ヒエー
ぽーい
……
哲也「……暇だ」
目が覚めて2日後、明石の診療のもと2週間の入院を言い渡された。
話によると、腕、足、胴体全ての骨がバッキバキだったらしい。俗に言う全身骨折というものだ。しかしどう言うわけか明石の診療を受けた次の日には折れた骨たちがくっついており、怪我による入院というよりかは検査入院という形になっていた。
…誰か来ないかな……電はなんかずっと拗ねてるし……
哲也「暇だー…」
時刻はちょうど正午0時、誰かが食事を運びに来てくれるらしいけど、1人飯になるのか……寂しいな。まぁそれはそれでいいかもしれない…
???「司令、失礼します!」
哲也「おう、いいぞ」
早速例の食事配達が来たようだ。それにしても今の声は比叡か?なんか久しぶりに声聞いた気がする…
比叡「司令、お昼持って来ました!」
哲也「あぁ、そこに置いといてくれ。後で勝手に食べるから」
比叡「え、鍋ごと持って来ちゃったんですが…」
哲也「なんでだよ……」
そこまで大食らいでもないし、仮にそうだとしても鍋一杯はさすがに……というか何の料理持って来たんだ?
哲也「で、何を持って来たんだ?」
比叡「えっとですね……カレー作ってきました。ほら」
哲也「おぉ、いい出来だ」
比叡が入口まで戻り、圧力鍋サイズのそれを持ってきた。蓋を開けるとカレー独特の香りが漂って来る。オリジナルなのか少しスパイスの匂いがきついが、辛口ならこんなものだろう。
それにしても作ったって言ってたから手作りなのか?まぁ、美味しそうだからいいか…
哲也「…待って、比叡の手作り?」
比叡「はい、そうですが?」
哲也「今回は何を入れたんだ?」
脳裏をよぎる比叡カレーの惨劇。
グレープフルーツやらジョロキアさんやら普段のカレーでは絶対使わないであろう食材を用い、姉妹二人を医務室送りにした伝説が……
比叡「もう、失礼ですね……私だってあれから毎日練習してますし、味見だってちゃんとしましたー」
哲也「そ、そうか…すまない」
頬を膨らませる不貞腐れながらカレーを盛り付ける比叡。そして、本当にどこにしまっていたのか福神漬けならサラダなども取り出しあっという間にランチセットが出来上がった。
比叡「司令、どうぞ!」
哲也「い、いただきます」
不安がないといえが嘘になるが、毎日練習したって言ってたから大丈夫だよな?
哲也「……」
比叡「どうですか?」
哲也「…うまい」
普通に美味しい…少し辛いけど、人が食べれる味だ。本当に上達したんだなぁ……
比叡「むっ、司令何か失礼なこと考えてませんか?」
哲也「……いや、別に」
比叡「……」
ジーという音が聞こえそうな程、比叡はジト目で睨んでくる。
素直に料理が上達したことを褒めたいのだが、なんというのだろうか……前があれだったので失礼な言葉しか出てこない……
比叡「まぁ、いいですけど。じゃあ、私もいただきます」
哲也「比叡もここで食うのか?」
懐から紙皿を取り出し自分用のを盛り付け、ベッドについてあるテーブルを使い食べ始める。横に長いのでとても狭そうだった。
哲也「ん、わざわざこんな狭い場所で食べなくても…金剛や榛名と一緒の方が楽しいだろ」
比叡「私はこっちでもいいです。それに私が戻ったら司令1人になるじゃないですか」
哲也「比叡…」
……こんないい子だったっけ比叡って?なんかもっと天真爛漫、自由奔放なふわふわした子かと思ってたよ。金剛、榛名、良い姉妹持ったな…
ダダダダダダ…
哲也「それにしてもなんで比叡は紙皿なんだ?」
比叡「私の運搬技術じゃ食器1人分が限界でした…」
鍋を持って来なければよかったんじゃないか?と思ったが野暮な事は聞かないでおこう。
それよりやっぱり狭いな……一応ダイニングテーブルあるしそっちに移るか。
ダダダダ……
哲也「比叡、窓側のテーブルに移ろう。狭くて食べにくいだろ」
比叡「司令動けるんですか?」
哲也「あぁ、運動とかはダメらしいが普通に歩くくらいなら」
身体に異常がないとはいえ入院は入院、一応病人としての措置をとるらしい。
比叡と共に移動し、お互い向かい合わせになる。俺が普通の食器で比叡が紙皿というのが見ていて落ち着かない…
というわけで、俺と比叡の皿を交換してくれと頼んでみた。比叡は首を傾げ疑問の意を見せている。
ダダダ…
比叡「?、あ、もしかしてお皿の柄、嫌でしたか?」
哲也「いや、そうじゃなくて。男の俺が陶器の皿使って、比叡が紙皿って…女の子にする仕打ちじゃないだろこれ」
俺が理由を話すと比叡は気にしなくていいと言うが、やはりそこは女の子としての身だしなみを…と色々説得する内になんとか交換してくれた。
ダダ…
比叡「司令って超が付くほど優しいですよね。こうやって気づかったり」
哲也「そうか?優しくしてるつもりはないんだが…」
比叡「性分なんですね」
哲也「多分、そうなるのかな?」
ガンッ!!
