「ちょっとよろしくて?」
2限目終了後の休み時間、先ほどと同じように一夏が勉強していると、箒とは違う女生徒が話しかけてきた。金髪の長髪をロールさせた、如何にもお嬢様という雰囲気の女生徒だ。
一夏はSHRの自己紹介でそれが誰なのかを知っていた。
「イギリス代表候補生…セシリア・オルコット、何のようだ?」
「まあ!何ですのそのお返事は!!私に話しかけられるだけでも光栄なことなのだからそれ相応の態度があるのではなくて?」
その言葉を聞き、一夏は顔をしかめる。自己紹介の時にも思ったが、セシリアは現代の女性を体現したような生徒だった。同性にすら上から見下すかのような態度、男性である一夏に時折送ってくる嫌悪の視線、それだけでもあまり関わりたくないと思っていたのにまさか自分から話しかけてくるとは思わなかった。
「ないな。自己紹介の時にも言ったはずだ。俺は女尊男卑というくだらない風潮に染まっている人間が嫌いだと。そんな奴に礼儀を重んじる必要などない」
「なんですって!?私がイギリス代表候補生と知ってそんな態度をとっているのですか!」
「お前こそ代表候補生の分際で何を言っている?代表と違って候補生は複数存在する。イギリス代表が偉そうな態度をとっていないのにお前ごときが調子に乗るな」
現在のイギリス代表は軍に所属しているため、少なからずボンゴレとも接点がある。そのためか、男性を見下さず対等に接することからボンゴレの中でも「イギリス代表はIS乗りの中では良い人間」という認識を持たれているのだ。代表が偉そうな態度をとっていないのに候補生程度のセシリアがとるのは甚だ可笑しいのだ。
「あなたがあの方のことをまるで知っているかのように語らないでくださいますか!?あの方はあなた程度の人間が口にしていいようなお方ではありませんのよ!」
「事実を言ったまでだ。図星を突かれたからといって声を荒げるな、程度が知れる」
「なんですって!?」
セシリアが一夏に詰め寄ろうとした瞬間、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
「く!?後でまた来ます。おぼえてらっしゃい!」
セシリアは顔を赤くしながら自分の席に戻っていった。その後姿を見ながら、一夏はため息を付いた。
(本当にろくな人間がいないな‥‥‥‥退学したくなってきた)
一夏は入学初日で学園に入学したことを後悔し始めていた。千冬に箒にセシリア‥‥‥‥既に3人もの人間が自分に対し因縁を突きつけてきている。これからも増えていくかと思うと嫌になってくる。それでもツナたちに迷惑をかけないために通うしかないのだ。そう自分に言い聞かせながら一夏はため息を付いた。
3限目の授業が始める前に千冬が思い出したかのように言い始めた。
「そういえば再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならなかったな。クラス代表者とは対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会の出席など、まぁクラス長と考えてもらっていい。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
それを聞いた瞬間、1人の女生徒が勢い良く立ち上がった。
「私は沢斑君を推薦します!」
「私も!」
一夏は自分を推薦する声がどんどん増えていくことに舌打ちをしたくなった。クラス代表になればその分放課後の時間を割かなければいけなくなる場面が増えるだろうし、なにより千冬と授業以外で顔を合わせるなんて御免である。
「俺はやらない」
「推薦させたものに拒否権はない」
「ないわけがないだろう、人権侵害だぞ?」
「この場では教師である私が法だ。ここでは私に従ってもらう」
一夏がいなくなってからの2年間で随分と頭の劣化が進んだらしい。自分が法とか今時女尊男卑の風潮に侵されすぎた屑か重度の厨二病患者しかいないというのに‥‥‥‥‥‥
千冬の場合両方なのだろうか。少なくとも前者であることは間違いないだろう。
「他にはいないか?いなければ織斑にクラス代表をやってもらうが」
一夏は自分のことをまだ織斑と言い続けることと、自分の意見は無視をして話を進める千冬にいい加減堪忍袋の緒が切れそうになる。抗議しようと席を立ち上がろうとするが、その前に別の生徒が立ち上がった。
「ま、待ってください!そんなの納得がいきませんわ!!」
立ち上がったのは言うまでもなくセシリアである。顔を真っ赤にしながら今にも一夏に喰いかかってきそうな勢いである。
「男子がクラス代表なんていい恥さらしですわ!!このわたくしにそんな屈辱を1年間味わえとでもおっしゃるのですか!?私はそんなことのために日本に来たわけではありません!実力的に代表にふさわしいのはこの私、セシリア・オルコットですわ!」
その言葉に一夏はため息を付きながら立ち上がった。
「ならば、お前がやればいいだろう。俺はやりたくない、お前はやりたい。お互いに利害は一致していると思うが?」
「何度も言わせるな。辞退は許されないといったはずだ。2人には代表をかけて試合してもらう」
「いい加減にしろよ。お互いに利害関係が一致しているんだからそれでいいだろう?わざわざ試合する必要はない。時間の無駄だ」
一夏はクラス代表をする気は全くないのだ。そんなことをする時間と体力は鍛錬や勉強に費やしたい。しかし、一夏の言葉を逃げるための言い訳と捕らえたのか、セシリアは鼻で笑った。
「ふん、逃げますのね?あれだけ偉そうなことを言っておいて、やはり男性はすべて屑の集まり、子孫を残す事以外役に立たない人間ばかりというわけですね」
「‥‥‥今なんて言った?」
「耳まで悪くなりましたか?男性はすべて屑の集まり、子孫を残す事以外役に立たない人間ばかりと言ったのですわ」
「セシリアさん、それは言いすぎですよ!」
セシリアの暴言に山田先生が声を上げる。普通教師に注意されれば、言い直すなり態度を改めるのが普通だが、セシリアは態度を改めるようなことはしない。
「だってそうでしょう?この男はあれだけ偉そうなことを言っておいて、このセシリア・オルコットと戦うのが怖いがために言い訳をして逃げようとしているのです。こんな人が大切に想っている人間などさらに屑に決まってっ!?」
セシリアは最後まで言葉を紡ぐことができなかった。先ほどまで自分の席にいたはずの一夏が自分の首の裾を掴んで持ち上げていたからだ。千冬ですら反応することのできなかった事態に教室が騒然とする。
「お前ごときがあの人達を侮辱するな。会ったこともない人間を侮辱するなんて今時の代表候補生は随分頭が悪いんだな」
一夏の言葉にセシリアは何も言い返すことができない。首が締まっているからではない。一夏がセシリアのみに殺気を向けているため、その殺気に体中が震え上がってしまっているのだ。周りから見たら、セシリアが一夏に首を締められていることに苦しんで震えてしまっているようにしか写っていない。
「いいぜ、戦ってやるよ。お前が井の中の蛙であることを教えてやる」
一夏はセシリアのことを放し、何事もなかったかのように席に着いた。開放されたセシリアが苦しそうに咳き込んでいるが一夏はそれを当然のごとく無視をした。
「それでは、織斑とオルコットのクラス代表決定戦を執り行う。場所は第3アリーナ、1週間後に執り行う。文句はないな?」
我に返ってた千冬はそう締めくくって授業に入っていった。
この時、誰も気づいていなかった。一夏がどれほど怒っているのかを‥‥‥‥‥‥