チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 作:八神っち
「あはははは!何その課題!落ちるにきまってるじゃんバカヤロー!」
突如人々が『個性』と呼ばれる超常の力を手に入れた超人社会。
そんな超常の力があふれた事により激増した犯罪。
それを取り締まるために出てきた夢のような職業。
『ヒーロー』
フィクションの世界の職業だったものが、今では当たり前になっている。
そのヒーローという職業をより実践向けに教育する機関もいくつか作られた。
その中でも倍率300越えという超難関校「雄英高校」の実技試験会場前。一人の少女が絶叫していた。
「まあ向こうとしても即戦力求めるだろうけどさ……倒すためのガジェットしかないのはいささか不平等すぎませんかね」
多くの視線を気にせずにブツブツと文句を言い続け最後に「はぁ」とため息。実技試験のための扉が開いていくのを眺めながら頭を掻く。
「あの娘、落ちちゃうのか……」
「残念だな……よっぽど弱い個性なんだろうな」
その声は届くことは無いが、届いた所で気にすることはないであろう少女は開始の合図をじっと待つ。
ボーっとしているとあの理不尽課題を告げたヒーロー「プレゼントマイク」からもう始まっている旨の放送が響く。皆が我先にと実技エリアに向かう中置いてけぼりにされた人物は2人。
「君は行かなくていいの?」
「え?……あっ……あ!」
どうにか現状を把握した緑髪の少年は遠くなるライバルの背中を見、そして少女の顔を見る。
「後から行くからお気になさらず~」
笑いながら手をひらひらとしながら先に行くように促す。緑髪の少年は真っ直ぐ前を見つめライバルの背を追いかける。
「元気だねぇ……ま、ボチボチいきますか。とは言え何か出来るわけでもないんだけどね」
そう呟きながら門をくぐると個性によって派手に破壊された点数付きのガジェットとビルや道路、街灯etc。試験の為とは言え各々が最大限の個性でガジェットを破壊していく様はさながら映画と見間違える光景であった。
「これ実践重視の試験なんだよね?いやはや」
目の前で破壊されてボロボロになったビルを見つけ中に入る。2階に上がると投げ飛ばされたのか上に続く階段を壊してめり込んでいる小型ガジェットをのけて「個性」を発動させる。
……
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………………
試験終了間近まで似たような事をビルや道路に行い、ある一帯はガジェットと戦ったとは思えない程の綺麗さが保たれていた。最後の個性の発動を行いビルから出ると凄まじい炸裂音が聞こえ、その方角を見ると大きく凹み吹き飛ぶ大型ガジェットと1人の少年。
「あの少年あんな個性だったんだ。見かけによらず派手にやるねぇ」
ただ吹き飛ばす時に周りに気を配って欲しいなと思いながら降って来るガジェットの破片やパーツを再度ビルの中でやり過ごすのであった。
……
…………
………………
試験の後、学校側はその少女を高く評価していた。
確かに少女の活動は「今回の試験」においてはガジェットを倒した訳でもなく誰かを助けたわけでもない。実際、実技・レスキューの両ポイントは「0」である。
しかし、試験ではなく実践という視点で少女を見た場合の評価はポイントの正反対と言っていい。
ビルや路地裏での確実な退路の確保、事前の崩れそうな個所の把握。その個性の即時性の高さと範囲の広さ。連続発動可能な持続性。どれをとっても完璧に近い個性である。
こうして実技0であるが教師陣の注目を集めて見せる。
その少女の名は「物見 直」 個性:物を直す
次回、主人公のあれこれとこの個性の欠点。