クラス代表決定戦当日、一夏はアリーナのピットで専用機が来るのを待っていた。この一週間、一夏はISに乗ることができなかった。
長期休暇の間は、専用機を持たない多くの学生はISに乗ることができない。専用機持ちはデータ収集などを企業や国の元で行うため乗る時間が多いが、普通の学生は学園以外で乗る機会のないので、祖国に帰ると乗る機会が無いのである。そのため、新学期が始まると多くの学生が勘を取り戻そうと訓練機の貸出申請をするそうだ。
ボンゴレ守護者の立場上持ちたくはなかったが国の決定と言われ断ることができなかった。いちいちボンゴレの後ろ盾を使うわけにもいかず、こんなことに使うつもりもなかった。使うのは誰かを護る時だけ....それ以外に使うことは、特に自分の保身のために使うことは許されないのだから....
専用機持ちはデータ収集の機会が多いので、これを利用してそのデータをボンゴレを経由して自警団や警察組織に流しIS対策を教唆するのに利用すればいいと前向きに考えることにした。それよりも気になるのが..........
「何故お前がここにいる?」
ハッチには一夏の他に千冬と箒の姿があった。担任の千冬はまだいい。一学年主任として専用機を一夏が受け取ったことを見届ける義務があるからである。しかし、箒がいなければいけない理由はない。
「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだが?」
「私はお前の幼なじみだ。ここにいる義務がある」
「あるわけないだろう。そんなことで関係者ならクラスメイト全員がここに入る権利があることになる。クラスメイトが立ち入り禁止ならお前も立ち入り禁止だろうが」
「幼なじみである私と会って間もないあいつらが一緒だと言うのか!?」
「一緒だな。と言うかクラスメイトを『あいつか』か.....幼なじみにそんな影響力があるとは知らなかったな」
「なんだと!?」
箒が逆上して一夏に詰め寄ろうとした時、ピットの入り口が勢い良く開かれた。そこには山田先生が肩で息をしていた。
「沢斑君!届きましたよ、専用機が!!」
4人が搬入口に移動すると中央にコンテナが運び込まれており、コンテナのハッチが開かれるとそこには『白』があった。
「機体名『白式』、第三世代型の機体ですね」
「時間がないからフォーマットとフィッティングは実践でやれ。わかったな?」
IS初心者にそれはないだろうと思いながら一夏は白式を装着していく。装着し終えると感触を確かめながらハッチに移動し、敵の待つアリーナに飛び出して行った。
「あら、逃げずに来ましたのね?」
「逃げる必要がないからな」
一夏が現れたのを見るとセシリアはふふんと鼻を鳴らした。腰に手を当て銃口は下を向いている。完全に相手を見下している態度だった。
対して一夏はセシリアのISに目を向ける。
鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。セシリアの手にはメイン武器である二メートルを超す長大な銃器レーザーライフル《スターライトMkⅢ》が握られていた。
そのことから、セシリアの機体は狙撃を主とする中距離、または遠距離型であることが伺える。
「最後のチャンスをあげますわ」
腰に当てた手を一夏の方に指さした。まだ銃を構えていないのは自分の力に慢心しているからか、一夏を男だとなめているのか。おそらく、両方だろう。そうでなけれは自分の獲物をかまえるなり、何らかのリアクションをとっているはずだからだ。そうしないということは一夏を敵としてでなく自分の力を見せびらかすための獲物としか見ていないからだろう。
「チャンス?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」
そう言って目を笑みに細める。
そのときISから情報が流れ、ロックされていることを知らされる。だが、そんなことは一夏には関係ない。セシリアは一夏の逆鱗に触れた。そんな相手に一切の容赦は不要。ただ油断することなく相手を無力化するのみ。
「それをチャンスとは言わないし、お前に負けるつもりもない」
「そうですか。なら......お別れですわね!」
セシリアはスターライトMkⅢを構え、一夏の左肩目掛けて引き金を引いた。スターライトMkⅢから放たれたレーザーは寸分の狂いもなく一夏の左肩に命中するはずだった。しかし、銃口の向きと視線の位置から狙いを読んでいた一夏は半身をそらすことでその一撃を回避した。
「避けた!?」
今の一撃によっぽどの自信があったのか、避けられたことにセシリアは動揺を隠せない。対して一夏は思ったように動けていないことに違和感を感じていた。
(第一形態移行しないとやはり動きが鈍るか.....)
