破軍学園の劣等生(偽)   作:ニッパー界の劣等生

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始業編Ⅱ

[4]

 破軍学園一年一組教室。

 

 

「はーい☆新入生のみなさんっ!入学おめでとーーーーッ!♡」

 

 

 教壇に立つ若い女性教員がクラッカーを鳴らす。

 

 

「わたしが一年一組のみなさんの担任をさせていただく、折木有里です。担任を持つのは初めての新米教師だから、みんなも気兼ねなく友達感覚で『ユリちゃん☆』って呼んでくれたら先生超うれしーな♪」

 

 

 若いと言えども二十歳は過ぎた、いい大人と分類される年齢だ。

 暖かくなってきた四月の朝。早朝に戻ったかのような空気が一年一組の生徒達の間に流れる。

 

 

「……なんか疲れる先生ね」

 

 

 縁があり隣の席となったステラが有里を見て呟く。

 先日のステラも似たようなものだったが、と達也は思ったが、あえて級友の機嫌を損ねる理由もないので口には出さなかった。

 

 

「えー、今日は初日なので授業はありません!でもでも、先生から一つだけみんなに重要な大切な連絡があります。みんな、生徒手帳をだしてくれる?」

 

 

 達也は折木の指示に従い携帯端末を取り出した。

 破軍学園の学生証は高度に電子情報化されており、身分証、財布、インターネット端末等様々な用途に使用可能である。

 生徒手帳の液晶画面にはメールを受信した旨を告げる通知が表示されていた。

 

 

「んと。理事長先生が言ってたけど、去年まで『能力値』で選手をある程度選抜していたのよね?でもでも今年は全面廃止!全校生徒が戦って上位者『六名』を選手に抜擢するの!わーおバイオレンスッッ!そして試合の日程は生徒手帳にもうメールで届いてるんじゃないかな♪ちゃんと確認して指定の日時に指定の場所に来てね。来ないと不戦敗だから注意すべし♡」

「先生」

 

 

 質問事項が有るのか、手を上げたステラに生徒達の視線が集中する。そこには、この状況で物怖じせずに行動をしたことに対する一種の尊敬の色が含まれていた。

 

 

「ノンノン。ユリちゃん☆って呼んでくれなきゃ返事してあげないゾ?」

「……ゆ、ユリちゃん」

「はーい、どうしたのかなステラちゃん?」

「選抜戦って何試合くらいするんですか?」

「詳しくは言えないけど、一人十試合以上は軽くかかるかなー。選抜戦が始まったら、三日に一回は必ず試合があると思ってくれていいよ♪」

 

 

 ステラの勇気に触発されたのか、他の生徒も次々と挙手して思い思いに質問を投げ掛ける。そこに先程まであった形容しがたい空気はない。

 高校初日の浮かれた空気が折木のテンションに親和性が高かったのではないかと達也はにらんでいる。――それでも、ステラというきっかけを必要としたが。

 そこまで思考を進めたところで、達也はあることに気が付く。

 達也の入学試験の担当は折木だった。その時に折木は、

 

 

「じゃあみんな、これから一年全力でがんばろーーーっ!はーいみんなで一緒に、えいえい・オブファーーーーッッ(吐血)」

「「「ユリちゃぁぁあぁぁあああん!?!?」」」

 

 

 尋常ではない量の喀血をした。

 和やかな雰囲気の教室が凄惨な事件現場に様変わりして生徒達の絶叫が響く。

 達也はすっかり習い性になってしまったため息をついて、折木の救護に向かった。

 

 

「げほっ、ごほっ、……みんな、心配しないで。ちょっと病弱なだけだから」

「いや心配しますよ!すごい吐血でしたもの!?」

 

 

 達也に支えられて立ち上がった折木の切ない笑顔と咳を伴った力無い呼び掛けは、ステラから至極もっともな反論を返された。

 

 

「先生……一日に一リットルの吐血は子供の頃からずっとだから……」

「それのどこが大丈夫何ですか!?」

「ごほっ!げほっ!……まあ、そんな身体でもこうやって二十年以上生きてるから。先生、一周回って丈夫なの。ふふ……すごいでしょう」

 

 

 威張るようなことではない。

 折木は見かねた達也に担がれて、強制的に保健室へと連行された。

 残された生徒達は呆気に取られ、しばし固まっていたもののすぐに再起動を果たし、折木が残した血だまりの後始末という一つの目標に一丸となって向かった。

 狙い通りの親交促進効果ならば中々に巧妙と言えるだろうが、残念ながら今回は結果的に、という色合いが濃かった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 戻ってきた達也の口から、折木によって帰宅許可が出たことを告げられ、初日のホームルームはお開きとなった。

