チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 作:八神っち
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ。
雄英の記者会見を見ていたと思っていたら番組が切り替わり「神野区が崩壊」していたッ……!
何を言ってるのか分からねーと思うが私も何が起こったのか分からねー。
超能力だとか強個性だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。
もっと恐ろしい物の鱗片を味わったぜ。
「がんばえーおーりゅまいとー」
禍々しいヴィランに立ち向かう平和の象徴。なにか痩せこけてるけど気のせいだよね!
………………………
あ、オールマイトが勝った。でも燃え尽きてる。
「え?私があそこに?まあ別にいいですけど」
オールマイトが頑張ってくれたのだ。次は私達が頑張る番だろう。
パトカーに乗り込み被害地へ向かうのであった。
………………………
警察の手によってヴィラン連合の親玉AFOがメイデンと呼ばれる収容籠に押し込まれるが、その後ろではヒーロー達がせっせと救助活動を行うが被害が大きすぎて手をこまねいていた。
「次は君だ」
オールマイトが短く発する短いメッセージ。次を託そうとする……勇気を与えるその言葉は市民を、国民を沸き立てた。
この映像を見ている者は今頃オールマイトコールの大合唱だろう。だが現場としては「次より今」であるのは間違いない。
メイデンを収容したパトカーと入れ替わりで現場に入って来る1台の別のパトカー。そこから降りて来る人物は一部の人にとっては馴染み深い者であり、またこの場においては最高の個性を持つ者であった。
「オールマイトお疲れ様です。次は任せて下さい」
メイド服というぱっと見コスプレ見たいな恰好であるが、その目は本物であった。
救出を行っていたヒーロ-でオールマイトに次ぐ順位に君臨する炎帝がやって来た少女の下へ向かう。
「遅いぞ何をしていた」
「安全の確保のためとはいえ3駅分は流石に遠かったです」
変わらない態度の少女であるが現場に居る者達が向けるのは期待の目。エンデヴァーもそれは変わらない。
「私が『居ます』から安心してください」
「ふん。まあ良い」
「少女が居る」それだけで大きな意味がある。個性を知る者は否応なしにそう思うのだ。
「でもこのままじゃ私は無許可での個性使用になってしまいます。だから……」
「言われずとも分かっている」
テレビカメラが回される中、エンデヴァーがこの場に居る者全ての意志を少女に託す。
「物見直……いや2R!No2ヒーロー『エンデヴァー』とこの場に居る全てのヒーローの名に於いて個性の使用を許可する!」
この場のヒーロー全て。その重さを少女に委ねるしかない現状に歯噛みしながらも次の言葉を告げる。
「ヒーローの矜持を取り戻せ!」
了解。と短い返事と共にその少女は託された意志に従いその力を振るう。その姿はその場にいる誰よりも「ヒーロー」として輝いていた。
少女が視界に収める。ただそれだけで瓦礫の山が直っていく。道路が補整される。何もかもが巻き戻る。瓦礫をどかすしか無いヒーロー達にとってその光景はまさに希望であった。
少女が来るまでとは比べ物にならない救出効率。また街の外見の復興は不安立っていた市民に何よりも安心を与えていた。
道路が直された事により、多くのレスキュー車やヘリが入る事が出来る様になり重傷者の早期治療・保護も迅速に行われていく。
1人の少女が「居る」。それだけでここまで変わる物であった。
………………………
さて指示があった場所は一通り直して回ったのだが、私に対して向けられるもう1つの期待であり絶望の眼差し。
「この人……ですか」
私の場に居るのは先の崩壊に巻き込まれて人物の特定がとてもじゃないが出来ない「物言わぬ骸」であった。
「本当に良いんですか?」
「ああ。遺族達も綺麗な姿が見たいだろう」
持って来たヒーローも、許可を出してしまった警察も目を伏せながら顔を合わせようとしない。
こみ上げて来る吐き気を抑えながらも私はその「死体」に個性を使っていく。綺麗に元に戻っていく外見。だが動くことは無い。
私の個性は蘇生でも治癒でも無い。「物を直す」ただそれだけだ。
「終わりました」
今にも動き出しそうな綺麗な体。だが綺麗になったという事は私の個性では「人」ではなく「物」として扱う……扱ってしまう。
その事実が辛く感じる。だが、間違った感情ではないだろう。恐らくこの辛いという感情は、無くしてしまったらいけない物だ。
「じゃあ次の人を」
私は私に出来る事をしよう。
………………………………………
カメラ越しのテレビに映る映像は「次世代」の進出を予見させるには十分であった。オールマイトの託した平和への礎はこうして継がれているのだと。
またこの「次世代」の象徴である少女に誰が呼んだか、とある2つ名が付けられる。
『再建の旗』
未だに仮のヒーロー資格すら持たない15歳の少女には重すぎる称号。だがこれ以上無い程に少女を象徴する名であった。
サブタイ「旗」にするか「旗印」にするか迷った。
主人公の場合は「私が来た」よりも「私が居る」である辺りにオールマイトとの違いが出ます。