チートそうでチートじゃない、けどあったら便利。そんな個性 作:八神っち
依頼をこなして帰る途中でヴィランと遭遇して、逮捕したりで時間が掛かったが予定から1時間遅れての学校への帰還を果たす。
髪の状態は9割以上が白色であり、思った以上に疲れている。
「ただいまー」
「あっモノミンおかえりー!ニュ-ス見たよ!初仕事でヴィラン逮捕とかやるじゃん!」
「その話は後でな。他の奴等もな」
今は荷物を置いて少し休憩したい。道中移動だらけでロクに休めてないのだ。
「物見」
「どうしましたか相澤先生」
「校長がお前に伝えたい事があるそうだ。休憩した後でいいから校長室に向かってくれ」
「分かりました」
根津校長が……はて?何かあるのだろうか。
返事だけをし私は女子寮の自室へ向かい。
「はあ……もう無理」
荷物を床に放ってベッドに倒れ込む。折角の誕生日会だし心配させない様にと平然を演じているが、実際の疲れは想定以上であった。
慣れない長距離移動の連続と群がるファンへの対応。本当のヴィランとの戦闘。そして依頼主への愛想良い挨拶。
何もかもが未経験である。そんな気疲れが祟って、今にも意識が途切れそうである。
「ここで寝たら……多分起きれそうにないな……もう少し無理するか」
疲れた体に鞭打って体を起こす。着ていた服を脱ぎ捨ててラフな格好でベッドに腰かける。
「書類も作らないといけないし……いつ寝れるんだか」
溜息。下手に眠れない休憩というのも暇である。
「こんな時に趣味の1つでもあったら良かったんだが……」
私自身、趣味らしい趣味は作れなかった。作ってしまったら、没頭したら金がかかる。そんな余裕は今まで無かったのだ。そのためか「欲しい物や趣味」と聞かれて返答に困った経験が多々ある。てか現在も困っている。
誕生日会が今後もある事を考えると何かしらあった方が良いのだろう。
「今後したい事……か」
正直、何をしたいのかが分からない。一応趣味を誘われた事はあるのだ。ただ全部断って、断って。無理だと思って。迷惑が掛かるからと何も出来ずに。
「麗日なら分かるかねぇ……この気持ち」
自分と同じように苦労をしているであろう少女の顔を思い浮かべる。
「今は考えても仕方ない……か」
そうして10分程思考を放棄し、ただボーっとしていた。
思考を戻し一応制服に着替えて、相澤先生に校長室に向かう旨を伝えて私は寮から校舎へ向かう。
「失礼します」
何回目か分からない校長室のドアをノックをし「どうぞ」と返って来たのを確認し、中に入る。
そこには根津校長の他に2人の見覚えのある女性の姿。
「やあよく来たね。初仕事お疲れ様」
「あ……はい。ありがとうございます?そちらのお二人もお久しぶりです」
見覚えのある2人。私に事務仕事を教えてくれたMt.レディの事務所に居た女性事務員さんである。
「こんにちは物見さん。お久しぶり」
「こんにちは。元気にしてた?」
「あっはい。お二人とも元気そうで何よりです。それで何故雄英に?」
単刀直入に尋ねる。二人は顔を合わせて、そして根津校長を見る。
「それはボクから説明するよ」
そして2人が居る理由を語ってくれる。
…………………………
「簡単な話さ。この2人を雄英に雇ったのさ。Mt.レディからも許可を得てね」
「いやー流石に天下の雄英だけあって条件良くてね」
「大人として断れないよ」
Mt.レディも事情を説明したら快諾してくれた。物見くんは何故今?という目をしていた。
「この2人は雄英高校が雇った、君専属の事務員さ。今まで手続きに時間が掛かってギリギリになってしまったけどね」
そう。この2人は物見くんの為に雇ったのだ。恐らく君は1人で事務仕事もこなそうとする事は目に見えていたからね。
物見くんは自分なんかの為にと言っているが、やはりと思ってしまう。
「お金の事なら心配いらないよ。なんせ雄英が雇った事になっているからね!君に負担は無いさ!それにだ……元々君が浮かせたお金だ。君の為に使っても誰も何も言わないさ」
入学して3ヶ月で億単位のお金を軽減するのだ。事務員2人程度、君の活躍の前では大した金額ではないんだ。むしろ全然足りない。
「悪いですし」と引き下がろうとする物見くん。やはり……なんだね。
「物見くん。君は自分の事は1人でこなそうとするね。それは悪い事じゃないよ」
そう悪い事では無い。立派な事だ。丸投げする者よりも遥かに良い。
でもね。分かるよ。大変だろう?こんなナリでも分かるよ。