 クラスで一年間を共有する友人を探すべく生徒達がいくつかのグループに別れて駄弁る中、達也は早々に帰宅準備を済ませる。

 自分に向けられた多数の視線に気付いていない訳ではなかったが、より優先すべき事項があったために黙殺して教室を出ようとし、

 

 

「せーんぱいっ!」

 

 

 何者かに阻まれる。

 達也は突然発生した右腕を包み込む感触の正体を確かめるべく首を捻った。

 向いた先ではピーチブロンドの女生徒が抱きついていた。

 視線は感じていたが、害意が含まれていなかったために放置していたのが災いしたようだ。

 無表情に見詰める達也相手に人懐こい笑顔を浮かべている。

 

 

「んなーーーッ!?ちょ、ちょっとなにやってんのよタツヤ!」

 

 

 既にお馴染みになりつつあるステラの叫び声を聞いた瞬間、面倒なことになるに違いない、と達也は些か失礼な確信を抱いた。

 

 

「やや。私ったらようやく先輩とちゃんとお話できると思っちゃって、とんだ失礼を」

 

 

 舌をだして詫びる女生徒。――ノリノリである。実に、あざとかった。それがまた、似合っているあたり……本当に、性質が悪い。

 何故そんなに楽しそうなんだ、と達也は思ったが口にはしなかった。

 

 

「私、日下部加々美っていいます。先輩のだ~~~いファンなんですぅ~!」

「……先輩は止めてくれ。これでも同じ一年生だ」

 

 

 とにかく答えねばなるまい、と思った達也はさしあたってコメントしやすい部分へ言及した。問題の先送り、とも言うが。

 

 

「それでは何とお呼びすれば?」

「達也、でいいから」

「分っかりましたぁ!では、達也先輩とお呼びします!」

 

 

 先輩が消えていない。どうやら加々美の中で先輩呼びは決定事項のようで、覆すことは不可能のようである。

 なげやりに頷いて容認する達也を加々美は右腕に抱きついたまま潤んだ目で見上げる。

 いちいち芝居がかっているが、半分ほどの本気の陶酔と意識的な芝居がブレンドされているようで、単なるアブナイ人とも厄介な人とも言いがたい。だが、どちらにしても、やはり性質が悪いことにかわりはない。

 

 

「それでですねぇ達也先輩。今日は達也先輩にお願いがあるんですぅ。可愛い後輩のお願い、聞いてくれますかぁ?」

「今は無理だ」

「そんなつれないことをおっしゃらずぅ。私と達也先輩の仲じゃないですかぁ」

 

 

 どんな仲だろうか。少なくとも達也と加々美に親交はない。

 記憶力に割と自信のある達也は、自分と日下部加々美は今日が初対面だと断言できる。

 

 

「日下部さん、念のために確認するが、日下部さんと俺は、今日が初対面だよな?」

 

 

 それにしては馴れ馴れしくないか、という意思を込めて放たれた達也の問い掛けに、加々美の目は丸くなった。が、それが段々と元の大きさに戻り、更に細められていくにつれて、悪戯な、としか表現しようのない笑みがその幼げな顔を覆った。

 自分がとんでもない悪手を打ってしまったことを達也は悟った。

 

 

「あやや?そうですかぁ……フフフ」

 

 

 小悪魔、という言葉がピッタリの笑顔だ。

 

 

「達也先輩は、私と、実はもっと前に会ったことがあるんじゃないか、と思っているんですねぇ?今日この日、これは、運命の再会だとぉ!」

 

 

 何なのだろうか、このテンションの高さは。

 

 

「遠い過去に私たちは出会っていたかもしれない。運命に引き裂かれた二人が、再び運命によってめぐり合った、とぉ!」

 

 

 先程までと陶酔と演技の割合はかわりないが、その分量が比べ物にならないほど増えていた。今の加々美は紛れもなく、アブナイ人であり厄介な人である。むろん、性質の悪さも比べ物にならない。

 

 

「……でも残念ながら、間違いなく初対面ですね。今日ではなく、昨日が」

「昨日?」

 

 

 想定通りの言葉の中に、一つだけ想定外があった。

 意表をつかれた達也の表情が可笑しかったのか、加々美はクスクス笑いながら説明を続けた。

 

 

「私が一方的に、ですけどね。昨日の試合を見てたんですよ!どうですかぁ?運命感じちゃいましたかぁ?」

 

 

