元帥「哲也、緊急じゃ。至急大本営に来てくれ」
哲也「了解しました」
もうすぐ夜も開ける時間帯、そんな時刻に元帥さんから電話が入る。内容は新種の深海棲艦が現れたとのこと。
新種と言っていたが元帥さんは以前探知した微小な何かが発達したものと予想しているらしい。
哲也「電、元帥さんから招集が入った。少し行ってくる」
電「わかりましたのです。大本営までですか?」
哲也「ああ」
電にあらかたのことを伝え、鎮守府入口まで見送ってもらう。
入口近くの小さな車庫から1台のオートバイを出し、エンジンを入れる。排気口から小さく煙を吐きながら動きだす。
哲也「それじゃぁ、行ってくるよ。電」
電「はい、いってらっしゃいなのです」
電に外出の挨拶を交わし、バイクを走らせる。
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沿岸沿いの道を走ること約1時間半、目的地の大本営に辿り着く。
どうやら、緊急ということもあり俺以外の鎮守府の人達も呼ばれたようだ。
他所の鎮守府からやってきた提督達の車両で埋め尽くされた駐車場を奥へ奥へと進んでいき、ようやく空いてる場所を見つけることが出来た。
紗彩「あれ、黒木君?」
哲也「萱野さん」
バイクを止めたその隣のスペースに止まっていた車から、萱野さんとイムヤが出てきた。なんという偶然…
イムヤ「黒木さん、こんにちは」
哲也「うん、こんにちは。イムヤは萱野さんと一緒に来たんだ」
紗彩「いやー、イムヤが1人は寂しいってねー……」
イムヤ「ワーワー!」
萱野さんの声を遮るように大声をだすイムヤ。どうやらかなり恥ずかしかったらしい。少し可愛いと思ってしまった……
哲也「それじゃぁ、そろそろ行きましょうか」
紗彩「だねー、話ってなんだろうね?」
イムヤ「緊急なんだし、深海棲艦のことじゃない?」
2人は首を傾げ合いながら、招集内容について話し合っていた。どうやら内容を知っているのは俺だけらしい……
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大本営集会室に呼び出された提督達が並ぶ、周りを見回すと皆1人は艦娘を連れており、もしかしたら俺の聞き間違いで誰か1人艦娘を連れて来なくてはいけないのでは?という疑問と焦りが生まれて来る。
そんな俺の心情などは虚空の彼方に追いやり、珍しく真面目な顔をしながら入って来た元帥さんの方を向く。
元帥「あー、今回は急な呼び出しの中足を運んでくれてありがとう、まず驚かずに聞いてほしい。ここ数ヶ月、深海棲艦の目撃情報もレーダーの反応もなくなり完全に消滅したと思われていたが先日反応があった……」
元帥さんの報告を皆静かに聴衆していた。おそらくここまでのことは予想していたのだろう。
しかし、次の一言により場はざわつきを覚え始める。
元帥「そして、その深海棲艦は今までのどの艦種にも部類されない完全な新種だ。もしかしたら深海棲艦ですらないかもしれない」
場の提督達全てがその報告に慌てふためく。敵の特徴や弱点などの疑問と深海棲艦でない可能性がある存在に艦娘が立ち向かえるのかという疑問が皆の心の中に生まれているのだろう。しかし元帥さんは右腕を肘の高さまでそっと挙げ、その場を静寂に戻した。
元帥「静粛に…君達はここ数ヶ月、演習を繰り返し確実に戦力は増強されている。不安に思うかもしれないがどうか自信を持ってほしい」
元帥さんは力強く、皆に語りかけるようにこれまでの戦果、演習記録を演説する。
それに自信がついたのか、周りの者全てが静まりかえりどこか決意と矜持に満ちた顔をしていた。
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それから元帥さんの演説は続いた。未知の敵ということもあり、作戦は至ってシンプルな周囲を取り囲み一対多の一斉砲撃という形だった。だが、シンプルだからこそ強力なのだと元帥さんは判断したのだろう。
会議も終わり、それぞれの提督は直帰していったり、近場で秘書の子と食事をしたり、作戦に向けて艦隊の編成を組み直しを検討してる人もいた。そんな中、俺は萱野さんに連れやれ近くの食事処まで来ていた。
紗彩「いや〜、立ちっぱなしってつかれるねぇ〜」
哲也「お疲れ様でした。イムヤも、はいジュース」
イムヤ「あっ、ありがとうございます」
店員が注文の品を持ってきたので1番手前にいた自然と俺が受け取る形になっている。
イムヤはジュース、萱野さんはこんな真昼間からビールを飲んでいた。何してんだこの人…
紗彩「あ、これノンアルコールだから大丈夫だよ〜」