「ここをどこだと思っているんだい?雄英だ。ヒーロ-の名門校だ。だから人気ヒーローの忙しさを、大変さをどこよりも理解している。事務の件もそうさ。君も書類に追われる日々になるだろう」
職場体験で事務の経験をしているのは聞いている。だから大変さも理解しているだろう。だからこそ……
「君はもっと大人を頼るべきだ……いや違うな」
頼るという言葉はこの子の場合は少し不適切だ。ならば大人として言ってあげなければね。
「君はもっと大人に『甘える』べきだ」
目を見開く物見くん。頼ってと言われる事はあるだろう。頼りにする事はあっただろう。だが甘えはしなかった。最終的に自分で出来る様に努力する。それは良い事さ。
君自身。今まで大人に甘える事は無かっただろう。それはそうだ。大人が君に甘えたからね。君の強さに甘えてしまっていたからね。
「君はもっとワガママでいいんだ。君はまだ子供なんだ」
次世代を象徴するプロヒーローだと持て囃されようと、凄い活躍をしようと、それは変わらない。他の人と変わらない事実。君は生徒で、女の子で、まだ子供だ。
「今まで君に甘えていた。だから今度は私達が……大人が返す番だ」
君の過去は聞いているよ。借金を持つ両親に苦労したんだろう?聡明な君の事だ。
迷惑を掛けまいと頑張っただろう。
ワガママ一つ言わなかっただろう。
良い子で居ようとした。
いつ両親が消えてもおかしくない状況だ。怖かっただろう。
甘えてしまって潰れる事を恐れただろう。
今まで沢山頑張っただろう。
そろそろ報われてもいいんだ。これから更に大変になる君だから尚更。
「これは僕たちのプレゼントさ。受け取って貰えると嬉しいよ」
報酬ではなくプレゼント。一方的な善意。
「そうそう。面倒な事は大人に丸投げしちゃいなって。今から誕生日会やるんでしょ?後先考えずに楽しみなって!」
「物見さん。一生懸命な貴女だから、私達は雇用を受けたんです。助けたいと思ったから受けたんだよ。だから今は甘えられてて下さいね?」
「わざわざ2人を雇ったのは、君を良く知っているからだ。気心知れた人の方が良いだろう?」
突然の事に戸惑うだろう。ごめんよ。でも、君はこうでもしないと無理をしてしまう。だから先手を打たせて貰った。壊れてからでは遅いから。
「勿論、要らないと思ったら言ってくれたまえ」
意地悪な言い方になっている自覚はあるさ。要らないと言えなのは分かっている。
今の君自身一番必要な物だ。だが自分からでは絶対に言い出せない物でもあるだろう。
「他にして欲しい事があるなら言ってくれたまえ。大人として全力で応えようではないか」
そう例えばだ。
「君の学校でのコスチュームである白軍服。あれを2つ3つと作って君の公式のコスチュームにする事も出来る。他の服が良いならそれでも良い」
雄英ならそれが出来るのだ。かつてしてしまった……押し付けた失敗を挽回しようではないか。
「君が望むならそれを叶えよう。可愛い子供のワガママに応えよう」
だから
「甘えてくれたまえ。大人が何よりそれを望んでいるから」
難しい顔をする物見くん。急に甘えろなんて言われても無理か。今までしなかった事だもん……「では」……おや?
「何だい?」
「1ついいですか?」
「言ってごらん?」
毅然とした態度でお願いする物見くん。ふむ一体何を頼むのかな?
「私と……心操のお付き合いを学校側が認めて下さい。交友にも……その……配慮していただけると……嬉しいです。私にとって彼は……生きる意味……ですから」
それってつまり、そう言う事だよね?堂々ととんでもない事を言うね君は。それに重いよ。他の人なら微妙な顔をしていただろうね。厳しい者なら認めないだろう。
だが皆まで言うまい。彼女も年頃の女の子だ。そういう経験もこの年なら隠れてしていると聞いているさ。
何より生きる意味とまで言っている。彼女の精神面で一番必要なのだろう。引き離すと何をするやら……
「分かった。君と彼の付き合いと交友には配慮し、学校側も目を瞑ろう。ただダメな事もあるのは分かるね?」
「はい。そこは大丈夫です。私にはまだ早いですし」
「分かっているならいいさ。それが君の望む事なら応援するさ」
「はい。あ、お2人とも。今日からよろしくお願いします」
「よろしくね。物見さん」
「よろしく物見さん!」
こうして彼女たちの顔合わせが無事終わった。
うむ……皆まで言うな。学校側もちゃんと考えているんやで?回です。