チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 作:八神っち
訓練が終わり更衣室に戻ると扉の前にはミッドナイトが居た。
「訓練お疲れ様。物見さんどうかしらそのコスチュームは」
「こんにちは香山先生。メイド服である事と胸がキツイ事以外は概ね満足ですね」
私の直球の感想にあははと苦笑いのミッドナイト。
「Mt.レディから聞いたわよ。着せ替えの末に妥協したって」
「だって最初Mt.レディと同じ衣装ですよ?それからもまあ酷い衣装でしたし……メイド服が一番マシとは思いませんでした」
「物見さんにとっては嫌だったかしら」
「とても」
私にフリフリした女子らしい服装は似合ってないだろうし……
「とっても似合ってるのに」
「世辞ですか?」
「事実を言っただけよ。分かってはいたけどあまり自分を女性……いえ女子だと思ってないわね物見さんは」
「否定はしません」
「でも女性としての意識はあると」
あるにはある。だが意識させられる相手なんて限られている。
「貴女の女性らしさ……女性を意識させる服装ってヒーロー活動には割と有効なのよ?」
「何が言いたいんですか?」
そうねと考えて5秒。ミッドナイトが話を切り出す。
「貴女の個性の関係上ヒーローとして活動するのは災害現場や戦闘跡になるとはスナイプから聞いてるわね」
「ええ」
それは分かる。
「災害や戦闘の被害にあった現場の人達ってヒーローが居る社会だと分かっていても心が不安定になるの。覚えがあるでしょ?」
「ありますね」
保須市でビルの中の修復時に多くの人に縋られた。あの子がいないどの子がいないと。そして見つけた子供達もやはり怯え切っていたし泣いてる子も多く居た。
「そんな時にメイド服の物見さんを見た時に安心されなかった?」
「……されましたね」
特に子供は「もう大丈夫だ」と頭を撫でてやると抱き着いて安心しきった顔で居た。その後もすんなりついて来てくれたし。親御さんも安心してお礼を言っていた。
「何故だか分かるかしら」
「……女性だからですか?」
「ええ。それも「見るからに害意の無い女性らしい」恰好をした女性だからよ」
「害意の無い恰好ってそんなに重要ですか?」
「重要も重要よ。特に女性はね」
そんなに重要か?
「今はヒーロー社会であると同時にやっぱりヴィラン社会でもあるのよ。災害時や戦闘後に火事場泥棒がてら少し悪さをするヴィランも居るわ」
「……見るからにヴィランっぽい恰好だと警戒されると」
「戦闘向けのヒーローなら良いのよ。ヴィランへの威嚇にもなるし。ただレスキューとなると話は変わって来る」
「……」
言いたいことは分かる。
「貴女のメイド服ってのは今となっては「安全」のシンボルになってる。少なくとも保須の人にはそういう印象を植え付けたわ」
「不本意……ですがね」
「それでもよ。だから1度考えて欲しいのよ。それでも嫌だったら学校に掛け合えば当然だけど対応してくれる。そもそも貴女の意見を聞かずに発注した学校側が全面的に悪いし」
「考えさせて下さい」
「ごめんなさいね」
世間に女性らしい服を求められているのがよりによって私か。
「はぁ……ホントままならない」
「……ねぇ物見さん」
ミッドナイトが心配そうな顔で見ている。
「失礼を承知で聞くけど……貴女は……女性として生まれて来た事を後悔しているかしら」
「……さあどうでしょうか」
女性として生まれた今世は正直ロクな目に会ってない。
「生まれは決められませんから」
両親が会社の倒産で借金抱えたまま私を生んだのも、共働きしても借金の返済にほぼ充てられている様な状況も……
「生を受けた以上は」
時にヴィランに襲われ続けたとしても、他者にこの個性の使用を強要をされたとしても、体力が尽きて倒れた所に酷い事をされかけたとしても……
「受け入れますよ」
今は守ってくれる人が居るから。私のヒーローが居るから。
「そう……重ねてごめんなさいね」
「気にしてません」
話はこれで終わりの様だ。私はメモを1つだけケースに入れてコスチュームを返却する。
「さー帰ろう」
ミッドナイトさんに悪意はありません。ご容赦を。
この主人公は「元男」で「転生者」じゃなければ今は絶対に笑ってません。