一夏は装備一覧から搭載されている装備の確認をする。すると白式に搭載されている武器は近接用ブレード一つだけだった。一夏はそれを展開しセシリアに向かっていった。
「中距離型の私に近接戦闘なんて.......笑止ですわ!」
セシリアはビットを展開し一夏を追い詰めようとする。
「さあ踊りなさい!このセシリア・オルコットブルー・ティアーズの奏でるWaltzで!」
一夏はセシリアの言うことに耳を傾けず、回避に専念することにした。
「すごいですね、沢斑君。オルコットさんの攻撃をまだ一度も受けてませんよ。乗るのが初心者とは思えません」
ピット内で観戦していた山田先生が感嘆の言葉をもらす。IS初心者が代表候補生の攻撃を受けない。そのことがどれだけ難しいことかを元代表候補生の身でなくてもISに搭乗経験がある人間ならだれでも分かることだ。それを難なくこなしている一夏は異常なのだ。
「確かに、戦い慣れている動きだな」
千冬も顔には出さないが内心では驚いている。一夏が自分の元からいなくなってから三年、その間に一夏に何があったのかは分からないが、自分の記憶にある一夏とは別人のような動きをしている。
自分のもとを離れてから一体どのような生活を送ってきたのか、それを話してくれる時が来るのか.....そんなことが千冬の頭を過っていた。
「千冬さん」
まだピット内にいた箒が千冬に話しかけた。
「篠ノ之、織斑先生呼べ」
「織斑先生、一夏に一体何があったんですか?」
一夏がいないことを機に気になっていたことを尋ねる。一夏に聞いても答えてくれない。ならば姉である千冬に聞くしかなかった。
「私も詳しいことはわからん。一夏は三年前の第二回モンド・グロッソの時に誘拐されて以来会うことはなかった」
「誘拐!?」
一夏が誘拐されたことは報道されていない。このことを知っているのは千冬と情報提供をしてくれたドイツ軍の高官、それに政府上層部などほんの一握りの人間だけだ。箒が知らないのは当たり前の事だった。
「じゃあ、一夏のいう家族と言うのは.......」
「考えられるのは一夏のことを助けだした人間、またはその関係者だろう」
箒は千冬の言葉に黙り込んだ。誘拐した目的が千冬の優勝を阻止することならある程度の武装を整えた組織のはずだ。その組織を相手にできる人間、関係者が只者のわけがない。箒は自分の打倒すべき相手のことを考えるが情報が足りなすぎる。
「そろそろ試合が動くぞ」
思考の海に漂っていた箒の意識は覚醒し、試合の様子が映しだされているモニターに集中した。
開始から27分が経過した。一夏はその間、ほとんど反撃せず、隙を見てビットを攻撃するのみだったためエネルギーはほとんどほとんど消費していなかった。対するセシリアは攻撃が当たらないことに我慢できずにスターライトの、そしてビットの攻撃を続けていたためエネルギーの消耗が激しく、四機あったビットも一つ破壊されていた。
(もう少しか.......)
一夏の画面には第一形態移行までの時間が表示されており、あと数分でゲージがマックスになるところだった。
「思ったよりもやりますわね。初見で私のブルー・ティアーズにここまで耐えたのはあなたが初めてですわよ?」
肩で息をしながら一夏に話しかける。最初に見せていた余裕は全くなく、強がりなのは目に見えている。
「よくそんな発言ができるな?お前のほうがシールドエネルギーが少ないだろうに」
一夏の言葉にセシリアは顔を真っ赤にさせた。
「よくそんなことが言えますわね!?反撃出来ていないくせに!!」
セシリアはビットで一夏を包囲するが、疲労と精神状態の不安定からか、その内の一機の制御が甘くなり一夏の間合いに飛び込んでしまった。それを逃さず一夏は放たれるレーザーを避け、ビットを破壊する。そして、そのままセシリアとの間合いを詰める。セシリアも慌てて攻撃を仕掛けるが手数が足りず、一夏に接近を許してしまうが急にセシリアが顔を綻ばせた。
「残念ですが、ティアーズは全部で六機ありましてよ!」
セシリアの腰からミサイル型のティアーズが発射された。セシリアは一夏が避けられないと確信し、笑みを浮かべるが一夏の対応は冷静だった。一夏は加速し、ミサイルが当たらないように体を反らし、すれ違いざまにミサイルを切断した。両断されたミサイルを背にした瞬間ミサイルが爆発し、一夏はその爆風を利用しセシリアの懐に入った。
「そんな!?」
セシリアは慌てて近接用小型ナイフ《インター・セプター》を展開し、ブレードを受け止めようとするが、加速していない状態の小型ナイフと爆風を利用した、加速状態での剣での攻撃、どちらが勝つかは目に見えている。
一夏はインター・セプターを弾き飛ばし、その返し刃でセシリアを切りつけた。それによりバランスを崩したセシリアを一夏は体を回転させ勢いをました蹴りで地面に蹴り落とした。
「きゃあぁぁぁぁ!?」
地面に激突する前に何とか体勢を立て直し、激突を避けるが上が明るくなり顔を上げるとそこには第一形態移行を完了させた白式の姿があった。
「第一形態移行?まさか、初期設定の状態で戦ってましたの........?」
セシリアの驚愕をよそに、一夏は自分の武器の真の姿に苛立った。
(雪片.......だと)
嘗て千冬の愛刀であり彼女を戦乙女にまでのし上げた一振り。おそらく千冬の要請で搭載されたのだろう。一夏にとってはいい迷惑である。
「まあいい。全てはこれが終わってからだ」
一夏の言葉に雪片の刀身が光りだし、刀身がエネルギーの塊に変わった。その瞬間、一夏は雪片を手放した。その光景にセシリアは顔をしかめるが次の瞬間驚愕に変わった。
時雨蒼燕流攻式三の型 遣らずの雨
一夏は手放した雪片をセシリアに向けて蹴り飛ばした。予想外の行動にセシリアは動きを止めてしまうが、距離が空いていたことが幸いし、紙一重で交わすことができた。
しかし、雪片が地面に刺さった瞬間爆発が起き、その爆風によりバランスを崩してしまう。一夏はその隙を逃さず、溜めていたエネルギーを爆発させた。
瞬時加速
スラスターから本体に向けてエネルギー放出させて、空間にエネルギーの流れを溜めてからそれを一気に点火させて急加速をおこなう格闘特化技能。本来初心者が使える技ではないのだが一夏はそれを死炎を使うときの感覚で使ってみせた。一夏は瞬時加速の勢いのまま殴りつけセシリアは地面にめり込み、エネルギーが尽きた。
観客はセシリアが負けるという予想外の展開に騒然としていた。一夏はそんな観客を背にピットに戻っていった。