なんとなく始まった会話をしながらカレーを食べ続ける。と、そこで比叡が「あっ」と何かに気付いたように自分が持ってたスプーンを見つめ始めた。
哲也「どうした?」
比叡「司令、これ間接キs…」
哲也「あっ……」
そういえば最初に味見で口つけたんだった…
/イツツ、アブナイジャナイ…\
/ダ、ダイジョウブッポイ?\
比叡「…浮気とか大丈夫ですか?」
哲也「……割と大丈夫じゃないかも…」
ただでさえ今球磨と浮気したとか、そんな濡れ衣を着せられてる状態なのに…電と破局とかにならないよな?
哲也「…できれば、電には内緒でお願いします。結構今危ういので…」
比叡「…事故ってことにしときましょう」
二人で何かの合掌をし、気まずい空気のまま食事に戻った。うん……
/アンタモテイトクノ?\
/ハッ、テイトクサン…!\
哲也「……そういえば部屋の外が騒がしいけど、何かあったのか?」
比叡「そういえばそうですね、少し見てきます」
席を立ち、俺から見て右奥にある入口のドアに向かう。そしてそっとドアを開け……
夕立「提督さーーーん!!!」
…ようとした瞬間、勢いよくドアを開けた夕立に、抱きつく…というレベルを越えたタックルをちょうど水月の位置に貰っていた。昼食のカレーが入った状態で……
比叡「〜〜〜!!?」
夕立「?…提督さんじゃないっぽい……!、提督さん!!」ダキッ
哲也「おっと…」
曙「ひ、比叡さん大丈夫なの?」
俺を探していたのか目に入った瞬間抱きつき頬ずりやペロペロをしてくる夕立、タックルを受けて悶える比叡、そんな惨事を見せつけられ慌てる曙…あっという間にカオスの完成である。
夕立「提督さ〜ん」スリスリ
哲也「夕立、まずは比叡に謝ろっか」
夕立「?」
俺が指さした方向にはなんとか出そうなのを我慢している姿があった。頑張れ比叡…
そして、その光景をみた夕立は驚愕という表情をしていた。
夕立「誰に殺られたっぽい!?」
曙「あんたによ」
夕立「……ぽい?」
曙にされ一瞬訳がわからないという顔をしたが、記憶が蘇って来たのだろう。「あっ」と言う抜けた声を出したあとに必死に謝り出した。
夕立「ご、ごめんなさいっぽい…」
比叡「う、うん大丈夫だよ。そういえば二人はお昼食べた?」
曙「私はまだね」
夕立「夕立もっぽい」
比叡は二人の返答を聞くなり、よしっと何か頷きカレーを二人分よそっていた。
比叡「二人も一緒に食べよ?」
夕立「良いっぽい?」
比叡「ええ、折角だし」
曙「じゃぁ、お言葉に甘えて……」
誘われた二人は少し遠慮気味だったが、比叡の言葉に甘えることにしたようだ。
夕立は比叡の隣、曙は俺の隣とお互い向かい合わせになった。
「いただきます」と二人は手を合わせ、美味しそうにカレーを食べ始めた。
上達したんだなぁ…
比叡「やっぱり失礼な事考えてません?」
哲也「いや、比叡が料理上手になってよかったなぁって」
比叡「もう…」
褒めたつもりだったのが、また不機嫌そうな顔をしまう比叡。
それを見ていたのか曙が「はぁ」とため息をつきながら言ってきた…
曙「こういう時は素直に美味しいって伝えるだけでいいのよ」
哲也「曙から素直という言葉が出てくるとは…」
曙「うっさい」
指摘され仏頂面を作る曙、可愛かったのでつい撫でてしまった。どことなく嬉しそうだ…
夕立がキラキラした視線を向けているが離れているので今回はお預けで。
曙「撫でるな」
比叡「口元緩んでるよ?」ニマニマ
夕立「嬉しそうっぽい」
曙「う、うっさい」
哲也「あはは」
曙のツン具合に思わず苦笑してしまう。
こんなに平和な時間が過ごせることに幸せを感じつつ、それをくれる皆に感謝する。やっぱり俺は皆がいるから戦える……
哲也「皆、ありがとう」
比叡「急にどうしたんですか司令?」
夕立「ぽい?」
曙「変な提督ね」
唐突な感謝の言葉に皆が皆不思議そうな顔をしていたが、俺は「いや、なんとなくだ」と伝え再びカレーを食べ始める。
哲也「うん、やっぱりうまい」
今のような平和な時間がずっと続かないだろうか。電も皆も辛い想いをしないですむような……
…電、何してるのかな……
比叡が妻で夕立、曙が娘、そんな家庭が欲すぃ……
次元の壁を壊す装置ないかなー