哲也「人の心読まないでください」
何故バレたし……
その後、いつの間に注文したのか店員が枝豆を配膳し、萱野さんはそれを摘みのようにもぐもぐと食べていた。もはや飲み会状態である。
紗彩「それにしても、包囲作戦ねぇ〜」
哲也「不安ですか?」
紗彩「そりゃぁ、ねぇ?」
イムヤ「イムヤ、頑張るよ?司令官のために」
頬杖をつきながらイムヤを横目にそんなことを言う萱野さん、やはりまだどこかこの明白としてない作戦に賛同しきれてないようだった。
紗彩「やっぱりイムヤ…というか皆にもしもの事があると思うとさぁ…敵の強さも」
哲也「そうですか…」
イムヤ「司令官……」
イムヤを抱き撫でながら作戦に対しての心境を語る。よく電にするけど第3者目線から見るとこんななのか……幸せそうで何よりだ。帰ったら電とやろう…
まぁ、そんなことより今は萱野さんに不安要素は完全に捨てて貰ってから作戦に望んで貰いたいところ。
哲也「俺も艦娘と一緒に戦いますし、艦隊の指揮は萱野さんがとるんですからもっと自信を持ってください」
紗彩「まぁ、そうだけど……」
イムヤ「ほら、司令官そんな弱気な顔しないの」
いつも気楽そうにしている萱野さんが叱られたあとの子供のようにしょげた顔をしていた。これは、中々重症だ……
哲也「……萱野さん」
紗彩「ん?」
ここまで来ると俺としてはもう見過ごせないのでないので、余計なお世話かもしれないが1つ提案をしてみる。
哲也「イムヤ達は俺が守ります」
紗彩「え?」
イムヤ「黒木さん…」
突然の言葉に萱野さんは素っ頓狂な声を上げる。
紗彩「でも、そんな贔屓みたいなことは……」
哲也「なら、全部の艦隊を守ります。萱野さんの艦隊も他の皆の艦隊も、もちろん自分自身のもです……」
最後に「約束します」と付けたし、口を閉じる。
子供のような我が儘で無理矢理な理論だが、今の俺なら出来る気がする。誰も辛い思いをせずに済むのが1番だ。
俺が示した決意と約束を聞いた萱野さんとイムヤ、最初こそ戸惑いと驚愕を覚えていたが、途中からクスクスと小さく笑い出した。
哲也「な、なんですか……」
紗彩「いや、やっぱり黒木君は黒木君だなってさ。ふふ…」
イムヤ「相変わらず、格好良いですね。電ちゃんが好きになるのもわかります」
唐突に自身に降り掛かって来た賞賛の言葉に戸惑いと羞恥が生まれてしまった。それに、顔が赤くなっているのがよくわかる……以前ならこんな事にはならなかったのだが…
イムヤ「黒木さんが照れてる!」
紗彩「あはは、君も照れることがあるんだね〜。電ちゃんの影響かな?」
哲也「や、やめてください」
何がおかしいのか、2人して俺を見て笑ってくる。そりゃ以前の俺ならこんな事言っても恥ずかしいとは思わなかったけど、今は違うんです。男の子は成長するんです……
紗彩「でも、自信が戻って来たよ。ありがとう黒木君」
哲也「まぁ…それならいいですが」
イムヤ「恥ずかしいところ見られちゃったねぇ、司令官」
イムヤがムフフと口に手を当てながら萱野さんをおちょくっていた、それに対してイムヤに仕返しの脇腹くすぐり回しの刑を実行する萱野さん。どうやらもう大丈夫そうだ。
紗彩「じゃぁ、そろそろお開きにしようか」
哲也「そうですね、俺も電達に今日のことを伝えなきゃですし」
テーブルの隅に置いてある伝票を手に取り会計に向かう。
そんな俺の前をスルリと抜けていく萱野さん、見たらいつの間にか伝票が取られていた。
紗彩「今日は私が奢るよ。お礼も兼ねて」
哲也「でも、悪いですよ…」
俺の言葉も聞かず、どんどんレジで会計が済まされていってしまった…
イムヤ「黒木さん、こういう時は素直に甘えとかないとですよ。司令官が奢るなんて滅多にないですから」
哲也「なるほど…」
紗彩「そうそう、私は基本的にお金は使いたくない主義だからねぇ〜」
そんなことを言いながら車の止めて方向に萱野さんは進んでいく。隠れてニヤニヤしているイムヤを見る限り、あんなことを言いながら実はそこまでケチでなかったりするのだろう。
萱野さん達に礼をして、鎮守府に帰って来る。時刻はお昼時をほんの少し過ぎたくらいだった。
自室に入った瞬間電がエプロン姿で「おかえりなさい」と俺を迎え入れ、手を引っ張りながら自分が頑張って作った昼食を見せてくれた。大変可愛かったです。
電の感想待ちのキラキラ目線から、お昼は食べて来たと言えず、朝飯抜きだった俺を考慮して、一生懸命作ってくれた大盛りのカレーライスを、残さず美味しく頂きました……
哲也君色々頑張ったね……
最近どんどん投稿ペースが遅くなってしまってますがどうか暖かい目で見てください。お願いします…