電さんと化物提督   作:コントラポストは全てを解決する

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74艦 過去と罪に決断を

 

 

司令官が来た。

制服を返しに来たという文月のためにドアを開けたのに、その横に司令官がいた。

もしかして文月は囮だったのだろうか?だとしたらやられた。

けど、文月が最初歌ったのはなんだったんだ?私の気を紛らわそうとしたのか?

 

司令官は私に何か話しがある様だった。

私もなんとか言葉を出そうとしたけど、ダメだった。

彼の顔を見た瞬間、あの時自分が感じた恐怖、犯してしまった罪を思い出し体が口を開こうとしなかったのだ。

それを察したのか私に手紙を1枚残し去っていった司令官。

まだ、中は見ていない。怖くて中が見られない。

 

文月の部屋の中に招き入れ、制服を返してもらう。ずっとジャージで居心地も悪かったからちょうど良かった。

雷や暁は司令官にご熱心だし、文月になら相談出来なかった事言っても大丈夫かな?

まぁ、それはそれとして。文月には話して貰わなければいけない事がたくさんある。

 

 

「文月、あの状況はなんだったのか説明を求めてもいいかい?」

「あの状況って〜?」

「なんで文月の隣に司令官がいたんだい?」

 

文月は「あ〜その事か〜」とわざとらしく手を打つ。

おっとりマイペース、末っ子のような性格をしている文月だが、実はそうでもない。

あんな雰囲気だが、妹がいるせいか案外観察眼スキルが高く、瞬時に周りの空気に合わせる…そんな器用なことも本当はできるのだ。

しかしその性格を自分のおっとりペースで隠している侮れない人なのである。もちろん、ドジや子供っぽさは素で出すが。

本当、得な性格してる。

 

「私が、響ちゃんに制服返そうとここに来たら偶然会っただけだよ〜。なんか響ちゃん呼べるか?って聞かれてね〜」

「……そうか」

嘘をついてる動作を見せず、嘘をつくこと事が出来る文月だ。

その言葉に信憑性があるかどうか怪しい所だが、今は信じておこう。

 

「ねえねえ、響ちゃん。私からも聞いていい?」

「ん?」

 

取り敢えず持て成しのお茶を忘れていたためそれを入れに行こうとすると文月に聞かれる。

 

「響ちゃんってどうして司令官を避けてるの?」

「別に避けてはないよ」

そう、避けてはない。

ただ私と一緒にいない方が司令官は幸せになれる、そう感じただけさ。

だって、そうだろう?電が消えたのも、司令官が記憶喪失になったのも全部私のせいなんだから。

今の状況の原因が全部私だって知ったらきっと司令官は幻滅する、きっと嫌われる。

嫌いな人と一緒にいるのは司令官も嫌だろう、だからこれで良いんだ。

 

「私に、司令官と会う必要性がないだけ。これでいい」

「ふーん、そっか。でも、さっきは司令官にあったよね?」

「あれは仕方ないじゃないか」

 

俗に言う不可抗力と言うやつだ、私の意思じゃない。

文月は不服そうにお茶を飲んでいるが、結局何を伝えたいのだろう。

 

「それにしてもさ〜、あの時の響ちゃんすごい顔してたよ〜。なんというか害虫見た時の顔?」

「なっ!?」

確かに変な表情はしていたかも知れない…だけど、司令官をそんな風に見た覚えはない。

 

 

「司令官、悲しんでるよ〜?」

「何が言いたい?」

「えぇ〜言わなきゃダメ?」

 

クスクスと悪戯に笑う文月。

本当は私だって分かってる、遠回しに司令官に会ってこいと言っているのだろう。

しかし、さっきも言ったがそれは出来ない。

司令官に会ってしまえば、きっと話さなくては行けなくなる。そしたら、私は……

 

急に胸を襲う痛みに耐えながら、私は文月に話す。

 

 

「必要性とか無しにしてさ、響ちゃんは司令官に会いたくないの?」

「…」

私自身の気持ち、か。

確かに会いたいのかもしれないけれど、自分でもよくわからない。

ずっと、司令官に会ってはいけない。そう思いながら過ごしてきたから。

 

「響ちゃんって臆病だね」

「私が…臆病?」

 

何故?