 胸の前で両手を握って拳を作り、顔を見上げる格好で迫ってくる加々美。

 男子一同を容易に魅力させられるであろうあざとい仕草に、達也はついさっき行った行為―――すなわち、問題の先送りを敢行した。

 

 

「日下部さんの頼みを断るのはとても難しそうだ。だが、今は本当に無理だ。明日ならばかまわない」

「やたっ!約束ですよ達也先輩っ」

 

 

 オーバージェスチャー気味に跳び跳ねて喜ぶ加々美はようやく達也の右腕を解放した。

 思いがけず時間を食ってしまったが、やっと教室を出られそうだ、と一息つきかけた達也に、今度は男子の集団が近づいてくる。

 

 

「おいセンパイ、オレたちともお話しましょうや」

 

 

 五人の男子生徒が達也の前に立つ。

 こうも立て続けに面倒事が起きると、もはやため息すら出ない。

 しかし、そんな達也の事情などは気にもかけずに男子生徒達が声をあげる。

 

 

「ずいぶん人気者ッスねェセンパイ。でもちーっと調子乗りすぎなんじゃねーッスか?教室だってのに、女侍らせてイチャイチャと」

 

 

 加々美一人、先程から会話に交ざれずにヤキモキしているステラを含めても二人と、人気者や侍らせるなどといった表現には人数が足りない気がする。

 大方、自分の知らない事実があるのだろうと達也は納得した。

 それよりも、達也には気になっていることがあった。

 

 

「Aランクに勝てるくらいお強いんなら、今からオレらに稽古つけてくださいよセンパイ」

 

 

 自分と加々美の会話が終わると()()()男子生徒達は話しかけてきた。

 つまり、わざわざ会話が終わるまで待っていたということである。

 威圧的な態度に似合わぬ律儀さに達也は微笑ましい気持ちになる。

 それが、男子生徒達の神経を逆撫でした。

 

 

「ダブリの分際で何ニヤついてんだ!調子乗ってんじゃねェ、やっちまえテメェらッ!!」

「ちょっとアンタ達本気!?こんなところで霊装使ったら停学よ!?」

「うるせえよビッチ!怪我したくなかったら下がってろ!」

 

 

 男子生徒達は怒りに歪んだ形相で霊装を顕現させる。

 そこに、≪幻想形態≫にしているだろうという甘い期待が介在する余地はない。

 手短に片付けようと突き出した右手を、()()()()()()()()()()()()()()()()()達也は引っ込めて男子生徒を迎え撃った。

 もっとも、迎え撃つといっても彼らに反撃するのではなく、その全てをいなし、躱して、達也は男子生徒達をあしらい続ける。

 達也の身ごなしは華麗というより堅実、あるいは確実という表現が相応しいものだった。次々と襲いかかってくる男子生徒達の順番が全て分かっているとしか思えない、最小限の動き。

 互いの動きを考えない稚拙な連携にはフェイントをかけて同士討ちを誘う。後方から銃形霊装の引き金を引いた男子生徒は、魔弾が発射されない異常事態に見舞われて苛立ちと恐怖を募らせる。

 五人で襲い掛かっているにも関わらず、男子生徒達は達也の動きを止めるどころか、呼吸を乱すことすらできずにいる。

 

 男子生徒達は増していく反抗心に反して、動きは鈍くなっていく。

 当たり前だ。長時間、それも達也になんとか追いすがろうと、ペース配分を度外視して魔力による無理な強化を続けていたのだ。

 一人、また一人と地に伏し、最後の一人も膝をついた。銃形霊装の男子生徒は既に逃げてしまっている。

 自由の利かない鉛のように重い身体で地に伏す男子生徒たちは、達也が反撃しなかったのは反撃できなかったのではなく、その必要が無かったからだ、と否応なく理解させられた。

 

 生徒達は言葉を失い動けずにいる。

 もたらされた静寂は教室の入り口から響いてきた拍手の音によって破られた。

 

 

「雑魚を寄せ付けない圧倒的な強さ。さすがですわ。―――お兄様」

 

 

 ()()()、達也をそう呼んだのは、淑女の微笑みを湛えた淑やかな線の細い少女であった。

 小柄な体躯やショートに整えられた銀髪や淡い翡翠色の瞳が儚げな印象を増幅している。薄幸の美女、という言葉が似合う少女である。

 

 

「珠雫」

 

 

 達也の口元が、自然に綻んでいた。

 見詰める達也の瞳はどこまでも優しく、柔らかい。

 

