話せない少女。 作:)
「おはよう」
チュンチュンと、雀が綺麗な鳴き声をさえずる早朝。
とある部屋のベッドの上で、とある少女が唐突に声を上げた。
「・・・・・・」
「そうだね。今日もいい天気でよかった」
「・・・・・・」
「うん、わかったよ」
もぞもぞと、布団が動く。
中から出てきたのは、白銀に煌めく長い髪をだらんと垂らしながら目をこする少女の顔だった。
その少女はまだ目が冴えきっていないのか、幾度か目を瞬く。
「・・・・・・」
「もう、わかったってば・・・・」
まだ眠気の残る彼女は、再び布団へと戻ろうとする。
が、何者かにそれを窘められたのか、ぶつぶつと小さく文句を言った後起き上がった。
それと同時にはらり、と被っていた布団が落ちる。
ゆったりとした、俗に言うネグリジェに包まれた華奢な体が現れる。
綺麗に整った顔に、適度に細く小さな腕、きゅっと引き締まったお腹、一つのシミもないような滑らかな肌。
深窓の令嬢という言葉がこれほど似つかわしい少女はそういない。
そう思わせるほど幻想的で儚かった。
サイズがあってないのか元々そういうデザインなのか、着ていたネグリジェの肩紐が片方ズレ落ちている。
そのおかげで肩だけではなく、綺麗に形の整っている胸が半分ほど露出してしまっている。
「・・・・・・・」
「はーい・・・・」
渋々、といった様子で返事をする少女。
ぱさり。
少女は着ていたネグリジェを脱ぎ捨て、最後の砦であるショートパンツも躊躇いなく下ろし始めた。
彼女は、2枚脱いだだけでいとも簡単に生まれたままの姿となった。
平均と比べると少し小さめな上向きの胸も、その頂点に鎮座している桜色の蕾も、どことまでとは言及しないが、髪と同じ色の薄い毛に覆われた場所までもが外気に晒されている。
唐突に始まったストリップショーだが、彼女は特に恥ずかしがるような素振りは全く見せなかった。
それもそのはず。
ストリップと言ったものの少し語弊があり、先程から少女の部屋であるこの部屋には、本人以外は誰もいないのだ。
しかし、それがまるまる嘘というわけでもない。
なぜなら。
「・・・・・・」
「はいはい、それはもう聞き飽きましたよーだ」
彼女は、まるで見えない何者かがそこにいるのかというように振る舞う。
返事の返ってこない相手に話しかけ、返事をする。
それはまさに異様な光景だった。
事情を知らない人間が見ると正気を疑う。それほどな異形さだ。
しかし彼女にはそれが当たり前のようで、特に気にしていない。
部屋に備え付けてあるクローゼットへと手をかけ、引き出しを開ける。
そして、引き締まったクビレとは対照的に丸みを帯びた肉付きのいい綺麗なお尻を突き出し左右に振るという間抜けな格好でごそごそと中身をあさる。
「どれがいいと思う?」
「・・・・・・」
「もー、またそうやって誤魔化して。つまんなーい」
紐パン、縞パン、ガーター、レース。
彼女は一体何種類の下着を保有しているのだろうか。
中には履いている意味があるのか疑問になるような際どいものまであった。
セックスアピールしか求めていない頭の悪い設計だ。
少女は、それはもう真剣に一枚一枚取り出しては吟味している。
「おはよう、パンツさん。今日のご機嫌はいかが?」
ついには笑顔でパンツに話しかけ始めてしまった。
百年の恋もなんとやら。
これほど美しい少女でも、パンツに話しかけている姿を見てしまえば頭は大丈夫なのかとついつい偏見の目で見られがちだ。
「うんうん、そうなんだ!ほかのパンツさんたちはどう?」
しかも話が通じている。
・・・・それもそのはず。
彼女の個性は「言霊会話」。
全てのものと会話することができる能力だ。
「じゃあ君はどうかな?元気ー?」
「・・・・・・」
次々と返答の聞こえないパンツに話しかけている彼女は傍から見れば精神異常者だ。
しかし彼女は至って真剣。
真剣に物と会話をしているのである。
これで彼女の状況がわかっていただけただろうか。
これからは彼女の沽券を考えて、物との会話は翻訳して表記させてもらう。
そんなこんなでやっと今日履くパンツが決まったのか、ようやく足を入れてするすると持ち上げる。
少女が履きあげたパンツは健康的で綺麗な曲線美を描くおみ足を経由して、臀部まで到達した。
彼女がどんな柄を選んだか、それはプライバシーポリシーに則り割愛させてもらう。
「気分はどう?ひらひらレースパンツさん?」
彼女には隠す気はなかったようだ。
そして、話しかけられたひらひらレースパンツはといえば。
「ひーっ!これ!この女の子のお股を包み込むこの感じ!スー!ハー!正直もうたまらん!たまりません!!辛抱たまらーん!」
「あはは、喜んでもらえてよかった」
一般人が聞けば通報間違いなしのこのセリフだが、少女は嫌な顔一つせず、笑顔で答える。
ちなみに、このパンツは特別変態というわけではない。
物にはそれぞれ役割があり、パンツたちは履かれるために生まれてきている。
どんな物だって、自分が役に立てば嬉しいし、使われなければ悲しい。
女物のひらひらレースパンツにとっては、女の子に履かれることが人生で一番の喜びなのだ。
パンツは皆こんな感じなのである。これがデフォなのだ。
つまりはパンツ全てが変態。そういうことである。
「じゃあ次はブラジャーさんたちね。みんな元気ー?」
「はーい!」
「元気元気!」
「付けて付けてー!」
少女は履いた物以外のパンツをしまい込み、別の棚を引いた。
動く度にぷるんと小さく揺れる胸には、まだ装着アイテムは一つもない。
これからまた、パンツの時と同じようにブラジャー選定戦が始まるのだ。
彼女の着替えはいつも1時間以上はかかる。
物一つ一つの言葉を聞き、今日はどれを付けるか吟味する。
そんな事をしていれば、自ずとそれくらいの時間はかかってしまうのだ。
そんな彼女の名前は「
個性「言霊会話」の持ち主であり、現在中学三年生。
雄英高校サポート科志望だが、結局ヒーローとなる美少女だ。