私と司令官はもう会っては行けない。触れ合っては行けない。

司令官にイタズラしてた時が懐かしい…けれど、もうダメだ。

 

私は電を見殺にしたんだから。

 

確かに私は臆病なのかもしれないな、

あの時、何も出来なかったんだから。

 

 

「司令官が傷つく、自分は一緒にいるべきじゃない。そんな顔してる……でもさ、そんなにテキトウな理由つけてまで司令官に会うのが怖いの?」

「…は?」

 

「だってそうでしょ?司令官に嫌われるから、会いたくない。それって嫌われるのを怖がってる」

「違う!」

違う、私は嫌われても良いと思ってる。だからずっと会わずにいたんだ。

だから違う…私が、司令官に嫌われてるのが嫌なだけで会わずにいるなんて…そんなの………

 

 

「そんなの、私が司令官を避けてるみたいじゃないか……」

「だから私、最初にそう言ったよ〜?司令官、響ちゃんに嫌われてるって思ってるかもね〜」

「それは違う!私は司令官の事が大好きだよ!」

「おぉ〜急に大胆〜」

 

「あっ…」

 

 

しまった、熱くなりすぎた。

思い切って妙な事を口走ってしまう。

今のは違う、決して司令官の事は好きではない。いや、好きだけど。

そう、あれだ!likeとlove、私のはlikeだ。

 

「司令官に会ってみたら?」

「いや、でも…」

「もしかしたら向こうから会いたいって思ってるかもよ?」

 

そんな事があれば、どれだけ嬉しい事か……

 

「まぁ、私は用事済ませたしそろそろ行くね〜」

「……あぁ」

 

文月はそう言いながら席を立つ。

気づけば借した制服がしわ一つなく綺麗にたたまれていた。

いつに間に……

 

「あっ、そうだ響ちゃん。司令官からのメモ、ちゃんと読まなきゃダメだよ〜じゃあね〜」

手を振り部屋から去っていく文月。

本当に私を煽るだけ煽って帰っていった。

でも、私がただ司令官を避けているという事実が確認出来た。第三者目線というのは案外必要なものなのか?

 

いつもみてるだけ(傍観者)だったからよくわからないな。

 

「あっ、手紙……えっと…」

紙切れをポケットからだし、それを読む。そして私は固まった。

手紙には、長い文章ではなくただ1行、文が書いてあるだけだった。

 

 

『明後日の日曜日、2人で遊びに行こうぜ!10時に待ってる』

「これは…ひょっとしなくてもデートの誘いか…?」

 

そう認識した瞬間、途端に顔が赤くなる。

いや、赤くなったのはそういう気があるわけではない。あくまで私のはlike…そうlikeだ、決してloveではない。

 

しかし、このご時世わざわざ手紙に誘いに来るとは……あ、私がずっと着信拒否してたんだっけ?

 

 

「何はどうあれ、準備はしとこう…」

 

響は紙切れをそっとポケットにしまった。

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

「ふぅ、一仕事終わった〜。司令官に膝枕してもらお〜っと。ふんふふふ〜ん♪」

実は部屋の外からこっそり眺めてた文月は、響が手紙を見たのを確認すると部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

「ほら、海風。あーん…」

「あーん」

 

現在山風は海風に食事を与えている。

何故、こんな事になったのかは単純な理由。どうやら海風は1週間ほとんど食べ物を口にしてなかったらしい、ぜいぜい部屋に生えてたキノコを直で食していた程度だそう。壊れた理由そっちじゃね?

まぁ、おふざけは置いといて。俺の記憶喪失のせいで海風に多大な迷惑を掛けてしまった事に謝罪しなければならない。

それに俺が1番危惧していた、記憶喪失を知った事による艦娘達への影響という点において海風は俺の想像以上の危険な反応をしていた。どうやらもっと警戒を強めた方が良いらしい。

 

正直なところを言うと海風に何も出来てない自分が悔しい。

今の俺じゃ料理をしようとしても食材を焦がしダメにすることしか出来ない。さらに驚いたのが炊飯器すらも今の俺にとって手に余る代物になっていた事。何故か俺がボタンを押した瞬間、電源が落ちてしまうのだ。山風は普通に出来るのに……

 

 

「ふぅ、ご馳走様でした」

「お粗末さま、食器洗って来るね…」

 