 手を揃え、目を伏せ、珠雫は礼儀作法のお手本のようなお辞儀を見せ、達也に近づいてくる。

 宮中晩餐会でも通用しそうな所作を見せられ、見ていた者たちはすっかり雰囲気に呑まれている。

 珠雫の洗練された仕草は礼節というよりも、他への威嚇や牽制を目的としているようだった。

 

 

「はい。……お久しぶりです。お兄様」

 

 

 珠雫を出迎えた達也が再開した妹へ何の言葉を掛けようかと、珍しく取り留めの無いことを悩んでいると、珠雫は達也の袖を掴み、引き寄せた。

 

 

「お兄様……ずっと、お逢いしたかった…………」

 

 

 珠雫はうっとりと瞼を閉じて達也に顔を近付けた。

 そして、

 

 

「「「ナニゴトーーーーーッッッ!?!?!?」」」

 

 

 生徒達は、達也と珠雫の言動や様子から思い思いの背景を想像し、好奇を多分に含んだ生暖かい眼差しで窺っていた。

 しかし、()()()――それも、明らかに家族間でなされる類いのものでない――という彼らの想像の範囲を越えた展開を目の当たりにした時、和みは絶叫に変わった。

 

 

「ちよ、ちょっとタツヤ!あ、あああ、アンタなにやってんのよッッ!?」

 

 

 一見、まっとうに思えるステラの反応だが、明らかに受身であった達也に追求をしているあたり、周りと同じように恐慌から脱け出しきれていない。

 だが、そんな彼女らよりも深刻な状況に在るものがいる。

 

 

「珠雫……何を……」

 

 

 達也である。

 彼は残された()()()「強い感情」を大きく揺さぶられて様々な機能に異常をきたしていた。

 混乱してしまっている、と言ってもいい。

 

 

「何って……もちろん口づけですよ?口づけとら親愛の証。恋人……などという()()()()()()()()で結ばれているだけの男女でも行っている程度のことです。ならば、同じ血と肉と骨を分かち、鉄よりも固い絆で結ばれた兄妹が行うのは極て道理なことです。いえ、むしろしなければ不道理でしょう。そもそも外国では挨拶ですし」

 

 

 そんなわけはない。少し聞くだけでも破綻に気付くことができるが、今の混乱の渦中にある達也は、こうも当然のように言い切られてしまえば、そんなものかと納得してしまう。

 

 

「んなわけないでしょう!なにすんなり納得しかけてるのよ!そもそも海外でだってマウストゥマウスは挨拶じゃすまないわよッ!この中に兄妹でキスする人いる!?」

 

 

 ステラの言葉を聞いた誰もが首を降って否定した。

 吐きそう、とまで言った者もいる。

 

 

「皆さんの冷えきったツンドラのような兄妹関係を押し付けないでください。他所は他所、うちはうちですもの。むしろ、この程度では四年分の愛おしさを表現するには足りません。今の私たちには夜のまぐわいですらただの挨拶でしょう」

「「「そんなわけあるか!!」」」

 

 

 一年一組は、初日にしてほぼ全員の心が一つになるという快挙を成し遂げている。その端緒となった折木は、結果的に、と言えども、優秀な教師なのだろう、おそらく。

 

 

「珠雫。年頃の淑女として、そんな言葉を使うのはやめなさい」

 

 

 なんとか再起動を果たした達也が珠雫をたしなめる。

 だが、より大きな問題であろう先程の行動ではなく、言葉の方を指摘しているあたり、未だ達也に留まり続けている混乱の残滓が見え隠れしている。

 

 

「ふふ。冗談です。そんなに慌ててしまわれて。お兄様ったら可愛いんですから」

 

 

 蠱惑的に微笑む珠雫に、達也は頭を抑えたくなる。

 四年前、最後にあった珠雫は内気な少女であった。

 そして、別れた後にもこのように変貌する兆候は無かったはずである。

 

 

「――さあ、そのようなことよりもお兄様、もっと珠雫を感じてください。そして私にもお兄様を感じさせてください……四年間、本当に恋しかったのですから……」

 

 

 珠雫は再びうっとりと顔を近付ける。達也の演算機構は再度凍りつき、拒む行動を許さない。

 今一度、兄妹間の交わりがリフレインされようとし、

 

 

「だめーーーっ!!」

 

 

 血相を変えたステラに遮られた。

 

 

「ちょっとタツヤ!何で簡単に受け入れようとしてるのよ!しっかりしなさいよ!」

「すまん。助かった」

「どういうつもりかしら」

 

 

 珠雫は一瞬、冷ややかな目をステラに向け、すぐに愛想の良い微笑みを浮かべて問いを発した。

 

