1限目の授業終了後、一夏は教室で教科書の内容を復習していた。仕事の合間を縫ってひと通り目は通したがすべてを覚えられたわけではない。
一夏が休み時間を利用してまで勉強しているのには理由がある。
1つ目は一夏が他の生徒よりもISの知識が不足しているからである。IS学園に通う生徒は遅くても中学生の時にはISの勉強を始めている。一夏は小学生の頃は千冬がISに関わらせなかったために、中学生の頃は修行や語学勉強等に集中していたため、ISのことを勉強することができなかった。もちろん、最低限の知識は紛争地帯でのISとの戦闘があったりしたので身に付いてはいるが、他の生徒よりも専門的な知識は乏しい。学校の勉強についていけないことで一夏を見下す連中も出てくるだろう。自分が見下されるだけならまだ耐えられる。だか、そのことで自分の大切な人が馬鹿にされることだけは我慢できない。ここはそういう連中が世界中から集まってくる場所といっていい。その可能性は十分にある。
そして、2つ目の理由は嫌いだからこそ詳しくなっておく必要があるからである。雲の守護者である雲雀は幻術が嫌いだからこそ、それに関する知識や対応策を豊富に持ち合わせている。嫌いだからこそ使い手と同等の知識を持ち合わせているのだ。だから、一夏もここでISの知識を少しでも多く学ぶことで対IS戦闘の時に少しでも役立てよとしているのだ。また、この学園には専用機持ちが在籍しているので、それに関する情報も手に入るだろう。それは、この先IS側を敵に回すことになった時に必ず必要になってくるはずだ。
一夏が教科書を読んでいると、誰かが近づいてきた。
「ちょっといいか?」
一夏が顔を上げると1人の女生徒が腕を組んで立っていた。黒い長髪をポニーテールでまとめた、見た目は大和撫子のような生徒だ。一夏はその生徒が誰なのかを知っていた。
「篠ノ之か‥‥‥何のようだ?」
女生徒の名前は篠ノ之箒。一夏の最初の幼馴染であり、ISの生みの親である篠ノ之束の妹である。箒とは千冬が箒の実家である剣道場に通っていたことがきっかけで知り合った。
一夏も小学校に上がってから通うようになり、一緒に鍛錬したこともある。箒は小学校1年から4年までは同じ学校だったが、4年の終わりに転校して以来、連絡は取っていない。
一夏の返事に箒は肩を震わせた。
「篠ノ之だと‥‥‥どういうつもりだ!?」
「どういうつもりとは?」
「何だその呼び方は!昔は箒と呼んでくれただろう!?」
「確かに昔はそう呼んでいたが、高校生にもなって彼女でもない奴を名前で呼ぶ必要もないだろう?」
高校生にもなって異性を名前呼びするのは、彼女や肉親など、特別親しい間柄に限られる。一夏と箒はただの幼馴染という関係なので相手を苗字で呼ぶことはおかしくないことである。
「っ!‥‥‥‥‥‥話がある。一緒に来い」
箒は一夏の腕を掴んで教室の外に連れ出そうとする。しかし、一夏は箒に腕を掴まれる前に箒の手を払いのけた。
「何をする!?」
「何をするじゃないだろ。人を無理やり連れだそうとして何を言っている?俺は勉強中だから教室から出るつもりはない」
「お前の意見は聞いてない!私が行くと言っているのだからついてくるべきだろう!?」
「いい加減にしろ。なんだその自分勝手な理由は?俺はお前の所有物でも奴隷でもないんだ。お前に俺の行動を縛る権利はない」
「なんだと!貴様いい加減に‥‥‥‥」
箒が何かを言いかけたが、2限目のチャイムが鳴り響いた。他の生徒達は既に席に付いている。
「また後で来る!逃げるなよ!」
「何をしている?早く席につけ」
席に戻ろうとした箒の頭に、千冬が出席簿を振り下ろした。あまりの激痛に箒はその場に蹲った。
「ち、千冬さん…」
「織斑先生だ、馬鹿者。とっとと席につけ」
千冬の言葉に、箒は慌てて席についた。その光景を見て一夏は呆れていた。
(席についていなかっただけで暴力とか馬鹿か?篠ノ之といい織斑といい、ここは一般常識の欠落者の集まりか?)
そう思いながら一夏は授業の準備を始めた。