山風と海風のやり取りをただ見ているだけ、何かおれに出来る事はないか。それを考えてみる。

けれどやっぱり思いつかない。でも、謝罪だけはしたい。

 

「海風、ごめんな。俺のせいでこんな事になっちまって」

「いえいえ気にしなくて良いですよ提督。私、今結構幸せですから」

「幸せ?」

海風は小さく微笑みながら言う。

この状況のどこに幸せを感じる部分があったのだろうか。

 

 

「ふふ、不思議そうな顔してますね」

「まぁそりゃな…」

 

「……ここには提督も山風もいますから…」

「?」

 

とても寂しそうな顔だった。それはまるで帰ってこない親を待つ子供のような顔、きっと妹である山風には見せないであろう海風本来の表情。

 

 

「たった1週間……でも、山風がどこにいるかわからない状況の中で、それはとても長い時間に感じました。ずっと1人で怖かった、けど…提督ならって思ったんですけど…」

「ごめん」

「あ、すみません…その事をどうこう言おうとかそういうわけじゃないんです。ただ、混乱してしまってそれで」

 

「あぁなったと」

「恥ずかしいのであんまり思い出さいでくださるとありがたいです…」

「わかった」

 

あれは海風にとって過去最高の黒歴史だろう。

自分が奇行を犯し、さらにそれを人に見られたのだから。

しかも実の妹である山風に見られたのだ。さぞかし恥ずかしいだろう。

 

「それで、さっきも言いましたがここには山風もいます。1人じゃないって実感出来るんです……私、意外と寂しがり屋さんさんでした」

「それは……充分可愛いくて良いと思うぞ?」

「可愛い……」

海風は神妙そうな顔をしていた。

何か気に触るような事を言ってしまっただろうか?

 

 

「どうした?」

「いえ…その、提督に『可愛い』って言って貰えるのは嬉しいのですが、電さんの事もありますし素直に喜んで良いのかと…」

「あぁ……海風は素直に喜んで良いと思うぞ?」

 

何かあったとしても、おそらく全部俺に責任来るだろうし。それに俺も責任負うつもりだし。

 

 

「じゃぁ、喜びますね……にへへ///」

「……」

 

子供のような笑い方、けど女の子のように照れて笑顔を作る。

見たことない笑みだったので不覚にもドキッとしてしまった。

海風の心からの笑顔、それは純粋無垢に明るく…とえも眩しい。

だから、本性は子供っぽく性格は寂しがり屋なのか。海風の事がより深くしれた気がする。

 

 

「提督、少し寝ますね」

「わかった、おやすみ」

「はい……それで、ですね提督、私が寝るまでで良いので…よ、良ければ手をつ、つ…つないd…」

 

海風は恥ずかししいのをこらえ、必死に「手を繋いでほしい」と頼もうとしていた。

しかし、恥ずかしさが前に出てしまい中々言い出せないでいる。

海風には悪い事してるし、ここは気を利かせた方が良いだろう。

 

「ほら」

「あ…ありがとうございます…」

安心しきった顔、それはとても緩みきった顔をしていた。

海風を安心させたい、もしかたら俺の中に父性が生まれたのかもしれない。

 

 

 

 

「司令官〜たっだいま〜!」

「ん?おかえり文月、響大丈夫だった?」

「うん、大丈夫だよ〜テキトウに誤魔化しとか入れといたし〜」

「ありがとな文月」

 

おかえりの挨拶と結果報告をしながら文月は流れるような仕草で俺の膝の上に入ってくる。

ここが気に入ったのか、一緒にいる時はだいたいここに入って来ていた。最早文月の定位置と言っても良いだろう。

 

「どうしたしまして〜、それと〜私にも何かして〜」

「……ほら」

海風ちゃんの手繋いでるし、私にも何かして?とそんな想いのこもった視線と言葉を貰い、耐えられず文月の頭を撫でる。

 

 

「ふみぃ……Zzz」

 

そしてご覧の通り寝た。

何故かはわからないが文月は頭を撫でられるのが弱いらしい。さらに、これまた不思議な事に俺が撫でる場合のみ気持ち良すぎて寝てしまうようだ。

どんなに眠くなくてもこれをやられるとイチコロらしい。文月がそう言っていた。

俺には文月を瞬時に寝かせられる特技があるらしい、必要な技なのかこれは?