 

「どういうつもりはこっちの台詞よ!アンタこそ、タツヤになんてことするのよっ!」

「ただの口づけですが……いえ、そのようなことを申し上げたいのではなく、どなたかは存じませんが、貴女は何故先ほどから私とお兄様のコミュニケーションを邪魔立てなさるのでしょう。無関係な人が少々差し出がましくはありませんか?」

 

 

 教室から、ざわめきが消えた。咳き一つ無かった。

 しかし、もし擬態語が実際の音に変わったとしたら、「ぶちっ」というかなり大きな音が達也と珠雫の耳に届いたことだろう。

 元来、ステラの性質は、本人がそう評したように「負けず嫌い」である。

 すなわち、このようにあからさまに挑発されると(それが挑発を意図したものでなくても)当然、

 

 

「……関係なら、あるわよ……タツヤは、アタシのご主人様なんだからッッ!!!!ご主人様がシスコンで変態の異常性癖者になるのは困るのよッッ!!!!」

 

 

 このように、後先も不利益も考えずに言い返してしまう。

 これが、咄嗟に出たでまかせでなく、バイアスはかかっているが事実でもあるため、より性質が悪い。

 先ほどまで静まり返っていた教室も、降って湧いたゴシップにあれこれ好き勝手なことを言っている。

 特に、達也への取材を希望していた加々美は水を得た魚のように生き生きとしている。

 

 

「――それは本当なのですか?」

 

 

 珠雫が氷柱のような(氷と表現するには少しばかり先が鋭すぎていた)声を出した。

 局所的に室温が低下するのを感じる。

 

 

「お兄様。ほんとうなのか、と聞いています?」

 

 

 珠雫の顔から蠱惑は消失し、無機質な眼差しで達也を見詰めている。

 感情の機微に疎い達也ではあるが、妹の、それもこれほどまでに分かりやすいものであれば、否定するべきだと容易に判断できる。

 そもそも、ステラの言葉は、ある側面では事実と言えども、やはり捏造と言うべきものが大部分を占めているため、否定することに後ろめたさを感じる必要性は一切ない。

 

 

「確かにそのように取れるやり取りはあった」

 

 

 しかし、今の達也にそれを判断できる能力は無かった。自分の記憶の中から機械的に情報を取り出し、質問に答える。――考え得る中でも最悪に近い答え方で。

 

 

「へぇ……本当なんですかぁ。………………ふ、ふふ、ふヒっ」

 

 

 いつの間にか珠雫の左手には、携帯情報端末のようなものが握られていた。

 

 

「下品な胸の女に言い寄られて鼻の下を伸ばされていたお兄様は、お仕置きです!」

「ぐわっ!」

 

 

 完全に不意をつかれ、為す術もなく、珠雫の放った振動波に、達也は身体を痙攣させながら膝から崩れ落ちた。

 

 

【自己修復術式、オートスタート】

【コア・エイドス・データ、バックアップよりリード】

【魔法式ロード――完了。自己修復――完了】

 

 

 気を失っていたのは一秒にも満たない刹那の時間。

 一瞬以上、彼が意識を手放すことはない。

 彼の演算能力もすっかり元通りになっていた。

 自然に開いた瞼の先には、上からのぞき込む白雪の顔。

 

 

「お兄様、おはようございます」

「……俺、そこまでお前を怒らせるようなことをしたか?」

「申し訳ありません。悪ふざけが過ぎました。……ですが、恋しかったのは本当ですよ?」

 

 

 口では謝りながらも、珠雫の顔は笑っている。

 能面のような無表情でも、蠱惑的な微笑みでもなく、年相応な可愛い笑顔。

 別れる前と何一つ変わっていない、彼が最も好む妹の表情。

 この笑顔を前にすると、どうでもいいか、という思いしか湧いて来ない。

 実際、珠雫には変わらぬ部分があったし、これも他愛もない兄妹のじゃれ合いだ。

 どれほど過激な手段をとろうとも、彼を()()()()傷つけることなど、この妹にはできないのだから。

 

 

「勘弁してくれ……」

 

 

 差し出された手を取り、口ではぼやきながら、達也の顔も、笑っていた。




ステラ達「( ゚д゚)ポッカーン」


黒鉄達也

profile
所属:破軍学園一年一組
伐刀者ランク:F
伐刀絶技:-
二つ名:劣等騎士

攻撃力:F  防御力:F  魔力量:F

魔力制御:F 身体能力:A 運:F


書きためた分は既に全て消費してしまったため、次回の更新日時は未定です。
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