チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性   作:八神っち

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 修復ヒーローの本気です。


彼女の名は。

 戦闘の基礎を叩き込まれながらメイド(もう事務所周りでは定着してしまった)としての業務をこなして、あっという間に1週間経った。

 

「あー本当に行っちゃうのね」

「絶対こっちに就職してください!」

「泣いてない!泣いてないです!」

「ご飯美味しかったです!」

 

 事務職員に盛大に別れを惜しまれながらMt.レディの事務所を後にして夕暮れ時になり現在保須市に訪れていた。

 何でもこのまま帰すのは申し訳ないから最後位は何か奢ってくれると言ったのでお言葉に甘えた。

 

「なんで最後の最後まで私はメイド服なんですかね……」

「一応まだ仕事中だしねー」

「くそう!今日でモノミンとはお別れかよ!」

「モノミンは止めろ」

 

 最近巷を騒がしている「ヒーロー殺し」その応援要請という事らしい。

 

「ま、関係無いですけどね。心操も頑張ってるし私も頑張らないと」

 

 店を出た時にそう言ったのがいけなかったのかMt.レディの所有する車の駐車場に戻る際に遠くから爆発音。そして現れるのは謎の化け物。

 

「っ!物見さん!峰田くん!今すぐに周りの人達に避難を!急いで!」

「っはい!」

 

 明らかにヤバイ化け物に対して焦り気味に指示を出すMt.レディ。それに応える様に私も行動を開始するが、峰田から反応が無い。

 

「おい峰田!どうした!」

「な……なんでアイツがここに……!?」

 

 様子がおかしいが構ってる場合ではない。私は峰田の頭を叩き気つけする。

 

「ヒーローグレープジュース!いいから行くぞ!皆が待ってんだ!」

「はっ!そうだ。オイラは今はヒーローなんだ!」

 

 そう今出来る最善の策は皆を避難させてプロが戦える場を作る事。私達は現状を飲み込めていない人達を避難させる為に大声を張り上げて、指示を飛ばす。

 

「すでにヒーローが来ています!皆さんは慌てず!ですが急いで指定されている避難区域に行って下さい!」

「足止めはすっから!安心して行ってくれ!」

 

 私達の声に気が戻り大声を上げながら逃げ出す人達。それを標的に定めたのか飛び掛かろうとする化け物。

 

「させっかよ!」

 

 ポーチから取り出し投げつけるのは対ヴィラン用衝撃手榴弾。体育祭の地雷の手榴弾版の奴である。それを次から次へと投げ込みこちらに気を逸らせる。

 

「峰田ぁ!」

「おうよ!」

 

 飛び込んでくる化け物を間一髪で躱して峰田の個性で着地際に拘束する。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 上に投げつけるのはそこらへんにあるビル壁の欠片。それを1つ10m壁に復元して化け物に積み上げていく。

 

「なんだよ………結構当たんじゃねーか」

 

 峰田の個性で身動きが取れずに上からの重石で沈黙する化け物。当然油断はしない。

 

「峰田!Mt.レディさん!コイツの拘束をお願いします!」

「物見さん!?貴女何を!?」

「聞くまでもないでしょう?」

 

 周りを見渡すとボロボロになってしまっている建物、道路、標識etc。それに対して私がする事なんて決まってる。

 

「修復ヒーロー……2Rとして一仕事して来ます」

 

 ここから先は私の仕事だ。まずは手始めにこの場を直して行こうか!

 

 

……………

 

 どうやら他に似たような化け物が2体も居たらしく街全体がボロボロになっていた。既にヒーロー達によって制圧は果たされているものの被害が大きすぎた。

 

「おいアンタ………まさか体育祭のあの」

「あぁ……服装や髪型は違うが間違いねぇ」

 

 私の姿を見つけた他のヒーロー達が縋る様な声で言ってくる。

 

「あんたの個性なら……この街を直せるか?」

「今の俺たちじゃこの状況はどうしようもない……頼む」

 

 私はその場に居た警察の方を見て個性使用していいのかのジェスチャー。少し迷いながらOKのサインが出る。

 

「私が来たんだから当然でしょう?」

「ああ!頼むよ!物見さん!」

「2Rです」

「……え?」

「修復ヒーロー2R……それが私のヒーロー名です」

 

 そして私は個性を発動していく。

 

 

 

……………

 

 

 その時周りのヒーロー達は信じられない物を見ていた。

 先程までそこらで火を上げていた車、崩壊しているビル、ひしゃげた標識、捲り上がっている道路のコンクリート。

 その全てが彼女、物見直が視界に収める………それだけで元通りに直っていく。日常へと戻っていく。

 涼しい顔をしながら……本当に当然の様に扱う個性。

 

「マジかよ……コレが?この個性が……彼女が普通科?ハハッ!ありえねーよ」

 

 1人が声を出す。それに呼応する様に他のヒーローが声を上げる。

 

「彼女がヒ-ローにならない?何の冗談だよ」

 

 この光景を見てそう言える奴なんて居ないだろう。ヴィランを倒すだけなんざ強い個性を持ってれば誰にでも出来る。

 だが街を……壊された日常を一瞬で取り戻す事が出来る奴なんて何人居る?

 

「……この視界じゃこれまでか」

 

 呟きヒーロー達に振り向く。物足りない様にだが笑いながら告げる。

 

「じゃあ私は行きます。別の場所もボロボロでしょうし中まで直しきれてる訳じゃないので」

 

 先を見据えて別れを言って去る彼女の姿はこの場に居る誰よりも輝いていた。

 

 

 

 

「修復ヒーロー2Rか。ウチの事務所に来ねーかなー」

「俺も欲しいな………なあ所でさ」

「ああ」

「「何でメイド服?」」

 

 

 

 該当ヴィラン拘束から1時間後、襲撃にあった保須の街は全て元通りになっていたという。




 修復ヒーローの名は伊達じゃない!って事ですね。

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