 

 

「あ、提督またイチャイチャしてる…」

「……」

 

やばい、山風に見つかった。しかも山風製イチャラブセンサーに反応してしまった。

このままでは非常にまずい、病ま風さんモードになり包丁突きつけられる。

 

そうして俺が警戒している中、山風は俺の右隣にすわり、そっと頭を肩に乗せて来た。

 

あれ?

 

「病ま風は?」

「山風?…あたしはここにいるよ?変な提督…」

「お、おう…?」

 

 

なんかわからないけど、俺助かってる?

一体どういう変化が齎されたのかわからないが、取り敢えず怖くないならいいや。

 

 

 

「ねぇ、提督…今、幸せ?」

山風は急にそんな事を尋ねてくる。

 

「…うん、幸せだと思うよ」

 

こんなに助けてくれる仲間がいるんだ、もちろん幸せだ。幸せなのだが……

こないだのアレ、少しだけ記憶が戻りそうになった時。俺はなんとなく理解してしまった…おそらく記憶が戻れば今の記憶はなくなる。

1度空白になってしまったが故にそれを取り戻そうと出来たのが今の俺、きっと『俺』が帰ってくれば今の俺は消えてしまう。

だから山風にもこの事を伝えなければ行けない、山風には1番世話になったから。

 

 

「山風、もし『俺』の記憶が戻れば今の俺は消えるっていったらどうする?」

「え?」

山風は途端に驚いた顔をする。

それもそうだろう、俺が消える…つまり今までの記憶がリセットされるのだ。

これまでで俺と1番長く一緒にいた山風にとっては辛い話だろう。

 

 

「…そっか、忘れちゃうんだね……」

「すまない…」

「……」

 

元々は記憶がないだけの抜け殻、しかしいつの間にか…いや、皆と過ごしてるうちに一つの人格へとなってしまった。抜け殻のままだったら記憶を入れて終わりだっただろうに。

一つの体に2つの魂は入らない、そして俺は時間にしても力にしても到底及ばないただの人。

負の感情も持たず、圧倒的な力を持つ『俺』に負け、消えるのは明白である。

だから山風に伝えたかった、傷つけてしまうのは分かりきってしまっている。だから、せめて傷を浅くしたい。

 

 

 

「…うん、大丈夫……」

「え?」

「提督が…哲也が忘れても、あたしが覚えてる。だから、あたしが教えてあげる。こんな事があったよって…」

「はは、そうか…」

山風は俺が思ってる以上に強かった、これも艦娘の力か?

いや、違うか。これは山風自身の強さなのだろう。

 

「変な事吹き込むなよ?」

「そんなことしないよ…もう……」

 

お互い小突き会いながら戯れる。そして、それもひとしきり済むと山風は更に俺へと密着して来た。

 

「ねぇ、哲也……少しだけこのままで良い?」

「あぁ…」

 

深く寄りかかりながらも俯く山風。

そのせいで顔はよく見えないが、その瞳から静かに水滴が落ちたような気がした。

 

 

人は驚くほど無力で、どうしようもないものだと俺は知った。

守りたいものも充分に守れず、助けたいと思っても自分1人では何も出来ない。それほどまで軟弱に出来ていた。

 

以前の俺ならもしかしたら、と幾度となく思った。

けれどそれは思ってはいけない、でなければ山風達と一緒にして来た事を否定してしまう事になるから。

 

弱いからこそ誰かを頼れる、協力しあえる。

なんとなくだが前の俺はきっと一人だったろう。恋人がいれど仲間がいれど、問題は全て自分でやって来たのだろう。

 

 

だから「俺」に俺は伝えたい、化物に人として教えたい事がある。

人間っていうのは弱い、だけど面白い生き物だぞって…もっと人間を見てみろって……

 

 

化物の『俺』はどんな反応をするだろうか?今から楽しみだ。

 

 

 






こんにちは、はつひこです。
2話連続投稿、楽しんで暇つぶしして貰えたなら何よりです。

なんか今回いい感じ、こう…イチャイチャ出来たような気がします。
ちょっと海風のヤンデレが見たくなってきた…どっかに同人誌売ってないかな…
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