をグルグルと回っている。

 

……正直ヤバイ。完全に方向感覚が狂ってしまった。道を聞こうにも怪物にそんな知能はなく、そもそも何言ってるか分からない。かと言って人間に聞くこともできない。手詰まりである。

 

 半ば諦めかけていると——運命は僕を見放さなかったらしい。

 階段を求めて彷徨っていると人影が現れた。

 背は高い。ミノタウルスの僕と比べれば明らかに小さいが、長身と言っていい背丈はある。長い外套を被った人物が正面に立った。歩き方から多分、女性と推測する。

 

「……」

『……』

 

 外套の人物は何も言わない。フードを深く被り、表情を伺うこともできない。僕と対峙して攻撃や逃走しないのは変な人間——人間(・・)

 僕は自分で思ったことに疑問を覚える。外套なんて怪物は身に付けない。ならば必然的にアレは人間のはずだ。ただ人より優れた嗅覚が、アレは人間以外のモノだと教えてくれる。この匂いは僕と同じ——

 

「——貴方ハ同胞?」

 

 問われた事に驚愕する。僕が辿り着いた答え。それが正しければ彼女は人間の言葉を喋れないはず。そして彼女が言った『同胞』という言葉。

 

「返事はなシ……喋れなイ、それとモ言葉ヲ理解できないのでしょうカ?」

 

 察した正体に絶句する僕に構わず、彼女は呟く。

 

「……私ヲ見ても襲ってこなイ。でも、貴方モ他ノモンスターに襲われてイない。判断ニ困りまス」

 

 何やら困惑しているようだが、それは僕だって同じだ。僕みたいな、それも喋れる存在がいたことに困惑を隠せない。彼女も転生を? それとも別の理由で? 答えを聞こうにも僕は喋れないからどうしようもない。

 

「答えハでませんネ。いマは保留としテおきましょウ。貴方ハ強いかラ冒険者二遅れをとることモないでしょうシ」

 

 勝手に結論出したよ、彼女。まあ答えがでないのはお互いだ。それより僕は現状において一番知らなければならないことがある。

 指を上に指す。彼女に何とか意思を伝えようとする。

 

「……?」

『ヴォ、ヴゥオッ』

 

 何度も腕を上に向け、上層。上に登る階段がどこかを教えて貰おうと努力する。腕で上を指したり、身振り手振りのジェスチャーを行う。……筋肉隆々なミノタウロスがこんなことしてるのはかなりシュールだと思う。

 

「……もしかしテ、上ノ階層二行きたいのですカ?」

 

 必死の演技が通用したようで彼女が問う。僕は勢いよく頷いた。

 

「……………言葉ヲ理解できル。やはリ異端児(ゼノス)なのでハ? いえでモ同胞ノ匂いがしなイ。う〜ム……」

 

 疑問に思いながらも彼女は階段のある方角を教えてくれた。そして、両膝を深く折って屈んだ瞬間——彼女は跳んだ。

 高い動体視力のおかげで目で追うことができた。鳥のように軽やかに、僕が跳んでも到達できないほど大跳躍。彼女はそのまま上空にある横穴に姿を消してしまう。

 そして僕は見た。跳ぶ瞬間に見えた外套の下、彼女に人の腕の代わりに翼が生えているのを。ひらひらと舞い落ちる金色の羽根が錯覚でないと証明してくれる。

 

 

 

 やっぱり彼女は僕と同じ——『怪物』だ。

 

 

 

 彼女がどんな存在なのか気になったが、それはまた巡り会ったときに教えて貰おう。僕は彼女に教えられた方向へと歩き出した。

 

 




ミノタウロス・強化種
推定Lv.5相当
到達階層:24階層
装備
【大剣・二代目】
・『リヴィラの街』で入手した大剣。
・武器狂(ボールズ)が集めた逸品。
・【Hφαιστοs】のログが刻まれた第二級武装。
・強奪品のため固有名不明。
【黒蜂の鎧】
・硬殻を紐で繋いだだけの簡素な鎧。
・第三級冒険者の攻撃を防ぐ防御力がある。
・材料にドロップアイテム『デッドリー・ホーネットの強殻』を使用。
・ズバ抜けた『耐久』を誇る彼には無用の長物。

補足
樹の中のような階層=19〜24階層『大樹の迷宮』
剣みたいな角を生やした鹿=ソードスタッグ
巨体に似合わない速さの熊=バクベアー
バクベアーよりデカイ猪=バトルボア
二足歩行する甲虫=マッドビートル
二メートルを超える太ったゴブリン=ボブ・ゴブリン
毒胞子を撒き散らす巨大茸=ダーク・ファンガス
紅の大鳥=ファイアーバード
巨大蜻蛉=ガン・リベルラ
全長が人間並みにある巨大蜂=デッドリー・ホーネット
巨大な『蜂の巣』=ブラッディー・ハイヴ
十メートル以上もある竜=木竜(グリーンドラゴン)
宝石が宿る樹=宝石樹
外套の人物=歌人鳥(セイレーン)のレイ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。