チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性   作:八神っち

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 レクリエーション?何それおいしいの?


心操君から始まる体育祭最終種目

 1回戦初戦が緑谷と心操か……まぁ緑谷なら大丈夫か。感情的な奴ほど心操にとってはカモだし。ガチバトルとは言え何かしらの勝敗の決め方あるだろうし。

 

「てか私は八百万とか……」

 

 よりによってかー。作戦決めるか……レクリエーションには不参加でいいや。んで心操はっと。

 

「あんただよな?緑谷出久って」

 

 あっコンタクト取りに行ってら。答えようとしたら近くにいた尾白が口を塞いでるな。あの1回でタネに気付くのか……意外と侮れん。

 あっ尾白がこっちに来た。

 

「物見さんは彼の個性を知ってるな」

「さてね」

「あの個性をよく信用できるな」

 

 尾白が言わんとしてる事は分かる。だけど信用……信用ねぇ。

 

「そりゃ信用も信頼もするさ」

「……なぜ」

「あいつがヒーロー目指すって言ったから。そんだけだ」

 

 それだけ言えば十分だろう。この世においてヒーローを目指すのが…名乗るのがどんな事なのか。それを知らずに雄英入った奴なんて居ないだろう。

 ハッとした尾白。そして申し訳なさそうな顔をする。

 

「そうか……不躾だったな。ごめん」

「別にいいよ。私もあいつも慣れてるし」

 

 心操の個性を知った奴は決まって同じ反応をする。私が心操と話すのを不思議がるヤツも居たには居た。中には納得できないと言ったヤツも。特に男子連中。

 洗脳で弱みを握って言いなりにとか言ってくるのも居た。その度に説得して逆上されての繰り返し。弱みを握ってとか考えている時点で半分相手にしてないが。

 流石に中学の3年になる頃にはほぼ無くなったが。

 

「話はそんだけか?じゃあな」

「あっそれと最後に1つ」

「ん?」

「なんでそんな恰好してるんだ?」

「A組に巻き込まれた」

「……なんかごめんな」

 

 さらに申し訳なさそうな顔になる尾白。お前は悪くないから気にするな。話は終わったので着替えさせて貰うとする。

 剥ぎ取られた体操服を持ち会場を出る。なお心操には後からどんまいと言われた。

 

 

 見る分には楽しいであろうレクリエーションもあっという間に終わり各々が準備を整えて客席や控室に居る。

 セメントス先生が会場のど真ん中に大きなバトルフィールドを作る。

 

『色々やって来ましたが!結局これだぜガチンコ勝負!』

 

 プレゼントマイクの声にお客さんの歓声が広がる。選手入場のレスポンスと共に心操と緑谷がフィールドに上がる。

 

『一回戦!成績の割になんだその顔ヒーロー科緑谷出久!対 ごめんまだ目立った活躍無し!もう1人の方が目立ってた!普通科心操人使!』

 

 ルールはまいったと言わせるか場外か意識奪うか。道徳倫理は一旦捨て置けってダメでしょ。心操が緑谷に何か話しかけている。そしてスタートの合図と共に緑谷が

 

「何てこと言うんだ!」

 

 大声で叫ぶ。あっ勝ったな。緑谷の動きが完全に止まった。

 

『全ッッッ然目立ってなかったけど彼ひょっとしてヤベェ奴なのか!?』

 

 まあ傍から見たらやべぇ個性だろうな。A組担任がプレゼントマイクの横で入試試験を酷評していた。

 

 

(緑谷もヒーロー科にしちゃ酷いもんだが心操も持久面以外じゃそれより酷い)

 

 緑谷に振り返って場外に行かせる。よし勝ったな。控室行ってくる。

 

『これは……緑谷踏みとどまったー!』

 

 んなバカな!?1度かかった事あるから分かるが絶対体の自由効かねぇよ!?心操も解けて焦っている。緑谷は口を塞いで答えない。てか緑谷もなんで解けたのか分かってない感じだ。

 心操が質問を続けるが緑谷は黙って近づいて行く。その顔は自分も同じだったと言いたげである。

 

「誂え向きの個性で生まれて望む場所へ行ける奴らにはよ!!」

 

 心操も顔は必死であるが本心は別の所にあるといった感じである。そしてお互い場外狙いのせめぎ合い。

 

「がんばれ心操!」

 

 声が出てしまう。それに呼応してか周りに居る普通科の連中も応援を始める。静かだった会場は緑谷コールと心操コールの2つに分かれて試合は佳境を迎える。

 

「ーッ!んぬああああああ!!」

 

 緑谷の一本背負いが決まって心操は場外に出てしまう。

 

『心操くん場外!よって勝者は緑谷くん!』

『二回戦進出!緑谷出久ー!』

 

 ……負けたか。あの心操が。

 

『両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!』

 

 ……下に降りるか。

 

…………

 

 

「心操くんはさ……なんでヒーローに……」

「……憧れちまったもんはしょうがないだろ」

「……」

「それにだ!言ってくれた奴が居たんだよ。俺がヒーローになれるってさ……そいつは俺より強いのにさ……笑わずに真っ直ぐに……そんな事言われたら目指すしかねーだろ」

「それって……」

 

 緑谷はかつての自分と重ねてしまう。ヒーローになれないと言われ続けたけど認めてくれた人が居た。そして彼を認めてくれた人というのが体育祭でずっと一緒に居る彼女なのだろう。

 

「かっこよかったぞー心操ー」

 

 頭上から声が降り注ぐ。

 

「正直ビビったよ!」

「委員長と一緒で普通科の星だよ」

「障害物競争一位のやつと良い勝負してんじゃねーよ!」

「でも委員長との関係は羨ましいぞ!」

 

 そしてその声はプロからも掛かる。

 

「あの個性対ヴィランに関しちゃかなり有用だぞ欲しいな」

「雄英もバカだなーあれもう1人と合わせて普通科か?」

「まあ倍率がすごいから仕方ない部分もあるからな」

「戦闘経験の差はどうしても出ちゃうからねー」

 

 彼女だけじゃなくて皆が認めている。

 

「聞こえるか?心操お前すげぇぞ!」

 

 心操は悔し涙を流しながらも緑谷に向けて言う。それは自分を鼓舞しているようにも見えた。

 

「結果によっちゃヒーロー科への編入も検討して貰える。覚えとけよ?今回は駄目だったとしても絶対諦めない。ヒーロー科入って資格取ってお前らより立派にヒーローやってやる!」

 

 だからよ……止まるんじゃねぇぞ

 

「うん…………あ」

「……そんなんじゃすぐ足元掬われるぜ?みっともない負け方だけはしないでくれよ」

「うん…………あ」

「…………」

 

 階段を降りた先には彼女が居た。

 

「心操……」

「物見か」

「…………」

「…………」

 

 お互いに目を真っ直ぐ見つめる。そして物見が一言。

 

「お疲れさん」

「ああ」

 

 それだけだった。


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